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30.幕間
しおりを挟む美しい顔が欲しい。
私の人生はそれだけを追い求めているような気がする。『毒花のような』でも『異性を惹きつけてやまない』そんな美しい顔を持つ母は「美しさが全て」と言い切っていた。そしてその口で「あなたは美しくない」とも言っていた。つまり私には何も無いという事だ。
その言葉で呪われたまま私は結婚をした。
母のドレスやアクセサリーなどの浪費が増え、それが借金となり、とうとう私は借金のかたに結婚を強いられた。相手には一度も会った事はなく(夫となった人は『舞踏会で一目惚れした』と言っていたが、私には記憶は無い)私にとっては『生家』という暗闇から『婚家』という暗闇に移動しただけだった。
暗闇とは表したが、結婚生活自体はとても穏やかなものだった。夫が私を愛してくれているのは良く分かったし、婚家の人たちも優しかった。でもいくら「愛してる」と言われても私の呪いは解けなかった。何故だろうか?と考えると、思いつくのは一つだけ。「美しくないから」
夫も婚家の人たちも私同様美しくなかった。一般的に見れば誠実そうな優しい顔立ちなのだが、私の基準では美しくない。なのでせめて生まれてくる子どもだけでも美しい顔をと望んだ。(祖母に似る孫もいるので)しかしそれも無駄だった。2人息子を産んだがどちらも夫に似ていたのだった。夫も婚家の人たちもとっても喜んで愛してくれた。でも私はそんな子供たちをどうにも愛せなかった。自分が産んだ子供なのに愛せなかった。だって「美しくないから」
あと2、3人産めばひょっとして…と諦めずにいた矢先、夫が急死した。私は長男が成人するまでの当主代理となったが、何をすればいいのだろうか?婚家は大きく商売をやっているがそれは軌道にのっており、私の出番はない。当主としての仕事は昔から勤めてくれている執事が教えてくれる通りにやるだけ。そして本来なら1番やるべき子育ては…全くやる気が起きなかった。暗闇が深くなったその頃、ある噂を聞いた。
アウクス家の子どもは美し過ぎて魅了の呪いがかかっている と
私は狂喜乱舞した。そんな家の血筋ならば美しい子どもが生まれるに違いない。その上噂によると母とは違う「清らかで上品な美しさ」らしいではないか!この血筋を手に入れれば母の呪いから解き放たれると確信した。
私に釣り合う年齢の人はいるかしら?…残念ながら釣り合う年齢の人は皆結婚していた。そこで結婚していない方を探してみた。出来れば魅了の呪いの強そうな本家の方がいい。…いた。10歳のルドルフ様だ。私の長男より若いが構わない。求婚をしようとしたら執事にやんわりと反対された。
「年が離れ過ぎてます」と
でも私と夫との歳の差もそれくらいだったのだからいいじゃない?と言って黙らせた。男性が良くて女性がダメって何故なのか分からない。構わず求婚をしたが断られた。何度も何度も断られた。何故かしら?彼は後継でもないし、結婚すれば『質素な生活をしている』と言われているアウクス家に援助もしてあげられる。家訓で『結婚は本人の意思』によると聞いているけどお金は大事よ?ご両親も説得して下さればいいのに…
断られ続けてどれくらいたったのだろう?その間この求婚に反対した使用人たち(執事も含む)を私はどんどん首にした。そして私の言うことを聞いてくれる者をどんどん雇用した。あとで気づいたが、首にしたと思っていた使用人たちは長男が全員再雇用し、自分の手元に置いていた。ちょっと不愉快にはなったが私の邪魔さえしなければまあいいわ。興味もないし。
ところが一大事が起きた。ルドルフ様が学園に入学してしまったのだ。あそこは面会は基本家族だけ、手紙のやり取りすら面倒な手続きがあり、その上寮生活。それも5年間…絶望しかけたが、反面アウクス家の護衛は無くなるのでチャンスだと思い直した。そのままさらってうちに連れて来ましょう。ここでいい生活をすれば考えも変わるに違いない。ルドルフ様の外出時を狙う為手下に学園の門前町で見張らせた。
チャンスはすぐに来た。友人らしい学生とどこかに行くらしく、みすぼらしい馬車に乗り込んだと連絡が来た。その時偶々私も近くにいたので手下と一緒に追いかけた。しかしルドルフ様まであと少しのところで、そのみすぼらしい馬車が目の前で横転して道を塞いだ。道は狭く横をすり抜けるには鬱蒼とした森に入るしかないが私の馬車はそこには入れない。まごまごしているその間にルドルフ様と友人は馬に乗ってどんどん先に行ってしまった。
…謀られたと気づき、その馬車の持ち主に腹が立ったが今はそれどころではない。何とか手下たちが馬車をどけ先に進んだ。道は1本道で先には建国の森とその手前に小さな村があるだけのはず。逃げ場はない。私の勝ちだわ。
ここはどこ?
私たちはルドルフ様が入ったと聞かされた建国の森に入ったが、行けども行けども深い森。入ってすぐ元の道がわからなくなり(後ろを振り返っても来た道自体が無くなっていた)迷い続けている。不思議な事に喉が乾けばすぐ綺麗な泉を発見でき、お腹がすくとすぐ食べられそうな木の実が見つかるといった具合で生きるのには困っていない。「生きるのには」だ。『肉が食べたい』と言って狩りに行った手下がいたが、何も…鳥の1羽もいなかったようだ。言われてみれば動物の気配がない、不気味だ。
どのくらい森の中を迷ったのだろう、私たちはとうとう外に出られた。小さな町だった。私たちは警備の駐在所に連れて行かれた。そこでこの場所が王国のどの辺なのか聞いて見ると地図を指差して教えてくれーー国境沿いの、建国の森とは全く繋がっていない町だった。どこをどうやったらここに出られるのか?と不思議に思っていると
「あんたら、悪い考えを持って建国の森に入ったんだろ?たまにいるんだよな~ここに飛ばされる奴。まあ生きて出られたんだから反省して改心した方がいいよ」
何とか屋敷に戻ると、長男は私の手下たちを次々と首にした。どうやら学園そして陛下に今回の事が知られたらしくかなり怒っている。私の資金源たる婚家の商売の権利もじわじわと取り上げられ、私の懐は寂しくなってきた。そして私を夫の遠縁がいる隣国に送り、幽閉しようとしているという噂が使用人たちの間でなされているようだった。
そしてついに王家からルドルフ様との接見禁止令が出された。面会どころか手紙もダメ、アウクス家の領地も学園の門前町も立ち入り禁止…私は美しい顔を手に入れたかっただけなのに、何故こんな目に合うのかしら?わからない。全くわからない。
でも私は諦めない
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