58 / 254
№58 白い腕
しおりを挟む
――篠田さんは大学生くらいに見えたが着物をきっちりと着こなしていた。
呉服屋なんですよ。実家が。だから着付けも当たり前のようにしてますね。歴史のある家なので物心ついた頃から婿を取れって言われていました。私もそのつもりでした。妹も一人いますが、私が長女だったので。
店構え自体とても古く、よくおかしなモノを見ました。母も見える人でしたが、否定的で「絶対見たというそぶりをするな」と言われていました。他の人が見えないものを見たといえば狂人扱いされるし、見えたモノも近づいてきやすくなるとか。
たいていは無視できたのですが、あれだけはなぜか無視できませんでした。店の衣桁にかけた着物からすらっと伸びた白い腕。とても綺麗だったんです。ひらひらと柔らかく手首を動かして私を招いていました。ちょっとくらい大丈夫だろうと近づいた瞬間、ふわっとその着物が舞い上がり、私にかぶさりました。あっと言う間もなく真っ暗になりました。
驚きましたがすぐに着物を払いのけました。いつもよりも店が明るく感じ、まぶしさで目を細めていると女性の悲鳴が上がりました。
そこにはさっきまでいなかった中年の女性と妹がいました。妹は見たことがない洋服を着ていました。妹にその方はどなたかと尋ねると、妹は私だと中年女性が答えます。確かに妹によく似ていました。そして妹と思った同じくらいの年の女の子は、よく見ると妹に似た別の子でした。
わかってもらえないかもしれませんが、着物がかぶさってから私がはぎとるまでの間に20年以上たっていたんです。私が感じたままで言えば、そう言うことです。
ただ妹が言うには、私は店から突然消え、行方不明になり、20年を経てまた突然、店に現れたのです。年を取らない私を見て妹は混乱したようですが、私もまた混乱していました。妹の、妹によく似た娘だけが冷静に私たちの話をまとめてくれました。本当に聡明な子です。
ただ、やはり20年も経つと事情はいろいろ変わっていました。私の居場所はもうあの家にはなかったのです。それに行方不明になっていて、さらに年を取らずに帰ってきたなんて誰が信じるでしょう。
あなたのことは妹の娘からききました。大学で噂になっているそうですよ。私の話ならきっと買い取ってくれるって。遠回りにその金を持って出て行けと言われたんですね。
――そして謝礼を受け取り、封筒の中身を興味深そうに眺めた後、軽やかに去っていった。
呉服屋なんですよ。実家が。だから着付けも当たり前のようにしてますね。歴史のある家なので物心ついた頃から婿を取れって言われていました。私もそのつもりでした。妹も一人いますが、私が長女だったので。
店構え自体とても古く、よくおかしなモノを見ました。母も見える人でしたが、否定的で「絶対見たというそぶりをするな」と言われていました。他の人が見えないものを見たといえば狂人扱いされるし、見えたモノも近づいてきやすくなるとか。
たいていは無視できたのですが、あれだけはなぜか無視できませんでした。店の衣桁にかけた着物からすらっと伸びた白い腕。とても綺麗だったんです。ひらひらと柔らかく手首を動かして私を招いていました。ちょっとくらい大丈夫だろうと近づいた瞬間、ふわっとその着物が舞い上がり、私にかぶさりました。あっと言う間もなく真っ暗になりました。
驚きましたがすぐに着物を払いのけました。いつもよりも店が明るく感じ、まぶしさで目を細めていると女性の悲鳴が上がりました。
そこにはさっきまでいなかった中年の女性と妹がいました。妹は見たことがない洋服を着ていました。妹にその方はどなたかと尋ねると、妹は私だと中年女性が答えます。確かに妹によく似ていました。そして妹と思った同じくらいの年の女の子は、よく見ると妹に似た別の子でした。
わかってもらえないかもしれませんが、着物がかぶさってから私がはぎとるまでの間に20年以上たっていたんです。私が感じたままで言えば、そう言うことです。
ただ妹が言うには、私は店から突然消え、行方不明になり、20年を経てまた突然、店に現れたのです。年を取らない私を見て妹は混乱したようですが、私もまた混乱していました。妹の、妹によく似た娘だけが冷静に私たちの話をまとめてくれました。本当に聡明な子です。
ただ、やはり20年も経つと事情はいろいろ変わっていました。私の居場所はもうあの家にはなかったのです。それに行方不明になっていて、さらに年を取らずに帰ってきたなんて誰が信じるでしょう。
あなたのことは妹の娘からききました。大学で噂になっているそうですよ。私の話ならきっと買い取ってくれるって。遠回りにその金を持って出て行けと言われたんですね。
――そして謝礼を受け取り、封筒の中身を興味深そうに眺めた後、軽やかに去っていった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
怪奇蒐集帳(短編集)
naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。
怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——
どれもがただの作り話かもしれない。
だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。
本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。
最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる