異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
96 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

96 ミリアムとの戦い

しおりを挟む
数多あまたの超級魔物が出現すれば、たとえあの《封魔士》の能力を持った黄武迅でも打つ手がない。ですが最悪、そのような状況でも溢忌さまなら魔物どもを討ち滅ぼすことができる」

 それが《覇王》黄武迅を裏切った理由なのか。だったら……。

「だったら、《覇王》にそういうふうに説明すれば……相談すればよかったんじゃないのか」

 世界の危機が近づいている。それを知っていたなら、シエラ=イデアルの王に真っ先に報せるべきだし、解決方法があるなら話し合うべきだ。

「知ってましたよ、《覇王》は。それでも葉桜溢忌さまの復活は認めなかった。自分たちの力でどうにかしようとしていたのです」

「葉桜溢忌の存在が、新たな世界の危機になるから……?」

「それもありますが、理由は溢忌さまの強さにあります。あの強さを認めることは黄武迅には出来ないでしょう。それは彼の信念によるものです。たとえ世界が滅ぶことになろうと、それを認めるわけにはいかないでしょうね」

 強さを認めるわけにはいかない……?
 たしかに圧倒的な強さだったが。何か秘密があるのだろうか。

「だから黄武迅は覇王大戦を起こし、魔女カーラの力を借りてまで溢忌さまを封じた。多くの人間が死に、カーラは記憶の一部を失うほどの犠牲を払いながら」

 やはりカーラさんが葉桜溢忌を倒すための手段の決め手となるようだ。しかし……今はまだ姿を見せない。

「わたくしが語るのはここまで。これで分かったでしょう。溢忌さま相手に戦う無意味さが」

 ミリアムはそう言って本棚モニターへ視線を移す。
 煙は収まり、皆の様子が見えるようになっていた。それを見てわたしは愕然とする。

「ああっ!」

 セプティミアは苦しそうに膝をつき、近くで倒れているサイラスの胸には剣が深々と突き刺さっていた。般若面がそれをゆっくりと引き抜く。

 クレイグはおかめ面に片手で襟首をつかまれ、吊るされてぐったりしている。
 
 ビノッコは胸に傷を負い、肩で息をしている。魔法少女面が大鎌を引きずりながら近づく。

 ナギサはうつ伏せに倒れ、巨大斧は床にめり込んだままだ。狐面は斧の上で後ろに手を組んで悠然と立っている。

「──この部屋はどこだ! 教えろっ!」

 ミリアムに詰め寄り、その胸ぐらをつかんだ。
 ミリアムは悲しげな目で手を払いのける。

「残念ですが、もう手遅れです。ですが──あなたは、あなただけはこの場から逃げることも可能です。これを持って」

 ミリアムが手渡してきたのはカプセルだ。まさか、この中身は……。

「最後のカプセル……アルマが入っています。これでひとまずは目的は果たせたでしょう。あなたまで死ぬ必要はない」

 カプセルを受け取り、そのスイッチを押しながらわたしは叫んだ。

「ふざけるなっ、ナギサたちを見捨てていけるか! お前を倒して先に進む!」

 カプセルからアルマが飛び出してくる。状況が分からず、呆然としているようだ。
 
 下がってろ、と言ってわたしは柄に手をかけ、踏み込んだ。
 ミリアムはすでに願望者デザイア全書のページを引き破っている。
 わたしと同じ刀。居合いの構えから同時に抜刀──ガキィッ、と衝撃。

 手がビリビリと痺れる。わたしは飛び退き、納刀。そして再び抜刀。

「シッ!」

 太刀風。飛ぶ斬撃を放つ──が、同じようにミリアムも斬撃を放っていた。
 空中で衝突。爆発し、煙幕が張られる。ガタガタと周囲の本棚が倒れる音。
 
 ダンダンッ、と煙の向こうから銃弾の音。わたしの頬と肩をかすめた。

 低い姿勢から突っ込む。煙幕を切り裂くように下から斬り上げた。
 ガチィッ、と左腕の手甲ガントレットで弾かれた。
 そのまま殴りかかってきたのをバックステップでかわし──マズイ、巨大斧が振り下ろされた。
 横っ飛びになんとかかわす。激突の衝撃、砕かれた床の破片が身体にバチバチッ、と当たる。

 ゴロゴロと横に転がりながら考える。やはりあのコピー技はやっかいだ。しかも相手は超越者リミットブレイカー。こちらには黒由佳もいない。

 ミリアムがビビビビッ、とページを連続で引き破る。今度は黒い本だ。たしか、魔物全書とかいう。

 それをボヒュヒュヒュ、と種を植えるように床に次々差し込んでいく。するとメリメリメリと魔物たちがそれこそ植物のように生え出てきたではないか。

 ギアッ、グアアッ、と奇声をあげながらゴブリン、オーク、コボルトの集団が襲いかかる。
 
 神速で突っ込みながら一閃。六体を両断した。残りの五、六匹はすでにアルマが始末していた。

「……お願い、ヤメて。ふたりは戦わないで」

 アルマの悲痛な声。マズッたな。まだカプセルから出さないほうがよかった。
 
「退きなさい、アルマ。由佳さんは決着を望んでいます」

 間に割り込んだアルマを押し退け、ミリアムが走る。走りながら白い本のページを引き破った。

 太刀風で迎撃。だが、白銀色の拳で打ち消された。バカな、あの技は──。

 間合いに飛び込んでくる。舌打ちしながら刺突。しかし、かわされた。白銀色の両掌で挟みこむような打撃。
 パキィッ、と刀を折られた。

 折れた刀を捨て、右の拳打。ガッ、と両腕をクロスして防がれ、胸に反撃の連続打撃。

 わたしは呻きながらその場に膝をつく。
 まさか……志求磨の技までコピーできるなんて。

「驚きましたか。溜めを必要とする消失ロストの技は使えませんが。願望の技を打ち消すには相当有効ですね」

 アルマが駆け寄り、わたしをかばうようにミリアムの前に立つ。
 バカ、どけ。これはわたしたちの勝負だ。それに早く決着をつけないとナギサたちが──。

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...