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第参章
DAY9 -最初で最後の- 悪魔編 悪魔降臨
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「はー、ったく他に時空間魔法使えるやつはいねえのかよ。こんなめんどくさいことしてる暇があるならもっと楽しみてえんだがな。」
アリーは洞窟の中を歩いていた。足元は幾層にもなった氷が覆っており、一歩ずつ足音が反響していた。
以前、洞窟内を掘り進めていた名残で照明などは完備されていた。
それらが生み出す光に照らされた洞窟内は白青で包まれており、何とも幻想的であった。
「…これか。」
奥に辿り着いたアリーは自分の背丈の10倍はある大きな氷を見上げていた。
その中には口を大きく開き、鱗状の肌に覆われた悪魔デリオラが二足歩行で氷漬けにされていた。
「…立派な牙と角だねぇ。それにこの荒っぽい肌。見るからに硬えな。だが、これが終わりを告げる者なのか。もーちっとおどろおどろしいものを想像してた分可愛く見えるな。」
笑いながら全身をじっくり眺めていたアリーだったが、一通り見終わると身震いをした。
「うー、さみーなここ。とっととずらかるか。」
まだ残っている腕を大きな氷にかざしたときだった。
「待ちな嬢ちゃん。」
アリーはその声を聞いてドクンと心臓が弾むのを感じた。
「てめえは…!!」
「そいつだけは絶対に復活させるわけにはいかない。お前達は一体なにを考えているんだ。」
アリーは銃を抜きながら答えた。
「簡単だよ。こいつが復活した方が面白いからだ。ただそれだけだ。」
「それだけのために人々の命を危険に晒すのか?!」
ボブは無意識でフォニムを昂らせたが、アリーは苦笑していた。
「なーに熱くなってんだよ。別にどーでもいいだろ?一度も関わったことのない人様の命なんてだーれも大切にしてねえよ。」
ボブはアリーの目が恐ろしく悲しい目をしていることに気づいた。感情の殆どを消し去るなかで、唯一悲しみだけが引っかかっている目だった。
「関係があるないなんて意味はない!命を奪うことに正論などないのだ!」
「そーだよ?命を奪ってはいけない。でも私たち生物は命を奪わなきゃ生きていけない。馬鹿な私でもわかる。これが矛盾ってやつだ。」
人差し指を引っ掛けて銃をくるくると回しながらアリーは続けた。
「命を奪ってはいけないなんてのは頭の良すぎる人間様が辿り着いた境地だ。そもそもあれはダメこれはイイなんて風に全ての行動に意味を持たす必要なんてねえんだよ。行動は…本能で決めるものっていう捉え方もできるとは思わねえか?」
回転する銃をピタリと止め握り直したものの、その銃口はまだボブに向けはしなかった。
「面白い考え方だ。だがな、俺には守るべきものがある。大切な家族や仲間がいるんだ。てめえの勝手な行動で危害が及ばれると嬉しくねえんだよ。」
ボブは臨戦態勢に入り地を蹴り出そうとしたが、またしてもアリーの目が気になった。自らの発言が悲しみに拍車をかけたのだと理解した。
「そう。その考えに至れるのは幸せな奴らだ。私はその大切なもの全てを奪われた。世界が…私から全てを奪ったんだ。そんなことされれば自ずと復讐の気持ちが芽生える。…意味がねえこともわかってるんだぜ?だがな、やることもねえんだ。こんな世の中に未練もねえ。…たまたま出会ったレイナも同じ考えだった。」
「だからこんな馬鹿げた行為をしたと?」
「馬鹿ねえ…。こんくらい命を張らなきゃ、生きてる事が感じれねえんだよ。」
アリーは銃を強く握りしめた。そして遂に銃口をボブへと向けた。
「きっとこれが私の最後だ。楽しませてくれよ?」
「てめえは…」
ボブの言葉を遮るようにアリーはレーザを発射した。
間髪入れず次々と放っていく。フォルテの超速には対応できないと踏んだのか、仁王立ちで照準を合わせることに全集中をしているようだった。
対するボブはフォルテを発動した。しかし連戦により、フォニムも回復しておらず満身創痍。最小限に抑えたフォルテでレーザを辛くも弾き返していた。
「そんな調子じゃプラズマは耐えれそうにねえな!」
アリーの声は洞窟内で大きく反響した。
レーザによる衝撃も生半可なものではないため、洞窟が崩れ出しそうな様相を呈していた。
「耐えられるさ!!背負ってるものが違うんだ…!!」
「へえ。…じゃあ耐えてみな!!!」
即座に放ったプラズマ弾は、ボブに直撃した。
フォルテのLevelが上がっていないことをアリーは見抜いていた。しかしボブは仁王立ちのままアリー睨み返していた。
「…ほらな。」
「ふ、クールだねえ。背負ってるものが違うとどんなものにも耐えられるってか?」
「そうだ。」
アリーが笑いながら口にした言葉を、ボブは真剣な眼差しで即答した。
「精神論かよ…。」
居心地が悪そうな様子でボブを睨みつける。その男の目は何かを訴えかけているように見えた。
「人間は他の動物よりも精神的な影響を受けやすいと俺は思う。良い方にも悪い方にもな。俺の原動力は大切な者を守ること。窮地に立たされたとしても、この想いが内側から大きな力を与えてくれる。…人間って生物も捨てたもんじゃねえと心から思う。」
「そーかいそーかい。あたしには関係のない話だ。」
アリーは片腕でバチバチと帯電を始めた。プラズマ弾ならばこの程度で撃ち放つ。しかし、さらに帯電量を増やしていくようだった。
「関係ないわけがない。お前も人間だ。」
「あー、そうだな。だがあたしには大切なもんなんてねえ。守るものもねえ。この世にあるものは全てあたしに無関係なもの。破壊の対象でしかねえんだよ。」
「今まではそうだったかも知れん。だがこれから大切な者を作れば良い。」
アリーは目を丸くした。突然のボブの発言に動揺したが、すぐさま笑い飛ばした。
「はははっ!!今更何言ってんだ?!ここまで来てんだ。世界的な大問題を引き起こしているんだ。もう私の未来は世界を壊し尽くすか、自らが死ぬかの二つしかねえんだよ!!」
「確かにてめえはとんでもないことをしでかしやがった。だから罪は償え。その上で人として生きろ。」
「…てめえ掃除屋だろ?こんな小根の腐った異常者は駆除しなけりゃいけねえんじゃねえのかよ。」
「ああ、その通りだ。…だがな、てめえにはやり直して欲しい。もっと違う生き方がある。それを知って欲しい。大切なモノや愛…これらが生み出す温かさと無限の可能性に触れて欲しい。」
アリーは笑い飛ばしたかった。そんなものは無いと否定してやりたかった。
だが、心のどこかでそれを望んでいる自分がいることに気付いていた。
しかし、願っても叶わないこと。考えれば考えるほど、そういった幸せを望むほど、ズレた目の前の現実が重く捉えられ自分を苦しめる。
だからこそ蓋をした。そこに感情が迷い込まないように、入り口を塞いだのだ。
「掃除屋としてはまず間違いなく判断ミスだ。だが、直感が激しく抵抗しやがる。てめえは温かい心を取り戻せるんじゃねえかと…無性にそう思う。」
「だったら…!!」
ボブの右腕を吹き飛ばした時と同等以上の帯電量。強い雷がアリーの手と銃から零れていた。
「コレを防いでみやがれ…!!無限の可能性ってもんがそんな感情で生み出されるってことを…証明してみやがれ!!!」
アリーは涙目だった。今まで否定してきたものを、拒絶してきたものを、享受してもいい…そう言われているだけで現状は何も変わっていないのに、ここまで感情が揺さぶられていることに腹が立っていた。抑えきれない感情の渦を全て銃に込めた。
「ああ…。きやがれ…!」
ボブはフォルテを強めなかった。今のLevelでそれを証明しようとした。
アリーは照準を合わせた。だが、カタカタと銃口は震えた。
証明されてもされなくても、どちらも嫌だった。答えが出ることが嫌だった。自分がこの引き金を引くと全てが決まってしまう。でも、見たくない。知りたくない。何も考えたくない。
もう感情が掻き乱されるのは勘弁して欲しい。
そう強く感じながらアリーは引き金を…引いた。
蒼い砲撃は銃口の先にある対象を捉えた。
対象を覆っているものは全て剥がれていった。
中で守られていたものは、プロミネンスによって撃ち抜かれることなく洞窟の冷たい空気の中で露わになった。
そしてそれはゆっくりアリーとボブの方向に首を捻った。
「…どういうつもりだ。」
無傷のボブはフォルテを激らせながらアリーに問う。
アリーは悪魔に向けた銃口を下ろしながら返答した。
「証明してみやがれ…!!無限の可能性ってやつを…!!」
アリーは洞窟の中を歩いていた。足元は幾層にもなった氷が覆っており、一歩ずつ足音が反響していた。
以前、洞窟内を掘り進めていた名残で照明などは完備されていた。
それらが生み出す光に照らされた洞窟内は白青で包まれており、何とも幻想的であった。
「…これか。」
奥に辿り着いたアリーは自分の背丈の10倍はある大きな氷を見上げていた。
その中には口を大きく開き、鱗状の肌に覆われた悪魔デリオラが二足歩行で氷漬けにされていた。
「…立派な牙と角だねぇ。それにこの荒っぽい肌。見るからに硬えな。だが、これが終わりを告げる者なのか。もーちっとおどろおどろしいものを想像してた分可愛く見えるな。」
笑いながら全身をじっくり眺めていたアリーだったが、一通り見終わると身震いをした。
「うー、さみーなここ。とっととずらかるか。」
まだ残っている腕を大きな氷にかざしたときだった。
「待ちな嬢ちゃん。」
アリーはその声を聞いてドクンと心臓が弾むのを感じた。
「てめえは…!!」
「そいつだけは絶対に復活させるわけにはいかない。お前達は一体なにを考えているんだ。」
アリーは銃を抜きながら答えた。
「簡単だよ。こいつが復活した方が面白いからだ。ただそれだけだ。」
「それだけのために人々の命を危険に晒すのか?!」
ボブは無意識でフォニムを昂らせたが、アリーは苦笑していた。
「なーに熱くなってんだよ。別にどーでもいいだろ?一度も関わったことのない人様の命なんてだーれも大切にしてねえよ。」
ボブはアリーの目が恐ろしく悲しい目をしていることに気づいた。感情の殆どを消し去るなかで、唯一悲しみだけが引っかかっている目だった。
「関係があるないなんて意味はない!命を奪うことに正論などないのだ!」
「そーだよ?命を奪ってはいけない。でも私たち生物は命を奪わなきゃ生きていけない。馬鹿な私でもわかる。これが矛盾ってやつだ。」
人差し指を引っ掛けて銃をくるくると回しながらアリーは続けた。
「命を奪ってはいけないなんてのは頭の良すぎる人間様が辿り着いた境地だ。そもそもあれはダメこれはイイなんて風に全ての行動に意味を持たす必要なんてねえんだよ。行動は…本能で決めるものっていう捉え方もできるとは思わねえか?」
回転する銃をピタリと止め握り直したものの、その銃口はまだボブに向けはしなかった。
「面白い考え方だ。だがな、俺には守るべきものがある。大切な家族や仲間がいるんだ。てめえの勝手な行動で危害が及ばれると嬉しくねえんだよ。」
ボブは臨戦態勢に入り地を蹴り出そうとしたが、またしてもアリーの目が気になった。自らの発言が悲しみに拍車をかけたのだと理解した。
「そう。その考えに至れるのは幸せな奴らだ。私はその大切なもの全てを奪われた。世界が…私から全てを奪ったんだ。そんなことされれば自ずと復讐の気持ちが芽生える。…意味がねえこともわかってるんだぜ?だがな、やることもねえんだ。こんな世の中に未練もねえ。…たまたま出会ったレイナも同じ考えだった。」
「だからこんな馬鹿げた行為をしたと?」
「馬鹿ねえ…。こんくらい命を張らなきゃ、生きてる事が感じれねえんだよ。」
アリーは銃を強く握りしめた。そして遂に銃口をボブへと向けた。
「きっとこれが私の最後だ。楽しませてくれよ?」
「てめえは…」
ボブの言葉を遮るようにアリーはレーザを発射した。
間髪入れず次々と放っていく。フォルテの超速には対応できないと踏んだのか、仁王立ちで照準を合わせることに全集中をしているようだった。
対するボブはフォルテを発動した。しかし連戦により、フォニムも回復しておらず満身創痍。最小限に抑えたフォルテでレーザを辛くも弾き返していた。
「そんな調子じゃプラズマは耐えれそうにねえな!」
アリーの声は洞窟内で大きく反響した。
レーザによる衝撃も生半可なものではないため、洞窟が崩れ出しそうな様相を呈していた。
「耐えられるさ!!背負ってるものが違うんだ…!!」
「へえ。…じゃあ耐えてみな!!!」
即座に放ったプラズマ弾は、ボブに直撃した。
フォルテのLevelが上がっていないことをアリーは見抜いていた。しかしボブは仁王立ちのままアリー睨み返していた。
「…ほらな。」
「ふ、クールだねえ。背負ってるものが違うとどんなものにも耐えられるってか?」
「そうだ。」
アリーが笑いながら口にした言葉を、ボブは真剣な眼差しで即答した。
「精神論かよ…。」
居心地が悪そうな様子でボブを睨みつける。その男の目は何かを訴えかけているように見えた。
「人間は他の動物よりも精神的な影響を受けやすいと俺は思う。良い方にも悪い方にもな。俺の原動力は大切な者を守ること。窮地に立たされたとしても、この想いが内側から大きな力を与えてくれる。…人間って生物も捨てたもんじゃねえと心から思う。」
「そーかいそーかい。あたしには関係のない話だ。」
アリーは片腕でバチバチと帯電を始めた。プラズマ弾ならばこの程度で撃ち放つ。しかし、さらに帯電量を増やしていくようだった。
「関係ないわけがない。お前も人間だ。」
「あー、そうだな。だがあたしには大切なもんなんてねえ。守るものもねえ。この世にあるものは全てあたしに無関係なもの。破壊の対象でしかねえんだよ。」
「今まではそうだったかも知れん。だがこれから大切な者を作れば良い。」
アリーは目を丸くした。突然のボブの発言に動揺したが、すぐさま笑い飛ばした。
「はははっ!!今更何言ってんだ?!ここまで来てんだ。世界的な大問題を引き起こしているんだ。もう私の未来は世界を壊し尽くすか、自らが死ぬかの二つしかねえんだよ!!」
「確かにてめえはとんでもないことをしでかしやがった。だから罪は償え。その上で人として生きろ。」
「…てめえ掃除屋だろ?こんな小根の腐った異常者は駆除しなけりゃいけねえんじゃねえのかよ。」
「ああ、その通りだ。…だがな、てめえにはやり直して欲しい。もっと違う生き方がある。それを知って欲しい。大切なモノや愛…これらが生み出す温かさと無限の可能性に触れて欲しい。」
アリーは笑い飛ばしたかった。そんなものは無いと否定してやりたかった。
だが、心のどこかでそれを望んでいる自分がいることに気付いていた。
しかし、願っても叶わないこと。考えれば考えるほど、そういった幸せを望むほど、ズレた目の前の現実が重く捉えられ自分を苦しめる。
だからこそ蓋をした。そこに感情が迷い込まないように、入り口を塞いだのだ。
「掃除屋としてはまず間違いなく判断ミスだ。だが、直感が激しく抵抗しやがる。てめえは温かい心を取り戻せるんじゃねえかと…無性にそう思う。」
「だったら…!!」
ボブの右腕を吹き飛ばした時と同等以上の帯電量。強い雷がアリーの手と銃から零れていた。
「コレを防いでみやがれ…!!無限の可能性ってもんがそんな感情で生み出されるってことを…証明してみやがれ!!!」
アリーは涙目だった。今まで否定してきたものを、拒絶してきたものを、享受してもいい…そう言われているだけで現状は何も変わっていないのに、ここまで感情が揺さぶられていることに腹が立っていた。抑えきれない感情の渦を全て銃に込めた。
「ああ…。きやがれ…!」
ボブはフォルテを強めなかった。今のLevelでそれを証明しようとした。
アリーは照準を合わせた。だが、カタカタと銃口は震えた。
証明されてもされなくても、どちらも嫌だった。答えが出ることが嫌だった。自分がこの引き金を引くと全てが決まってしまう。でも、見たくない。知りたくない。何も考えたくない。
もう感情が掻き乱されるのは勘弁して欲しい。
そう強く感じながらアリーは引き金を…引いた。
蒼い砲撃は銃口の先にある対象を捉えた。
対象を覆っているものは全て剥がれていった。
中で守られていたものは、プロミネンスによって撃ち抜かれることなく洞窟の冷たい空気の中で露わになった。
そしてそれはゆっくりアリーとボブの方向に首を捻った。
「…どういうつもりだ。」
無傷のボブはフォルテを激らせながらアリーに問う。
アリーは悪魔に向けた銃口を下ろしながら返答した。
「証明してみやがれ…!!無限の可能性ってやつを…!!」
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