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「そもそも、そのウルフシャの伝承って本当なの?」


 バヨネッタさんは懐疑的だ。国を一つ跨いで弓でウサギを射るなんて、スキル持ちでもレベル五十オーバーでも難しい離れ業だからなあ。


「ウルフシャの弓なら、復元したものを私の地元の地方議会の管財人が保管しているよ」


 と声を上げたのはミカリー卿だ。そう言えばミカリー卿の地元はセクシーマン山のお膝元だった。


「本当に存在するんですね」


「実際にウルフシャが使用した弓かは分からないけどね。何せセクシーマン山から遠く、ビチューレさえ超えたハーンシネア山脈にいるウサギを射ったと言う伝承だからねえ。それに地元には何故ウルフシャがウサギを射ったのか、その肝心の理由が失伝していてね。まさかこれ程重要な場面で使われた弓だったとは思わなかったよ」


 ミカリー卿としては、まさかここで地元民しか知らないだろう謎の英雄の名前が出てくるとは思わなかったのだろう。感慨深そうな顔をしている。


「どんな弓なんですか?」


「カッテナくんが使っているのと同様のパデカ樫の弓だよ。特別なものではないね。ウルフシャは剛力の持ち主だったらしくてね。その剛力を十全に発揮すれば、身体が裂けて散り散りとなると言われていた程だそうで、その為にどんな剛弓も壊してしまうから、壊れても良い弓をいつも使用していて、私の地元では弓を壊す事を、ウルフシャする。と言うくらいだよ」


「普通の弓で国超えの矢を放ったの?」


 驚くバヨネッタさんに、ミカリー卿は首肯で返す。恐らくはギフトかスキルで、シンヤと同じ『怪力』を持ち、更にギフトかスキルで武田さんと同様に空間把握系のものを持っていたのだろうなあ。そう言えば、


「武田さんって、前世の勇者時代、どうやって戦っていたんですか? 当時はデウサリウス教徒だった訳だから、『空織』のみでしょう? それともカッテナさんみたいにギフト持ちだったんですか?」


「何だよ、藪から棒に。俺は未来視なんかも使ってカウンターや奇襲をするタイプだから、遠距離は苦手だぞ」


 そうか。ウルフシャみたいな事は望めないのか。


「武器って言うなら、オルガンを使っていたけどな」


「オルガンを?」


 バンジョーさんの相棒で、化神族であるオルガンを使っていたのか。


「それにしては、バンジョーさんに対する態度は素っ気なかったですね」


「あいさつはお前らが来る前に済ませてあったからな」


 そうか、俺が『有頂天』を覚えている間に、武田さんはもうモーハルドに入国していたんだもんな。昔の戦友ともあいさつ済みか。しかしバンジョーさん、勇者が使うような武器を使っているんだな。


『ハルアキもだろう』


 とアニンが一言。そうでした。


「まあ確かに、武田さんにパイルバンカーは似合いそうですね」


 武田さんに呆れた顔をされてしまった。


「あれはバンジョーだからああなっているんだ。俺の戦闘スタイルは、剣、槍、斧など、戦う相手に合わせた武器にオルガンを変化させてのカウンターや奇襲だった」


 そうか、たとえ同じ化神族でも、使い手が違えば、それに合わせて化神族の方が変化するのか。そう言えば、アニンの前の持ち主である海賊のゼイランは曲剣の使い手だったみたいだけど、俺が初めて見たアニンは直剣で、その後これまで直剣やら様々な武器に変化させて戦ってきたもんなあ。あれは俺のイメージが反映されていたのか?


『まあ、そのようなものだな』


 その返事の仕方、アニンもどう言う仕組みで自分が使い手に合わせているのか、分かっていないんじゃないの?


『そう言うハルアキは、己の身体が、どのようにして生命活動を維持しているのか完璧に理解出来ているのだな?』


 すみませんでした。ちょっと煽りました。


『全く、そんな事よりも、今はウサギをどのようにして捕らえるかだろう?』


 そうなんだけどねえ。考えてはいるんだけど、思い付かない。


『はあ』


 呆れた声は出さないで欲しい。


「見えない相手をどうにかする。って言うのが難しいですよねえ」


「そうだな。今、ヒカルを偵察に出させているが、全く接触しないからな。俺の『空織』にも反応なし。その金毛の角ウサギは、余程警戒心が強いみたいだな」


 と武田さん。パターンAは駄目か。となると、パターンBに賭けるか。



 数時間後━━。


「武田さん、一度全てのカメラを回収して貰って良いですか?」


「分かった」


 と武田さんが首肯するなり、ドサドサと『転置』によって回収されるビデオカメラが二十台。オヨボ族の人たちに許可を貰って、ハーンシネア山脈各地に定点カメラを仕掛けさせて貰ったのだ。ふっふっふっ。異世界の角ウサギよ。人間の文明は日々進歩しているのだよ。それらで撮影した映像を、ノートパソコンで観てみる事に。


「う~ん…………」


「なんか、金色? のものが画面の遠くでチラッと動いていたな」


 二十台のビデオカメラのうち、一台にだけ、チラッと一瞬何かが映った気がしたので、コマ送りにして観てみると、一フレームにだけ、雪山の雪に埋もれる形で、金色の何かが遠くからこちらを覗いている。本当に一フレームだけだったので、一瞬こちらを見て、すぐに隠れてしまったのだろう。


「武田さん、アップにしてください」


 俺の指示を受けるまでもなく、武田さんが金色の何かが映っている部分を拡大してくれた瞬間だった。


 ズザザザザザッ!!


 パソコンの画面を覗いていた俺たち全員が、パソコンから飛び退いたのだ。見てはいけないものを見てしまった気になり、俺は目を背けながら、じりじりとノートパソコンに近付くと、パタンとノートパソコンを閉じたのだった。


「ふう…………。嫌過ぎる」


 思わず本音がこぼれてしまったが、皆首肯しているので、皆の意見も同じなのだろう。


「『威圧』なんてレベルではなかったねえ。画面越しであの威圧感。ウルフシャが国を超えて弓を射た理由が理解出来たよ。あれには近付けない」


 とミカリー卿。それには賛同する。何と言うか、あの金色の物体は、根源的恐怖を呼び起こすのだ。たとえこちらの方が圧倒的強者であったとしても、あれに近付くのは不可能だろう。となるとやはり超長距離からの狙撃か。

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