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休暇と継続

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 十二月もそろそろ終わろうとしている。地球ではクリスマスが過ぎた。証券取引所の大納会も近く、暮れ正月があるので、クドウ商会でも冬休みを取りたいところなのだが、異世界の年末年始は花が咲き始める春先である為、こちらの都合で長期休暇を取るのは憚られる。と思っていたら、


「え? そちらでは長期休暇を取るのが普通なのでしょう? なら取れば良いじゃない」


 バヨネッタさんの部屋を訪れ、バヨネッタさんやオルさんに相談すると、そんな言葉が帰ってきた。当然の権利でしょう? と言外の声が聞こえる。


「僕も常々思っていたんだよ。日本人と言うものは、いったい何時休んでいるのだろう? と。ハルアキくんは毎日こちらへ顔を出すし、クドウ商会の人間たちも、自衛隊員たちにしたって勤勉だ。いや、勤勉過ぎる。きっちり休みの調整は出来ているのかい?」


 逆に心配されてしまった。


「一応うちの商会にしろ、自衛隊員さんたちにしろ、週休二日で、七日に二日は休んでいるんですよ」


「そうなのかい? それにしては良く顔を合わせていた印象が強いなあ」


 商会トップである俺が、毎日異世界に馳せ参じているからだろうか? いや、宿場町の復興があったからだろう。そこで働く日本人を見て、日本人の見分けの付かないバヨネッタさんやオルさんたちは、毎日働いているなあ。と勘違いしていたのかも知れない。


「何であれ、冬は物流が滞りがちだから、あなたたちが長期で休暇を取ったところで、こちらからしたら、『そうですか』ってだけの話よ」


 と返されてしまったので、クドウ商会は年末年始も通常営業でやっていこうとしていたのだが、バヨネッタさんたちのアドバイスを受けて、急遽各自一週間の長期休暇を設ける事となった。


「いや! 七日間って! みじかっ!? 冬の間休んでいれば良いでしょう!?」


 バヨネッタさんに驚かれてしまった。異世界では普通冬の間と言うのは休んだり、読書や研究に充てるものであるらしい。ただこれはお金持ちの過ごし方で、アンリさんの話では、内職に充てるのが一般的なのだとか。じゃあその間の食品や生活用品はどうするのか? と尋ねたら、冬前に支度しておくものらしい。


 長期保存用の塩漬け肉や燻製肉、野菜の漬け物や乾物などを、本格的な冬が来る前に用意し、冬はあまり出回らないそうだ。出回るにしてもその先は、『空間庫』持ちの家で、家型『空間庫』のお陰で腐らない新鮮な食材を、町内会的な共同体で共有財産として備蓄し、足らなくなったらその家に貰いに行く。と言うのが冬の常識のようだ。


 十一月に宿場町が賊軍に狙われたのも、冬超えの保存食作りが大詰めだった事も要因だったらしい。


「じゃあ、あんまり冬は物が売れないんですね?」


「オルドランドの首都であるサリィはどうか分からないけど、普通の町や村は引き籠もるのが普通だよ」


 とオルさん。それでやっていけるのか? とも思うが、日本人の働き過ぎは昔から指摘されていた事だ。この機に、冬の間だけでも週休三日にしても良いかも知れないなあ。


「でも良かったわ」


「良かった、ですか?」


 バヨネッタさんの言葉を俺が聞き返したところで、バヨネッタさんが、言い過ぎた! とでも思ったのか、口に手を当ててそっぽを向いてしまった。


「バヨネッタ様はハルアキくんの事を、大分心配していましたからねえ。このように普通に相談に来てくれた事を、心の内では喜んでいるんですよ」


「オル!」


 バヨネッタさんに睨まれるオルさん。オルさんも言い過ぎた。とでも言いたげに口を手で塞ぐ。


 二人して手で口を塞いでいるのが、なんだか可笑しくて、俺は久しぶりに笑い声を上げて、心から笑えていた。俺の笑い声に二人が釣られて笑い始め、部屋は笑顔と笑い声に包まれていった。



「リットーさんのお陰ですね。全合一を教わるようになって、アニンがどのように俺の身体を侵食しようとしているのか認識出来てきたので、それにちゃんと対処する形を取るようになったら、心の中の漠然とした闇の悪衝動も自然と収まりつつあります」


 全合一の訓練で、身体の内側がどのように動いているのか、筋肉、内臓、血流、呼吸、脳細胞、それら一つ一つと、太極拳みたいな動きをしながらじっくり向き合っていくと、魔力の流れや、生命力の出所のようなものが見え始めてくる。


 それは下腹部、気功などで言う『丹田』と呼ばれる部分だ。身体が吸収した魔力は、この丹田へと一度落とし込まれ、俺固有の魔力へと変換され、ここから全身へと巡っていくのだ。俺はこの丹田でアニンと結び付き、互いに魔力と生命力のやり取りをしているようだった。


 下腹部の丹田からアニンの生命力は俺の中へと入り込み、渦巻きを描くように回りながら、俺の全身に根を張り巡らせるように伸びていく。その中でも恐らくアニンに支配されると危ないのが、『チャクラ』に相当する生命力、魔力の収束場所だ。


 丹田もチャクラの一つであると考えると、俺の身体の中にはチャクラの場所は全部で五つある。丹田と腹と胸と喉と頭だ。ここがアニンの支配下に置かれると、俺はアニンの傀儡になったり、狂人になってしまうようだ。


 これらチャクラは身体の中心線、背骨の延長上にあり、常にアニンの力の支配下に置かれる危険に脅かされている。逆にここを俺が押さえておけば、アニンの生得的な支配行動は抑制出来るのだ。


 リットーさんと再会したばかりの俺の体内チャクラは、その五割以上をアニンの力の支配下に置かれていたが、現在はその力の侵攻を二割まで抑え込んでいる。このままいけば、アニンの力を丹田のみに抑え込み、他のチャクラを解放する日も近いだろう。


 しかしこれが正しい選択なのかは分からない。現行、俺とアニンの生命力、魔力は丹田にて溶け合い、一つとなっているのだ。今より強くなろうと言うのなら、この溶け合った力を俺の力として迎え入れ、従わせ、扱えるようになる必要があるだろう。そう言う意味では、更なる全合一の訓練継続が必須であり、これによって俺は、俺自身とアニンの理解を深めていく事が、今後の課題であり目標だ。


「努力するのは良い事だけど、それは無理をする事ではないわ。焦って変なクセが付かないように、長期でじっくり付き合っていきなさい」


 バヨネッタさんのアドバイスに、俺は首肯した。

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