いつも巻き込まれて困ってます!

閑人

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27 ヤマモト ②

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 数ヶ月後母は仕事を探し始めた。父の遺産だけで暮らしていくのでは不十分だと判断した為だった。しかし結婚してからずっと主婦をしていた人間になかなか良い仕事はない。母のため息が増えていく。

 そんなある日、ご機嫌伺いと称してソウエモン様がたくさんのお土産とともに現れた。

 「そう言えば、あれから困った事はありませんか?こちらでも気をつけてはいるのですが…」

 驚いたことにあの日以来あの詐欺師の仕返しがないように自分の護衛の方に頼んで我が家の周りの見回りをしてもらっているらしい。念のいった事だ。

 色々と話しているうちに母の仕事の話になった。ブランクの大きい再就職の難しさを愚痴る母。

 出されたお茶を美味しそうに飲みながらソウエモン様が聞く

 「…結婚前はどのようなお仕事を?」

 「大学で事務を…2年ほどですが」

 そこで父と出会ったらしい。初耳だ。

 「では事務の経験はあるのですね?…もしお嫌でなければうちの会社でお仕事しませんか?ここから電車で2駅ほどの場所にありますので通勤も楽だと思いますがいかがですか?」

 渡りに船のいい話だ。母は乗り気になった。

 「お母さんちょっと待って。確かにいいお話だけど、きちんと仕事内容とかお給料とか確認しないと。疑うわけではないけどお母さん向きのお仕事じゃないかもしれないじゃない?」

 母とソウエモン様は冷静な私の発言を聞いて顔を見合わせた。

 「お嬢さんの言う通りですな。いやー先走りました。ご都合がよければ明日にでもうちの会社にいらしてくだされば、仕事内容やお給料関係の詳しい説明をしましょう、いかがですか?」


 結局母はソウエモン様の会社に就職した。あの当時としては不思議なくらい条件もお給料も良くてびっくりした。ひょっとして友人の妻だから特別?と勘繰った母が仲良くなった社員にこっそり聞くと、(勿論地位や家族の有無で違うが)皆同じようにいい待遇だったのにもっと驚いた。
 
 
 月日が瞬く間に過ぎた。私は進学をし、大学の研究室にいた。父と同じように学問の道を志したのだ。しかし上司にあたる教授との折り合いが悪く、悩んでいた矢先、母が亡くなった。葬儀も他の手続きも会社の方が手伝ってくれてつつがなく終わらせる事が出来たが…空虚だ。真っ暗闇の中にいるようだった。私は大学を辞め家に閉じこもった。

 ピンポーン

 玄関のチャイムが鳴った。ノロノロと応対に出てみると少し歳をとったソウエモン様がそこにいた。

 「…あなたの様子を人づてで聞いてね、心配で来てみたんだ…上がらせてもらっていいかな?」

 帰ってもらおうかと一瞬思ったが、なんとはなしに上げた。本当に何も考えてなかった。

 ソウエモン様は父と母のいる仏壇にお参りしてくれた。(本当は父の家は神道らしいのだが母の宗教に合わせて仏壇にしてある)一応そこの掃除とお供えだけは欠かしていない。しかし家の中の他の場所はほったらかしなので酷い有様だった。こんな場所に客を招き入れるとは…今ならありえないがその時は何もやる気が起きなかった。

 その様子を見てソウエモン様は静かな声で聞いた。

 「…大学はやめたんだって?」

 「…はい」

 「これからどうしたいとかある?」

 「…ないです」

 会話が途切れて何分たったのだろうか。

 「やりたい事がないのは仕方ない。しかし生きていくにはお金が必要だろう?」

 恥ずかしくて頭が上げられない私にソウエモン様は

 「あなたのお父さんは私の大事な友人だった。だからあなたに選択肢をあげたい。選んでも選ばなくても自由だよ」

 え?選択肢?戸惑う私。

 「1、私から生活費を貰いこのままの生活をする。自堕落ではあるがこう言う人生もありだろう。生活費はあなたのお父さんへの感謝の気持ちだと思ってもらっていい。私が生きている限りは保証しよう。ずっともらい続けてもいいしやめてもいい。

 2、うちの会社に就職をする。お母さんと同じ待遇で迎えよう。これなら自分の食い扶持を自分で稼げる。

 3、…これは私の個人的な事情から出た選択肢なのだが…我が家の家事を仕事にする…所謂家政婦だね。自分に合った仕事なり身の振り方が見つかるまでの期間限定で構わない。実は我が家は先日孫が産まれたのだが、息子の妻の体調が戻らず…私の妻も頑張ってはいるものの今大変な状況なのだ。お給料は相場より多く出そう。

 と、この3つだ。まあ3つ目のはあなたような才媛に頼む仕事ではないので忘れてもらって構わない。ただ信頼のおける人間しか家の中に入れたくないので、手隙なら…と選択肢に入れただけだ。どう?」

 止まっていた頭が動き出す。

 「…何故ソウエモン様はそんなに甘いのですか?確かに父と友人だったのかもしれませんが、自分が死ぬまで私に無駄金を注ぐなんておかしいです。別に理由でもあるのですか?」

 ソウエモン様はカッカッカと高笑いをした。

 「やはりあなたはお父さんの言った通り賢い人だ。そう私には理由があるんだ。簡単に言うと味方を増やしたいのだよ。それも恐怖で縛るのではなくて、できれば『あの人のためなら』と思ってもらえればと。その為に甘く見られても構わないし、お金はいくら費やしてもいいと思ってる。…どうせお金はついてくるしな…」

 お金はついてくる?

 「あなたに信じてもらえるかはわからないが、我が家は神の使いを輩出する家柄なのだ。そのため神から恩恵…うちの場合はお金に困らないと言う形だな…を受けている。他にもそう言った家柄はあったのだが、廃れてしまい今はほぼうちだけだ。それ故か敵が多い。甘言でうちの人間を抱き込もうとする輩もいるし、反対にうちの血筋を絶やそうとする輩もいる。だから切実に味方が欲しい。金で買っていると軽蔑されてもいい。家と家族を守りたいのだ」

 どうやらこれがソウエモン様の本音のようだ。私のような小娘にこんな大事な事を話すのはどうかとも思うけど、家族を守りたいと言う気持ちはよくわかる。

 「いいんじゃないですか?それがソウエモン様の戦い方、守り方なんでしょう?そのおかげで私のように助かった人間も多いはずです。…ただ無駄にばら撒くのはどうかと思いますが、多分そこは色々考えてらっしゃるのでしょう」

 私の顔をじっと見つめてソウエモン様が言った。

 「勿論そこはきちんと調査をしているよ。まあ最終的に無駄になってしまうこともあるが大体は成功してるかな。…で、どうする?気持ちは決まったかな?」


  私は選択をするために息を吸い込んだ。



 そうして選んだのは3番だ。これが1番ソウエモン様にとって助かるはずだと思ったのだ。今までの恩を少しでも返したいという気持ちがそれを選ばせた。そう言う意味では彼の計算通りだったのかもしれない。

 …『新しい仕事が見つかるまでだから』とある意味気軽に選んだこの選択肢だったが、家の事をこなす仕事がとても性に合っていたのが計算外だった。よく考えると母が仕事の間、家事を一手に引き受けていたのは私だった。その頃も全く苦にもしてなかったのだから、よっぽど向いているのだろう…自分では気がつかなかったが。

 優しく穏やかなソウエモン様ご一家に囲まれて、私はとても楽しい充実した日々を過ごした。楽し過ぎて別の仕事を探すのを忘れてしまったくらい。
 
 「明日の夕食は何を作ろうかしら?」
 
 暖かな日差しが窓から注いでいる。 
 
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