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玉虫色の幕引き
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「蟄居、ですか?」
カージッド領とベフメ領による領間戦争が寸前で回避されて翌日。バヨネッタさんは事後処理の会議などにも駆り出されていたらしく、ベフメ伯爵の処分を教えてくれた。
今回、裏工作でもあちこち移動していたし、よっぽど疲れてのだろう。ミデンを膝に乗せて、思いっきり撫で回している。
「軍を動かして他領に攻め込んだのはまずかったけど、誰か死んだって言う訳じゃないからね」
まあ、それはそうだけど。何か納得いかない。
「それとも残酷なハルアキは、斬首刑でもお望みだったのかしら?」
バヨネッタさんの言葉に、いえいえ、と俺は首を横に振るう。
「そこまでは思わないですけど、蟄居って、要は家督を子供に譲って、自分は与えられた別邸で楽隠居ってやつでしょう?」
俺がそこまで言って、バヨネッタさんは、ああ、と何かに納得したような顔をした。
「蟄居は楽隠居とは違うわ。あれは別邸の敷地内から出れば更なる罪に問われる、幽閉に近い刑罰なのよ」
そうなのか。じゃあベフメ伯爵は一生その別邸から出られないって感じなのかな。まあ、引き籠もりって感じの人じゃなかったし、辛いと言われれば辛い刑罰なのかも知れない。
「まだ納得しきれてないって顔ね?」
とバヨネッタさん。俺はどうしてこうも顔に出易いのだろうか。
「いやあ、流石に事も大きくなったし、爵位剥奪の後、お家取り潰しなんて事になるんだろうなあ。とぼんやり考えていました」
バヨネッタさんが半眼でこちらを見てくる。
「ふ~ん。まあ、良い線行ってたわね。確かにお家取り潰しの上、ベフメ領を解体していくつかに分け、周囲の領に割譲する。と言う意見も出たわ。主にカージッド子爵からね。実際、カージッド子爵は少し領地を増やす事になったし」
それはそうだろう。今回の件、子爵が一番の被害者だろうからな。いや、一番はサーミア嬢かな?
「でも、領地全部がカージッド子爵の物になるって話でもないんですね?」
「領地経営はそんなに簡単な事じゃないのよ。いきなり領地が倍になっても、土地ごとに収穫される作物も、家畜も特産品も違う。その忙しさは乗算なのよ。健全な領地経営を続けていくのは難しいわ」
成程、土地が増えて儲けも倍で、やったあ! とはならないのか。でもベフメ伯爵はこの土地狙ってたよね?
「ここは関所があるくらいで、特産品などはないからね。経営するのも楽だろうと踏んでいたんだろうね」
とオルさんが補足してくれた。
「結局、カージッド子爵領が併呑するでもなく、蟄居してサーミア嬢が伯爵を継ぐ決め手は何だったんですか?」
とは言え、サーミア嬢よりカージッド子爵の方が領地経営において一日の長があるはずだ。慣れない人間に領地経営を任せた理由ってなんだ?
「ベフメの砂糖よ」
「砂糖、ですか?」
そう言われても、首を傾げるしかない。
「ベフメの砂糖が有名なのは知っているわね?」
俺はバヨネッタさんの質問に首肯する。
「詰まるところ、このベフメの砂糖が有名に成り過ぎているのが問題なのよ」
どう言う事?
「実際には、砂糖はベフメ領以外でもオルドランド各地で作られているの。でも周辺国や各国を回る遍歴商人が求めるのはベフメの砂糖ばかり。それだけベフメの名が轟いている為に、簡単にお家取り潰しや他領による併呑をさせる訳にはいかないのよ」
成程、ベフメの砂糖ってのは、世界的大ブランドなんだ。だからベフメ家を取り潰してベフメの名がなくなると、オルドランド的には、外貨獲得において問題が生じる訳だな。本来ならベフメ家は取り潰しだっんだろうけど、砂糖に救われた感じだな。
「つまりこれで、サーミア嬢襲撃事件なんてなかった。って事にしたい訳ですよね?」
「そうね。と言うかこれからはサーミア嬢ではなくベフメ伯爵だけどね?」
「そうなんですか? じゃあベフメ女伯爵ですね」
と俺が言うと、皆に首を傾げられた。
「何故そうなるの? その理屈だとベフメ男伯爵とか、カージッド男子爵とかになるんだけど?」
とバヨネッタさん言われ、俺は得心がいった。
「いやあ、伯爵とか子爵って、俺の世界だとほぼ男がなるものってイメージがあったので、普通の貴族と呼び名を分ける為に、女伯爵と呼称してしまいました」
「ふ~ん、成程ね。変な世界ね、ハルアキの世界は。女の爵位持ちや女の王なんて、こっちの世界じゃざらにいるわよ」
「いや、俺の世界でだって昔の話ですよ。今の世の中では、社会的地位のある女性は沢山いますから」
俺の説明に、そんなの当然でしょう、と言わんばかりの皆の視線が痛い。
「ああそうだ! なかった事になるんなら、あのチンピラたちは釈放ですかね?」
俺はいたたまれなくなって話題を変える。
「ああ、あの。あいつらは死罪でしょうね」
え!?
「ぷっ、あっはっはっはっ、嘘よ、冗談」
「え? あ、嘘? もう、驚かせないでくださいよ!」
「あのチンピラたちは多分助かるわ」
「それでも多分なんですね?」
「カージッド子爵の話では、ベフメ伯爵を狙った刺客の中には、余罪のごろごろある奴もいて、そいつらは死罪確定みたいだけど、最初にベフメ伯爵を襲ったあいつらは、本当に街のチンピラだからね。人殺しの余罪なんてないだろうから、釈放されるでしょうね」
俺はそれを聞いてホッとしていた。これでチンピラたちが死罪にされていたら、寝覚めが悪くなっていたところだ。まあ、あの黒ローブの男や、他の刺客には合掌って事で、忘れてしまうのが、精神衛生上良いのだろう。
カージッド領とベフメ領による領間戦争が寸前で回避されて翌日。バヨネッタさんは事後処理の会議などにも駆り出されていたらしく、ベフメ伯爵の処分を教えてくれた。
今回、裏工作でもあちこち移動していたし、よっぽど疲れてのだろう。ミデンを膝に乗せて、思いっきり撫で回している。
「軍を動かして他領に攻め込んだのはまずかったけど、誰か死んだって言う訳じゃないからね」
まあ、それはそうだけど。何か納得いかない。
「それとも残酷なハルアキは、斬首刑でもお望みだったのかしら?」
バヨネッタさんの言葉に、いえいえ、と俺は首を横に振るう。
「そこまでは思わないですけど、蟄居って、要は家督を子供に譲って、自分は与えられた別邸で楽隠居ってやつでしょう?」
俺がそこまで言って、バヨネッタさんは、ああ、と何かに納得したような顔をした。
「蟄居は楽隠居とは違うわ。あれは別邸の敷地内から出れば更なる罪に問われる、幽閉に近い刑罰なのよ」
そうなのか。じゃあベフメ伯爵は一生その別邸から出られないって感じなのかな。まあ、引き籠もりって感じの人じゃなかったし、辛いと言われれば辛い刑罰なのかも知れない。
「まだ納得しきれてないって顔ね?」
とバヨネッタさん。俺はどうしてこうも顔に出易いのだろうか。
「いやあ、流石に事も大きくなったし、爵位剥奪の後、お家取り潰しなんて事になるんだろうなあ。とぼんやり考えていました」
バヨネッタさんが半眼でこちらを見てくる。
「ふ~ん。まあ、良い線行ってたわね。確かにお家取り潰しの上、ベフメ領を解体していくつかに分け、周囲の領に割譲する。と言う意見も出たわ。主にカージッド子爵からね。実際、カージッド子爵は少し領地を増やす事になったし」
それはそうだろう。今回の件、子爵が一番の被害者だろうからな。いや、一番はサーミア嬢かな?
「でも、領地全部がカージッド子爵の物になるって話でもないんですね?」
「領地経営はそんなに簡単な事じゃないのよ。いきなり領地が倍になっても、土地ごとに収穫される作物も、家畜も特産品も違う。その忙しさは乗算なのよ。健全な領地経営を続けていくのは難しいわ」
成程、土地が増えて儲けも倍で、やったあ! とはならないのか。でもベフメ伯爵はこの土地狙ってたよね?
「ここは関所があるくらいで、特産品などはないからね。経営するのも楽だろうと踏んでいたんだろうね」
とオルさんが補足してくれた。
「結局、カージッド子爵領が併呑するでもなく、蟄居してサーミア嬢が伯爵を継ぐ決め手は何だったんですか?」
とは言え、サーミア嬢よりカージッド子爵の方が領地経営において一日の長があるはずだ。慣れない人間に領地経営を任せた理由ってなんだ?
「ベフメの砂糖よ」
「砂糖、ですか?」
そう言われても、首を傾げるしかない。
「ベフメの砂糖が有名なのは知っているわね?」
俺はバヨネッタさんの質問に首肯する。
「詰まるところ、このベフメの砂糖が有名に成り過ぎているのが問題なのよ」
どう言う事?
「実際には、砂糖はベフメ領以外でもオルドランド各地で作られているの。でも周辺国や各国を回る遍歴商人が求めるのはベフメの砂糖ばかり。それだけベフメの名が轟いている為に、簡単にお家取り潰しや他領による併呑をさせる訳にはいかないのよ」
成程、ベフメの砂糖ってのは、世界的大ブランドなんだ。だからベフメ家を取り潰してベフメの名がなくなると、オルドランド的には、外貨獲得において問題が生じる訳だな。本来ならベフメ家は取り潰しだっんだろうけど、砂糖に救われた感じだな。
「つまりこれで、サーミア嬢襲撃事件なんてなかった。って事にしたい訳ですよね?」
「そうね。と言うかこれからはサーミア嬢ではなくベフメ伯爵だけどね?」
「そうなんですか? じゃあベフメ女伯爵ですね」
と俺が言うと、皆に首を傾げられた。
「何故そうなるの? その理屈だとベフメ男伯爵とか、カージッド男子爵とかになるんだけど?」
とバヨネッタさん言われ、俺は得心がいった。
「いやあ、伯爵とか子爵って、俺の世界だとほぼ男がなるものってイメージがあったので、普通の貴族と呼び名を分ける為に、女伯爵と呼称してしまいました」
「ふ~ん、成程ね。変な世界ね、ハルアキの世界は。女の爵位持ちや女の王なんて、こっちの世界じゃざらにいるわよ」
「いや、俺の世界でだって昔の話ですよ。今の世の中では、社会的地位のある女性は沢山いますから」
俺の説明に、そんなの当然でしょう、と言わんばかりの皆の視線が痛い。
「ああそうだ! なかった事になるんなら、あのチンピラたちは釈放ですかね?」
俺はいたたまれなくなって話題を変える。
「ああ、あの。あいつらは死罪でしょうね」
え!?
「ぷっ、あっはっはっはっ、嘘よ、冗談」
「え? あ、嘘? もう、驚かせないでくださいよ!」
「あのチンピラたちは多分助かるわ」
「それでも多分なんですね?」
「カージッド子爵の話では、ベフメ伯爵を狙った刺客の中には、余罪のごろごろある奴もいて、そいつらは死罪確定みたいだけど、最初にベフメ伯爵を襲ったあいつらは、本当に街のチンピラだからね。人殺しの余罪なんてないだろうから、釈放されるでしょうね」
俺はそれを聞いてホッとしていた。これでチンピラたちが死罪にされていたら、寝覚めが悪くなっていたところだ。まあ、あの黒ローブの男や、他の刺客には合掌って事で、忘れてしまうのが、精神衛生上良いのだろう。
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