ニシジュニウム

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癖覧会

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 今日、学校に人外の交換留学生が来る。五年前には突飛過ぎるこんな事柄も、異世界と通じる門が開通した現在ではあり得る話だ。まあ、うちの学校に留学生が来るとは思わなかったけど。


「超美人のエルフとかだったらどうしよう」


 僕がわくわくしながらそう口にすると、友だち三人が首を横に振るう。


「それは無い」


「無いな」


「あり得ない」


 全員で否定しなくても良くない?


「木野、エルフってのはそもそも長命種なんだぞ? 俺たちと年齢が合わないだろ。もしも来たとしても、その姿は幼女だろうぜ」


 成程。と高山の意見に納得してしまった。確かに、たとえ見た目は僕たちと同じくらいでも、僕たちより年上のエルフが、同じように学校に通うとは思えないか。


「可能性としては、やはり獣人だろう。猫系犬系に兎に馬に牛に羊に山羊に鹿、様々あり得るよなあ」


 大野は様々な獣人を思い描いて一人でうんうんと頷いていた。


「牛さんのおっぱい」


 藤川は一人呟いて、自分の胸の前で大きな胸を中空に描いている。藤川巨乳好きだからなあ。


「いやいや、そこは猫系のしなやかな曲線美でしょ?」


 と反論する大野。大野はスレンダー系が好みなのか。


「程良く筋肉の付いた脚とか見せられたら、もう最高でしょ」


「おっぱい」


「脚!」


 くだらないやり取りしているなあ。女子たちが、男子最低って顔でこっちを見ているが、男なんて皆こんなものだろう。ちなみに僕は獣人で言うなら、もふもふの毛かな。耳とか尻尾とか、もふらせてくれないかなあ。


「高山はどう思うよ?」


 大野と藤川は、二人では意見が平行線になると感じて、静観していた高山を味方に引き込もうと考えたようだ。


「角だな」


「は?」


「あの二本の美しい角が俺は好きだ。鬼の額から伸びた鋭い角も良いし、羊のように耳の上で巻き巻きしているのも、鹿のように枝分かれしたものも良い。あの角だ! 人間には決してあり得ないあの角を、俺は愛している!」


 普段冷静な奴ほど、癖が凄いと聞くが、高山がそのタイプだったとは。角はニッチ過ぎないか?


 そんなこんなで朝の時間を潰しているうちに、ホームルームの時間となった。


「それでは、留学生を紹介します」


 担任の先生の紹介で、教室のドアから入って来たのは、目を見紛う程の美しい銀髪青眼の美少女だった。その美しさにクラスの男女問わずため息が漏れる。そして何よりその額には一本の角が生えていた。これは高山の癖にぶっ刺さるのでは? と隣の席の高山を見るも、何やら憮然としている。お気に召さなかった? なんでだ?


「高山、角好きなんじゃないのか?」


 と先生に聞こえない程度の声で尋ねると、


「一本角は違う」


 との返答がきた。どうやら角好きとしてこだわりがあるらしい。


「では、自己紹介を」


 などとやり取りをしている間に、先生に促されて、銀髪の美少女が自己紹介を始めた。


「クー・イルイルです。ユニコーンの獣人です。皆さん、よろしくお願いします」


 クラスの女子から歓声が上がる。女性としては低めのその声は、男性役をやる女性声優のようで、これは女子から王子様的人気が出そうだなあ。とにぶい僕なんかでも直感する。


「さて、イルイルさんに何か質問がある者、イルイルさんが事前に、どんな質問でも来い。って言っていたから、聞いてみろ」


 と先生が促してくれたので、皆が一斉に手を上げる。そして指されたのは大野だった。


「はい! スリーサイズを教えてください!」


 いきなりそれかよ! 大野の勇気と今後訪れるであろう学生生活の終了に、心の中で拍手喝采を送っておいた。


「スリーサイズですか? すみません、私は男なので、知らないんです」


 え? イルイルさんのこの一言で教室の時が止まる。それに対して一人で「クックックッ」と笑っている担任。これは知っていて大野を指名したな。って言うか、え? イルイルさん、男の娘なの!?


「いよっしゃあ!!」


 クラス全員が戸惑いの渦中に放り込まれたと思っていたら、隣の席で一人大喜びして立ち上がる男がいた。そう、高山である。


「高山、分かっている?」


「どストライク来たーー!!」


 どストライクなんだ。角より男の娘なんだ。まあ、趣味趣向は十人十色で千差万別、蓼食う虫も好き好きだけど、強者だな高山。


 そんな高山の反応にイルイルさんは驚きながらも笑顔を向けていたが、時より視線を何人かの女子に向けていた。ああ、そう言えばユニコーンって……。これはクラスが、いや、学校が荒れそうだなあ。と俺はため息をこぼさずにはいられなかった。

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