雪埋もれの国に名無し姫がやってきた

閑人

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18 後始末

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 「…遅い」

 彼女は手に持った扇を何度も持ち替えた。それは彼女が腹を立てている時の癖だ。何度持ち替えた事だろう、急に彼女は彼のところにツカツカとハイヒールの音を鳴らして近寄った。

 「…ブライアン、何故こちらも兵を出さなかったの?姫ちゃんがどうなってもいいの?」
 
 「姉上…それは無理だと何度も。そうなったら戦争ですよ。だから避難をと…」

 ブライアン…この国の王である彼にとって目の前にいる姉カトリーヌは未だに頭の上がらない存在だ。特に『陛下』と呼ばずに子どもの時の様に『ブライアン』と呼ばれると恐ろしさに震えるほどだ。

 「姫ちゃんが避難するわけないじゃない!領地の被害を減らす為ギリギリまであのバカに抵抗するに決まってるわ!そんな事もわからないの?」

 「だから、説得役も兼ねてアンドリューに…」

 「説得?むしろ彼は姫ちゃんの手伝いをしてるのではないかしら?」

 説得が成功していればハンナの瞬間移動でここ王宮にすでに避難してきているはずだが…が、まだ来ていないところを見ると確かに姉の言う通り姫の手伝いをしている可能性が高い。

 彼には『姫の力になってやって欲しい』と言ったが、まさか私の命令よりも姫の意思を優先するとは思わなかった…後悔先に立たずとブライアンが肩を落としていると

 〝外〟

 柔らかい気配と共に声が聞こえた。

 「ソフィア!君なのか?」

 〝外 姫〟

 ブライアンは侍従を振り切って走り出した。大広間を突っ切り、外へ。

 走って走って、城門前の広場にたどり着いた彼が見たものは…
 
 山積みになった兵たちと傷だらけの王子だった。

 ーーー

 驚きのあまり口をあんぐりと開けている陛下に向い、フラーヌ様は

 「父上、コレ頼む」

 と山積みの兵たちの方を指差し、『ゴミを捨てておいて』くらいの感じで言った。

 王子たちを倒したものの私たちはこの兵たちの扱いに困り、ハンナにここ王宮に瞬間移動で運んでもらったのだ。(まだ呼んでもいないのに陛下が1人走って現れたのには驚いたが…)

 「姫、よかった無事で…え?この兵たちは?…これはエヴァンス殿下…まさか…」

 フラーヌ様に駆け寄ろうとした陛下の足が止まった。

 「私と1対1の勝負をしてあやつは負けたのだ。なのに性懲りも無く兵をけしかけたので〝仕方なく〟痺れ粉で動けなくしたのだ。じいが証人だ。で、屋敷前にそのまま置いておくのも邪魔なので連れてきた。牢屋にでもぶちこんどいて欲しい。そうそう痺れ粉の効き目は1時間ほどでなので、そろそろ…」

 と言いかけるとハンナが遮った。

 「効き目は丸1日です」

 「あれ?私は1時間と頼んだが?」

 「調合を失敗しました。1日です」

 多分失敗ではなくてハンナも密かにあのバカに腹を立てていたのだろう。口の端に少しの笑みを浮かべているのを私は見逃さなかった。

 「…1対1の勝負…痺れ粉…」

 陛下は信じられないモノを見たかの様に茫然とその場に立ちすくんでいる。その脇をカトリーヌ様が走り抜け、

 「姫ちゃん!よかった無事で。あなたもご家族も怪我はない?」

 と言い怪我を確認する様にフラーヌ様を抱きしめた。その横でショックで動けない陛下にアンドリュー様は声をかけた。
 
 「…陛下、そろそろこれらを片付けないといけませんよ。兵たちは武装解除の後、牢屋に…あぁでも地下牢では少し厳しすぎるか…貴族用の牢にいれておきますか?お決めください」

 その言葉で陛下は夢から覚めた様な顔になり

 「…うむ、北の塔の牢屋に入ってもらおう。あとは…エヴァンス殿下か…大分傷だらけじゃのう。まずは傷の手当てをして、3階奥の部屋…あそこは窓がないはずじゃ…そこに入っていただいて、ドアの前には見張りを置いておこう…なぁアンドリュー、これらを本当に姫がやったのか?」

 ひょっとして間違いなのでは?と言う望みをかけてアンドリュー様に聞くが、その望みはあっさりと断ち切られた。

 「ええ、確かに姫様がおやりになりましたよ。異国の武器で一方的な勝利をおさめました。目惚れるほど美しい動きでした…しかし思ったより殿下の傷が浅いところを見ると一応姫様は手加減した様ですな」

 「異国の武器とな?…姫!いつそれを習ったのだ?私は聞いてないぞ!」

 と驚いた彼はフラーヌ様を問い詰めたが、彼女も負けてはいない。

 「はぁ?許可したではないですか!小さい頃だが…お忘れに?」

 彼女に強く言い返されて、陛下は記憶を探る。そういえば確かに3歳くらいの頃

 『私も剣を使いたい!』

 と姫に言われた様な…そして

 『もう少し大きくなったらな』

 と答えた朧げな記憶があった。

 しかし陛下にとってそれは許可するという発言ではなかった。あくまでも先延ばしのための大人の方便だった。が、姫は『大きくなれば使って良い』と判断した様だ。

 「なので5年ほど前から練習をしておった。本当は騎士が使う様な剣を使いたかったのだが、力のない女性には厳しいと言われたので、色々調べて異国の女性専用の武器に行き着き…〝ナギ〟と言う名の武具です、そのうち父上にもお見せしましょう」

 我が行動に一点の曇りなしといった堂々たる態度のフラーヌ様に陛下も言い返すのを諦め、矛先をアンドリュー様に変えた。

 「アンドリュー…そなたこの事知っておったな?だから私が出した避難命令を無視したのだろう?」

 しかしそんな難癖に怯む元宰相ではなかった。

 「姫様が鍛えてらっしゃる事は存じておりました。が、てっきり陛下の許可を得ているのものだとばかり。ご命令は無視したのではなく、姫様がお断りになったのでやむなく…」

 2人がそうこう揉めているとカトリーヌ様の声が割って入った。

 「ブライアン、あなたアンドリュー様に何やつあたりしているの?大元の原因はあなたじゃない!」

 「どういう事ですか、伯母上?」

 不思議そうにフラーヌ様は彼女に聞いた。

 「そうね…若い人は知らないわよね。では問題よ、どうして第一王子を産んだ現王妃様がずっと側室だったのかわかる?」

 「それは…母上がいらしたからでは?」

 「…ソフィア様が王妃になるより前に第一王子は産まれてるわ」

 「あ、そうか。王家の後継を産んだのだから王妃位が空位ならばではそこにつくはず、ん?おかしいのぅ…何故だ?母上よりも前に王妃がいたとでも?」

 カトリーヌ様は頭を軽く横に振った。

 「正解は…〝王妃の位はハイラン王国の王女様の為にわざわざ空位にしてあったから〟よ。国同士のお約束でね、もう結婚が決められていたの。ただ王女様がまだお小さかったから、待っていた状態だったのよ。それをこの愚弟が…」

 「母上と恋に落ち…そして後先考えずに王妃にしてしまったと…」

 「その通りよ。その後始末がどれだけ大変だったか…ねぇアンドリュー様」

 同意を求める様にアンドリュー様に話しかけた。

 「あちこちに頭を下げ、交渉をし…私の宰相の任期中で1番大変な出来事でした」

 アンドリュー様はあの当時を思い出したのか少し遠い目になった。

 「で、ハイラン王国に大きな借りができて、王子の無作法にも強く出られなかったと言うわけだな!」

 陛下は昔を知る2人と愛娘にどんどんと追い詰められていった。

 「その上、『ハイラン王国の王女が王妃になるならば仕方ない』と思って側室に甘んじていた現王妃にとって〝ぽっと出の〟母上に王妃位をかっさらわれたようになり、恨みをかったと…なんだ全て父上が原因ではないか!」

 項垂れてしまった陛下を見て少し同情した私は何か助け船を出そうかと思ったが、どうにも無理な話だった。

 「少しは何か手伝おうかと思っておったが、気が変わった。父上には全責任をとってもらおう。後始末は任せましたぞ!私たちは帰ります!では!」


 そう彼女は言い残し、私と一緒にさっさと家へ帰ったのだった。
 
 

 
 
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