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第1部 剣聖 羽鳴由佳
28 援軍
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──夜。あてがわれた部屋でなかなか眠れず、わたしは街を見下ろせる城壁の側で風に当たっていた。
昼間の賑やかさが嘘のように街は静まりかえっている。住宅街の一軒一軒にはそれぞれ家族が住み、平和な生活を営んでいるのだろう。戦争で、もしこの王都が攻めこまれるようなことになれば彼らはどうなるのだろうか。
そんなことを考えていると背後に気配。振り向けば、《覇王》黄武迅が立っていた。
上半身裸で、右肩から上腕、首と胸に包帯を巻いている。
「よぉ、眠れねぇのか」
聞きながら黄武迅はわたしの隣で同じように城下を見下ろす。
「怪我をすることがあるんだな、あんたも」
「大袈裟なんだよ、あいつら。これぐらいの傷で。油断した俺が悪いんだがな」
包帯の巻かれた右腕をバンバン叩き、自分でイテテテ、と呻いている。
「志求磨はうまく助け出せたようだな。来るんなら、てっきり一緒だと思ってたが」
志求磨の名前が出て、わたしは反射的にそっぽを向く。
「知らない、あんなヤツ」
「ハハハ、ケンカでもしたのか。それよりおまえ、リヴィエールに行くんだってな」
「成り行きでだ。わたしみたいな素人が戦争で役に立つわけないんだが」
「すまねえ」
いきなり黄武迅は頭を下げる。驚いた。全然王様っぽくないのだが、一応は全世界の王である。それがただのいち願望者に頭を下げるなんて。
「大規模な戦闘になる前に終わらせる。それが可能なのはおまえみたいな腕の立つ願望者だけだ。俺は昔に失敗している。世界を統一したが多くの犠牲を出した」
十年前にあったという覇王大戦のことを言っているのだろうか。当時のことはよく知らないが、たしかに多くの人間が戦争によって死んだらしい。
「俺がここに来たばかりの頃はひどかったもんだ。国同士で争い、魔物はウジャウジャ。力の無い願望者は次々死んでいった」
城壁の上で拳を強く握っている。十年前に覇王大戦。さらに十年以上前は各地で魔物を討伐していた。この男はどれほど長く、多くの戦いを経験してきたのだろうか。
「この世界はな、元の世界で上手くいかなかったヤツらの最後の砦なんだ。行き場のねぇ、不器用な連中の吹き溜まり……そんな場所は守ってやりてぇだろ」
「あんた……いいヤツなんだな」
「違うな。思い通りにならねぇと癇癪おこすガキなだけだ。志求磨を使って消失させていたのも俺の考えだ。争いの火種になりそうな願望者を探らせ、消していた」
願望者たちの為にこの世界を守りたい。しかし、その平穏を乱そうとする願望者は排除する。相反したこの想いや行動に、葛藤してきたのだろうか。語る黄武迅の顔には苦悩の色が見える。
「いいや。やっぱりあんた、いいヤツだ。王なんだから適当な罪状つけて処刑なんて簡単なはず。わざわざ志求磨使って、元の世界に送り返してるんだから」
わたしは正直にそう思った。あのセプティミアなどは死んだほうがマシだと言っていたが──死んでしまってはそれこそ何もかもおしまいではないか。
「わたしができるのは剣を振ることだけだ。あんたみたいに世界がどうこうって考えられないけど……できるだけのことはやってみるよ」
「ああ、頼む。リヴィエールではレオニードの指揮下で働いてもらう。期待してるぞ」
わたしと黄武迅は固く握手を交わした。
援軍として編成された兵とともに五日ほどの行軍でわたしはリヴィエールに着いた。先発の討伐軍は峡谷の砦に立て籠る反乱軍に苦戦しているとの情報だった。
指揮官のいる幕舎に案内され、そこでわたしはひとりの若い男に出会った。
《魔擶鬼手》レオニード・ザハロフ。頭の中にダダダダ、と打ち込まれた。
髪は緑色で逆立てており、タレ目で耳と口にピアス。服装はビジュアルバンドっぽくて、スカルやクロスのシルバーアクセサリーをじゃらじゃらぶら下げている。
わたしを見てすぐに近寄ってきたが、こういうチャラついた男は苦手だ。近づいたぶん、わたしは後ずさった。
「おいおい、別に取って食おうってわけじゃないんだからよ。逃げなくてもいいだろ」
さらに近づこうとするのでわたしは柄に手をかける。
「止まれ。話ならそこからでもできるだろ。それ以上近づくなら斬るぞ」
「聞いたか、『斬る』だってよ。初対面の人間にいきなり斬るはねえだろ、なあ」
レオニードは大袈裟に肩をすくめ、部下たちに同意を求める。部下たちはどういう反応をしていいか分からず、半笑いだ。
「まあ、座れよ。作戦会議だ。助っ人で来たんだろ、由佳」
いきなり呼び捨てか。まあいい、こっちも気を使わずに済む。わたしは思い切り不機嫌な顔で椅子に座った。
昼間の賑やかさが嘘のように街は静まりかえっている。住宅街の一軒一軒にはそれぞれ家族が住み、平和な生活を営んでいるのだろう。戦争で、もしこの王都が攻めこまれるようなことになれば彼らはどうなるのだろうか。
そんなことを考えていると背後に気配。振り向けば、《覇王》黄武迅が立っていた。
上半身裸で、右肩から上腕、首と胸に包帯を巻いている。
「よぉ、眠れねぇのか」
聞きながら黄武迅はわたしの隣で同じように城下を見下ろす。
「怪我をすることがあるんだな、あんたも」
「大袈裟なんだよ、あいつら。これぐらいの傷で。油断した俺が悪いんだがな」
包帯の巻かれた右腕をバンバン叩き、自分でイテテテ、と呻いている。
「志求磨はうまく助け出せたようだな。来るんなら、てっきり一緒だと思ってたが」
志求磨の名前が出て、わたしは反射的にそっぽを向く。
「知らない、あんなヤツ」
「ハハハ、ケンカでもしたのか。それよりおまえ、リヴィエールに行くんだってな」
「成り行きでだ。わたしみたいな素人が戦争で役に立つわけないんだが」
「すまねえ」
いきなり黄武迅は頭を下げる。驚いた。全然王様っぽくないのだが、一応は全世界の王である。それがただのいち願望者に頭を下げるなんて。
「大規模な戦闘になる前に終わらせる。それが可能なのはおまえみたいな腕の立つ願望者だけだ。俺は昔に失敗している。世界を統一したが多くの犠牲を出した」
十年前にあったという覇王大戦のことを言っているのだろうか。当時のことはよく知らないが、たしかに多くの人間が戦争によって死んだらしい。
「俺がここに来たばかりの頃はひどかったもんだ。国同士で争い、魔物はウジャウジャ。力の無い願望者は次々死んでいった」
城壁の上で拳を強く握っている。十年前に覇王大戦。さらに十年以上前は各地で魔物を討伐していた。この男はどれほど長く、多くの戦いを経験してきたのだろうか。
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「あんた……いいヤツなんだな」
「違うな。思い通りにならねぇと癇癪おこすガキなだけだ。志求磨を使って消失させていたのも俺の考えだ。争いの火種になりそうな願望者を探らせ、消していた」
願望者たちの為にこの世界を守りたい。しかし、その平穏を乱そうとする願望者は排除する。相反したこの想いや行動に、葛藤してきたのだろうか。語る黄武迅の顔には苦悩の色が見える。
「いいや。やっぱりあんた、いいヤツだ。王なんだから適当な罪状つけて処刑なんて簡単なはず。わざわざ志求磨使って、元の世界に送り返してるんだから」
わたしは正直にそう思った。あのセプティミアなどは死んだほうがマシだと言っていたが──死んでしまってはそれこそ何もかもおしまいではないか。
「わたしができるのは剣を振ることだけだ。あんたみたいに世界がどうこうって考えられないけど……できるだけのことはやってみるよ」
「ああ、頼む。リヴィエールではレオニードの指揮下で働いてもらう。期待してるぞ」
わたしと黄武迅は固く握手を交わした。
援軍として編成された兵とともに五日ほどの行軍でわたしはリヴィエールに着いた。先発の討伐軍は峡谷の砦に立て籠る反乱軍に苦戦しているとの情報だった。
指揮官のいる幕舎に案内され、そこでわたしはひとりの若い男に出会った。
《魔擶鬼手》レオニード・ザハロフ。頭の中にダダダダ、と打ち込まれた。
髪は緑色で逆立てており、タレ目で耳と口にピアス。服装はビジュアルバンドっぽくて、スカルやクロスのシルバーアクセサリーをじゃらじゃらぶら下げている。
わたしを見てすぐに近寄ってきたが、こういうチャラついた男は苦手だ。近づいたぶん、わたしは後ずさった。
「おいおい、別に取って食おうってわけじゃないんだからよ。逃げなくてもいいだろ」
さらに近づこうとするのでわたしは柄に手をかける。
「止まれ。話ならそこからでもできるだろ。それ以上近づくなら斬るぞ」
「聞いたか、『斬る』だってよ。初対面の人間にいきなり斬るはねえだろ、なあ」
レオニードは大袈裟に肩をすくめ、部下たちに同意を求める。部下たちはどういう反応をしていいか分からず、半笑いだ。
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