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第四部【完結編】
30 共同作戦
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「―――続きましてスクリーンをご覧ください」
照明の光量が落とされ、部屋が暗くなると背広姿の刑事がレーザーポインターでスクリーンに映し出された画像を指し示した。
厚労省庁舎十八階にある第五作戦室には警察関係者、厚生局職員、そして咲を含む異能管理室のメンバーが集結していた。三列に並べられた長机のそれぞれの列にそれぞれの省庁が分かれて座っている。
現在、巨大なスクリーンに映し出されているのは照の顔写真、それは彼が異能管理室の職員として登録する際に撮影されたものだった。
「被疑者である八重山照の異能は当初、微細な電力しか発生させられないことからランクEに分類されていました。その後、彼を担当していた当時の管理官は彼が異能で人の身体を操作できる可能性を示唆しています。この頃から被疑者は自ら自分の異能を《マリオネット・ホリック》と呼び始めていますね。この時点において異能管理室では特にランクを変更するという議論には至らず、そのままランクEに据え置かれています」
「こりゃあ異能管理室の怠慢ですなぁ……。もっと早く対応していればこんなことにはならなかったはずだ」
説明が途切れたところで窓際の列から皮肉交じりの声が漏れ聞こえてきた。その口ぶりにはたっぷりと侮蔑が含まれている。
窓際の列に座るのは警察関係者である。前列に幹部が座り、階級や役職が下がるほど席順が後ろになるのはどの省庁でも同じようだ。嫌味節が聞こえてきたのは中堅が座る窓際中央付近である。
今さらそんなことを言い出しても仕方ないことは明白である。それにも拘わらず、言わずにはいられないのだろう。こういう輩は責任の追及と他人の不幸が大好物なのだ。
異能管理室のメンバーは腹を立てながらも心の中で嘲って聞き流した。
「その後の調査内容から彼が異能で操作できる人間は三人が限界であるというのがこれまでの見解でした。実際、彼は知人に対し『同時操作は三人が限界である』と話していたことがあるそうです。異能が有効な範囲も半径五メートル以内と比較的狭く、問題視する声が少なかったため再び監視対象になっただけでランクの改定は行われませんでした」
進行役の刑事が手元の資料をめくる。
「しかし、昨年末に発生した官邸襲撃事件により八重山照の真の異能が明らかになりました。同事件から推測して操作できる人間の数は二百前後、異能領域は最大で半径五十メートルにも及ぶことが解りました。さらに、あの事件の唯一の生き残りであるダンプカーを運転していた男が一種の洗脳状態にあったことから八重山照の異能が人体操作だけではなく、人間を洗脳して従える能力もある可能性が出てきました」
各機関の幹部には既に知らされている事実であったが、初めて事実を聞かされた職員たちからはどよめきが起こった。
「参考までに、この男の証言から八重山照は自らの異能を《絶対皇帝》と呼んでいたそうです」
「はっ、絶対皇帝だと? ふざけやがって……」
小馬鹿にするように鼻で笑ったのはやはり窓際列の警察関係者だ。
「続きまして被疑者の所在です。これについては実は二月の初旬には既に判明していたのですが、警視庁と厚生局の極一部にしか開示されていませんでした。いわゆるトップシークレットです。その理由としまして所在を掴めていても動くに動けなかったからです」
「……というと?」
思わず声を漏らしていたのは中央の列に座る厚生局の職員だった。
進行役の刑事は声が聞こえてきた方向に顔を向ける。
「彼は今現在、フランス大使館で暮らしています」
再び作戦室にどよめきが起こる。
「次の画像です。これは防犯用に街を巡回している警視庁ドローンが捉えた八重山照と思われる人物の画像です」
スクリーンの画像が切り替わり、一人の少年の姿が映し出された。少年はカーゴパンツにシャツというラフな姿で大使館内の庭園を歩いている。
かなり遠くから撮影されており拡大されているため画質は荒く、輪郭がボヤけているが咲には一目でそれが彼であると分かった。既に何度も視ていた画像ではあったが、この画像を見る度に彼女の心は締め付けられた。
「なお、フランス大使館側は外務省の問い合わせに対して、八重山照なる人物は一切知らないし関与もしていないと答えています。しかし画像を解析した結果、画像の人物と八重山照が同一であることが判明しました。被疑者が大使館内にいることは間違いありません。ご存知のとおり、大使館は日本の法律が効かない治外法権となっております。そのため、我々も手を出せずにいたのです。なぜ、被疑者がフランス大使館で匿われているのかについては大きく二つの理由が考えられます」
刑事は再び手元の資料をめくった。
「一つはフランスが八重山照の異能を利用するため彼の身柄を保証しているというもの、もう一つは既にフランス大使が洗脳されている可能性があるというものです」
「どちらにしても手を出せないって訳か……」
最前列中央に座る厚生局幹部の一人が呟いた。
「その通りです。無理を通せば国際問題になりかねませんからね……。それではお手元の資料の十ページを開いてください」
ページをめくる紙の擦れる細かい音が作戦室に響く。そこにはフランス大使館の平面図と各省庁職員の配置図が記載されていた。
「今回の作戦は警視庁と異能管理室との共同作戦となっていますが、警視庁は異能管理室のバックアップが主任務となります」
「バックアップ? それはどういうことですか?」
手を上げて質問したのは後方に座る若手の刑事だ。
「それについては後ほど現場指揮を担当する沖田警部より説明があります。それでは本作戦の概要について異能管理室の平崎室長からお願いします」
「はい」
促された咲は椅子から立ち上がり、進行役の刑事と入れ替わるようにしてスクリーンの横に立った。そして室内を見渡し凛と声を張る。
「はじめまして。厚生局異能管理室室長、平崎咲です」
照明の光量が落とされ、部屋が暗くなると背広姿の刑事がレーザーポインターでスクリーンに映し出された画像を指し示した。
厚労省庁舎十八階にある第五作戦室には警察関係者、厚生局職員、そして咲を含む異能管理室のメンバーが集結していた。三列に並べられた長机のそれぞれの列にそれぞれの省庁が分かれて座っている。
現在、巨大なスクリーンに映し出されているのは照の顔写真、それは彼が異能管理室の職員として登録する際に撮影されたものだった。
「被疑者である八重山照の異能は当初、微細な電力しか発生させられないことからランクEに分類されていました。その後、彼を担当していた当時の管理官は彼が異能で人の身体を操作できる可能性を示唆しています。この頃から被疑者は自ら自分の異能を《マリオネット・ホリック》と呼び始めていますね。この時点において異能管理室では特にランクを変更するという議論には至らず、そのままランクEに据え置かれています」
「こりゃあ異能管理室の怠慢ですなぁ……。もっと早く対応していればこんなことにはならなかったはずだ」
説明が途切れたところで窓際の列から皮肉交じりの声が漏れ聞こえてきた。その口ぶりにはたっぷりと侮蔑が含まれている。
窓際の列に座るのは警察関係者である。前列に幹部が座り、階級や役職が下がるほど席順が後ろになるのはどの省庁でも同じようだ。嫌味節が聞こえてきたのは中堅が座る窓際中央付近である。
今さらそんなことを言い出しても仕方ないことは明白である。それにも拘わらず、言わずにはいられないのだろう。こういう輩は責任の追及と他人の不幸が大好物なのだ。
異能管理室のメンバーは腹を立てながらも心の中で嘲って聞き流した。
「その後の調査内容から彼が異能で操作できる人間は三人が限界であるというのがこれまでの見解でした。実際、彼は知人に対し『同時操作は三人が限界である』と話していたことがあるそうです。異能が有効な範囲も半径五メートル以内と比較的狭く、問題視する声が少なかったため再び監視対象になっただけでランクの改定は行われませんでした」
進行役の刑事が手元の資料をめくる。
「しかし、昨年末に発生した官邸襲撃事件により八重山照の真の異能が明らかになりました。同事件から推測して操作できる人間の数は二百前後、異能領域は最大で半径五十メートルにも及ぶことが解りました。さらに、あの事件の唯一の生き残りであるダンプカーを運転していた男が一種の洗脳状態にあったことから八重山照の異能が人体操作だけではなく、人間を洗脳して従える能力もある可能性が出てきました」
各機関の幹部には既に知らされている事実であったが、初めて事実を聞かされた職員たちからはどよめきが起こった。
「参考までに、この男の証言から八重山照は自らの異能を《絶対皇帝》と呼んでいたそうです」
「はっ、絶対皇帝だと? ふざけやがって……」
小馬鹿にするように鼻で笑ったのはやはり窓際列の警察関係者だ。
「続きまして被疑者の所在です。これについては実は二月の初旬には既に判明していたのですが、警視庁と厚生局の極一部にしか開示されていませんでした。いわゆるトップシークレットです。その理由としまして所在を掴めていても動くに動けなかったからです」
「……というと?」
思わず声を漏らしていたのは中央の列に座る厚生局の職員だった。
進行役の刑事は声が聞こえてきた方向に顔を向ける。
「彼は今現在、フランス大使館で暮らしています」
再び作戦室にどよめきが起こる。
「次の画像です。これは防犯用に街を巡回している警視庁ドローンが捉えた八重山照と思われる人物の画像です」
スクリーンの画像が切り替わり、一人の少年の姿が映し出された。少年はカーゴパンツにシャツというラフな姿で大使館内の庭園を歩いている。
かなり遠くから撮影されており拡大されているため画質は荒く、輪郭がボヤけているが咲には一目でそれが彼であると分かった。既に何度も視ていた画像ではあったが、この画像を見る度に彼女の心は締め付けられた。
「なお、フランス大使館側は外務省の問い合わせに対して、八重山照なる人物は一切知らないし関与もしていないと答えています。しかし画像を解析した結果、画像の人物と八重山照が同一であることが判明しました。被疑者が大使館内にいることは間違いありません。ご存知のとおり、大使館は日本の法律が効かない治外法権となっております。そのため、我々も手を出せずにいたのです。なぜ、被疑者がフランス大使館で匿われているのかについては大きく二つの理由が考えられます」
刑事は再び手元の資料をめくった。
「一つはフランスが八重山照の異能を利用するため彼の身柄を保証しているというもの、もう一つは既にフランス大使が洗脳されている可能性があるというものです」
「どちらにしても手を出せないって訳か……」
最前列中央に座る厚生局幹部の一人が呟いた。
「その通りです。無理を通せば国際問題になりかねませんからね……。それではお手元の資料の十ページを開いてください」
ページをめくる紙の擦れる細かい音が作戦室に響く。そこにはフランス大使館の平面図と各省庁職員の配置図が記載されていた。
「今回の作戦は警視庁と異能管理室との共同作戦となっていますが、警視庁は異能管理室のバックアップが主任務となります」
「バックアップ? それはどういうことですか?」
手を上げて質問したのは後方に座る若手の刑事だ。
「それについては後ほど現場指揮を担当する沖田警部より説明があります。それでは本作戦の概要について異能管理室の平崎室長からお願いします」
「はい」
促された咲は椅子から立ち上がり、進行役の刑事と入れ替わるようにしてスクリーンの横に立った。そして室内を見渡し凛と声を張る。
「はじめまして。厚生局異能管理室室長、平崎咲です」
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