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魔石

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 魔石らしきものを手に入れた。薄い緑色の宝石だ。我ながら良く見付けられたものだ。緑色のスライムに緑色の魔石って、普通見付けられそうにない。


 必ずしも魔石に固執した訳じゃないが、魔石は手に入れたかった。ラノベやマンガだと、魔石は魔法を行使する為の触媒である事が多い。これがあれば俺も魔法が使えるかも知れないのだ。


 自室でベッドに腰掛け、手の上に乗る魔石を見ながら、顔が綻んでいるのが自分でも分かる。ふふん。魔法か。テンション上がるな。やはり最初はあの魔法だろう。


「ステータスオープン!」


 シーン。何も起こらなかった。くっ、これでも駄目なのか。集中力か足りなかったのかな? それともイメージ力? 魔法陣が必要とかになると難しいな。それともステータスを見る魔法に適性がないのか。


「はあ~」


 俺は息を吐きながらベッドにうつ伏せになる。他の四属性の魔法なんかも試してみたいが、部屋の中で火の魔法を使って火事になんてなったら、目も当てられない。


 これ以上は異世界に行ってからかな。



 家族が留守中にホームセンターから一輪車やツルハシなどを買い込み、異世界に持ち込む。


 しかし、俺以外に使用者はいないし、盗む人間もいないから、ツルハシやスコップ、一輪車はそこら辺に放置なのだが、どこかに物置か何か作った方が良いんだろうか?


 そう言えば、今掘っている穴が丁度物を収納するのに良いぐらいの大きさ、深さだな。あれに戸板を付ければ十分なんじゃないか?


 そう考えた俺は、掘った横穴の周りの瓦礫を、スコップと一輪車でどかして綺麗にすると、ツルハシ、スコップ、一輪車を収納してみる。


 あ、これで良いな。戸板は……別に必要ないか。


「さて」


 俺は工具類を物置と言う名の横穴に仕舞うと、近場の岩の上に胡座をかいて座る。魔法を使う為、魔石に集中する為だ。なぜ胡座をかくのか。理由は俺にも分からない。が俺は格好から入るタイプだ。



 胡座をかいて目を閉じ精神を集中させてみる。シーンと静まり返った崖下。何もないこの空間が、俺の集中力を高めてくれている気がする。


 良し。このまま集中力を極限まで高めるぞ! と思っていると、カサカサカサと俺の足下を動き回る何かの気配が聞こえた。俺がそうっと目を開いて足下を見れば、あのデカいムカデが三匹、俺の身体をよじ登っていた。


「うわああああああッ!!」


 思わず悲鳴を上げた俺は、ムカデを振り払いながら、岩の上から転げ落ちる。頭を打って痛かったが、それどころではない。俺は急いで物置までツルハシを取りに行くと、それで三匹のムカデを刺し殺していく。


「はあ……、はあ……、はあ……」


 異世界なら集中出来るだろうと考えたが、そんな事はなかった。思えばこの崖下にはカエルもスライムもいるのだ。他の生き物もいるかも知れない。精神集中なんてしている時間はなかった。


「はあ~」


 とりあえずムカデを殺して一息吐いたところで、ムカデの死骸を漁る。死骸に興味がある訳じゃない。ムカデにも魔石があるかも知れないからだ。


 結論。あったにはあったが、滅茶苦茶小さい。まあ、結構大きいあのスライムで大豆程度の大きさの魔石なのだ。五十センチ程のムカデでは、ほとんどないに等しい。ムカデから魔石を取り出すのは現実的じゃないかも知れない。宝石なんかも、あんまり小さいのは値打ちがないって聞くしなあ。今後ムカデの魔石は放置で。



 さて、魔法の検証に戻ろう。集中は出来ないが、魔法が使えないと決まった訳じゃない。


 俺は魔石を持った右手を前に突き出すと、


「ファイアボール!」


 呪文を唱えてみる。しかし何も起こらなかった。ファイアボールは初級の初級だと思っていたが、駄目か。


「ウインドカッター!」


「ウォーターアロー!」


「ストーンショット!」


 ……四属性どれにも全く何にも引っ掛からなったな。あれかな? 転移門なんて使えるんだから俺の属性は時空系なのかな? 良し!


「時よ止まれ!」


 シーン。何も起こらない。俺は膝から崩れ落ちた。


 駄目か。まあそうだよな。転移門だけで魔法のリソースのほとんどを使い切っていると考えるべきなんだろう。転移門なんて一般人には一生掛かっても使えない大魔法なんだから。それで納得しよう。


 ……でももうちょっと頑張ってみても良いよね?


 可能性として、魔法を行使するには魔石が小さ過ぎる、と言うのがあるのかも知れない。もっと大きな魔石か、もっと多量の魔石があれば、魔法を使う事が出来るんじゃないだろうか? もしくはもっと小さな魔法であれば行使出来るのかも知れない。


 俺は息を整えると、右手で魔石を握り、熱くなれ! と念じてみる。


 するとどうだろう。右手に握られた魔石がほんのりじんわり温かくなってきたではないか!


「おお! 本当に温かくなってきた!」


 と俺は右手を開いて、魔石を見詰め、このままどんどん熱くなれ! と念じるが、パキッと言う音とともに魔石が真っ二つに割れたかと思うと、砂となってしまった。


 くっ、成程。やはり魔石が小さ過ぎたのだ。この小さな魔石一個では、じんわり温める程度の事しか出来ないんだな。


 しかしこれは大きな学びだ。この世界には魔法が存在し、魔石を触媒にすれば、俺にも魔法が行使出来る事がここに立証されたのだから。


 おお! これは俄然やる気が出てきたぞ!

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