怪談レポート

久世空気

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№108 波に浮かぶもの

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――貫田さんが子供の頃の話らしい。

 夏休みに母の実家に遊びに行ったんです。母の実家は海の近くで、地元の人しか知らない海水浴場がありました。知らないというか、岩がごつごつしてて遠浅でちょっと泳ぎにくいし、近くにいい感じの砂浜があるから遠くから来た人はそっちに行っていたんでしょう。利用するのが地元の子供だけだったから人が少なくて思う存分泳げました。地元の子供とも仲良くなりましたし。一週間くらいいたんですが、毎日海で泳いでいました。

 最終日、その日の夕方父が迎えに来ることになっていたので朝から張り切って泳ぎに行っていました。泳ぎにちょっと自信が出てきたので一人で浜辺を離れて泳いでみました。
 一度止まって振り返ると、地元の子たちや祖父たちが小さく見えました。気を良くしてさらに遠くに行こうとしたんですが、先に誰かが泳いでいたんです。泳いでいるというか、浮かんでるようで、何だ、自分より泳げる人がいたのかと少しがっかりしましたが、あのくらいまで行っても大丈夫なのかと思ってさらに泳ぎ始め、何度か止まってその人を確認したんです。
 が、変な感じだったんです。頭だけが水面に出て、湯船につかっているように見えるんです。泳いでいる様子はなくて、いつ見ても頭だけが出ている。近づくにつれてそれが髪の長い女の子で、空を見上げ少し微笑んでいるようでした。
 だんだんと言いようのない不安を感じるようになって、急いで岸に戻ることにしました。でも今度は全然岸に近づかないんです。逆にその顔がこちらに近づいてきます。焦れば焦るほど上手く泳げなくて、顔が近づいてきます。追いつかれたらやばいって思っていました。なんでか知らないけど。
 もうすぐそこに顔の気配を感じたとき、岸の方から祖父がすごい勢いで泳いできたんです。祖父は海水浴はしてなくて、Tシャツ短パンを着ていたんですが、そのままバタフライであっという間に僕の元まで来て、がっしりと僕の身体を担ぐと、またすごい勢いで岸に向かって泳ぎました。
 岸につくと、自分の体が滅茶苦茶冷たいことに気付きました。母が
「唇が紫じゃない!」
 と悲鳴を上げ、体を拭いて何枚も上着やタオルをかけてくれて、僕はようやくほっとしました。
 祖父はその場にいた他の保護者のおじさんたちに、たぶん祖父の近所の人だったと思うんですが、何やら話していたと思うと、おじさんは他の子供たちに
「クラゲが出てきたから帰るぞ!」
 と声を掛け始めました。子供たちは素直に海から上がり始めました。僕は祖父に
「あれってクラゲだったの?」
 と聞きましたが、祖父は人差し指を口に当てて
「忘れろ」
 と言いました。

 浮かんでいた顔に見覚えはありません。地元の子供にもあんな子はいませんでした。今でも海は怖いですよ。特に波は。
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