エレベーター

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エレベーター

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 マンションにエレベーターがあるのは普通だが、私が住んでいるマンションのエレベーターは少し変わっている。


 私が住んでいるマンションは、20階建てで全室電子キーが使われている。電子キーとはノンタッチキーとも言われる鍵で、それを持って近付くだけで、ロックされている玄関の錠が解錠される代物だ。


 更に私の住むマンションの凄い所は、それがエレベーターにも反映されている点である。つまり荷物で両手が塞がれている状態でエレベーターに近付いても、エレベーターが勝手に反応して、扉を開け、乗り込めば、自室がある階まで勝手に連れて行ってくれるシステムになっているのだ。いや、文明の利器もここまで来たかと言った感想である。


 しかしそれによってエレベーターにボタンが無くなったのも困りものだ。住人以外はエレベーターを操作出来ないので、家族親族や友人が遊びに来る度に、部屋からエレベーターを操作しなければならないし、出前や宅配等は一階の宅配ボックスに取りに行かねばならない。このシステムの導入、少し早まったのではないか? とたまに思う。まあそれでも、最近は宅配もドローンによる空中輸送に切り替わりつつあるので、家族や友人を迎える時にエレベーターを操作するくらいなら良いか。


 私の仕事は在宅ワークなので、19階にある自室から殆ど出る事は無い。食料品や衣服等もドローンの宅配に頼っているので、本当に自室から出ない生活をしていた。


 その日は珍しく友人たちと外で飲み会があり、帰りは深夜0時を回ろうかと言う時間だった。飲み過ぎてふらふらになりながらエレベーターに乗り込み、一瞬眠気に襲われて、ハッと目を覚ましエレベーター内の電光掲示板を見るも、まだ13階であった。


 なんだまだ13階か。とホッとするとともに、この階に住んでいる住人には悪いが、縁起が悪いな。と思ってしまった。


 ホッとするとともに酔いも醒めてきたので、じいっと電光掲示板を見詰めていると、それが動いていない事に気付く。


「動きませんね」


 そこでいきなり声を掛けられて、後ろを振り返ると、スーツ姿にビジネスバッグを提げた男が立っていた。今時会社勤めだろうか? 珍しい。


「そうですね」


 私は動揺を隠すように平静を装って男に返事をすると、エレベーターに唯一付いているボタンを押した。エレベーターの管理会社への直通通話用のボタンだ。


『どうしました?』


 返答はすぐにあり、私は内心ホッとして管理会社の人間に事の次第を説明した。


『分かりました。すぐに係員が向かいます』


 そうして10分もすればエレベーターの管理会社の人間がやって来て、私たちは一階で降ろされたのだが、どうやら私の電子キーがエレベーターに反応しなくなっていたようだ。


「この電子キーのセキュリティコードを変更したのはいつですか?」


「セキュリティコードですか?」


 確か入居日に設定してから変更なんてしていない。私は首を横に振った。


「ああ、でしたらセキュリティコードの期限が切れてしまっていますね」


「期限切れですか?」


「ええ。このマンションの電子キーは防犯対策として、半年毎に電子キーのセキュリティコードを変更するように住人全員に通達されているはずなんですけど、毎年何人かが、あなたのように電子キーのセキュリティコードの変更を忘れて、自室から締め出されるケースがあるんです。まあ、エレベーター内に閉じ込められた人は、あなたが初めてですけど。きっとエレベーター内で0時を回って、セキュリティコードが期限切れになってしまったのでしょう」


 そうだったのか。たまに外に出たと思ったらこれだ。そうでなくてもセキュリティコードの話は頭の中からすっぽり抜け落ちていたけど。


「でもそうなると、あちらの方も同時にセキュリティコードが期限切れになってしまったんですかね?」


 私が同じくエレベーター内に閉じ込められた男の方を振り向くと、男の姿はそこには無かった。え? ゾッとして冷や汗が背中を流れる。


「あの、私と一緒に、男性もいましたよね? スーツ姿の」


「ええ。どこに行ったんでしょう?」


 係員にもスーツ姿の男は見えていたようだ。まさか幽霊だった? そんな話を互いに口にする前に、このマンションの管理会社の人間がやって来た。セキュリティコードの変更の為に、係員が呼んだのだ。


「どうかしましたか? 顔が真っ青ですよ?」


 私と係員は顔を見合わせ、事情を説明する。すると管理会社の人間は得心がいった顔になった。


「ああ、それは恐らく泥棒ですね」


「泥棒ですか?」


「あなたのように酔っている人間や子供等と一緒にエレベーターに入り、バッグの中にあるセキュリティコードの解析機でセキュリティコードを解析して、後日コピーした電子キーで泥棒に入るケースがあるんです。そう言う意味では、運が良かったですね。もしもあなたの電子キーのセキュリティコードを解析されていたら……」


 全く、何と言う日だ。エレベーターに閉じ込められたかと思えば、同じエレベーター内にいたのが泥棒だなんて。


 結局その後、管理会社の人間が警察に連絡し、警察の取り調べに付き合う事になった。自室に帰れた頃には朝陽が昇っていた。

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