呪いなんて怖くない!〜木こりの息子と仮面の少年

閑人

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25.お屋敷にて(ルドルフ視点)②

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 今日1日で色々な事があった。リュに私の家族を紹介しようとしただけなのに何故こんな事に…ただ驚いたのはオットー先生に話してまだ2週間ほどしか経っていないにもかかわらず、もう王からの命令書が出された事だ。やはり学園長が王族、それもかなり力のある人物なのは確定のようだ。忙しいとは聞いているが一度でもいいからお会いしてみたいものだ。

 そして夕食の時間がきた。リュの村の宴会料理も美味しかったが、うちのコックも負けてないと思う。今日は魚料理メインのやや簡略化したコースにしてもらった。きっちりとしたコースでも良かったが『作法はあまり気にせず美味しく食べてもらう事優先』にした結果だ。リュもご機嫌で舌鼓を打っている。(たまに『これどう食べたらいい?』とは聞いてくるのはご愛嬌)締めのスイーツを食べつつ話も弾む。

 「どうですかお味のほうは?」と父。

 「はい!とても美味しいです。特に魚料理は素晴らしかったです」

 「それはコックが喜びます。ルドルフからリュさんの好みを聞いてコックが腕をふるいましたので。お魚と甘い物がお好きと聞いていますが?」

 「そうですね。我が村では魚は大丈夫なのですが動物の肉を食べるのは禁止されているので…肉は食べ慣れていなくて」

 私は驚いた。

 「初めて聞いたよ…言われてみれば村の食事にソーセージもステーキもなかったね。禁止か…あれ?学園の食堂では肉食べてなかったかい?」

 「あぁあくまでも村の中では狩りも獣肉食も禁止なんですが村の外へ出れば別です。お年寄りなどは外でも食べないようですが、若人たちは外に出れば食べますよ。出されて断る方が失礼でしょう?」

リュが私相手にも頑張って敬語を使っているのが何だか可笑しい。しかし今の話を聞いて父がオリバーになにやら耳打ちしている…何だろう。
 そうか…獣肉食禁止とは珍しいが、あの村の住民は動物と意思疎通できる。その意思疎通できる相手を捕まえて食べるのは誰しも嫌だと思うのは当然か。

 「そういえば不審者を捕まえたのは身体強化を使ったのですか?」どうしても姉は身体強化の事を聞きたいらしい。

 「いいえ。私はまだそこまで上手く使えないので…これを使いました」とリュは小さな袋状の何かを出した。

 「これは叔母作の護身用具で中身は唐辛子の粉末です。叩きつけると割れて中身が飛び散るようにできています」

 「見せていただいても?」姉は興味津々だ。

 「どうぞ。なんなら1つ差し上げますよ。護身には役に立ちますが風向きを考えないと自分も唐辛子の粉をかぶるのでお使いになる際は慎重に」

 これは意外と役に立つかも。上手く顔にぶつける事ができれば痛みで動けなくなるだろうし、顔に当たらなくても唐辛子の粉が目や喉に入れば足止めになる。材料も手に入れやすいので汎用性が高い…さすがゲルダさん。我が家の防犯に取り入れられないかオリバーに後で聞いてみよう。今回の事で我が屋敷の警備の脆弱性が発覚したので…私も1つもらおうかな。

 「あと紅茶がとても良い香りで美味しいです。フルーツ?みたいな香りですよね」

 それを聞いた我が家全員は心の中で大喜びした。この紅茶の茶葉は…

 「それは我が領地の特産品の紅茶なのよ。茶葉の生育に適した温暖な気候で水はけの良い山があちこちに散在しているの。茶葉に何も足していないのにフルーツの様な香りのする逸品よ」姉が胸を張って答える。

 そう、70年くらい前の飢饉でとっても貧しくなってしまった我が家と領民を何とかすべく、姉が持てる知識を総動員して探し当てたのがこのお茶の栽培。

子どもだった姉が『お茶の木を育てる!』と言った時

父も母も『家庭菜園かな?育ててみたいならいいよ』

くらいの感じだったらしい。

 しかし姉はオリバーを巻き込み、領民を口説き落とし、1つの山の斜面一杯に茶の木を植えた。子どものお遊びだと思っていた両親は驚いたが『いいよ』と言ってしまった手前ハラハラしながら見ていたが…それが大成功。今では品質の良い茶葉の生産地として有名になりつつあり、我が家も領民もちょっとづつ金銭的に困らなくなってきているのだ(と言ってもまだ『困らない』レベル)。

 それ故に姉は、先の飢饉の時悩んでいる曽祖父に

『我が屋敷にある物を人以外全部売ってしまいましょう!そのお金で豊作と言う噂の山向こうの国の作物を買いましょう!』

 と言い放ちその通りやってのけた曽祖母の生まれ変わりと言われている。もはや我が家で、いや我が領内で誰も彼女を止められる者はいない女傑だ。我が家は長子相続なので、姉が次期当主。この調子で結婚相手も見つけて欲しいものだが、今の所全戦全敗中(彼女から断っているので全勝なのか?)なのが両親の悩みのタネらしい。紅茶からそんな話題になってしまい姉はむくれていた。

 「どの方もお話は面白くないですし、何人か集まるとギスギスした感じになり鬱陶しい事この上ないのよ。その上こちらの好みも考えずに花だのアクセサリーだの送りつけて…リュさんみたいに好みを考え欲しいですわ」

 リュは紅茶を美味しそうに飲み干して

 「それは無理ですよ」

 「どうして?」

 「私は本好きのルドルフさんを知っており、且つシャルロッテ様にお会いした事がなかったので、シャルロッテ様に本を送る事に対する心理的なハードルが低かったのです。でも他の方はもし本が好みと知っていても〝貴女の美しさ〟を見てしまったら『本なんて無粋な物送っていいのだろうか?』と悩み、女性が好きそうな無難な物を選んでしまうでしょう。それが普通だと思いますよ」

 それを聞いた姉が頬を染めた。ひょっとして喜んでいる?父と母がこそこそと

 「6歳差は?知り合いでいるか?」

 「女性が下ならいますけど、逆はあまり聞かないですわ。でも本人たちが良ければ…」

と喋っているのが聞こえる。

 私はリュを「お義兄さん」とは呼びたくはないのだが…
 

 
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