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原始・古代

実々:双子とは顔だけか?

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11月28日(水) 朝


 「みーち、ちょっと質問に答えて」

 何故だか少し焦っている感じの硬い声であーちが話しかけてきた。

 「へっ?何?」

 パンにケチャップを塗り、その上に冷凍コーンをチンしたやつ、マヨネーズ、薄切りにしたウィンナー、そして胡椒少々…からのチーズ♡をトーストした【なんちゃってピザトースト】を食べながら朝の情報番組を観ている時に突然……尋問めいた事が始まるようだ。

 が、その前にquestion!

 Q.向かいの席に座る人間あーちが急に微笑み出した。あなたならどうする?

 1. 微笑み返す
 2. 無表情でみつめる
 3. 警戒する
 
 私の出した答えは…………【3.の警戒する】でした。
 ということで警戒しながら続きを促すようにあーちの目を見返せば…

 「『自分のこう言うトコ直したいな~』って思うところは?」

と、朝一の質問ではあり得ないことを聞かれた。
 これは、朝っぱらから私に反省を促して、今日一日をしおらしく過ごせって言いたいのか?
 私に直して欲しいところがあるなら昨日みたいな『答えはみーちが知ってるんじゃないの?』的な感じにするんじゃなくて、さっさと言ってくれれば良いのに…。
 ……性格悪いぞ!
 とはいえ、質問されたからには答えないといけないわけで…。
 取り敢えずパンをお皿の上に置いて少し左斜め上の方を見ながら過去の自分を回顧してみる……うーん…これかなぁ……?
  答えが一応出たので質問者の方に視線を戻し、言葉を紡ぐ。

 「んー…直したいのは何だかんだ流されちゃうところかな?」

 …朝から自分の嫌な所言わせないでよ…と思いつつ朝食の続きをしようと思い、お皿の上のパンを持ち上げようとしたらー…

 「うそだうそだーっ!テレビとかで青っちろくてヒョロっとしてる男の子観た時に『あ、倒せそう』って思っちゃうことでしょっ!」

―…ほぼ叫び声に近い感じで問題発言を高らかに言ってきた。

 「…そんなん考えるのあーちだけだからっ!」

  ………えっ????!
 『あ、倒せそう』って何!?
 モヤシみたいな子を見るとついつい倒したくなっちゃう衝動が??
 というかストリートファイターの気質があったの!?…血が滾っちゃう的な。
 それともアナ雪のエルサみたいに『どこまでやれるか自分を試したい』の?

 えっ?えっ?えっ?私の頭の中でクエスチョンマークが無数に飛び交っていった。というか何にせよ…オカシイ。
 普通ならテレビで細い男の子観たら『ちゃんとご飯食べてるのかしら』とか『骨折れちゃわないかなぁ』って思う程度でしょ。
 ……さすがサイ●パス……。
 私の性格よりもあーちのその『あ、倒せそう』っていう物騒な思考は確かに即刻直した方が良いと思う!!……だって怖いもん。 
 私がコイツヤベェな…と思わずパンを持ち上げる直前の手のままフリーズしていたら第2問目が始まった。

 「じゃあ、身体で1番強いと思うところは?」

 今日は私の心と身体の両方を改めて知りたい日なの?
 …あ、あれか?私を今後ボコる時に精神攻撃で痛ぶりつつ、尚且つ私の体で一番強い所を封じて確実な勝利を手にしたいっていう??
 …流石に考えすぎか?
 一応仲の良い双子で世間様にも通っているし、私もあーちがボコりたいと思う程のことをした覚えもない…というか私をボコるならこの一年の間しかない。
 あーちも流石にかなちゃんの前で私をボッコボコにするっていう教育的にも良くないことはしないと思うし、もし、この一年の間で私をボコったら生活出来なくなることも知っているはず……やっぱり考えすぎか。
 『あーち疑ってごめんよ』と少し反省しつつ、正直に話そうと決めた。

 「まず、その質問何?って思うけど……髪の毛かな。指に刺さるとめちゃめちゃ痛いし」

 普通の人は『爪』とか『歯』っていうのかな?でも私的には『髪の毛』かな。
 私の毛は自分で言うのも恥ずかしいが、とっても丈夫。たぶん髪の毛を糸にして縫えると思う。   …やったことないよ?


実々の小話⑦ 髪の毛

 あれは、高校一年生の時。高校から自転車に乗って下校している時に起こった。
 その日は向かい風が強く、顔に髪がバサっとかかったので、整えるように片手でハンドルを操りながらもう片方の手で髪を梳かしていた時、突然右手の人差し指に電気が走ったような痛みが起こった。
 余りの痛みに慌ててブレーキをかけ、問題の右手人差し指に視線を持っていくと……

……人差し指の第一関節の先の方から一本の毛が生えていた。

 思わずといった感じで一瞬視線を外に外して、気持ちを落ち着けてから再び人差し指を見ると……やっぱり毛が一本生えている。
 ……えっ!?指毛???

 めっちゃ元気に『ぴょーん』と生えてる!…っていうかめっちゃ痛い!!
 恐る恐る引っ張ってみると、先端がまるで針のような毛が私の指先から抜けた。指先を見つめると小っちゃい穴が空いており、そこからジワジワと血がプックリと出てきた……。

 ………自分が怖いっ…!

 思わず「ひっ!」と小さく声が漏れた。
 えっ!?私の髪の毛は凶器だったの⁈指先の痛みとはまた違った胸の痛みで涙目になった。
 高校の3年間という短い期間の間にあと2回ほど『この経験』をすることを、この時の私はまだ知らなかった。           
                   End .


  一瞬思考を遠い過去に飛ばしていたら、あーちが対抗姿勢を見せながら口を開き、

 「えぇーっ!足の小指じゃないの!?何度棚の角っこに強打しても骨折しないんだから」

とまさかの『打たれ強い』ところを推してきた。
 ……えっ!?そっちの『強い』だったの?てっきり攻撃手段の方かと思ってたのに……ニホンゴムズカシイネ。

 「……じゃあもう小指で良いよ」

 なんかもう…どうでも良くなったわ。
 足の小指は『強い』んじゃなくて、只々『不憫』な存在じゃないの?あーちは、『いつもありがとう』の気持ちを込めてNo. 1の称号を足の小指に授けたんだろう…と無理やり自分を納得させることにする。
 あーちは足の小指に栄光が輝いたのが嬉しかったのか、明るく次の質問を振ってきた……まだあるんかい。

 「最後にー…『結局これが1番好きだわ~』ってお茶は?」

 …ポクポクポク…チーン!【考え中の音】

 「…紅茶」

 なんだかんだいっぱいフレーバーの種類が豊富な『紅茶』が一番かなぁ?
 緑茶や烏龍茶も勿論好きだけど、種類が一番あるのが『紅茶』だし。まぁ皆同じ葉っぱから出来てるからね~と思いつつパンを一口囓る。
 向かいの席ではあーちが何故だかそっとお皿とコップを端に移動させ自分の前にスペースをつくった。……と思ったら凄い勢いで突っ伏して、

 「緑茶じゃないのかーっ!」

と叫びだした。……うるさいね。

 その後、数秒ほど黙ったまま突っ伏し続けていたと思ったら何事も無かったように朝食の続きを食べ始めた。……情緒不安定?
 私より先に食べ終わったあーちは流しに食器を運んでいき、お皿やコップが乾かないように蛇口の水をかけた後、

 「本当の今日は、みーちが花奏ちゃんに『ママ、そのおかおな~に?』って平時の表情の時に聞かれた日だよ」

と、独り言にしてはかなり大きいボリュームで呟き掃除機の方へ走り去っていった。

 ……足の小指ぶつけちまえ!!


*****

 昼食後、あーちが早速とばかりに今日のまとめに入るべく、キンちゃんに向き合っていたので、ついに『実々ちゃんのはじめてのおつかいin一年前』というイベントが発生した。
 まぁ普通に買い物に行くだけなんだけどね。日焼け止めを顔に塗り、風邪とインフルエンザ対策でマスクをしていざ出陣! 

 道中は特に何事もなくあっさりスーパーに到着。
行きながらテレサテンの『スキャンダル』を口遊んで歌う程度にはまぁご機嫌だった。

 「スキャンダル~なら~、男の勲章~、ま、い、ご、に~……テクテク(すれ違う時は黙る)……な、ら、ず、に~帰ってきて~ね~……」

 敢えて何かあったかといえば、銀杏並木から降ってきた銀杏爆弾を踏まないように飛び石を跳ぶかの如く『ピョンピョン』と安全地帯に着地していくのが疲れたくらいかな。
 ……アレ踏むとクッサイから。

 スーパーで特に沢山買う訳ではないけど、ずっとカゴを持って彷徨うのは手も肩も痛くなっちゃうし、無駄に疲れちゃうから迷わずカートを手にし、カゴをセット!
 …ラク出来る時はしないとね。
 そうしてカットサラダ、小松菜、ナス、ピーマン、ブリの切身、牛乳、鶏胸肉、キノコ類、パンを無事に購入することが出来た。ポイントも勿論付けて貰えたよ♡
 唯一残念だったのはレジに【大豊さん】が居なかったこと。もし居たら例え凄くそのレジだけ混んでても並ぶ所存で居たのに……ぐすん。

 こうして少し寂しい気分のまま、『実々ちゃんのはじめてのおつかいin一年前』が終わろうとしていた帰り途中の銀杏並木で……出逢ってしまった。

 ……忘れもしない『あの時』のカラス様に。

 カラス様が視界に入った途端、私の頭の中で『家に帰るまでが遠足だよ』というベタなセリフが木霊した。
 あぁー…『家に帰るまでが買い物だよ』ね。
 もう終わった気で居たからアレなの?『気ぃ抜いてんじゃねぇぞ?』ってカラス様からのサプライズなの?…だとしたら大成功だわ。
 …寿命が1・2年程縮んだもん。
 よりによってこの銀杏並木で足元も注意しないといけないのに、銀杏並木の向かいの私より背の高いブロック塀から見下ろしてくるカラス様を気にして上も注意しないといけなくなるなんて……。
 …うぅっ…泣きたい。

 カラス様デカいよ~。
 銀杏臭いよ~。

 でもこの道を通らないとお家に還れない…。いざ、参らん!!

 『ブォォォーッ!!(ホラ貝の音)』byリトル実々

 上も下も忙しなく視線を動かしながら進んで行く。
 頭の中ではカラス様に『人違いです!人違いです!人違いです!貴方様に短い腕を振り上げたのは私じゃないです!』と強く強く思いながら、無駄だとは思いつつも足音も極力鳴らないようにしつつ、目を合わせないようにしながらそーっとカラス様の横を通り過ぎ……

  バサササッーー……

……たかった。
 う、うわぁぁぁーん…なんで、なんで急に羽広げて来た!?
 めっちゃ『ビックーーッ』ってなっちゃったじゃん。それで銀杏ちょっと踏んじゃったし。
 帰ったら絶対あーちに物申してやる!絶対にだ!と胸に固く誓って、右目から涙を一滴落としながら残りの銀杏並木を小走りで駆けることにした。
 
 ……ベチョ(銀杏踏んだ音)……ギャーッ!


*****

同日、夕方

 おやつ前の地獄の時間を消し去る様に紅茶とクッキーを食べ、小説の世界にどっぷり嵌っていたら昨日よりも幾分か早い時間にあーちに声をかけられた。

 「今夜は早く布団に行けそうだよ」

 本当は『良かったね~』とか言うべきなんだろうけど、まだ私の心は荒んでいるから無理だった。

 「はいはい、見るよー」

……………………。【わたにほの内容】

 (『漢書』地理志とか懐かしい!)
 (『後漢書』東夷伝も懐かしい!)
 (あとはー…『金印』と『吉野ヶ里遺跡』かぁー。なんか一気に定番な所が出てきたねー)

……………………。【読了】


 「ふむ」

 視線をキンちゃんから外して顔を斜め上の方に向けながら1つ頷く。(まぁ良く出来てるんじゃない?)という気持ちを一言に込めておく。
 そして恒例の私からの質問に入るー…。

 「クニの首長たちが挨拶に行ったってあるけど、日本海側のクニくらいしか行けなくない?あと、その時何を持って行ってたの?」

 太平洋側から大陸の方に行こうとしたら大変だし、そもそも大陸に行こうっていう発想からして無かった気がするし…。
 日本海側の人も持っていくとしたら海産物とかになるのかなぁ?木の実とか家畜は腐りそうだし…と自分でも考えていたら、

 「主に北九州のクニの首長たちが朝貢してたみたいだから、みーちの考えであっていると思う。で、貢ぎ物の内容は、読んだ本全部とも書かれて無かったよ……奴隷としか」

……恐ろしい答えが返ってきた。
 まさかの『奴隷一択』だった。

 「ひぇ…」

 思わず弱々しい声が無意識に洩れちゃったじゃん。
 つ、次の質問に行って気分をあげよう!

 「『倭国大乱』を詳しく!」

 力強く聞いたら、返ってきたのは思っていたのと違う答えだった。

 「詳しく知っているであろう弥生人が現存していないから分からん。……と、冗談はそれくらいにして、内乱の背景は中国で後漢が倒れたことで虎の威を借りれなくなったクニが弱体化。ならばと国内の大国同士の主導権争いになっていったみたい。戦いも結構激しくてね、頭部の無い遺骨とか、銅剣や鉄鏃が刺さったままの人骨が大量にー…」
 「分かった」

 最初の冗談もめっちゃつまらなかったし、最後の頭が無い遺骨やら剣が刺さったままの人骨とか普通にホラー…。
 思わず説明の途中で話をぶった切った私は悪くない。
 そんな私を一瞥しつつ、あーちは薄く笑いながら恒例?のクイズタイムに突入した。

 「金印は1辺何㎝、重さは何gでしょー?」

 『金印』…高校時代の資料集で見た記憶を引っ張り出す…たしか偶数だった!んで凄く小さかったはず!…うーん…重さは意外と重かったような?

 「4㎝とか2㎝じゃなかったけ?重さは50gとか?」(…確かこんなだった気がする!)
 「約2.3㎝、重さは約109g。では、上に付いているツマミの動物は?」
「あー…龍みたいなやつ?」(なんか上にニョロっと乗っかってるよね~)
 「答えは蛇だよ。うちらの干支ですな」
 「ほー…」(あー、そうだったそうだった!)

 「金印はどうやって使うでしょうか?」

 あーちが更なるクイズを出してきた。

 …ポクポクポク…チーン!【考え中の音】

 「印籠と同じで見せるだけじゃん?」(…水戸黄門的に)
 「……え?印なんだよ?」

  あーちは呆気に取られたような顔をしてきた。
勿論私自身も印籠と同じとは思っていない。…印籠は薬入れだから。

 「ジョークだよ、ジョーク」

 と薄く微笑みながら言うと、

 「だ、だとしたら分かりにくいっ…。で、正解は荷や書を入れた箱を締めた紐の結び目に粘土をのせて、その上に印を押して使ったんだってー。封蝋みたいに」

と、正解が返ってきた。
 …あーちのさっきの冗談よりは面白かったと思う。

 「成る程ねー」

 まぁ正解は封蝋みたいに使うってことが分かったので、また一つ賢くなれた気がする。
 今日はこれで終わりかな?と思ったら突然―…
 
 「思い出した!」
 
と、目をかっ開いて叫んできた。

 「何を?」

 まぁ、いつものことなので続きを促すー…。


……………………。【あーちの小話】


 「今だったら、『外壕に落ちなくて良かったね、深くて自力で登れなかったから』って気の効いたことを言えたのにねー」

 しみじみあーちが昔を懐古するように話してきたが、

 「絶対その台詞が正解じゃないから。あーちとそいつがおかしいってしか話を聞いて思わなかったわ」

 落ちる方も落ちる方だけど、あーちもおかしいでしょ。
 相田さんのティッシュの価値高過ぎだから…。
 …あーちはアレかな?敢えて人と外れたことを言わないといけない宿命でも背負っているのかな?……だとしたら仕方ない。
 そして不幸な宿命を背負っている人物はなおも台詞を続けてきた。

 「んー…確かに優しくは無かったかもねー……あぁっ!何で過去に多神さんがうちらを連れてきたのか分かっちゃったかも!考えが合っているか今夜聞きに行かないとっ!みーちも一緒に行く!?」

 …まさかのお誘いもあった。
 さっきの話から多神さんが私たちを過去に連れてきた理由なんて100%分かるわけない。どこに学ぶべき点があったよ!?

 「恥かくだけだから絶対行かない。……2人で一緒に行く方法も分からないし」

 断固拒否する!
 絶対恥かくだけだし、多神さんと気まずくて目も合わせられない自信がある!
 何より、あーちには多神さんと会ってることも秘密にしてるし、うどん屋みたいな家屋や巫女ルックも既に2回経験してるから『わぁ~!こんなの初めて~!』っていう演技絶対出来ない!!もう短期間で3回通ったら常連になっちゃうでしょ。

 「なら、追って結果は伝える!」

 あーちは興奮冷めやらない感じで頬を若干紅潮させながら鼻息荒く返事を返してきた。…あーち…結果は分かってるよ。

 晩ご飯は今日買ったブリの切身を片栗粉をまぶして、バターとポン酢を絡めて焼き、ほかほかのご飯の上にカットサラダ、その上に細く出したマヨネーズ、そして焼いたブリをのせた『ブリのバタぽん丼』にした。
 晩ご飯を食べながらあーちに買い物終わりからずっと言うのを我慢していたことを話す。

 「あーちのせいでカラス様に目をつけられたんだけど︎!?」
 「銀杏並木の横のブロック塀に乗っかってこっちを見下ろしてきたかと思ったら私が通り過ぎるときに『バササッ!』って必要ないはずの羽ばたきもされたんだからね!?しかもその時にビックリして銀杏ちょっと踏んじゃったし!……って聞いてるの!?」

 …あーちは丼に夢中だった。
 …人の話聞けよ。


11月28日(水)

 今日は朝からあーちが変な質問をしてきた。あれは結局なんの意図があったんだろうか?
 過去の世界に来て初めて一人で買い物に行った。帰りにカラス様と銀杏に心身共にヤラレタ。

 夜の『ブリのバタぽん丼』は美味しく出来たからほんの少し心が晴れた。…ほんの少し。

 あーちが多神さんに今日の夜にご迷惑をかけないかだけが心配。
                                end.
 
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