雪埋もれの国に名無し姫がやってきた

閑人

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50 バラと話し合い

 体調も戻ったので今日はカトリーヌ様のお屋敷にフラーヌ様と一緒にあの〝生ける澱み〟について国としての対応をお願いするためにやってきた。

 話自体はもう先に母からカトリーヌ様へ手紙が届けられていたので私たちは退治の様子を述べるに留まったが、ひとしきり話をした後フラーヌ様が

 「伯母上にいいものを持ってきました。ハンナ出してくれ」

 言われたハンナがトランクから取り出したのは銀色の花弁を持つバラの鉢植えだった。光に当たるとその花弁がキラキラ光りまるでフラーヌ様の髪の毛のようだ。

 「前から欲しいと仰ってた〝ソフィア〟です。やっと増やすことに成功したので伯母上におわけします」

 ソフィア…そのバラの名前だ。昔陛下がソフィア様をイメージして品種改良させ出来上がったバラだということだ。ただ現王妃様が『あんな花見たくもない』と仰ったためハンナとフラーヌ様が王宮でこっそりと隠れて育てていたのだ。今回それを我が家の庭で増やす事に成功したので以前から欲しがっていたカトリーヌ様にプレゼントすることにしたのだった。

 「庭のどこに植えるか庭師と話し合ってきていいでしょうか?」

 「姫ちゃんが1番よくわかっているものね。いいわよ、庭師と話して1番いい場所に植えてちょうだい」

 そしてフラーヌ様は私を置いて出ていってしまい部屋の中にはカトリーヌ様と私しかいなくなった。豪華な応接室に静寂が訪れる。カトリーヌ様のまとった高貴なオーラに私は圧倒されていた…しかしこれは聞きたかったことを聞く良い機会だと私は思った。

 「カトリーヌ様、お伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 「そんな堅苦しい…私たちは親戚なのよ。なあに?姫ちゃんがいたら言いにくい事かしら?」

 「まぁ…そうとも言えますね」

 「別の女性と付き合いたいって話なら…」

 気持ちを落ち着かせるため飲みかけていたお茶を吹き出しそうになった。なんて事を言うのだこの人は。やはりフラーヌ様との血のつながりを感じる。

 「そうではなくて…私は結婚してから彼女に関してずっと気になっていた事がありまして」

 「何かしら?一般的な枠には収まらない子ではあるけど?」

 「単刀直入にいいますと、カトリーヌ様はフラーヌ様を自分の後継者に育てるおつもりだったのではと…」

 「あら何故そう思うの?」

 柔らかそうに見えて鋭い眼差しで私は見つめられた。

 「彼女と話していて深窓のご令嬢で尚且つ社交に出ないと決めている方に必要ない知識をかなりお持ちだと私は感じました。それもカトリーヌ様由来で。そこからそうと」

 あくまでも推測にしか過ぎないが…ここを聞いておかないと何かの折にカトリーヌ様が彼女を後継者にするため私と離縁させ、より仕事に有利な別の方と結婚させる可能性も考えておかねばならなくなる。そうなった時に慌てふためきたくはない。

 「…今はそうしたいとは思ってないわ。ま、本人の希望があればまた考えるけど」

 推測は当たっていたようだ。私は腹に力を込めた。カトリーヌ様に自分ごときが釘を刺せるかは微妙だがきちんと伝えておくべきだ。

 「できればこのまま〝私とともに〟穏やかな生活をして欲しいと思ってます」

 私の気持ちが伝わったのか、今度は彼女は窓の方を見つめ、独り言のように呟いた。

 「…私の子供たちは夫の血を濃く引いたのか穏やかで優しい性格なのよね。どう考えても今の私のやっている事を継げるタイプじゃないの…その点姫ちゃんは違う。頭のキレが良くて行動力もある。肝も座ってる。うってつけだと思ったのよね…残念だわ」

 後継者にすることは諦めているようで私は一安心した。

 「姫ちゃんはやりたい事に一直線に行ってしまうでしょ?それを抑えられないと…ね」

 続けてあの話をするチャンスがやってきた。これから彼女と結婚生活を続けていくのに確認しておきたい事だと自分にもう一度言い聞かせ、私はカトリーヌ様のオーラに負けないようにグッと顔を上げて彼女を見つめて言った。

 「それでカトリーヌ様は方向転換された。彼女をこの国にとって有意義に使おうと」

 私の言葉を聞いてカトリーヌ様は軽やかではあるものの強い口調で言った。

 「あら人聞きが悪い『使う』なんて。私は彼女の希望に沿っただけ。それがたまたまあなたとの結婚だったのよ」

 やはりそうか。不思議に思っていたのだ。いくらフラーヌ様の初恋云々があったとしてもそもそも王族がこんな私のような田舎貴族に嫁いでくるわけはないのだ。

 本当はカトリーヌ様はフラーヌ様を手元に置いて教育し結婚相手も相応しい相手を選ぶつもりだった。(養子にしたかったのかもしれないが陛下の溺愛っぷりに負けたのだろう)しかし年齢が上がるにつれてフラーヌ様の性格がはっきりと後継者として不向きとわかり…

 「チェスナー家の状況は以前から気になっていたの…今は平和で忘れられているけどあの場所は何か事が起きた場合他国との北方の最前線になるからきちんと手を打っておきたくてね。でも王宮には平和ボケしてる方が多すぎて…そんな時昔姫ちゃんがチェスナー家の三男と結婚したいと言ってた事を思い出したのよ」

 だからフラーヌ様の婚約者リストに本来なら身分的に載るわけのない私の名前を混ぜ込んで彼女に渡し結婚を後押し…表向き『可愛い姪っ子のために』と取り繕い我が家に援助&情報収集。最終的に『王女が守る場所』として他国との最前線にふさわしい場所にしていくつもりのようだ。

 ただそのつもりであるならば私とフラーヌ様を無理やり離縁させるような事はなさらないはず。私にとって僥倖だ。

 「姫ちゃんは結婚したい相手と結婚できて、チェスナー家は窮状を脱する事ができてWin-Winでしょ?」

 カトリーヌ様に迷いはなさそうに思える。

 「助かっているのは事実ですが軍備に手をつけるのは領地が充分に豊かになってから…最後の最後ですからね。あと兄カールの結婚もその計画に入ってますよね?カイザリー家は南の最前線ですから」

 彼女は小首を傾げてはぐらかすように答えた。

 「カールさんとチェルシーさんがお似合いだと思っただけよ。何か問題でも?」

 「…ないです」

 カトリーヌ様の言う通り当人たちは相性も良く落ち着いた家庭を築いていけそうなので私からはこれ以上何も言うことはない。あとはカイザリー家の問題となる。

 「そうね…東は半国有地だからいいとして…そうそうセシルさんにウィールド家のお嬢さんはどうかしら?貴族の女性には珍しくかなり高い学識をお持ちの才女よ」

 西の領地を持つ家の名前が彼女の口から出てきた。やはりセシルも狙われているようだ。私は苦笑しながらもきっぱりと伝えた。

 「私たち兄弟で全てを済ませようとしないでいただけませんか?せめて本人にきちんと確認してくださいね」

 カトリーヌ様は扇の内側でコロコロと楽しそうに笑って私をいなすように言う。

 「当たり前よ。嫌がる人同士を結婚させてもいい事はないわ。だから情報収集をして合う人を選んでいるから安心して…でもよくそこまで考えがたどり着いたわね?あなたまだ15歳よね…少し驚いたわ」

 私はそこで種明かしをした。

 「実は私1人だけの考えではないのです。兄弟3人で考えた事です」
 
 そうカールやセシルがいなければ私だけの頭ではここまで辿り着かなかっただろう。

 カトリーヌ様はそれを聞いて扇を優雅に揺らしながらほのほのと笑った。私にはなんだかその表情は寂しげに見えたのは気のせいだったか?

 「ケイティ様はいいご子息たちをお持ちでお幸せね。これならチェスナー家は安泰だわ」

 …廊下の方からフラーヌ様の楽しげな声が聞こえてきて私たちの話し合いは終わりを告げたのだった。
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