上 下
22 / 28

第20話『狼さんの気持ち』

しおりを挟む
ヴィンセントside

レイナにナイフを刺された時、ごめんなさいと泣く彼女を抱きしめたいと思った。

大丈夫、大丈夫だからそう言って彼女を抱きしめる前に彼女は俺の目の前から居なくなっていた。

それから医療室にいき、簡単に診察してもらった所、刺傷は浅く、我々獣人なら2日3日で治るようなものだった。

あぁ、あの行動はやはり彼女にとっても、本意ではなかったのだろう。そう思うと、彼女を捕らえていた人物の命令だろうなというのが容易に想像出来た。

悲しきことだが、獣人というだけで攫われ、人族の手により、奴隷落ちさせられる子供たちもいるのだ。獣人は人族より力も強く、丈夫にできている者が多い、だから労働力として連れてかれるか、小さく、愛らしいものなどは、愛玩用などという忌々しい名を付けられ、攫われることも多々ある。

そんな攫われたものの多くは、幼少期に攫われ洗脳され、兵器とされるもの、命令に従うことを幸福と感じるように洗脳されたものが多い。

あの少女もその類であろう。レイナと名乗っていたがそれも本名かどうかすら怪しい、1度は助けてもらった恩人であり、しかも同族ならば助けぬ訳にはいかんだろう。

そう言い訳をし、少女を探すことにした。

初めは彼女の魔力を追って探すことにしたけれど、大広間の残滓以外に城の中からは彼女の魔力は感じられなかった。

そこから、城下町、人族の国との国境付近と魔力を探し歩いたが、彼女の痕跡はなかった。

半ば諦めの気待ちと、一縷のぞみをかけて、あの少女と初めて出会ったあの街へ行ってみたんだ、そこで彼女の魔力が地下から微かに放出していることに気がついた。

そこで俺はその魔力を辿りとある屋敷にたどり着いた。ダニエリー公爵家とか言ったかな、いまいち思い出せなかったがとりあえずその屋敷に忍び込んだんだ。

忍び込んだはずなのにすぐ目の前には人がたっていた「初めまして狼さん、今日はどんなご要件で?」と喰えぬ顔で微笑む男に俺は素直に話した「人探しだ。黒髪に赤い目をした鳥人だ」でもそいつは浮かない顔で「そのような方は存じ上げませんね、家令である私が言うのですから間違いありません」と心底困った顔で言うんだ。

そこで俺は思いついたんだ初めてあった時、彼女は今の色ではなかった事を「なら、白銀の髪に紫の瞳のかわいい少女は?」ってね、そしたら目の前の男は目を見開いて聞くんだ「まさか、彼女がここに?」ってだから俺は親切に教えてやったんだ「ここの地下から彼女の魔力を感じる」と、男は大慌てでどこかから鍵の束を持ってきて、「どこのドアですか?」って俺に聞くんだ、あまりの変わりように驚いたけどとりあえずそいつを案内して、鍵を開けさせたんだ。

全部の鍵が開け終わってすぐそこに彼女の存在を感じた時その男が「あの子にもあなたのように思ってくれる人ができたのですね、」と少し涙ぐんでいた。「彼女は俺がもらっていくな。」そう言うと彼はこくりと頷き、どこかへ消えて言った。

俺は扉を開け、薄暗い部屋のなか彼女の魔力だけを辿る。そこで小さな牢屋の中で消えてしまいそうに体を丸めた彼女を見つけたんだ。

「おい、大丈夫か?」そう声をかけ牢屋を開ける。彼女は俺の方をむくが目線が合わない。「まさか、目が見えていないのか?そんなまさか前までは見えていただろう?」そんな俺の疑問に帰って帰ってきたのは無言の肯定と、交わらない視線だけだった。

暗い牢屋の中で消えてしまいそうに感じられた彼女をつなぎとめたくて「触れるぞ、」そう声を掛け、彼女を抱き上げる。

抱き上げた彼女はただでさえ華奢だった体はさらにやせ細り、軽くなってしまっていた。

早く元気になれ、早く元に戻れ、いつか羽根も治してやるそう思いながら彼女をサーンクタに連れ帰った。
しおりを挟む

処理中です...