世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
61 / 643

砦の情報

しおりを挟む
 ポンコ砦はロッコ市から西、朝早くから登れば、昼には着く場所にある。そこはガイトー山脈の稜線でも一番低い場所で、昔から山脈の西と東を隔てる山々の、抜け道のような場所であった。ポンコ砦はその抜け道を塞ぐように建てられているのだ。


「幽霊?」


 金曜の夕方、黒犬の寝床亭のバヨネッタさんの部屋で、ボロボロのアルーヴたちが説明してくれた事に、俺は思わず聞き返していた。いや、まずアルーヴたちが何故ボロボロなのかから説明させて貰おう。


 冒険者たちにこちらの情報を漏らした制裁として、ポンコ砦に行って、件の魔犬の情報収集をしてくるように命令されたアルーヴたちが、現地で必死に駆けずり回って手に入れてきたのが、この情報だった。


「いや、実体があるんで幽霊って言うのともちょっと違うんですけど」


 そう返したのは今回の原因を作った、酒場で俺たちの情報を漏らした張本人、黄緑の髪をした双短剣使いのムムドである。俺と初めてあった時に、言い返してきたのが彼だ。しかしなんとも煮えきらない答えだ。


「確かに実体があって噛みつかれれば痛いし、体温も感じるんですけど、殺すと死体も残らず霧状になって消えるんです」


「何よそれ?」


 魔犬の要領を得ない生態に、バヨネッタさんの眉間にしわが寄る。まあ確かに、今までこの異世界で出会ってきたどの生物とも違った生態である。


「つまり、相手の魔犬は千匹以上いる上に、殺しても死体と言う情報も残さず霧になって消える。って事ですか?」


 首肯するムムドたちアルーヴ。千匹以上と言う大袈裟な情報も、ムムドたちからもたらされたものだ。


 十一人の冒険者たちは、自分たちだけでは対処しきれない、と領主様からの報奨金を頼みに、ロッコ市の冒険者ギルドに依頼を出した。


 そこで新たに二十人を雇った冒険者集団は、ポンコ砦を攻略しに掛かったのだが、その千匹以上の魔犬の群れによって、またしても返り討ちにあい、再三逃げ帰ってくる事になったようだ。現在雇った二十人への報酬の支払いで四苦八苦しているらしい。


「他に情報はないの?」


 ムムドを睨むようにバヨネッタさんが尋ねる。


「へい。奴らは電撃を飛ばしてきます」


 その情報にバヨネッタさんが顔をしかめる。俺もしているかも知れない。それだけ嫌な情報だった。電撃を飛ばしてくる。と言う事は、ムムドのように短剣に電撃をまとわせて攻撃してくるのとは違うのだろう。遠距離攻撃はそれだけで脅威だ。


「もうそれ以上情報はないわね?」


 尋ねるバヨネッタさんに、アルーヴたちは頷き返す。それに対して「分かったわ」と言うと、バヨネッタさんは五人に一本ずつポーションを渡して帰らせた。



「なんか得体の知れない相手ですね」


「そうね」


 実体があるくせに倒すと霧のように消え、電撃を飛ばしてくる千匹以上の魔犬か。中々に骨が折れそうだ。いや、骨が折れるだけで済めば良い方か。


 明日の魔犬退治を考え、ナーバスになっているところに、部屋の扉がノックされた。アンリさんが誰何すると、扉の向こうにいるのは、初日に会った警備隊の隊長さんだと言う。


「何の御用かしら?」


 警備隊隊長の横には、この黒犬の寝床亭の主人が並び立っていた。


「明日、魔犬退治に出るとお伺いしてやってきました」


 このタイミングを狙って、って事は何か情報を持ってきてくれたのだろうか?


「ミデンを、……ポンコ砦の番犬を、助けては貰えないだろうか?」


 違った。良く分からないお願いだった。


「隊長さんは、ポンコ砦の番犬とはどういった関係なのかしら?」


 バヨネッタさんの質問に頷き返す隊長さん。


「俺は十年近く前まで、あの砦で働いていました」


 へえ。そうなのか。


 何でもポンコ砦と言うのは、ガイトー山脈を越えて西にある大国、オルドランド帝国に対抗する為に築かれた砦で、今から十年近く前にオルドランドとカッツェルとの間に、和平が結ばれるまで長年現役で活躍していた砦なんだとか。


 その砦にいつの頃からか一匹の魔犬が住み着いたそうだ。いつあるか分からないオルドランドのからの侵攻に備え、疲弊していたポンコ砦の兵士たちにとって、その魔犬はいつからか心の癒やしになっていった。


 魔犬のわりに大人しいその犬は、ミデンと言う名を付けられ、兵士たちからはポンコ砦の番犬の二つ名で呼ばれるようになっていく。


 十年近く前にオルドランドとカッツェルとの間に和平協定が締結された事で、ポンコ砦はその役目を終え、一人、また一人と兵士たちが砦を後にしていく中、一匹取り残されるミデン。


 徐々に寂しくなっていくポンコ砦で、それでも残り続けていたミデンを可哀想に思った有志が何人かいた。警備隊の隊長やこの宿の主人などである。


 彼らはポンコ砦まで赴くと、魔犬を説得し連れ帰ろうとしたが、全員説得に失敗。魔犬はその後も一匹でポンコ砦に残り、そこを通る旅人や商人などを見守り続けて今に至るのだと言う。


「魔犬と言っても優しいやつなんだよ」


 と俺たちに訴える隊長と宿の主人。


「そう言われても、実際そこを通る旅人や車に被害が出ているし、その被害によって西ルートは封鎖されているのでしょう?」


 バヨネッタさんの言に苦々しげに首肯する隊長と宿の主人。


「分かっている。でも千匹もいるんだろう? そのうちの一匹だけでも、見逃して貰えないだろうか?」


「無理ね」


 バヨネッタさん一刀両断だな。


「私たちではその一匹の魔犬を見分けられないもの。第一、生死の懸かった戦場で、そんな甘い感情が持ち込めない事くらい、隊長さんだって分かっているでしょう?」


 隊長さんと宿の主人は、バヨネッタさんの言葉にがっくりと肩を落とし、これ以上の問答は無用と悟ったのか、部屋を後にしていった。


「バヨネッタさん」


「ハルアキ。まさか情にほだされて、その魔犬を助けたい。なんて言うんじゃないでしょうね?」


 確かにその魔犬に侘しさは感じるが、流石に俺も千匹の中から一匹を見付け出すのは無理だと思う。


「いえ、元々ポンコ砦の番犬と呼ばれる魔犬は、そのミデン? と言う魔犬一匹だったんですよね?」


「そうね」


「じゃあ、他の千匹の魔犬は、どこから来たのかな? と思いまして」


「興味ないわね」


 そうですか。


「第一それを言い始めたら、最初の一匹であるその魔犬自体どこから来たのか? と言う話になってしまうわ」


 言われてみればその通りだ。


「私たちは魔犬を退治する事だけを考えていれば良いのよ」


 確かに。明日の魔犬退治に専念しよう。


「これも、魔王の『狂乱』の影響なんですかね?」


「恐らくそうでしょうね。一年近く前からと言う話だし、千匹の魔犬なんて異常事態だもの」


 おのれ魔王。面倒臭い事態を作り出しやがって。出会うような事があれば覚えていろよ。いやまあ、出会いたくはないけど。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

処理中です...