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20 彼女とベッド・イン
「え? えっと……、ここで暮らせって、どういうことですか?」
まさかプロポーズではあるまいと分かっていながらも、変に意識してしまい、思考が妙な方向に転がる。
「今回、アルゼリオンの騎士たちがお前を守ったことで、敵側はお前を完全に“聖女”として認識した。リリアと一緒に住むのは危険だ。お前にとっても、リリアにとってもな」
「それは……、そうかもしれません。だけど……」
クラウディオがいるから大丈夫――。喉まで出かかった言葉を、私は飲み込んだ。そのセリフはあまりにも自分勝手だから。
「騎士団長には話を通してある」
「で、でも……」
「それに伴って、クラウディオ=ラファガルド。お前の任務は現時点をもって終了だ」
「え!?」
思わずクラウディオを見る。
彼は一瞬だけ目を細めたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「……一ついいか、あんたと団長はどういう関係なんだ? あの身のこなし、それに一国の騎士団長に直接意見できるあんたは、ただの厨房のシェフとは思えない」
クラウディオの視線が、じっとチーフを射抜く。空気がぴんと張り詰める。まるで腹の探り合いをしているようだ。
「なぁに、ちょっとした知り合いってだけだ」
チーフは肩をすくめ、あっさりと言ってのける。
「……」
クラウディオは何も言わず、その顔を数秒見つめた。
「信用できないか?」
「いや……、そういうことなら了解した」
短くそう言って、クラウディオは椅子から立ち上がった。
「どこに行くの?」
「決まっているだろ、役目が終わったんだ。家に帰るだけだ」
「そ、そう……」
いつもの態度。いつもの口調。
けれどなぜか、彼が怒っているように思えた。
そんなはずないのに。だって、やっと偽聖女の護衛という厄介事から解放されたのだ。怒る理由なんて一つもない。
「クラウディオ!」
玄関へ向かう彼の背中を、私は思わず呼び止めていた。
足を止めた彼が振り返る。
「なんだ?」
「今まで、その……ありがとう……」
わずかに相槌を打つように顎を引き、彼は何も言わず家を出ていってしまった。
ドアの閉まる音が、やけに大きく響き、胸がちくりと痛む。
肩を落とした私はチーフに視線を戻した。
「チーフ、カティアちゃんには――」
「カティアも了承している」
「それもそうなんですけど、その……、私がいることでカティアちゃんが危険な目に遭ってしまうことだってあるんじゃないですか? チーフだって……」
「問題ない。それにカティアはそこらの騎士が問題にならないくらい強い、あの子は天才だからな」
どこか自慢げに、嬉しそうにチーフは笑う。
意外と親バカなんだな、と思っているところに、エプロンで手を拭きながらカティアがやって来た。
「もう、やめてよパパ。恥ずかしいから」
「ちょうどよかった。カティア、チドリを部屋に案内してやってくれ」
「はいはい。チドリさん、こっちです」
私はカティアの後について階段を上がった。
二階には扉が三つあり、その真ん中の扉を開けると、落ち着いた雰囲気の部屋が現れた。
「この部屋を使って」
窓際には一人掛けのソファ。壁際には小さな机と椅子。整えられたベッド。必要なものが過不足なく揃っている、清潔で居心地の良さそうな部屋だった。
「わぁ、素敵な部屋だね」
「どうぞ」
部屋に足を踏み入れ、彼女の横を通り過ぎた、その瞬間だった。
足元がふっと軽くなって床から離れた。視界が逆さまにひっくり返り、ぐるんと回転する。
次の瞬間には、ぼふんと背中からベッドに落ちていた。
「へ?」
何が起こったのか分からず、呆然と天井を見上げる。
気づけば私のお腹の上にカティアが馬乗りになっていた。
「へ……?」
一体なにが、起こっているの?
彼女は私の胸ぐらを掴み、ぐっと自分の方へ引き寄せる。
目を細め、じっと私を見つめた。
「パパがあなたを全力で守れっていうから、守ってあげる」
「え、えっと……」
「けれど、パパに色目を使ったら許さないから」
そう告げると、すっと私の上から降りた。
何事もなかったかのように扉へ向かい、そのまま部屋を出ていってしまう。
ぱたん、と静かに扉が閉まった。
混乱した頭の中でも、はっきりと分かったことがある。
彼女が、あの一瞬で大人の私を軽々と投げ飛ばしたこと。
私は、あまり歓迎されていないということ。
そして――どうやらチーフの娘さんは、重度のファザコンだということ。
もちろん色目なんて使うつもりはない。
……けれど。
果たして私は、この家でうまくやっていけるのでしょうか。
まさかプロポーズではあるまいと分かっていながらも、変に意識してしまい、思考が妙な方向に転がる。
「今回、アルゼリオンの騎士たちがお前を守ったことで、敵側はお前を完全に“聖女”として認識した。リリアと一緒に住むのは危険だ。お前にとっても、リリアにとってもな」
「それは……、そうかもしれません。だけど……」
クラウディオがいるから大丈夫――。喉まで出かかった言葉を、私は飲み込んだ。そのセリフはあまりにも自分勝手だから。
「騎士団長には話を通してある」
「で、でも……」
「それに伴って、クラウディオ=ラファガルド。お前の任務は現時点をもって終了だ」
「え!?」
思わずクラウディオを見る。
彼は一瞬だけ目を細めたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「……一ついいか、あんたと団長はどういう関係なんだ? あの身のこなし、それに一国の騎士団長に直接意見できるあんたは、ただの厨房のシェフとは思えない」
クラウディオの視線が、じっとチーフを射抜く。空気がぴんと張り詰める。まるで腹の探り合いをしているようだ。
「なぁに、ちょっとした知り合いってだけだ」
チーフは肩をすくめ、あっさりと言ってのける。
「……」
クラウディオは何も言わず、その顔を数秒見つめた。
「信用できないか?」
「いや……、そういうことなら了解した」
短くそう言って、クラウディオは椅子から立ち上がった。
「どこに行くの?」
「決まっているだろ、役目が終わったんだ。家に帰るだけだ」
「そ、そう……」
いつもの態度。いつもの口調。
けれどなぜか、彼が怒っているように思えた。
そんなはずないのに。だって、やっと偽聖女の護衛という厄介事から解放されたのだ。怒る理由なんて一つもない。
「クラウディオ!」
玄関へ向かう彼の背中を、私は思わず呼び止めていた。
足を止めた彼が振り返る。
「なんだ?」
「今まで、その……ありがとう……」
わずかに相槌を打つように顎を引き、彼は何も言わず家を出ていってしまった。
ドアの閉まる音が、やけに大きく響き、胸がちくりと痛む。
肩を落とした私はチーフに視線を戻した。
「チーフ、カティアちゃんには――」
「カティアも了承している」
「それもそうなんですけど、その……、私がいることでカティアちゃんが危険な目に遭ってしまうことだってあるんじゃないですか? チーフだって……」
「問題ない。それにカティアはそこらの騎士が問題にならないくらい強い、あの子は天才だからな」
どこか自慢げに、嬉しそうにチーフは笑う。
意外と親バカなんだな、と思っているところに、エプロンで手を拭きながらカティアがやって来た。
「もう、やめてよパパ。恥ずかしいから」
「ちょうどよかった。カティア、チドリを部屋に案内してやってくれ」
「はいはい。チドリさん、こっちです」
私はカティアの後について階段を上がった。
二階には扉が三つあり、その真ん中の扉を開けると、落ち着いた雰囲気の部屋が現れた。
「この部屋を使って」
窓際には一人掛けのソファ。壁際には小さな机と椅子。整えられたベッド。必要なものが過不足なく揃っている、清潔で居心地の良さそうな部屋だった。
「わぁ、素敵な部屋だね」
「どうぞ」
部屋に足を踏み入れ、彼女の横を通り過ぎた、その瞬間だった。
足元がふっと軽くなって床から離れた。視界が逆さまにひっくり返り、ぐるんと回転する。
次の瞬間には、ぼふんと背中からベッドに落ちていた。
「へ?」
何が起こったのか分からず、呆然と天井を見上げる。
気づけば私のお腹の上にカティアが馬乗りになっていた。
「へ……?」
一体なにが、起こっているの?
彼女は私の胸ぐらを掴み、ぐっと自分の方へ引き寄せる。
目を細め、じっと私を見つめた。
「パパがあなたを全力で守れっていうから、守ってあげる」
「え、えっと……」
「けれど、パパに色目を使ったら許さないから」
そう告げると、すっと私の上から降りた。
何事もなかったかのように扉へ向かい、そのまま部屋を出ていってしまう。
ぱたん、と静かに扉が閉まった。
混乱した頭の中でも、はっきりと分かったことがある。
彼女が、あの一瞬で大人の私を軽々と投げ飛ばしたこと。
私は、あまり歓迎されていないということ。
そして――どうやらチーフの娘さんは、重度のファザコンだということ。
もちろん色目なんて使うつもりはない。
……けれど。
果たして私は、この家でうまくやっていけるのでしょうか。
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