ねこまんま

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ねこまんま

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 俺は昔からねこまんまが好きである。味も好きだし、あの簡単にかっ込めて腹を満たせる感じが好きだ。


 ねこまんまと聞くと、関東では白飯にかつお節をまぶしたものを言い、関西では白飯にみそ汁をぶっかけたものを言うそうだ。


 では我が家のねこまんまはどちらかと言えば、どちらでもある。父が関東人で母が関西人だから、我が家では良く両方のねこまんまが出てきた。


 食べ方も千差万別だろう。関東風の方はしょう油を垂らしたり垂らさなかったり、更にマヨネーズでコクを足したり、マヨネーズだけでしょう油は使わなかったり、大人風にワサビや七味を足してみたり、と様々な食べ方があり、同様に関西風でも、みそ汁の具材もそのまま掛けたり、いやいや汁だけを掛けるのが良いのだとか、冷めたみそ汁が良いとか、すまし汁が良いとか、具材の趣味もある。


 だがこれが、上品な食べ方でない事は俺でも知っている。こんな俺でも過去に何人か彼女が出来た事があるのだが、二人目の大学入ってすぐに出来た彼女が、俺が住んでいた安アパートで料理をしてくれた時、俺は嬉しさMAXで何にも考えずに白飯にみそ汁をぶっかけて食べ、それで振られた。


 それ以来、女性の前でねこまんまを食べる事を控えてきたのだが、やはり好きな料理なので、週一で無性に食べたくなるのだ。だから隠れて食べるのだが、そんな時に限って、彼女がいきなり家にやって来たり、声が聴きたいと電話してくるものだから、その度にしどろもどろとなって、何か後ろ暗い事を隠しているのではないか? と勘繰られて別れ話に発展する始末。俺はただねこまんまが食べたいだけなのに。


 就職して五年。周囲では結婚話もちらほら聞こえてきて、友人知人の結婚式に出席する事も少なくなくなってきていたが、この頃の俺は既に結婚は諦めていて、女性と付き合う事もなくなっていた。


 そんな日々の中、会社の先輩の結婚式で、新婦の友人として出逢ったのが、今の彼女である。いや、付き合うのかよ。とツッコまれそうだが、二次会で新郎新婦の友人同士でグループが出来上がり、その面子でキャンプ場でBBQでも。との話の流れから、周りでドンドンカップルが出来ていく中、余り物の二人でくっつく事になったのだ。


 どうせ長続きしないのだ。そう思っていた俺は、初手で手料理を振る舞いたいと彼女を家に招き、白飯に大根と人参と玉ねぎのみそ汁、カレイの煮付けに関西風のしょっぱいだし巻き卵、きゅうりと長芋の酢の物をお出しし、さあ、「いただきます」の段階となった所で、俺はみそ汁を白飯にぶっかけて食べ始めたのだ。


 呆気に取られる彼女は、自身の前に置かれた和食と俺を交互に見ながら、困惑気味に俺に尋ねてきた。


「犬飯がお好きなんですか?」


「何それ?」


 聞けば彼女の出身地方では、みそ汁のぶっかけ飯を犬飯と呼んでいるそうで、彼女も幼少より良く食べていた食べ方なのだそうだ。そんな訳で俺たちはねこまんま(犬飯)の話題で大いに盛り上がり、交際は順調に進み、周囲のカップルがドンドン別れていく中、ねこまんまに抵抗の無い彼女と、この度結婚する事となったのだった。

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