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7 裸の皇帝
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―――誰もいない深夜の公園。
ベンチに座る僕は薄汚れた雲の合間から覗く月を見上げていた。生温い空気、半端な湿度、排気ガスの匂い。どれもこれもうんざりだ。
なによりうんざりしているのは半端な自分に対してだろう。結局、一番半端だったのはほかの誰でもない僕なんだ。
『……先輩なんか大嫌いです、か……』
ジャリ、と砂を踏みつけた何者かが僕の前で立ち止まった。誰が立ち止ったのか確認するのもめんどくさい。このまま月を眺めていた方が有意義に違いない。
『おい、ガキ……。お前だよ、ベンチで余裕ぶっこているお前だ』
一貫してシカトを続ける僕に男は苛立ちを露わにしながら『うちのお袋に手を出したってのはお前か?』と尋ねてきた。
彼の問いにどう答えるべきか考えてはみたけれど、上手い返しが何も思いつかずに、
『……ごめん、いま失恋中でさ……、そういう気分になれないんだよね』
夜空に浮かぶ月を仰いだまま答えた。それがさらに怒りの勘所に触れたらしい。
『ふざけんなこのガキが!』
彼が掴みかかろうとして瞬間、僕は姿を消した。あくまで彼の視点からではあるが、僕は公園から一瞬で消失した。
『なんだ!? き、消えた? ど、どこ行きやがった!』
狼狽しながら男の足音が遠のいていく。どうやら僕を探しにどこかへ行ったようだ。
その直後―――、新たな足音が近づいてくることに気付いたんだ。
しっかりとした足取りは確固たる決意が現れている。たったそれだけで僕の心を震わせた。
足音は公園のほぼ中央で立ち止まり、僕は月からその人物に視線を移した。
月光を浴びて妖艶な輝きを放つ翠瞳、美しいゴールデンロッドイエローのロングヘアをなびかせて、少女は僕から一定の距離を残して公園のほぼ中央で立ち止まっていた。
『あなたを異能取締法及び異能不正使用の容疑で拘束します』
少女は手帳サイズのデバイスを僕に向けて突き出した。
『やあ、元気そうだね』
『……?』
僅かに警戒を解いた彼女の瞳の色が変化する。しかしすぐに警戒色を強めていた。
『なにを言っているのですか?』
『いや、なんでもない』
『大人しく降伏して―――』
『ああ! あんなところに栗坊主がッ!』
僕は大声を上げて彼女の背後を指差す。
『え?』
後方を振り返る彼女。その隙に「さらばだ!」と言い残してベンチを乗り越えた僕は逃走を開始する。
『あ……、こら! 待ちなさい!』
慌てて走り出した彼女が声を上げた。
僕を追いかけてくる彼女の表情がどこか嬉しそうに視えたのは、きっと僕の気のせいだろう―――。
ベンチに座る僕は薄汚れた雲の合間から覗く月を見上げていた。生温い空気、半端な湿度、排気ガスの匂い。どれもこれもうんざりだ。
なによりうんざりしているのは半端な自分に対してだろう。結局、一番半端だったのはほかの誰でもない僕なんだ。
『……先輩なんか大嫌いです、か……』
ジャリ、と砂を踏みつけた何者かが僕の前で立ち止まった。誰が立ち止ったのか確認するのもめんどくさい。このまま月を眺めていた方が有意義に違いない。
『おい、ガキ……。お前だよ、ベンチで余裕ぶっこているお前だ』
一貫してシカトを続ける僕に男は苛立ちを露わにしながら『うちのお袋に手を出したってのはお前か?』と尋ねてきた。
彼の問いにどう答えるべきか考えてはみたけれど、上手い返しが何も思いつかずに、
『……ごめん、いま失恋中でさ……、そういう気分になれないんだよね』
夜空に浮かぶ月を仰いだまま答えた。それがさらに怒りの勘所に触れたらしい。
『ふざけんなこのガキが!』
彼が掴みかかろうとして瞬間、僕は姿を消した。あくまで彼の視点からではあるが、僕は公園から一瞬で消失した。
『なんだ!? き、消えた? ど、どこ行きやがった!』
狼狽しながら男の足音が遠のいていく。どうやら僕を探しにどこかへ行ったようだ。
その直後―――、新たな足音が近づいてくることに気付いたんだ。
しっかりとした足取りは確固たる決意が現れている。たったそれだけで僕の心を震わせた。
足音は公園のほぼ中央で立ち止まり、僕は月からその人物に視線を移した。
月光を浴びて妖艶な輝きを放つ翠瞳、美しいゴールデンロッドイエローのロングヘアをなびかせて、少女は僕から一定の距離を残して公園のほぼ中央で立ち止まっていた。
『あなたを異能取締法及び異能不正使用の容疑で拘束します』
少女は手帳サイズのデバイスを僕に向けて突き出した。
『やあ、元気そうだね』
『……?』
僅かに警戒を解いた彼女の瞳の色が変化する。しかしすぐに警戒色を強めていた。
『なにを言っているのですか?』
『いや、なんでもない』
『大人しく降伏して―――』
『ああ! あんなところに栗坊主がッ!』
僕は大声を上げて彼女の背後を指差す。
『え?』
後方を振り返る彼女。その隙に「さらばだ!」と言い残してベンチを乗り越えた僕は逃走を開始する。
『あ……、こら! 待ちなさい!』
慌てて走り出した彼女が声を上げた。
僕を追いかけてくる彼女の表情がどこか嬉しそうに視えたのは、きっと僕の気のせいだろう―――。
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