私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~

あんねーむど

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16 犯人はこの中に……いる?

 私とクラウディオは無事に王都へ戻り、城門をくぐって王宮の宿舎まで辿り着くことができた。

 石畳を踏みしめる馬の蹄の音が、やけに大きく耳に残る。恐怖が体にこびりついていて、指先がわずかに震えているのが自分でも分かった。血の匂いが、まだ鼻の奥に残っている気がする。
 ついさっきまで命のやり取りをしていたとは思えないほど、王都はいつも通りの顔をしていた。

 馬から降ろしてもらいながら、私はクラウディオを見上げた。

「クラウディオは……どうしてコルアルの泉にいたの?」

「俺はお前の護衛だ。あの野郎には『勝手にしろ』と言ったが、護衛役を譲ったわけじゃない」

 彼はいつも通りの口調で言った。

「じゃあ……見つからないように私たちの後をつけて、ずっと様子を見てたってこと?」

「……」

 答えない。けれど、その沈黙がなによりの肯定だった。

「ここまで来れば安全だ。念のため部屋に鍵を掛けて、大人しくしていろ」

 そう言って、クラウディオは再び馬に跨る。
 戻るつもりなんだ、ノエルを助けに。

「クラウディオ、お願い。ノエルくんを連れて無事に帰ってきて」

 彼は小さくうなずき、そのまま馬を走らせた。背中が、あっという間に遠ざかっていく。

 悲しいけれど、もう私にできることは何もない。

 宿舎の部屋に戻る。午後から出かけると言っていたリリアはまだ戻っていないようだった。
 よかった、前みたいに巻き込んでしまったら嫌だから。

 私はベッドに腰掛け、祈るように手を強く握りしめた。二人が無事に帰ってくることを顔を伏せてただ願った。

 それから、ほとんど時間も経たないうちにドアがノックされた。

「チドリさん!」

 その声に、はっと顔を上げる。
 ノエルくんの声だ。

 立ち上がり、急いで鍵を外してドアを開ける。そこに立っていたのはノエルだった。

 私の顔を見るなり、「良かった……」と力なく漏らし、彼はその場に崩れるように座り込んだ。
 安堵で体から一気に力が抜けたのだとすぐに分かった。

 顔や腕に無数の切り傷。白い騎士団の制服には血がいくつも滲んでいる。それが彼自身のものか、敵のものか分からない。
 でも、生きている。それだけで胸がいっぱいになる。

「ノエルくん……良かった、本当に……」

 私はしゃがみ込み、彼の手を握った。

「追手が三人もいて、正直もうダメかと思いました」

 そう言って彼はカラリと笑う。

「三人も……、ノエルくん一人で?」

「ええ、必死だったのであまり覚えていないんですけど、不思議と力が湧いてきて。ああいうのを火事場の馬鹿力って言うんでしょうか」

「そう……でも本当にありがとう。助けてくれて」

 もう一度手を握りしめると彼の頬が紅潮する。

「い、いえ、騎士の務めですから!」

「感動の再会はそれくらいでいいか?」

 ノエルの後ろから声がした。
 クラウディオだ。どうやらノエルと行き違いにならず合流できたようだ。

「お前たちに話がある。俺の部屋に来い」

◇◇◇

 クラウディオの部屋は、ベッド以外なにもない殺風景な空間だった。
 窓の外を確認した彼は、窓を完全に閉めてから私たちの方に体を向けた。

「特務機関ベガの連中はあまりにも用意周到だった。何日も前からお前たちがコルアルの泉に行くことを知っていて、先回りして潜伏していたんだ」

「まさか……」ノエルがつぶやく。

「ああ、内通者がいる」

「内通者!?」

 思わず私の声がうわずる。

「でも、僕たちが泉に行くことを知っていたのは、チドリさんと僕を除いてク……、クラウディオ、それから団長くらいだ」

「いや、他にもいる」

「え?」

「食堂の連中だ」

「そういえば……私、聖女として召喚されたことをリリアに話してる。そのあとでノエルくんが来て……、話を聞いてたのはリリアと……」

 それから――、はっと口を押さえた。

「まさか……マリア?」

「これから騎士団としてどう動く?」

 ノエルがクラウディオに視線を送る。

「分隊長に報告して指示を仰ぐ。この件は俺たちだけで判断できる裁量を超えている」

 ノエルがうなずく。

「チドリ、内通者が分かるまでは誰も信用するな。食堂の連中以外の可能性もある」

 そして、二人は騎士団本部へ向かうため宿舎を出た。

 入れ替わるようにリリアが部屋に戻ってきて、彼女はいつもと変わらない様子でショッピングの戦利品を披露し、楽しそうに夕飯を作りはじめた。

 油断するなと言われたけれど、彼女が内通者だなんて到底思えない。チーフも、厨房のみんなも良くしてくれる。

 じゃあ……、やっぱりマリアが?


 頭の中の靄が晴れないまま翌日を迎えた。

 今朝はクラウディオとリリアと三人で出勤した私は、仕事中ずっとマリアの動向を意識してしまっていた。

「なに? さっきからジロジロ見て、なんか文句あるの?」

 嫌悪感を隠しもせずにマリアは鼻で笑った。

「い、いえ……なんでもないです」

「気持ち悪いわね」

 小さく舌打ちをして、彼女は吐き捨てるように言う。

 ……はい、ごもっともです。きしょくてすみません……生きててすみません。
 
 元来陰の者である私は口撃を連続で受けると、どうしても卑屈になってしまうのだ。

 きっと考え過ぎだよね。内通者がいるとしたら外部の人間なのよ。私は同僚を信じたい。たとえ仲が悪かったとしても、嫌われていたとしても。犯人探しはクラウディオたちに任そう。

 それから何事もなく仕事を終えた私は、クラウディオとリリアと三人で外食してから宿舎に戻った。

 一緒に食事を取るのが初めてのクラウディオに対して、リリアはぶりっ子を炸裂させていたけれど、クラウディオはいつもの塩対応だった。

 どれだけ塩対応されてもめげないというか、まったく気にしないリリアはさすがだなぁ、なんて思いながら部屋に戻ってきて、明日の準備をしてベッドに入る。

 早くこの騒動が解決するといいな……。

 その夜、私は微かな物音で目を覚ました。

 月明かりを背に受けて、私のベッドの横に立っていたのは――、リリアだった。


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