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第二章【招集】
34 異世界でやられてみたかったこと、その②
「なんでッスか! なんでもするって言ったじゃないスか!」
身を乗り出たフェルは、きらきらと目を輝かせて抗議してくる。水色の髪がさらりと揺れる。
「だからって限度があるし、それよりなんで解剖なの?」
「だって異世界人の体がどういう構造しているか気になるじゃないッスか!」
「えー、同じだってきっと」
「だからやってみないと分からないじゃないスか! 血の色がミドリだったり」
「赤いけど」
「心臓がなくて核だったり」
「右心房左心房、右心室左心室から構成されているけど」
「脳みそがピンク色だったり」
「ピンク色に見えないこともないけど。……もうそれは置いておいて、リリアのときはありがとう。本当に助かりました」
話題を強引に戻すと、フェルは肩をすくめた。
「ま、あれも仕事ッスからね。それじゃあ自分はもう行くッス。あまり遅いとタイチョーにチョー怒られるッス。それじゃあ定時までゆっくりしていくッスよ」
軽い足取りで彼女は部屋を出ていった。扉が閉まると静けさが戻る。
定時までゆっくりって言われてもねぇ……――。
私は重厚な肘掛けに腕を乗せて、背もたれに背中を預けるとふかりと体が沈んだ。
……。
…………。
…………――ん?
「はっ!?」
目を開けると視界がぼやけていた。
どうやら、がっつり寝てしまっていたらしい。
椅子があまりにも座り心地がよくて、そのまま意識が飛んでいたようだ。地下なので窓もなく、時間の感覚が曖昧だ。
どれくらい寝ていたのだろう。一時間? 二時間? お腹の減り具合からして、たぶん午後六時くらいのはず。
慌てて執務室へ向かう。廊下には誰の姿もなく足音だけがやけに響く。執務室の扉を押し開けるとものの見事に、もぬけの殻だった。
エドガーからは、終業前に騎士たちを執務室に集めて終礼を行うと説明されていたのだけど……。
まさか、みんなもう帰ったの? それともまだどこかで訓練しているのかしら……。
しばらくその場をうろうろしながら待ってみたが、誰も来る気配はない。クリスタルの灯りだけが静かに揺れている。
もう、帰っていいのかな?
別に問題ないよね。ちゃんと勤務時間までは基地にいたし、不正をしているわけじゃない。堂々と帰ればいいのよ。
そうそう、司令官が率先して定時退社してホワイトな職場であることを示さなければいけない。
よし、帰ろう!
「おい」
「ひゃい!」
背後から低い声が落ちてきて変な返事が出た。振り返ると扉からクラウディオが腕を組んでこちらを見ていた。
「ク、クラウディオ……いたの? 他のみんなは?」
「お前がぐーすか寝ている間に引き上げたぞ」
ぐーすか……。見られていた。寝顔見られるのってめっちゃ恥ずかしいんですけど……。
「起こしてくれればよかったのに」
「そんなことよりだ」
空気が変わる。
クラウディオがゆっくりと歩み寄ってくる。石床にブーツの音が響く。逃げ場がない距離まで詰められ、思わず後ずさる。
「どうしてお前が司令官なんだ。しかも伯爵だと?」
やっぱり、スルーしてくれないよね……。
喉がひくりと鳴る。
「それは……なんでかしら?」
「ふざけるなよ」
さらに距離が縮まる。
わわわっ!? 顔が近いッ!
逃げるように後退る私を彼が追う。背中にひやりとした感触が触れた。壁だ。次の瞬間、ドンと大きな音が鳴る。
壁に手をつかれ、完全に追い込まれた。
身を乗り出たフェルは、きらきらと目を輝かせて抗議してくる。水色の髪がさらりと揺れる。
「だからって限度があるし、それよりなんで解剖なの?」
「だって異世界人の体がどういう構造しているか気になるじゃないッスか!」
「えー、同じだってきっと」
「だからやってみないと分からないじゃないスか! 血の色がミドリだったり」
「赤いけど」
「心臓がなくて核だったり」
「右心房左心房、右心室左心室から構成されているけど」
「脳みそがピンク色だったり」
「ピンク色に見えないこともないけど。……もうそれは置いておいて、リリアのときはありがとう。本当に助かりました」
話題を強引に戻すと、フェルは肩をすくめた。
「ま、あれも仕事ッスからね。それじゃあ自分はもう行くッス。あまり遅いとタイチョーにチョー怒られるッス。それじゃあ定時までゆっくりしていくッスよ」
軽い足取りで彼女は部屋を出ていった。扉が閉まると静けさが戻る。
定時までゆっくりって言われてもねぇ……――。
私は重厚な肘掛けに腕を乗せて、背もたれに背中を預けるとふかりと体が沈んだ。
……。
…………。
…………――ん?
「はっ!?」
目を開けると視界がぼやけていた。
どうやら、がっつり寝てしまっていたらしい。
椅子があまりにも座り心地がよくて、そのまま意識が飛んでいたようだ。地下なので窓もなく、時間の感覚が曖昧だ。
どれくらい寝ていたのだろう。一時間? 二時間? お腹の減り具合からして、たぶん午後六時くらいのはず。
慌てて執務室へ向かう。廊下には誰の姿もなく足音だけがやけに響く。執務室の扉を押し開けるとものの見事に、もぬけの殻だった。
エドガーからは、終業前に騎士たちを執務室に集めて終礼を行うと説明されていたのだけど……。
まさか、みんなもう帰ったの? それともまだどこかで訓練しているのかしら……。
しばらくその場をうろうろしながら待ってみたが、誰も来る気配はない。クリスタルの灯りだけが静かに揺れている。
もう、帰っていいのかな?
別に問題ないよね。ちゃんと勤務時間までは基地にいたし、不正をしているわけじゃない。堂々と帰ればいいのよ。
そうそう、司令官が率先して定時退社してホワイトな職場であることを示さなければいけない。
よし、帰ろう!
「おい」
「ひゃい!」
背後から低い声が落ちてきて変な返事が出た。振り返ると扉からクラウディオが腕を組んでこちらを見ていた。
「ク、クラウディオ……いたの? 他のみんなは?」
「お前がぐーすか寝ている間に引き上げたぞ」
ぐーすか……。見られていた。寝顔見られるのってめっちゃ恥ずかしいんですけど……。
「起こしてくれればよかったのに」
「そんなことよりだ」
空気が変わる。
クラウディオがゆっくりと歩み寄ってくる。石床にブーツの音が響く。逃げ場がない距離まで詰められ、思わず後ずさる。
「どうしてお前が司令官なんだ。しかも伯爵だと?」
やっぱり、スルーしてくれないよね……。
喉がひくりと鳴る。
「それは……なんでかしら?」
「ふざけるなよ」
さらに距離が縮まる。
わわわっ!? 顔が近いッ!
逃げるように後退る私を彼が追う。背中にひやりとした感触が触れた。壁だ。次の瞬間、ドンと大きな音が鳴る。
壁に手をつかれ、完全に追い込まれた。
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