世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
66 / 643

奴隷なんて存在しません

しおりを挟む
「ただいま~」


「ゥワン」


 学校から帰ってくると、玄関でミデンがおすわりをして待ってくれていた。


「おう、ミデンただいま」


 そう言って俺はミデンを抱き上げる。すると首輪に見慣れない札が二枚付いているのを発見した。


「母さんただいま」


「おかえり」


 リビングでソファに座りながらクッションを抱え、チョコを食べながらテレビで午後のニュースを見ている母に、あいさつがてら尋ねてみる。


「ねえ、ミデンの首輪に付いている札って何?」


「ああそれ? 鑑札って言う犬を役所に登録した時に貰える登録証明と、注射済票って言う、狂犬病の予防注射を済ませていますよって言う証明の札よ。二枚とも付けておかなきゃいけないから、勝手に外さないでね。特に鑑札は登録番号が明記されてて、どこの犬か分かるようになっているから」


 そうなのか。ならこれでミデンがもしもこっちで迷子になっても、鑑札のお陰でどこの犬かすぐに分かって、保護されたら連絡がくるって訳だな。まあ、ミデンが迷子になるとかあり得ないけど。


 と、こんな事を考えている場合じゃなかった。バヨネッタさんに報告する事があったんだった。


 俺はミデンを連れて自室に戻ると、直ぐ様つなぎに着替えて転移門を開いた。と、そこで「ただいま~」とカナが帰宅したようだ。


「ミーちゃんただいま~」


 とミデンに声を掛けているのが聞こえてくる。ん? ミデンここにいるよな? ミデンを見ると「ワンッ」と一声吠えた。成程分身か。確かに、俺たちが異世界に行っている間に、うちの家族がミデンの姿が見当たらない事を心配するかも知れないからな。やはりミデンは賢い犬だ。


 などと思いながら、俺とミデンは転移門を潜って異世界へと向かったのだった。



 黒犬の寝床亭の俺とオルさんの部屋に、オルさんの姿は見られなかった。バヨネッタさんとアンリさんの部屋かな? と思って俺が隣りの部屋へ向かうと、部屋からズラズラと冒険者たちが肩を落として出てくる。ポンコ砦の番犬の一件に取り組んでいた、十一人の冒険者たちだ。


 彼らは俺に気付きもしないで、まるでお通夜のように暗い顔をして、黒犬の寝床亭を後にしたのだった。


「あら、ハルアキくん、戻っていたのですね」


 それを見送る俺に、部屋の中からアンリさんが声を掛けてくる。


「あ、はい。ただいま戻りました。あの、あの人たちどうかしたんですか? 絶望が全身から漏れ出ていましたけど?」


「借金を申し込んできたのよ」


 それに答えてくれたのは、部屋の奥の椅子に座るバヨネッタさんだ。その膝の上には二匹のミデンが乗っていた。そういや、昨日、家に帰る前に分身してたっけ。


 三匹のミデンは互いを確認すると一ヶ所に集まり、また一匹のミデンに戻り、とてとてと俺の元にやって来る。俺はミデンを抱き上げると、それをバヨネッタさんにパスした。


「借金、ですか?」


「ほら、彼らポンコ砦の攻略に、大量に冒険者ギルドで冒険者を雇っていただろう。その賃金の支払いを、攻略の報奨金で払おうと思っていたのに、バヨネッタ様とハルアキくんが先に攻略してしまったから、払うアテがなくなってしまったんだよ」


 とバヨネッタさんの横に座っていたオルさんが答えてくれた。


「それで借金をしに頭下げてきたんですか?」


 余程切羽詰まっていたのだろうな。俺だったらそんな厚かましい事出来ない。


「あいつら領主にも借金の申し出をしたらしいけど、断られてこっちにきたのよ」


 う~ん。形振なりふり構ってられないか。


「払えないとどうなるんですか?」


「当然犯罪者として牢屋行きよ。その後労役で払えなかった借金を払っていく事になるでしょうね」


「犯罪奴隷的な扱いですか?」


 俺がこの言葉を口にすると、バヨネッタさんだけでなく、オルさんもアンリさんまで厳しい顔つきになった。


「そんな旧時代の言葉、どこで覚えてきたの?」


「旧時代、ですか?」


 バヨネッタさんの話し方から察するに、奴隷と言うものはいないらしい。それどころか、その発想が忌むべき事なのだと分かる。ラノベやマンガとは違うようだ。そう言えば、使用人や召使い、お手伝いさんのような人は見掛けても、今まで奴隷を見掛けた事は一度もなかった。


「奴隷制と言うものは、人間から尊厳を奪い、人間を物扱い、ただの労働力として扱い、人間を使い潰す、そんな制度よね?」


 そう言われると酷い制度だ。


「現在、この世界では魔法が広く普及してきているわ。そのお陰で貴族であれ大商人であれ、奴隷を持たず、使用人を雇うと言う形で家を維持出来るようになった。今後はもっと魔法が普及して、使用人も必要なくなり、庶民でも個人で何でも出来るようになると言われているの。奴隷制の時代は終わったのよ」


 成程、この世界でも奴隷制は旧時代の負の文化として語られているのか。まあ確かに、地球でも奴隷制は古い制度で、奴隷がするような労働は、ほとんど機械化、ロボット化が進み、今後は様々な場面でロボットの手助けを受ける時代になるんだろうと言われているしな。


「すみません。変な事を口にしました」


「私たちの前だったから良かったものの、人権派を名乗る活動家の前で言っていたら、どうなっていたか分からないわよ?」


 そんな活動している人もいるのか。不用意な事は口に出来ないな。


「さて、あと五日は街から動けない訳だし、今日は今後のルートの説明でもしようかしら」


「あ、その前に一つ質問良いですか?」


「何かしら?」


 俺は首を傾げるバヨネッタさんに、手を上げて質問する。緊張でゴクリと喉が鳴る。


「この世界の魔王の事なんですけど」


「うん?」


「魔王の名前って、伺っても良いですか?」


「名前、教えていなかったかしら?」


「はい」


「魔王の名は、ノブナガよ」


 はあ~~~。やっぱりか。俺は脱力して手で顔を覆い、その場に膝を付いてしまった。


「どうかしたの?」


 俺が人目も憚らず落胆しているからだろう、あまり物事に動じないバヨネッタさんさえ、心配そうに声を掛けてくれた。


「その、ノブナガって魔王、もしかしたら俺の世界からの転生者かも知れません」


「は?」


「え?」


「!?」


 三人とも、俺の発言の意味が分からずフリーズしていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...