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第十話
しおりを挟む昨日はガルバお兄さまと一緒に山へ出かけた。
近々訪れるお母さまの誕生日のためにテンガ山にだけ咲くという花をプレゼントするために探しに行ったのだ。テンガ山は私にはとても遠い。空飛ぶ馬車を利用してもお金は高いし、山の中には着陸できないし、それに野生の獣がいるから危険だし。だから足が早くて強いガルバお兄さまにお願いして背中に乗せて連れてってもらったのだ。
連日晴天続きで木洩れ日が綺麗だった山も午後に近づくにつれて雲行きが怪しくなってきた。遠くの方にある黒い雲が近づいてきていたのだ。
危ないから帰ろうと言ってくれたお兄さまにまだいたいとごねたのは私。欲しいと思った数見つけられていなくて、またお兄さまに連れてきてもらうにはダメだと思っちゃったから。
普段警ら隊に所属している多忙なお兄さまの休日をあまり使うようなことはしたくなかった。
ガルバお兄さまは「足に自信があるから大丈夫だ」と言ってくれた。一緒にそのまま花を探してくれたのに、結局探している間に降り始めてしまった。
最初の雨は普通の雨だったから平気だったのだけど、一つだけ問題があった。
「ヒッ」
雨の日は水の妖精が現れる。
花のような可憐な妖精ではなく意地悪で邪悪な水の妖精。ぬるりとした手が少しできた水たまりから這い出てくる。べちゃと言う濡れて気持ちが悪い音と共に迫る手から私は逃げた。油断するとどんなに小さな水たまりでも引き摺り込まれて溺死させられてしまう。
私の小さな声に気づいたガルバお兄さまが駆け寄ってきて私を背中に乗せた。
「……ヴォジャノーイか。お前ら、ミオに手を出したらただじゃすまねえぞ!」
咆哮と共にヴォジャノーイの体を鋭い爪で攻撃すると彼らの体は水のように弾けて消える。けどすぐに意思を持ったように水が集まり体となっていく。
ガルバお兄さまは彼らを無視して走り出した。途中まで持っていたマントを私にしっかり被せて山を下る。
あれだけ暖かな日で輝いていた山は雨の影響か、どんよりと空気まで濁り見通しが悪くなっている。
「黒雨だ。ミオしっかり被れ」
「う、うん」
よりスピードを上げたガルバお兄さまは霧の出てきた山道を駆け降りる。目も開けていられないほどのスピードだ。黒雨が私に届くことはなかったけど冷たい風が頬に刺さり、時折聞こえるヴォジャノーイの叫び声、森の魔物の唸る声、それらが気持ち悪く纏わりつく。おぞましい声は背筋を凍らせるのに十分で強張る体をガルバお兄さまが優しい声で慰めてくれる。
「大丈夫だ。もう街に着く。それに兄さまが負けたことなんてないだろ。ミオは俺が守るから、だから寝てもいい」
いつの間にか獣型から人型になったお兄さまは私を落とさないように抱え直し走る。しっかりと抱えられ安心感が生まれた。ガルバお兄さまは昔から私を悪いものから守ってくれる。凡人だと、普通だと、シェドリー家に相応しくないと囲むようにいじめられた過去。彼は必ず走ってきてくれて、いつだって助けてくれた。
今じゃ私をいじめるとガルバお兄さまに殺されると逆の意味で孤立したが……
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