異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
28 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

28 援軍

しおりを挟む
──夜。あてがわれた部屋でなかなか眠れず、わたしは街を見下ろせる城壁の側で風に当たっていた。
 昼間の賑やかさが嘘のように街は静まりかえっている。住宅街の一軒一軒にはそれぞれ家族が住み、平和な生活を営んでいるのだろう。戦争で、もしこの王都が攻めこまれるようなことになれば彼らはどうなるのだろうか。
 そんなことを考えていると背後に気配。振り向けば、《覇王》黄武迅が立っていた。
 上半身裸で、右肩から上腕、首と胸に包帯を巻いている。

「よぉ、眠れねぇのか」

 聞きながら黄武迅はわたしの隣で同じように城下を見下ろす。

「怪我をすることがあるんだな、あんたも」

「大袈裟なんだよ、あいつら。これぐらいの傷で。油断した俺が悪いんだがな」

 包帯の巻かれた右腕をバンバン叩き、自分でイテテテ、と呻いている。

「志求磨はうまく助け出せたようだな。来るんなら、てっきり一緒だと思ってたが」

 志求磨の名前が出て、わたしは反射的にそっぽを向く。

「知らない、あんなヤツ」

「ハハハ、ケンカでもしたのか。それよりおまえ、リヴィエールに行くんだってな」

「成り行きでだ。わたしみたいな素人が戦争で役に立つわけないんだが」

「すまねえ」

 いきなり黄武迅は頭を下げる。驚いた。全然王様っぽくないのだが、一応は全世界の王である。それがただのいち願望者デザイアに頭を下げるなんて。

「大規模な戦闘になる前に終わらせる。それが可能なのはおまえみたいな腕の立つ願望者デザイアだけだ。俺は昔に失敗している。世界を統一したが多くの犠牲を出した」

 十年前にあったという覇王大戦のことを言っているのだろうか。当時のことはよく知らないが、たしかに多くの人間が戦争によって死んだらしい。

「俺がここに来たばかりの頃はひどかったもんだ。国同士で争い、魔物はウジャウジャ。力の無い願望者デザイアは次々死んでいった」

 城壁の上で拳を強く握っている。十年前に覇王大戦。さらに十年以上前は各地で魔物を討伐していた。この男はどれほど長く、多くの戦いを経験してきたのだろうか。

「この世界はな、元の世界で上手くいかなかったヤツらの最後の砦なんだ。行き場のねぇ、不器用な連中の吹き溜まり……そんな場所は守ってやりてぇだろ」

「あんた……いいヤツなんだな」

「違うな。思い通りにならねぇと癇癪おこすガキなだけだ。志求磨を使って消失ロストさせていたのも俺の考えだ。争いの火種になりそうな願望者デザイアを探らせ、消していた」

 願望者デザイアたちの為にこの世界を守りたい。しかし、その平穏を乱そうとする願望者デザイアは排除する。相反したこの想いや行動に、葛藤してきたのだろうか。語る黄武迅の顔には苦悩の色が見える。

「いいや。やっぱりあんた、いいヤツだ。王なんだから適当な罪状つけて処刑なんて簡単なはず。わざわざ志求磨使って、元の世界に送り返してるんだから」

 わたしは正直にそう思った。あのセプティミアなどは死んだほうがマシだと言っていたが──死んでしまってはそれこそ何もかもおしまいではないか。

「わたしができるのは剣を振ることだけだ。あんたみたいに世界がどうこうって考えられないけど……できるだけのことはやってみるよ」

「ああ、頼む。リヴィエールではレオニードの指揮下で働いてもらう。期待してるぞ」

 わたしと黄武迅は固く握手を交わした。



 援軍として編成された兵とともに五日ほどの行軍でわたしはリヴィエールに着いた。先発の討伐軍は峡谷の砦に立て籠る反乱軍に苦戦しているとの情報だった。
 指揮官のいる幕舎に案内され、そこでわたしはひとりの若い男に出会った。
魔擶鬼手ませんきしゅ》レオニード・ザハロフ。頭の中にダダダダ、と打ち込まれた。
 髪は緑色で逆立てており、タレ目で耳と口にピアス。服装はビジュアルバンドっぽくて、スカルやクロスのシルバーアクセサリーをじゃらじゃらぶら下げている。
 わたしを見てすぐに近寄ってきたが、こういうチャラついた男は苦手だ。近づいたぶん、わたしは後ずさった。
     
「おいおい、別に取って食おうってわけじゃないんだからよ。逃げなくてもいいだろ」

 さらに近づこうとするのでわたしは柄に手をかける。

「止まれ。話ならそこからでもできるだろ。それ以上近づくなら斬るぞ」

「聞いたか、『斬る』だってよ。初対面の人間にいきなり斬るはねえだろ、なあ」

 レオニードは大袈裟に肩をすくめ、部下たちに同意を求める。部下たちはどういう反応をしていいか分からず、半笑いだ。

「まあ、座れよ。作戦会議だ。助っ人で来たんだろ、由佳」

 いきなり呼び捨てか。まあいい、こっちも気を使わずに済む。わたしは思い切り不機嫌な顔で椅子に座った。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...