私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~

あんねーむど

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9 犬猿らしいふたり

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 柔らかな笑みを浮かべながら、ノエルは人混みを縫うようにしてこちらへ駆け寄ってきた。
 その姿を見た瞬間、胸の奥がふっと温かくなる。
 けれど私の隣に立つ人物を視界に捉えた瞬間、ノエルの表情が凍りついた。笑みは消え、代わりに浮かんだのは、はっきりとした敵意。
 怖いほど鋭い視線で、ノエルはクラウディオを睨みつけている。彼がこんな顔をするなんて、今まで一度もなかった。

「……なんでお前が騎士服を着て、チドリさんと一緒にいる?」

 抑えた声だったが、内側に滲む苛立ちは隠しきれていない。

「お前に説明する義理はない」

 クラウディオは素っ気なく返し、視線すら合わせなかった。

「は?」ノエルの眉がぴくりと動く。

「あ、あのねノエルくん、誤解しないでほしいんだけど……」

 慌てて私は二人の間に声を差し込む。

「この人は私の護衛なの。ちょっと事情があって、騎士団に頼んで今日からついてもらってるの」

「……護衛? 騎士団に?」

 驚いた表情で私を見つめるノエルに対して私は首を縦に振った。

「そういうことでしたか。それでしたらチドリさんの護衛は僕がやりましょう」
「勝手に決めるな」

 クラウディオが一歩前に出て、私とノエルの間に割って入った。

「お前より僕の方が護衛役として適任だと言っている」

 ノエルは一歩も引かない。

「まだ儀礼用の剣しか貸与されていない見習いが、か?」

 ノエルは言葉を詰まらせ、腰に帯びた剣へと手を伸ばした。確かにその剣は華美で儀礼用だと一目で分かる。

「文句があるなら騎士団長に直訴しろ、すぐにでも交代してやるぞ」クラウディオは淡々と続ける。

「いいや、そんなまどろっこしいことをする必要はない」

 ノエルが一歩踏み出す。

「お前には今ここで退いてもらう。団長には事後報告すればいい」

「なんだと?」

 ノエルは背筋を伸ばし、はっきりと名乗りを上げた。

「辺境伯アクセルホーク家の名において、ノエル=アクセルホークはクラウディオ=ラファガルドに決闘を申し込む」

 周囲の空気が張り詰める。
「え? え? ちょ、ちょっと待って、けっとう!?」

 私の声と同時に、周囲からどよめきと歓声が上がった。いつの間にか人垣ができていた。私たちを中心に円ができている。

 ノエルは剣の柄を強く握った。対するクラウディオはまだ動かない。

「その剣で本当に勝負をするつもりか?」
「お前相手なら十分だ」

 ノエルは真っ直ぐに睨み返す。

「それとも怖いのか? この僕に負けるのが」

「……言ってくれるぜ」

 クラウディオの口元がわずかに歪み、「上等だ」と冷たく吐き捨てた。

「待って! 待って待って、二人とも止めて!」

 私は慌てて二人の間に割って入った。

「こんなことで剣を抜くなんて、どう考えてもおかしいでしょ! 同じ騎士なのに!」

「チドリさん」
 ノエルは真剣な眼差しで私を見つめる。

「これは〝こんなこと〟じゃありません。僕にとってはとても大切なことなんです」
 
 彼の迫力に押されて思わず声を詰まらせた、そのときだった。

「なにをしている!」

 怒声が市場に響き渡った。

「チ、チーフ……!」

 人混みを割って現れたチーフが険しい表情で相対する騎士二人を睨みつける。

「王に仕える王宮騎士が白昼堂々騒ぎを起こすとは何事か!」

 びくりとノエルの肩が跳ね上がろ。そして「……失礼しました」と唇を噛み、剣の柄から手を離した。
 彼は私に一礼すると、そのまま背を向けて歩き去っていった。

「ああ……助かりました、チーフ……」
 
 私は心臓を押さえながら呟いた。本当にこの世界は寿命が縮むことばかりだ。

「お前がチドリの護衛役のクラウディオだな?」

 チーフの視線がクラウディオに向く。

「護衛役が問題を起こしてどうするつもりだ」

「……売られた喧嘩だ」クラウディオは短く答えた。
 
 次の瞬間、乾いた音が響いた。
 チーフが掌の裏でクラウディオの頬を打ったのだ。一瞬の出来事で私もクラウディオも反応できなかった。

「いいか、若造」
 チーフは低く、しかしはっきりと言い放つ。
「チドリの護衛ならば何を最優先にすべきかを考えろ」

「……」

「騎士ならば任務に徹しろ」

 クラウディオは反論せず、ただ真っ直ぐにチーフを見据えていた。やがてチーフは踵を返し、その場を後にする。

「……だ、大丈夫?」

 私は恐る恐るチーフの背中を見つめるクラウディオに声をかけた。

「ああ、問題ない」

 クラウディオは言った。そして「お前の上司か?」と聞いてきた。

「そうだけど……」

「いい上司を持ったな」

 そう言って歩き出した彼の肩には、いつの間にか私のトートバッグが掛けられていた。
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