リバーシ

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リバーシ

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 私の彼氏はリバーシが弱い。今日も盤面と渋い顔でにらめっこしている。


「ここだ!」


 と気合とともに置いた黒石は、角の一つ手前だった。


「はあ」


 私は溜息とともに角に白石を置き、これによって黒石はひっくり返った。


「ぐわああ! なんでだあ!?」


 と自分までひっくり返る。何をやっているのやら。私の彼氏はいちいちオーバーリアクションで、表情もころころ変わる。


 だからだろう。私の彼氏はトランプのババ抜きが弱い。私がジョーカーに手を掛ければ、にやりと笑い、そこから手を離せば、この世の終わりのような表情をするのだ。


 そんな感情表現豊かな彼氏なので、泣ける系の映画に弱い。いや、開始五分で泣くとかないでしょう。泣ける場面だった?


「なんか、この先この子に悲劇が起きると思うと……」


 想像で泣くのか。それが私の彼氏だ。


 そんな彼氏からすれば、私は感情表現に乏しい人間に映るらしく、カレー屋さんで10辛を普通に食べている私を、何とも不可思議なものを見る目で見ていた。


「食べる?」


 その頃付き合いたてだった事もあって、何の悪意も無く尋ねたら、プライドが刺激されたのか、彼氏はスプーンにほんのちょっとだけカレーをすくって口に運び、公共の面前でのたうち回ったのだった。


「私と居て楽しい?」


 そんな愉快な彼氏とのデートの度に、私は彼氏にそう尋ねていた。これは私の悪い癖だと思う。いくらこれまで付き合った彼氏全員に、「お前と居てもつまらない」と言われていたとしても、これを尋ねられる方も嫌だろう。が、


「いやあ、そっちこそ俺みたいな騒がしい奴と居ても、落ち着かないだろう?」


 と毎度返してくるので、互いの心情を気にしているのはお互い様のようだ。


 そんな私たちの付き合いも二年となる頃、ベタな夜景の綺麗なレストランでプロポーズされ、私が薄っすら泣きながら頷くと、彼氏は号泣しながら両手を天に突き上げて喜びを顕わにし、そんな彼氏が目立ったからだろう。私たちはレストランの従業員やお客さんから温かい拍手で祝われたのだった。


 私たちは夫婦となった。男女の双子と言う子宝にも恵まれ、大変ながらも幸せな家庭を営んでいると思う。


 そんな中でも面白い発見だったのは、子は親に似るとは言うが、こんなにも似るとは思っていなかった事だ。娘は旦那に似て感情表現が豊か。対して息子の方は私に似ていつも無表情だ。これも面白い発見ではあったが、それは良く言われている事。それより面白いのは数的関係で私たちの性格に変化が表れるようになった事だ。


 例えば、息子が何かの用事で外出していて、感情表現豊かな旦那と娘に私だけが家に居て映画でも観ていた場合、泣きじゃくる二人につられて、私まで号泣するようになり、例えば、娘が家に居らず、私と息子と旦那だけだった場合、旦那もふだんのジェットコースターのような感情表現は鳴りを潜ませ、静かに過ごすようになったのだ。これは息子娘も同様だ。


 これが二対二なら、それぞれの性格はそのままなのだが、二対一となると、まるでリバーシでひっくり返されるかのように、性格がひっくり返るのだから、家族と言うのは不思議なものだ。


 そして旦那は今日も私の顔を見るにかこつけ、こう言うのだった。


「君と居られて今日も楽しいよ」

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