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第三部【後編】

26 対異能戦3

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「顔を隠して上手く隠れていたつもりだろうが、一番安全な位置にいるからすぐにお前だって分かったぞ。それにしても想定していたよりも行動が早くて焦ったよ。やるじゃないか、八重山照……。しかし、姫も一緒にくると思ったんだが、さすがにそこまでバカじゃなかったか……、さあ、遊びは終わりにしよう。マスクを外すんだ……、お前にはまだもらわなきゃいけないモノがあるからな」

 さらに強く、後頭部に銃口が押し付けられた。
 震える両手で黒いフードと防毒マスクを外す―――、

「こ、殺さないでくれ……」

 防毒マスクを外したのは照ではなかった。頭髪を金髪に染め上げた少年だ。後頭部に銃口を押し付けられる少年の声は恐怖で震えている。

「―――なッ!?」 
 
 静かに、マークの後方に倒れていた兵士の一人が立ち上がり、混乱する彼の後頭部に銃口を押し付けた。

「確かに、思惑通りに踊っていましたよ、室長は……」

 防毒マスクを介したくぐもった声にマークの表情が凍り付いた。

「まさか……、囮だったというのか……」

「ええ、僕と背格好の似たそいつだけ予め異能を解いて指揮官を演じるように脅しておいたんです。こんなに上手くいくとは思いませんでしたが……。おい、ボンクラ、この男から銃を奪え」

 防毒マスクを外した照はマークに銃を突き付けられている少年に言った。
 少年は小さく頷いてから体の向きを変え、震える手でマークが握る銃を奪い取る。

「それから、あそこのテーブルの上に手帳サイズのデバイスがあるだろ……、持って来い」
 照は顎でクイとテーブルの上に置いてあるデバイスを示した。

「はい……」
 よろめきながら歩き出した少年がデバイスを手にしたことを確認した照は続けて指示を出す。

「デバイスを床に置いて、撃て」

 少年はデバイスを床に置き、慣れない手つきで照準を合わせて引き金を引いた。銃弾は一発でデバイスを貫く。液晶画面が弾け飛び散ると同時に照は《アブソリュート・エンペラー》を展開させる。
 糸が切れたようにガクリと体勢を崩した少年の意志が奪われ、再び感情を持たない兵士に変貌した。さらに意識を失っていた三名の男たちも立ち上がり、マークに向けて銃を構える。

「これで完全に勝敗は決しましたね。室長、両膝を床に付けて両手を出してください」

 黙ったままマークは言われた通りに両膝を床に付け、次いで両手を差し出した。兵士の一人が無機質な動きでマークの両手に手錠をかけるとモーターを駆動させながら手首を固く締め上げていく。

「俺を殺さないのか?」
「そうですね……、どうしようか考え中です。ここで殺すか、咲に判断を委ねるか、警察に突き出すか……」 

「早く止めを刺しておけばよかったと……、後悔するなよ」
「一応、肝に銘じておきます」

 その直後だった。四名の兵士たちに異変が起こる。
 兵士の首がボキンと鈍い音を立てながら二七〇度回転した。続いて上半身が時計回りに捻じれ始め、下半身が反時計回りに捻じれた次の瞬間、全身の骨がバキバキと砕け筋繊維が引き千切れ、鮮血を噴き出しながら四人の兵士たちの身体が同時に捻じ切れる。

 その姿はまるで固く絞られた雑巾のように、血飛沫を撒き散らせながら兵士たちは倒れていった。

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