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目が回る

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『加速』と『時間操作』タイプB。どちらも己を速くするスキルだが、使い手としては感覚が違う。『時間操作』タイプAだと周囲の時間の流れが遅くなる感じで、タイプBだとタイプAよりも周囲の時間の流れは遅くならないが、その分自分が加速する感じだ。タイプCだとタイプAの時間の流れの中、タイプB並の加速が出来る。


 だが『加速』は違う。何と言うか、五感はそのままで、身体速度だけが速くなったような感覚である。だからだろうか、


「うえ……」


 岩山を中腹まで登ってきたところで、『加速』付与の指輪の使い過ぎで、三半規管が揺らされて酔ってしまった。


「大丈夫かい?」


 前を行く俺がふらふらしているのを心配してか、後衛のミカリー卿が声を掛けてくれた。


「大丈夫……、と言いたいところなんですけど、ミカリー卿、酔い止めの魔法とか使えませんか?」


「酔い止め?」


 振り返って尋ねた俺に、不思議そうに首を傾げて尋ね返してくるミカリー卿。横のカッテナさんも不思議そうだ。


「何だハルアキ、ここに来るまでに一杯引っ掛けてきたのか?」


 前方を進むデムレイさんが、呆れたように振り返る。


「酒なんて飲みませんよ、未成年なんだから。……はあ、『加速』の指輪の使い過ぎで、酔ったような感覚が抜けないんです」


「ああ! 目を回しているのか!」


 とはリットーさん。これに皆は納得する。そっちなら伝わるんだ。車はほとんど普及していなくても、馬に竜、船だってあるんだから、目が回ると言うのも通じるんだろう。


「悪いね、ハルアキくん。そもそも酔い止めや酔い醒ましは薬の領分で、目を回しているのを正常に戻す魔法は持っていないかな」


 とはミカリー卿。まあ、言われてみればそうか。それにアルコールと三半規管の違いがあるから、症状は似ていても、対処する薬も違ってくるのだろう。


「工藤って三半規管弱かったのか?」


 横の武田さんが不思議そうだ。愛知で忍者軍団と戦った時に、武田さんの『転置』で瞬間移動の繰り返しをしたりしていたからな。


「何ですかね? この指輪と相性が悪いのかな?」


「確かに! 魔導具系は相性あるな!」


 リットーさんはゼストルスに乗りながら前方を警戒しつつ、そう教えてくれた。皆も同意のようで頷いている。それって、俺が無駄な買い物をしたって事? こんな事ならポイントで交換しないで、武器屋かアイテム屋にアイテム売れば良かったな。でもそうなると、機動型ゴーレムに対応出来ていないか。


 しかし、シンヤは良くこんなピーキーなスキルを使いこなせていたな。シンヤ程の速度になったら、周囲の状況なんて高速で過ぎ去って把握出来ないんじゃないか?


「来るぞ」


 皆で雑談を交わしながら、ガタガタの岩で出来た山道を登っていると、武田さんが声を上げる。これによって全員が戦闘態勢に入る。


 前方のカーブから出てきたのは、『全合一』で感知するに、やはり六体のゴーレムパーティだ。しかし先頭の大きなゴーレム二体は、そのパーツパーツの繋ぎ目が赤熱し、たまにそこから炎を噴き出していた。見るからに炎系の攻撃は効かなそうだ。


「ゼストルス!」


 それでもやってみないと分からない。とばかりに、リットーさんがゼストルスに命令を下すと、ゼストルスの口腔が赤く発光し、その口から竜炎が敵ゴーレムに向かって迸る。


 後方に控える俺たちまでが、その熱さに顔をしかめる豪炎に晒される敵ゴーレムだったが、敵ゴーレムはそんなものはものともしないと、一歩一歩悠然とこちらへ向かってくる。


「ゼストルス!」


 効果がないと分かるや、すぐに炎を吐かせるのを止めるリットーさん。そして、


 ドドドドドッ!!


 ゼストルスが炎を吐くのを止めた瞬間を狙って、ミカリー卿が地面から敵ゴーレム目掛けて先の尖った氷柱を出す。


「ふむ、これも効かないか」


 後方のミカリー卿がぽつりと口にする通り、赤熱する敵ゴーレムに当たった氷柱は、当たった側から蒸発していった。どれだけ高温なんだよ。


「とにかくやるぞ!」


 リットーさんの号令の下、俺たちは自分の仕事に取り掛かった。


「ゴッ」


 赤熱ゴーレムが、そののろのろとした仕草で拳を握り、こちらへ攻撃してくる。それを『岩鎧』で身を固めたデムレイさんが受け止めるが、赤熱ゴーレムの膂力は相当なものなのか、膝を突かされるデムレイさん。


「デムレイさん!」


 俺の心配の声に対して、デムレイさんは片手を上げて無事をアピールする。が、すぐに『空間庫』からポーションを取り出して、それを呷るデムレイさん。


「大丈夫だ。攻撃力自体はこれまでのゴーレムと同等だ。ただこいつ熱いんだよなあ。打撃と同時に炎熱系のダメージが入るから、そっちの方が厄介だな」


 言って立ち上がるデムレイさんだったが、その場から退くつもりはないらしく、『岩鎧』で岩山の地面を岩壁にして、赤熱ゴーレムがこちらに迫ってくるのを防ぐつもりらしい。


 そうは言ってもやはりただの岩。赤熱ゴーレムの拳は、その熱で岩壁を脆くし、簡単に砕いてしまう。相性が悪いか?


 もう一方の赤熱ゴーレムの相手をするリットーさんは、後方の俺たちまで赤熱ゴーレムが来ないように気を付けつつ、赤熱ゴーレムの攻撃を避けていた。リットーさんは『回旋』で自身に向けられる攻撃をいなす事が出来るが、装備は銀鎧に突撃槍だ。赤熱ゴーレムとの相性はデムレイさんよりも悪いだろう。


 ドンッ!!


 そんな二人の攻防へ目を向けている隙を縫うように、敵パーティの最後方から、巨大な岩が四つ、こちらへ降ってきた。それを俺の『聖結界』とミカリー卿の結界魔法が防ぐ。


「転移するぞ!」


 武田さんの声が響き、デムレイさんとリットーさんの二人を除く四人が、武田さんの『転置』で敵パーティの更に後方に転移する。


 そこで見たのは、円柱状の二体のゴーレムが、先程飛ばしてきた岩塊を生成している姿と、ウニかイガ栗のような姿をした二体のゴーレムだった。

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