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第1部 剣聖 羽鳴由佳
91 旧王都突入
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一年ぶりの王都。
現在は旧王都と呼ばれている。
このシエラ=イデアルの正当な王はもういない。
それを名乗る者もいない。いや、名乗ったとしても誰も認めないだろう。それだけ《覇王》黄武迅の存在は大きかった。
もしも認められるとしたら、それは正当に王位を継承した者だけ──そう、ナギサのような存在だ。
しかし、葉桜溢忌の存在により、ナギサはそれを公に出来なかった。しかも今は囚われの身だ。
意外にも旧王都へはあっさりと入れた。
兵士の姿も見かけるが、わたし達を見てもまったく騒がない。
葉桜溢忌や餓狼衆には気づかれているだろう。だが今のところ攻撃を加えようとする動きはない。
中央広場や市場は以前と同じように活気がある。葉桜溢忌の政治手腕というより、ミリアムの辣腕のおかげだろう。
雑踏の中をわたしたち六人は王城の方へ向かって歩く。
あの《覇王》らしい無骨な王城は一年前の爆発によって跡形も無くなっていた。
範囲を王城だけにとどめた、局地的な高エネルギー爆発。その光は天にまで届いた。
わたしの目の前には、白く輝く石畳が広がる華美な敷地。
庭園が随所にあり、高そうな彫像やら噴水やらが設置してある。
奥にそびえるは白い壁に青い楕円形の屋根がいくつも連なった、巨大な宮殿。
こんなものを一年で……これほどの贅を尽くした建築物は、このシエラ=イデアルに来てからはじめて見た。
この辺りには兵士すらいない。あまりに無用心というか無頓着というか。
それだけ自分と餓狼衆の力に自信があるということか。
宮殿に向かって歩き出す。
広場中央に黒い円形の穴のようなモノが現れた。
ステージの昇降装置のようにせり上がってくる人影。あれは──《神算司書》ミリアム・エーベンハルト。
わたしたち六人のもとまでツカツカとヒールの音を響かせて近づき、あと十メートルぐらいのところで止まった。
「由佳さん……ついにここまで来てしまったのですね」
「志求磨たちを返してもらう」
「……あの方を刺激しないで頂きたいものです。このまま享楽にふけっているうちは、この世界は平穏なのですから」
「アイツを封印から解いたのはお前だろう。《覇王》を裏切って、世界に混乱を招いたのは……!」
「ええ、そう。超級魔物の復活、志求磨の石板化、《覇王》の負傷、岩秀の反乱。そして《覇王》の死……すべてわたくしの思惑通り。でもそれは、この世界のため……あなたにはまだ理解できることではないでしょうが」
意味がわからないことを……《覇王》黄武迅はこの世界に来る願望者のことを考えていた。
元の世界で行き場所をなくした、彼らの居場所を守ってやると。そんな男を殺しておいて、なにが世界のためだ。
「溢忌さま、そして《覇王》に仕えながら何年も月日をかけ、わたくしは調査してきました。この世界のこと、そして魔物のこと……わたくしは《魔を統べる者》となりましたが、それでも超級魔物の制御はできないのです」
ますますわけが分からない。わたしが聞きたいのは、そんなことではない。
わたしは柄に手をかける。
「……わたくしがどう言おうと退く気はないようですね。ならば進みなさい。中では餓狼衆が待ち構えています。そう、あなた方の仲間の入ったカプセルを持って」
ミリアムはそう言って願望者全書を開き、ページを引き破る。
手にした長剣で足元に円を描き、出来た黒い空間に吸い込まれていった。
言われるまでもない。
わたし達は宮殿へと突入した。
入ってすぐに二つの大きな扉にぶち当たる。他に入口は見当たらない。
右か、左か……わたしが迷っていると、セプティミアが提案する。
「この広さからして、二手に別れて探したほうがよさそうね」
「それはそうだが……罠じゃないのか?」
ここは敵地。慎重に行動しなければならない。だが、黒由佳やクレイグは知ったことかとばかりにさっさと二チームに別れて、扉を開けた。
わたしは左の扉。黒由佳と日之影宵子がついてくる。
右の扉にはセプティミアとサイラス、クレイグだ。
入るとすぐに扉が閉まり、なにもない壁へと変化した。ほら、やっぱり罠だ。もう後戻りできない。
「いいじゃんよ~。どうせみんな助け出すんでしょ? んで、ついでにナントカってヤツもブッ殺せばいいわけだし」
わたしのうろたえている姿を見て、黒由佳がケタケタ笑う。
その底無しの能天気さがうらやましい……。わたしはどうにもこの宮殿に入ってからイヤな予感しかしない。
「黒由佳っちのいう通りさ。ほれ、美少年たちがわたしを待ってるんだ。早く進もう」
戦えないクセに、日之影宵子は先頭をずんずん歩いていく。真っ白にのびた、先の見えない一本道の長い通路だ。
まるで病院のような……先を歩く宵子の白衣姿と妙にマッチしている。
しばらく進むと先ほどの入口のような扉が見えてきた。ためらわずに開ける宵子。
三人が入ると、やはり自動的に扉は閉まり、壁へと変化。ああ、やっぱり。
中はかなり広い。小ホールぐらいあるだろうか。ただ、何もない。柱が何本かあるくらいの殺風景な空間。
「おお、ビリビリくるね。いいねえ、お姉さま。姿見えないけど、この殺気は隠し切れないねえ」
黒由佳が嬉しそうに話しかける。
わたしも気づいていた。餓狼衆だ。日之影宵子を下がらせ、わたしと黒由佳は身構えた。
現在は旧王都と呼ばれている。
このシエラ=イデアルの正当な王はもういない。
それを名乗る者もいない。いや、名乗ったとしても誰も認めないだろう。それだけ《覇王》黄武迅の存在は大きかった。
もしも認められるとしたら、それは正当に王位を継承した者だけ──そう、ナギサのような存在だ。
しかし、葉桜溢忌の存在により、ナギサはそれを公に出来なかった。しかも今は囚われの身だ。
意外にも旧王都へはあっさりと入れた。
兵士の姿も見かけるが、わたし達を見てもまったく騒がない。
葉桜溢忌や餓狼衆には気づかれているだろう。だが今のところ攻撃を加えようとする動きはない。
中央広場や市場は以前と同じように活気がある。葉桜溢忌の政治手腕というより、ミリアムの辣腕のおかげだろう。
雑踏の中をわたしたち六人は王城の方へ向かって歩く。
あの《覇王》らしい無骨な王城は一年前の爆発によって跡形も無くなっていた。
範囲を王城だけにとどめた、局地的な高エネルギー爆発。その光は天にまで届いた。
わたしの目の前には、白く輝く石畳が広がる華美な敷地。
庭園が随所にあり、高そうな彫像やら噴水やらが設置してある。
奥にそびえるは白い壁に青い楕円形の屋根がいくつも連なった、巨大な宮殿。
こんなものを一年で……これほどの贅を尽くした建築物は、このシエラ=イデアルに来てからはじめて見た。
この辺りには兵士すらいない。あまりに無用心というか無頓着というか。
それだけ自分と餓狼衆の力に自信があるということか。
宮殿に向かって歩き出す。
広場中央に黒い円形の穴のようなモノが現れた。
ステージの昇降装置のようにせり上がってくる人影。あれは──《神算司書》ミリアム・エーベンハルト。
わたしたち六人のもとまでツカツカとヒールの音を響かせて近づき、あと十メートルぐらいのところで止まった。
「由佳さん……ついにここまで来てしまったのですね」
「志求磨たちを返してもらう」
「……あの方を刺激しないで頂きたいものです。このまま享楽にふけっているうちは、この世界は平穏なのですから」
「アイツを封印から解いたのはお前だろう。《覇王》を裏切って、世界に混乱を招いたのは……!」
「ええ、そう。超級魔物の復活、志求磨の石板化、《覇王》の負傷、岩秀の反乱。そして《覇王》の死……すべてわたくしの思惑通り。でもそれは、この世界のため……あなたにはまだ理解できることではないでしょうが」
意味がわからないことを……《覇王》黄武迅はこの世界に来る願望者のことを考えていた。
元の世界で行き場所をなくした、彼らの居場所を守ってやると。そんな男を殺しておいて、なにが世界のためだ。
「溢忌さま、そして《覇王》に仕えながら何年も月日をかけ、わたくしは調査してきました。この世界のこと、そして魔物のこと……わたくしは《魔を統べる者》となりましたが、それでも超級魔物の制御はできないのです」
ますますわけが分からない。わたしが聞きたいのは、そんなことではない。
わたしは柄に手をかける。
「……わたくしがどう言おうと退く気はないようですね。ならば進みなさい。中では餓狼衆が待ち構えています。そう、あなた方の仲間の入ったカプセルを持って」
ミリアムはそう言って願望者全書を開き、ページを引き破る。
手にした長剣で足元に円を描き、出来た黒い空間に吸い込まれていった。
言われるまでもない。
わたし達は宮殿へと突入した。
入ってすぐに二つの大きな扉にぶち当たる。他に入口は見当たらない。
右か、左か……わたしが迷っていると、セプティミアが提案する。
「この広さからして、二手に別れて探したほうがよさそうね」
「それはそうだが……罠じゃないのか?」
ここは敵地。慎重に行動しなければならない。だが、黒由佳やクレイグは知ったことかとばかりにさっさと二チームに別れて、扉を開けた。
わたしは左の扉。黒由佳と日之影宵子がついてくる。
右の扉にはセプティミアとサイラス、クレイグだ。
入るとすぐに扉が閉まり、なにもない壁へと変化した。ほら、やっぱり罠だ。もう後戻りできない。
「いいじゃんよ~。どうせみんな助け出すんでしょ? んで、ついでにナントカってヤツもブッ殺せばいいわけだし」
わたしのうろたえている姿を見て、黒由佳がケタケタ笑う。
その底無しの能天気さがうらやましい……。わたしはどうにもこの宮殿に入ってからイヤな予感しかしない。
「黒由佳っちのいう通りさ。ほれ、美少年たちがわたしを待ってるんだ。早く進もう」
戦えないクセに、日之影宵子は先頭をずんずん歩いていく。真っ白にのびた、先の見えない一本道の長い通路だ。
まるで病院のような……先を歩く宵子の白衣姿と妙にマッチしている。
しばらく進むと先ほどの入口のような扉が見えてきた。ためらわずに開ける宵子。
三人が入ると、やはり自動的に扉は閉まり、壁へと変化。ああ、やっぱり。
中はかなり広い。小ホールぐらいあるだろうか。ただ、何もない。柱が何本かあるくらいの殺風景な空間。
「おお、ビリビリくるね。いいねえ、お姉さま。姿見えないけど、この殺気は隠し切れないねえ」
黒由佳が嬉しそうに話しかける。
わたしも気づいていた。餓狼衆だ。日之影宵子を下がらせ、わたしと黒由佳は身構えた。
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