42 / 66
第二章【招集】
37 恋愛アドベンチャーゲームの主人公みたいな
翌朝、大聖堂の地下基地執務室でミーティングが行われた。
窓のない空間にはクリスタル灯の白い光が淡々と降り注いでいる。
進行は隊長であるエドガーがすべてやってくれて、私はと言えば、ただ席に座っているだけ。冒頭と最後に少し挨拶を述べただけの、ザ・置き物。
彼らの態度は昨日と何ら変わらない。必要以上に敬うこともなく、かといって露骨に軽んじるわけでもない。淡々としている。
クラウディオは私が偽貴族であることを告げていないようだ。もっとも、彼らが口裏を合わせている可能性は高い。彼の言っていたとおり、神輿を担ぐのなら何も知らない小娘を頭に据えておいたほうが都合がいいのだろう。
え? 小娘って誰か?
自分でツッコミはやめるんだ。私が地味にダメージを負う。
やがて隊長の号令でミーティングは解散となり、足音とともに部屋から人が消えていく。重い扉が閉まる音が響いたあと、私は広い執務室にぽつんと取り残された。
本日の予定は、午前中が各自の担当業務、午後からは訓練とのこと。ざっくりとした内容が伝えられただけで、私に与えられた仕事はない。まあ、本来は仕事を与えるのが私の仕事なのだけど。
この後、司令官室に引きこもって定時までやり過ごすこともできる。分厚いマニュアルを読んでいるフリをしてお茶を濁すのもよし。ふかふかの椅子で昼寝するもよし、推しの妄想にふけるもよし、小説を読み漁るもよし。
やりたい放題の、なんとも素晴らしい職場環境である。
だが、もしここが恋愛アドベンチャーゲームの世界なら、主人公である私はイベントを求めて動き回るはずだ。そうしなければ物語は進まない。
冗談はさておき。昨晩からクラウディオの言葉が、頭の奥にこびりついて離れない。
〝司令官ならば相応の力を示せ〟
当然のことだと思った。仮初めの司令官であっても、やると決めたからには命を賭して戦う彼らの決意に応えなければならない。
私にできることは、まず知識を身につけることだ。
マニュアルだけでは足りない。資料室へ行って関連資料をかき集め、戦術や歴史、敵に関する情報を徹底的に頭へ叩き込む。
それが、今の私にできる最初の一歩。
――そして現在。
私は紙とペンを手に基地内を歩いている。
ひんやりとした石床に足音がこだまする。壁には一定間隔でクリスタル灯が設置され、淡い光が長い通路を照らしている。
何をしているのかと言えば、マッピングだ。
昨日一通り案内してもらったものの、この地下基地は想像以上に入り組んでいる。一度で覚えられる構造ではない。案内図のようなものはなく、壁と扉が延々と続くだけで目印になるものも少ない。
こんな場所で迷子になったら大変だ。だから自分で簡易地図を作っている。簡単な印をつけながら少しずつ把握していく。
私が行ったことがある部屋は、司令官室、執務室、食堂、浴室、資料室、そしてさらに地下に広がる市街地想定訓練場。他にもいくつの部屋があるっぽい。
ちなみに、司令官用のトイレと寝室は司令官室の隣にあった。
通路を進み、角を曲がったところで、ひとつの扉が半開きになっているのが目に入った。昨日は入らなかった部屋だ。
そっと中を覗く。
中央の大きな作業台には、ビーカーや試験管が無造作に置かれている。透明な液体や淡く色づいた薬品がゆらりと揺れ、薬の匂いが漂っていた。
左右の壁には天井まで届く棚が設置され、標本瓶や機材が整然と並んでいる。実験室、そんな言葉がぴったりの空間だ。
そして、棚と棚の隙間に腕を突っ込み、何やら探っている人物がいた。ミステリアスな解剖大好きっ娘、フェルさんだ。
【1、話しかける】
【2、通り過ぎる】
【3、大声を出して驚かす】
昨日驚かされた仕返しをしたいところだけれど、ここは当然1番よね。
「えっと……フェルさん、何をしているんですか?」
棚の奥に突っ込んでいた腕を引き抜き、彼女が振り返る。
「ああ、チドリ司令」
相変わらず可愛らしい顔をしていること、どこか危うい光を宿した瞳も魅力的だ。
「この奥に入っちゃったんスけど、取れなくて。あ、そうだ。チドリ司令の腕なら細いから届くかも。ちょっと手伝ってくれないッスか?」
彼女の腕と私の腕にそこまで差はない気もするけど、細いと言われて悪い気はしない。
「もちろん、いいですよ」
フェルさんの隣に移動した私は棚と棚の隙間に手を差し入れた。
「それで、この奥に何があるんですか?」
「え? ヤモリッスけど」
「ヤ、ヤモリ!?」
次の瞬間、ぬるりとした感触が指先をかすめた気がした。
「いやぁっ!」
反射的に手を引っ込め、勢い余って体が後ろへ傾く。視界がぐらりと揺れた。
倒れる! そう思った瞬間、私の身体に腕が回る。
フェルさんが私を抱き留める格好になっていた。
窓のない空間にはクリスタル灯の白い光が淡々と降り注いでいる。
進行は隊長であるエドガーがすべてやってくれて、私はと言えば、ただ席に座っているだけ。冒頭と最後に少し挨拶を述べただけの、ザ・置き物。
彼らの態度は昨日と何ら変わらない。必要以上に敬うこともなく、かといって露骨に軽んじるわけでもない。淡々としている。
クラウディオは私が偽貴族であることを告げていないようだ。もっとも、彼らが口裏を合わせている可能性は高い。彼の言っていたとおり、神輿を担ぐのなら何も知らない小娘を頭に据えておいたほうが都合がいいのだろう。
え? 小娘って誰か?
自分でツッコミはやめるんだ。私が地味にダメージを負う。
やがて隊長の号令でミーティングは解散となり、足音とともに部屋から人が消えていく。重い扉が閉まる音が響いたあと、私は広い執務室にぽつんと取り残された。
本日の予定は、午前中が各自の担当業務、午後からは訓練とのこと。ざっくりとした内容が伝えられただけで、私に与えられた仕事はない。まあ、本来は仕事を与えるのが私の仕事なのだけど。
この後、司令官室に引きこもって定時までやり過ごすこともできる。分厚いマニュアルを読んでいるフリをしてお茶を濁すのもよし。ふかふかの椅子で昼寝するもよし、推しの妄想にふけるもよし、小説を読み漁るもよし。
やりたい放題の、なんとも素晴らしい職場環境である。
だが、もしここが恋愛アドベンチャーゲームの世界なら、主人公である私はイベントを求めて動き回るはずだ。そうしなければ物語は進まない。
冗談はさておき。昨晩からクラウディオの言葉が、頭の奥にこびりついて離れない。
〝司令官ならば相応の力を示せ〟
当然のことだと思った。仮初めの司令官であっても、やると決めたからには命を賭して戦う彼らの決意に応えなければならない。
私にできることは、まず知識を身につけることだ。
マニュアルだけでは足りない。資料室へ行って関連資料をかき集め、戦術や歴史、敵に関する情報を徹底的に頭へ叩き込む。
それが、今の私にできる最初の一歩。
――そして現在。
私は紙とペンを手に基地内を歩いている。
ひんやりとした石床に足音がこだまする。壁には一定間隔でクリスタル灯が設置され、淡い光が長い通路を照らしている。
何をしているのかと言えば、マッピングだ。
昨日一通り案内してもらったものの、この地下基地は想像以上に入り組んでいる。一度で覚えられる構造ではない。案内図のようなものはなく、壁と扉が延々と続くだけで目印になるものも少ない。
こんな場所で迷子になったら大変だ。だから自分で簡易地図を作っている。簡単な印をつけながら少しずつ把握していく。
私が行ったことがある部屋は、司令官室、執務室、食堂、浴室、資料室、そしてさらに地下に広がる市街地想定訓練場。他にもいくつの部屋があるっぽい。
ちなみに、司令官用のトイレと寝室は司令官室の隣にあった。
通路を進み、角を曲がったところで、ひとつの扉が半開きになっているのが目に入った。昨日は入らなかった部屋だ。
そっと中を覗く。
中央の大きな作業台には、ビーカーや試験管が無造作に置かれている。透明な液体や淡く色づいた薬品がゆらりと揺れ、薬の匂いが漂っていた。
左右の壁には天井まで届く棚が設置され、標本瓶や機材が整然と並んでいる。実験室、そんな言葉がぴったりの空間だ。
そして、棚と棚の隙間に腕を突っ込み、何やら探っている人物がいた。ミステリアスな解剖大好きっ娘、フェルさんだ。
【1、話しかける】
【2、通り過ぎる】
【3、大声を出して驚かす】
昨日驚かされた仕返しをしたいところだけれど、ここは当然1番よね。
「えっと……フェルさん、何をしているんですか?」
棚の奥に突っ込んでいた腕を引き抜き、彼女が振り返る。
「ああ、チドリ司令」
相変わらず可愛らしい顔をしていること、どこか危うい光を宿した瞳も魅力的だ。
「この奥に入っちゃったんスけど、取れなくて。あ、そうだ。チドリ司令の腕なら細いから届くかも。ちょっと手伝ってくれないッスか?」
彼女の腕と私の腕にそこまで差はない気もするけど、細いと言われて悪い気はしない。
「もちろん、いいですよ」
フェルさんの隣に移動した私は棚と棚の隙間に手を差し入れた。
「それで、この奥に何があるんですか?」
「え? ヤモリッスけど」
「ヤ、ヤモリ!?」
次の瞬間、ぬるりとした感触が指先をかすめた気がした。
「いやぁっ!」
反射的に手を引っ込め、勢い余って体が後ろへ傾く。視界がぐらりと揺れた。
倒れる! そう思った瞬間、私の身体に腕が回る。
フェルさんが私を抱き留める格好になっていた。
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
ローストビーフにむせただけで氷の公爵に溺愛されました。〜攻略本に載っていない社畜令嬢ですが、最強の二人に独占されて平穏な隠居生活が崩壊した件
成瀬一
恋愛
攻略本に名前すらないモブ令嬢が、なぜか王国最強の男二人に溺愛されています。
理由は「ローストビーフで咽せたから」です。
乙女ゲームの世界に転生したルカの信条は「目立たず、関わらず、美味しいものを食べて生き延びる」。完璧な計画のはずだった。
でも婚約破棄イベントで咽せた瞬間、氷の公爵と腹黒騎士団長という超重要キャラ二人が動き出して——気づけばどちらにも「逃がさない」と言われている。
「私、ゲームに存在しないモブなんですけど!?」
社畜OL転生×乙女ゲームモブ令嬢×無自覚溺愛の、笑えて泣けるラブコメディ。
聖女じゃなかったので、カフェで働きます
風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。
聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎
望みはカフェでのスローライフだけ。
乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります!
全30話予定
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
水錵 咲
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?
紅子
恋愛
新作のゲームの為に創った魔法陣に魅入られた神様の眷族のせいで、死んじゃった私。別の世界で残りの生を消化しないと、永遠を流離うって、酷くありませんか?剣と魔法の世界で生き残るなんて出来る気がしません。私、一見、平和そのものなあの世界の住人ですよ?原因を作った眷族をつけてくれる?それなら、なんとか・・・・?はぁ、永遠を流離うくらいなら、眷族と一緒になんとか生き残れるように頑張ります!
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界につき、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。