近頃よくある異世界紀行

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 オレの前には今、十歳に反省文を書かされているおじいちゃんと、反省と称して腕立て伏せをしている青年がいる。それを見守るオレはニート。カオスである。
 数千万という金額はとてつもないが、スロットマシンで稼いだはした金なので、元々無かったんだと考えよう。
 問題はこの数千万VCが無くなったことで、BCジュエルが買えなくなったこと、それによって椿さんを強化できなくなったことだろう。
 オレの視界の隅でせっせと腕立て伏せをしている椿さんをどうにかしないと、何故か筋肉男に目の敵にされているオレの身が危ない。背に腹は代えられないだろう。オレは一つため息をしてから椿さんに提案する。
「…椿さん、マグ拳流の強化バフ、覚えてみる気ありますか?」
 腕立て伏せがピタリと止まる。
「マグ拳流のバフだと?」
「…はい」
「そんなの覚えたいに決まっているだろうッ!!」
 物凄い勢いでオレの側まで来て応える椿さん。顔のすぐ側まで顔が迫ってきて顔圧が凄い。
「そんなものがあるなら何故今まで教えてくれなかったんだ!」
 今の状況で分かるでしょ? 教えたら付きまとわられるのが目にみえてるからだよ。だがここで教えておかないと、オレがヤバい。筋肉男だけならどうということもないが、あのバフデバフ筋肉コンボはヤバい。
 これはスライムメイズをしていた時、横のお客さんが話していたことなので信憑性に疑問符がつくが、何でもあの四人組は、ル・ガインでロコデメルを二体倒したと吹聴しているらしい。本当かどうかは知らないが、椿さんに勝ったのは事実だ。ということはロコデメルにまるで歯が立たなかったオレが、正攻法でアイツらに勝てる訳がない(向こうがすでに正攻法ではないが)。なので椿さんには是非とも強くなってもらわなければ困るのだ。
「マグ拳流のバフですか? 面白そうですね、興味あります」
 ペガサスくんが話に加わってきた。どうやら源さんは反省文を書き終えたらしい。
「おっ、一緒にやるか?」
「ええ、そうさせてもらえるなら」
 二人はやる気である。まぁ一人が二人に増えたところで問題無い。問題があるとしたら、
「…源さん、どこ行くつもりかなぁ?」
「いやぁ、頑張る二人のために、差し入れなんぞを買ってこようかと…」
「…いらないから。源さんもこっちきて」
「わ、ワシもやるのか?」
 オレは無言で頷く。観念したのか源さんは肩をシュンと下げてこっちまでやってきた。こうなりゃ、二人でも三人でも関係無い。全員まとめて強化してやる!
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