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№213 在宅勤務
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――武良さんはインターネットを利用したWeb会議で話すことを希望した。
すみません、こういうのはあんまりしませんか? そうですか、一対一だから感染とか気になりませんよね。僕も気にしませんよ。でもちょっと会いに行けない事情があります。
今年の春に引っ越しをしました。転勤です。マンションも会社が借り上げている物で、事前に場所くらいは知らされていました。そういう部屋で事故物件なんて考えないじゃないですか。特に調べもせずに引っ越ししました。
最初に違和感を覚えたのは引っ越しした日の晩です。ある程度片付けが終わってコンビニで弁当とビールを買いに行きました。部屋に帰ると隣の住人も帰ってきたところでした。向こうは
「こんばんは」
と言って入っていこうとしたので、慌てて
「今日引っ越ししてきた武良です」
と話しかけました。あちらは一瞬こちらを見て、何も言わずに部屋に入ってしまいました。何故かその表情は幽霊を見たみたいに驚愕していたんです。
片付けを終わらせ、初出勤の日の朝、転勤先の支社の役員から電話がありました。
「今日は家に居てくれ」
との事でした。一応テレワークも出来るようになっていますが、転勤にもそれなりの理由があって、テレワークだけじゃ対応できない業務もあります。それはどうするのか聞いたんですが、
「今から行くから待ってて」
と。何が起こっているのか判らず部屋でそわそわしていると、社長や専務やエライ人がゾロゾロとやって来ました。それにも面食らいましたが、なんか神主さんみたいな人もやって来たんです。わたわたしているうちに、彼らは祭壇みたいなものをパパッと作り、一緒に正座させられ、お祓いのようなものを受けました。
そこでようやく「ここって事故物件なのか?」と気づきました。震えていたら、お祓いが終わってあっさり帰っていきました。社長たちを呼び止めると
「君は良いから」
と部屋に居るように言われました。
それから1週間、ずっと在宅で仕事をしていました。何のための転勤だったのだろうと問い合わせはしましたが、ちょっと待ってで引き延ばされていました。
僕は隣の人を訪ねました。隣の人はたぶん僕より年上の男性でした。最初は門前払いされそうになりましたが、近くのファミレスで話をしたいというと、しぶしぶといった感じで付いてきて、話をしてくれました。
僕が住んでいる部屋はずっと空き部屋だったそうです。月1回程度清掃が入るから、急な出張とかで使うのだろうと思っていたそうです。ある日会社の飲み会で酔っ払った上司が会社が傾きかけていると言い出しました。大丈夫なのかと聞くと、うちにはお社があるから大丈夫、と。それはどこか聞くと、お前の部屋の隣だと。つまり僕がいる部屋です。会社がピンチになるとこの部屋に神様を招き入れておもてなしするんだそうです。
じゃあ、僕は何なのか。お供え、なんですかね。男性もそれに気づいていて上司に聞いた事以上の事は言いませんでした。
徐々に部屋から出れなくなってきました。出る気力が出ないんです。もう1週間家から出てません。ベランダにも出てません。だからこんな形でお話ししました。
ああ、違います。助けて欲しいんじゃないんです。もう、遅いから。
――武良さんは気を失うように画面の外に倒れた。そして白い手がデスクの下から現れて画面を覆った。そこで通信は途絶えた。
すみません、こういうのはあんまりしませんか? そうですか、一対一だから感染とか気になりませんよね。僕も気にしませんよ。でもちょっと会いに行けない事情があります。
今年の春に引っ越しをしました。転勤です。マンションも会社が借り上げている物で、事前に場所くらいは知らされていました。そういう部屋で事故物件なんて考えないじゃないですか。特に調べもせずに引っ越ししました。
最初に違和感を覚えたのは引っ越しした日の晩です。ある程度片付けが終わってコンビニで弁当とビールを買いに行きました。部屋に帰ると隣の住人も帰ってきたところでした。向こうは
「こんばんは」
と言って入っていこうとしたので、慌てて
「今日引っ越ししてきた武良です」
と話しかけました。あちらは一瞬こちらを見て、何も言わずに部屋に入ってしまいました。何故かその表情は幽霊を見たみたいに驚愕していたんです。
片付けを終わらせ、初出勤の日の朝、転勤先の支社の役員から電話がありました。
「今日は家に居てくれ」
との事でした。一応テレワークも出来るようになっていますが、転勤にもそれなりの理由があって、テレワークだけじゃ対応できない業務もあります。それはどうするのか聞いたんですが、
「今から行くから待ってて」
と。何が起こっているのか判らず部屋でそわそわしていると、社長や専務やエライ人がゾロゾロとやって来ました。それにも面食らいましたが、なんか神主さんみたいな人もやって来たんです。わたわたしているうちに、彼らは祭壇みたいなものをパパッと作り、一緒に正座させられ、お祓いのようなものを受けました。
そこでようやく「ここって事故物件なのか?」と気づきました。震えていたら、お祓いが終わってあっさり帰っていきました。社長たちを呼び止めると
「君は良いから」
と部屋に居るように言われました。
それから1週間、ずっと在宅で仕事をしていました。何のための転勤だったのだろうと問い合わせはしましたが、ちょっと待ってで引き延ばされていました。
僕は隣の人を訪ねました。隣の人はたぶん僕より年上の男性でした。最初は門前払いされそうになりましたが、近くのファミレスで話をしたいというと、しぶしぶといった感じで付いてきて、話をしてくれました。
僕が住んでいる部屋はずっと空き部屋だったそうです。月1回程度清掃が入るから、急な出張とかで使うのだろうと思っていたそうです。ある日会社の飲み会で酔っ払った上司が会社が傾きかけていると言い出しました。大丈夫なのかと聞くと、うちにはお社があるから大丈夫、と。それはどこか聞くと、お前の部屋の隣だと。つまり僕がいる部屋です。会社がピンチになるとこの部屋に神様を招き入れておもてなしするんだそうです。
じゃあ、僕は何なのか。お供え、なんですかね。男性もそれに気づいていて上司に聞いた事以上の事は言いませんでした。
徐々に部屋から出れなくなってきました。出る気力が出ないんです。もう1週間家から出てません。ベランダにも出てません。だからこんな形でお話ししました。
ああ、違います。助けて欲しいんじゃないんです。もう、遅いから。
――武良さんは気を失うように画面の外に倒れた。そして白い手がデスクの下から現れて画面を覆った。そこで通信は途絶えた。
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