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第三部【前編】
14 異能管理官
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西都銀行の周囲50メートルを目安に規制線が張られていた。規制線の内側ではパトカーや警察官が建物を取り囲み、外側ではマスコミが巨大なレンズで決定的瞬間を狙っている。
〝立入禁止〟と書かれた黄色いテープをくぐった直人は覆面パトカーの近くに立っている背広姿の男に旭日章の映し出されたデバイスを見せた。
「お待たせしました。異能管理室です」
「ああ、やっと来たか……、現場責任者の山脇だ」
直人は山脇と名乗った壮年の刑事と握手を交わす。
「状況はどうですか?」
「うむ、今は膠着状態だ。犯人は服役中の仲間の釈放と現金二十億、それから上海までの足を要求している。まあ、我々でも解決できるんだが、上の方から君たちを使う様に頼まれているんでね」
「ああ、そうですか。そいつはどうもありがとうございます。で、さっそくなんですが十分後に作戦を開始しますので、パトカーや警察官、それからマスコミを一時この場から離れるように指示してください」
「分かった……。くれぐれも後のことは任せてくれよ」
そう言って背広の刑事は立ち去っていった。
「直人さん、あれってどういう意味ですか?」
照が直人に問うと、
「あー、逮捕は俺たちがやるからお前らは手を出すなってことだよ」
直人はあざける様に笑った。
「つまり美味しい所だけ寄こせと?」
「ご名答、色々とクソみてーなメンツがあるんだろ? さて、ヤッコさんはあの中か?」
銀行の南面はすべてガラス張りになっているが、ブラインドが閉まっているため中の様子は窺えない。さらに唯一視界を遮る物がない正面入り口の自動ドアもこの角度からでは内部を確認することは難しい。
正面に移動することは簡単だが、パトカーや警察官が掃けるまでは犯人を刺激しないように努めた方が無難だろう―――。
そう判断した直人がリサに指示を出す。
「リサ、中の状況はどうだ?」
指示を受けたリサはブラインドに覆われたガラス壁を右から左に視線を移動させていく。
「自動ドアから入って五メートルほど先のカウンターのすぐ裏に二人、おそらくターゲットと人質ね。それからカウンターの奥に五人、ATM近くに四人いるようね……、こっちも人質になっている行員と一般人だと思うわ」
確認のためか、今度は視線を左から右に移動させた。
「……透視能力?」
「そんな便利なモノじゃないわよ。どちらかと言えばソナーに近いのかしら?」
照の独り言に気付いたリサがその推理に訂正を加える。
「え? でも遮蔽物がありますよ」
「私が飛ばしているのはベータ線とかガンマ線とか中性子線だからね」
「……直人さんが言っていた〝超デンジャー〟の意味が解りました……」
頭に核兵器マークを浮かばせた照は顔を青くする。
「なにか言ったかしら?」
「いえ、なにも……」
腕を組んで考え込むようにグルグルと回していた直人の首がピタリと斜め四十五度で止まった。
「なるほどなるほど。よう、ルーキー、お前の《マリオネット・ホリック》で目標を操作できるか?」
「最低でも建物の中に入らないと無理ですね」
「射程範囲外か……、しゃーねー、じゃあ姫やっぱ頼むわ」
「わかりました」
「ところでルーキー、お前、サッカーやったことあるか?」
「サッカー? ええ、学校の授業程度で……」
「上等だ、これから俺たちは目標の姿が確認できる入口正面まで移動する。そこで壁を作るぞ」
「壁?」
「フリーキックのとき壁作っているだろ? あれをみんなでやるんだよ」
警察車両の後退に紛れ、直人を先頭に六人は銀行の正面入り口に移動した。
容疑者を刺激しないように入り口から十五メートルほど距離を取った位置で照たちは横一列に並び壁を作り、そして犯人の視界から隠れるように壁の後方三メートルの位置に咲が立つ。
「我々は交渉人だ。君の要求を全て呑む。直ちに人質を解放しろ」
拡声器を口に当てた直人が自動ドアの閉まる店内に向かって呼びかけると、カウンターの裏から男が立ち上がり姿をのぞかせた。右手に持つ銃を女性行員の頭部に突き付けている。疑心暗鬼でこちらの様子を窺っているようだ。
「どうだ、姫、いけるか?」
拡声器を口から離した直人は後方にいる咲に声を掛ける。
「くっつき過ぎです。直人、あと五センチ右によってください」
咲の指示通り直人は身体を右に少し寄せる。リーダーを顎で使う彼女の態度は姫というよりも女王様だ。
「……OKです」
「よし、ぶっ放せ」
「了解」
トンファーを握り締めて半身に構えた咲は素振りでもするかの様に何もない空間をトンファーで横殴る。その直後、二十メートル以上離れたカウンターの中にいる立てこもり犯が木製バットで殴られたように真横に吹っ飛でいった。
その後、警察が突入し、あっさり立てこもり事件は解決したのだった。
〝立入禁止〟と書かれた黄色いテープをくぐった直人は覆面パトカーの近くに立っている背広姿の男に旭日章の映し出されたデバイスを見せた。
「お待たせしました。異能管理室です」
「ああ、やっと来たか……、現場責任者の山脇だ」
直人は山脇と名乗った壮年の刑事と握手を交わす。
「状況はどうですか?」
「うむ、今は膠着状態だ。犯人は服役中の仲間の釈放と現金二十億、それから上海までの足を要求している。まあ、我々でも解決できるんだが、上の方から君たちを使う様に頼まれているんでね」
「ああ、そうですか。そいつはどうもありがとうございます。で、さっそくなんですが十分後に作戦を開始しますので、パトカーや警察官、それからマスコミを一時この場から離れるように指示してください」
「分かった……。くれぐれも後のことは任せてくれよ」
そう言って背広の刑事は立ち去っていった。
「直人さん、あれってどういう意味ですか?」
照が直人に問うと、
「あー、逮捕は俺たちがやるからお前らは手を出すなってことだよ」
直人はあざける様に笑った。
「つまり美味しい所だけ寄こせと?」
「ご名答、色々とクソみてーなメンツがあるんだろ? さて、ヤッコさんはあの中か?」
銀行の南面はすべてガラス張りになっているが、ブラインドが閉まっているため中の様子は窺えない。さらに唯一視界を遮る物がない正面入り口の自動ドアもこの角度からでは内部を確認することは難しい。
正面に移動することは簡単だが、パトカーや警察官が掃けるまでは犯人を刺激しないように努めた方が無難だろう―――。
そう判断した直人がリサに指示を出す。
「リサ、中の状況はどうだ?」
指示を受けたリサはブラインドに覆われたガラス壁を右から左に視線を移動させていく。
「自動ドアから入って五メートルほど先のカウンターのすぐ裏に二人、おそらくターゲットと人質ね。それからカウンターの奥に五人、ATM近くに四人いるようね……、こっちも人質になっている行員と一般人だと思うわ」
確認のためか、今度は視線を左から右に移動させた。
「……透視能力?」
「そんな便利なモノじゃないわよ。どちらかと言えばソナーに近いのかしら?」
照の独り言に気付いたリサがその推理に訂正を加える。
「え? でも遮蔽物がありますよ」
「私が飛ばしているのはベータ線とかガンマ線とか中性子線だからね」
「……直人さんが言っていた〝超デンジャー〟の意味が解りました……」
頭に核兵器マークを浮かばせた照は顔を青くする。
「なにか言ったかしら?」
「いえ、なにも……」
腕を組んで考え込むようにグルグルと回していた直人の首がピタリと斜め四十五度で止まった。
「なるほどなるほど。よう、ルーキー、お前の《マリオネット・ホリック》で目標を操作できるか?」
「最低でも建物の中に入らないと無理ですね」
「射程範囲外か……、しゃーねー、じゃあ姫やっぱ頼むわ」
「わかりました」
「ところでルーキー、お前、サッカーやったことあるか?」
「サッカー? ええ、学校の授業程度で……」
「上等だ、これから俺たちは目標の姿が確認できる入口正面まで移動する。そこで壁を作るぞ」
「壁?」
「フリーキックのとき壁作っているだろ? あれをみんなでやるんだよ」
警察車両の後退に紛れ、直人を先頭に六人は銀行の正面入り口に移動した。
容疑者を刺激しないように入り口から十五メートルほど距離を取った位置で照たちは横一列に並び壁を作り、そして犯人の視界から隠れるように壁の後方三メートルの位置に咲が立つ。
「我々は交渉人だ。君の要求を全て呑む。直ちに人質を解放しろ」
拡声器を口に当てた直人が自動ドアの閉まる店内に向かって呼びかけると、カウンターの裏から男が立ち上がり姿をのぞかせた。右手に持つ銃を女性行員の頭部に突き付けている。疑心暗鬼でこちらの様子を窺っているようだ。
「どうだ、姫、いけるか?」
拡声器を口から離した直人は後方にいる咲に声を掛ける。
「くっつき過ぎです。直人、あと五センチ右によってください」
咲の指示通り直人は身体を右に少し寄せる。リーダーを顎で使う彼女の態度は姫というよりも女王様だ。
「……OKです」
「よし、ぶっ放せ」
「了解」
トンファーを握り締めて半身に構えた咲は素振りでもするかの様に何もない空間をトンファーで横殴る。その直後、二十メートル以上離れたカウンターの中にいる立てこもり犯が木製バットで殴られたように真横に吹っ飛でいった。
その後、警察が突入し、あっさり立てこもり事件は解決したのだった。
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