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第1部 剣聖 羽鳴由佳
96 ミリアムとの戦い
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「数多の超級魔物が出現すれば、たとえあの《封魔士》の能力を持った黄武迅でも打つ手がない。ですが最悪、そのような状況でも溢忌さまなら魔物どもを討ち滅ぼすことができる」
それが《覇王》黄武迅を裏切った理由なのか。だったら……。
「だったら、《覇王》にそういうふうに説明すれば……相談すればよかったんじゃないのか」
世界の危機が近づいている。それを知っていたなら、シエラ=イデアルの王に真っ先に報せるべきだし、解決方法があるなら話し合うべきだ。
「知ってましたよ、《覇王》は。それでも葉桜溢忌さまの復活は認めなかった。自分たちの力でどうにかしようとしていたのです」
「葉桜溢忌の存在が、新たな世界の危機になるから……?」
「それもありますが、理由は溢忌さまの強さにあります。あの強さを認めることは黄武迅には出来ないでしょう。それは彼の信念によるものです。たとえ世界が滅ぶことになろうと、それを認めるわけにはいかないでしょうね」
強さを認めるわけにはいかない……?
たしかに圧倒的な強さだったが。何か秘密があるのだろうか。
「だから黄武迅は覇王大戦を起こし、魔女カーラの力を借りてまで溢忌さまを封じた。多くの人間が死に、カーラは記憶の一部を失うほどの犠牲を払いながら」
やはりカーラさんが葉桜溢忌を倒すための手段の決め手となるようだ。しかし……今はまだ姿を見せない。
「わたくしが語るのはここまで。これで分かったでしょう。溢忌さま相手に戦う無意味さが」
ミリアムはそう言って本棚モニターへ視線を移す。
煙は収まり、皆の様子が見えるようになっていた。それを見てわたしは愕然とする。
「ああっ!」
セプティミアは苦しそうに膝をつき、近くで倒れているサイラスの胸には剣が深々と突き刺さっていた。般若面がそれをゆっくりと引き抜く。
クレイグはおかめ面に片手で襟首をつかまれ、吊るされてぐったりしている。
ビノッコは胸に傷を負い、肩で息をしている。魔法少女面が大鎌を引きずりながら近づく。
ナギサはうつ伏せに倒れ、巨大斧は床にめり込んだままだ。狐面は斧の上で後ろに手を組んで悠然と立っている。
「──この部屋はどこだ! 教えろっ!」
ミリアムに詰め寄り、その胸ぐらをつかんだ。
ミリアムは悲しげな目で手を払いのける。
「残念ですが、もう手遅れです。ですが──あなたは、あなただけはこの場から逃げることも可能です。これを持って」
ミリアムが手渡してきたのはカプセルだ。まさか、この中身は……。
「最後のカプセル……アルマが入っています。これでひとまずは目的は果たせたでしょう。あなたまで死ぬ必要はない」
カプセルを受け取り、そのスイッチを押しながらわたしは叫んだ。
「ふざけるなっ、ナギサたちを見捨てていけるか! お前を倒して先に進む!」
カプセルからアルマが飛び出してくる。状況が分からず、呆然としているようだ。
下がってろ、と言ってわたしは柄に手をかけ、踏み込んだ。
ミリアムはすでに願望者全書のページを引き破っている。
わたしと同じ刀。居合いの構えから同時に抜刀──ガキィッ、と衝撃。
手がビリビリと痺れる。わたしは飛び退き、納刀。そして再び抜刀。
「シッ!」
太刀風。飛ぶ斬撃を放つ──が、同じようにミリアムも斬撃を放っていた。
空中で衝突。爆発し、煙幕が張られる。ガタガタと周囲の本棚が倒れる音。
ダンダンッ、と煙の向こうから銃弾の音。わたしの頬と肩をかすめた。
低い姿勢から突っ込む。煙幕を切り裂くように下から斬り上げた。
ガチィッ、と左腕の手甲で弾かれた。
そのまま殴りかかってきたのをバックステップでかわし──マズイ、巨大斧が振り下ろされた。
横っ飛びになんとかかわす。激突の衝撃、砕かれた床の破片が身体にバチバチッ、と当たる。
ゴロゴロと横に転がりながら考える。やはりあのコピー技はやっかいだ。しかも相手は超越者。こちらには黒由佳もいない。
ミリアムがビビビビッ、とページを連続で引き破る。今度は黒い本だ。たしか、魔物全書とかいう。
それをボヒュヒュヒュ、と種を植えるように床に次々差し込んでいく。するとメリメリメリと魔物たちがそれこそ植物のように生え出てきたではないか。
ギアッ、グアアッ、と奇声をあげながらゴブリン、オーク、コボルトの集団が襲いかかる。
神速で突っ込みながら一閃。六体を両断した。残りの五、六匹はすでにアルマが始末していた。
「……お願い、ヤメて。ふたりは戦わないで」
アルマの悲痛な声。マズッたな。まだカプセルから出さないほうがよかった。
「退きなさい、アルマ。由佳さんは決着を望んでいます」
間に割り込んだアルマを押し退け、ミリアムが走る。走りながら白い本のページを引き破った。
太刀風で迎撃。だが、白銀色の拳で打ち消された。バカな、あの技は──。
間合いに飛び込んでくる。舌打ちしながら刺突。しかし、かわされた。白銀色の両掌で挟みこむような打撃。
パキィッ、と刀を折られた。
折れた刀を捨て、右の拳打。ガッ、と両腕をクロスして防がれ、胸に反撃の連続打撃。
わたしは呻きながらその場に膝をつく。
まさか……志求磨の技までコピーできるなんて。
「驚きましたか。溜めを必要とする消失の技は使えませんが。願望の技を打ち消すには相当有効ですね」
アルマが駆け寄り、わたしをかばうようにミリアムの前に立つ。
バカ、どけ。これはわたしたちの勝負だ。それに早く決着をつけないとナギサたちが──。
それが《覇王》黄武迅を裏切った理由なのか。だったら……。
「だったら、《覇王》にそういうふうに説明すれば……相談すればよかったんじゃないのか」
世界の危機が近づいている。それを知っていたなら、シエラ=イデアルの王に真っ先に報せるべきだし、解決方法があるなら話し合うべきだ。
「知ってましたよ、《覇王》は。それでも葉桜溢忌さまの復活は認めなかった。自分たちの力でどうにかしようとしていたのです」
「葉桜溢忌の存在が、新たな世界の危機になるから……?」
「それもありますが、理由は溢忌さまの強さにあります。あの強さを認めることは黄武迅には出来ないでしょう。それは彼の信念によるものです。たとえ世界が滅ぶことになろうと、それを認めるわけにはいかないでしょうね」
強さを認めるわけにはいかない……?
たしかに圧倒的な強さだったが。何か秘密があるのだろうか。
「だから黄武迅は覇王大戦を起こし、魔女カーラの力を借りてまで溢忌さまを封じた。多くの人間が死に、カーラは記憶の一部を失うほどの犠牲を払いながら」
やはりカーラさんが葉桜溢忌を倒すための手段の決め手となるようだ。しかし……今はまだ姿を見せない。
「わたくしが語るのはここまで。これで分かったでしょう。溢忌さま相手に戦う無意味さが」
ミリアムはそう言って本棚モニターへ視線を移す。
煙は収まり、皆の様子が見えるようになっていた。それを見てわたしは愕然とする。
「ああっ!」
セプティミアは苦しそうに膝をつき、近くで倒れているサイラスの胸には剣が深々と突き刺さっていた。般若面がそれをゆっくりと引き抜く。
クレイグはおかめ面に片手で襟首をつかまれ、吊るされてぐったりしている。
ビノッコは胸に傷を負い、肩で息をしている。魔法少女面が大鎌を引きずりながら近づく。
ナギサはうつ伏せに倒れ、巨大斧は床にめり込んだままだ。狐面は斧の上で後ろに手を組んで悠然と立っている。
「──この部屋はどこだ! 教えろっ!」
ミリアムに詰め寄り、その胸ぐらをつかんだ。
ミリアムは悲しげな目で手を払いのける。
「残念ですが、もう手遅れです。ですが──あなたは、あなただけはこの場から逃げることも可能です。これを持って」
ミリアムが手渡してきたのはカプセルだ。まさか、この中身は……。
「最後のカプセル……アルマが入っています。これでひとまずは目的は果たせたでしょう。あなたまで死ぬ必要はない」
カプセルを受け取り、そのスイッチを押しながらわたしは叫んだ。
「ふざけるなっ、ナギサたちを見捨てていけるか! お前を倒して先に進む!」
カプセルからアルマが飛び出してくる。状況が分からず、呆然としているようだ。
下がってろ、と言ってわたしは柄に手をかけ、踏み込んだ。
ミリアムはすでに願望者全書のページを引き破っている。
わたしと同じ刀。居合いの構えから同時に抜刀──ガキィッ、と衝撃。
手がビリビリと痺れる。わたしは飛び退き、納刀。そして再び抜刀。
「シッ!」
太刀風。飛ぶ斬撃を放つ──が、同じようにミリアムも斬撃を放っていた。
空中で衝突。爆発し、煙幕が張られる。ガタガタと周囲の本棚が倒れる音。
ダンダンッ、と煙の向こうから銃弾の音。わたしの頬と肩をかすめた。
低い姿勢から突っ込む。煙幕を切り裂くように下から斬り上げた。
ガチィッ、と左腕の手甲で弾かれた。
そのまま殴りかかってきたのをバックステップでかわし──マズイ、巨大斧が振り下ろされた。
横っ飛びになんとかかわす。激突の衝撃、砕かれた床の破片が身体にバチバチッ、と当たる。
ゴロゴロと横に転がりながら考える。やはりあのコピー技はやっかいだ。しかも相手は超越者。こちらには黒由佳もいない。
ミリアムがビビビビッ、とページを連続で引き破る。今度は黒い本だ。たしか、魔物全書とかいう。
それをボヒュヒュヒュ、と種を植えるように床に次々差し込んでいく。するとメリメリメリと魔物たちがそれこそ植物のように生え出てきたではないか。
ギアッ、グアアッ、と奇声をあげながらゴブリン、オーク、コボルトの集団が襲いかかる。
神速で突っ込みながら一閃。六体を両断した。残りの五、六匹はすでにアルマが始末していた。
「……お願い、ヤメて。ふたりは戦わないで」
アルマの悲痛な声。マズッたな。まだカプセルから出さないほうがよかった。
「退きなさい、アルマ。由佳さんは決着を望んでいます」
間に割り込んだアルマを押し退け、ミリアムが走る。走りながら白い本のページを引き破った。
太刀風で迎撃。だが、白銀色の拳で打ち消された。バカな、あの技は──。
間合いに飛び込んでくる。舌打ちしながら刺突。しかし、かわされた。白銀色の両掌で挟みこむような打撃。
パキィッ、と刀を折られた。
折れた刀を捨て、右の拳打。ガッ、と両腕をクロスして防がれ、胸に反撃の連続打撃。
わたしは呻きながらその場に膝をつく。
まさか……志求磨の技までコピーできるなんて。
「驚きましたか。溜めを必要とする消失の技は使えませんが。願望の技を打ち消すには相当有効ですね」
アルマが駆け寄り、わたしをかばうようにミリアムの前に立つ。
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