怪異探偵事務所

夜乃桜

文字の大きさ
3 / 34
置き忘れた想い

少女の正体

しおりを挟む
また太刀を突きつけられてはたまらないので、仁は正直にすべてを話した。

「依頼人の名前や連絡先なども聞かずに依頼を引き受けるとは」
「まだ、引き受けてない」

思わず、強めの口調で仁は反論。
一応、依頼内容の確認はしておこうと思って、来たのだと強調した。そこは譲れなかった。

「そうか……ちなみにその老人はどんな人だ?」
「え、ああ、握りのところが鳥の形をした杖をついていた、70代ぐらいの背の高い男性の老人だった」

少女の眼が、僅かに見開く。そして、眉を寄せて、考え込む。

「……なるほど、そういうことか」
「え、何がどういうことだ?」

さっぱりと訳がわからない。説明を求める仁に、少女がにっこりと笑う。

(……なんか、面倒事になりそうな気がする……)

こういった時の予感は外れたことはない。あとずさる仁に少女は身を乗り出す。顔が近い近い。

「いや、今この家では不可解なことが起きていて、この家に住むご婦人が困っている」
「……は?」
「なので、お前にも手伝ってもらう」
「……え?……」

仁の眼が点になり、間抜けな声が漏れる。思考が追い付かない。そんな仁を無視して、少女は話を進めていく。

「依頼の探し物は、この家に起きている不可解な出来事の原因となっているものを見つけることだ。原因の対処は、私が行う。お前はこの家の不可解な出来事の原因を見つけるだけでいい。依頼の報酬はしっかりと払うから安心しろ」
「いや、ちょっと待て!タイム!」

一方的に話す少女に、スットプをかける。情報が多すぎる、老人の探し物の依頼はこれなのか。
いろいろと確認しようと、仁は口を開いた。

「ちょっとまだ」
「まず、この家の不可解な現状の説明をしてからだな。そしたら、話は家の中でするとしよう。付いてきてくれ」

少女は歩き出す。仁は少女に何か言おうとしたが何も言えず、黙って少女の後を追う。

「あ」

家の庭から玄関に移動。玄関で靴を整えて、家に上がった仁は、あることに気がつく。

「どうした?」
「いや、名前言ってなかったなと」

少女の名前、自分の名前を伝えていないことに、仁は気がつく。目的は伝えたが、素性までは話していない。

「ああ、そう言えばそうだな」

少女も頷いた。
名前も知らない相手を家に招くなど危ないだろうと言っても、名前も知らない少女にのこのことついている仁がいえることではない。
とりあえず、気を取り直して。

「俺は『橘探偵事務所』の所長をやっている橘だ」
「失礼した。私の名前は横山よこやま玲奈れな、〈魔術師〉だ。よろしく頼む。橘」
「ああ」

自己紹介とともに少女、玲奈から差し出された手を、仁は握る。


〈魔術師〉

世界の理を探求し読み解き、己を万能にしようと志す、神秘の学問を研究する研究者。


手を握りながら、仁は玲奈を観察する。年齢は18歳か19歳か。玲奈の髪や瞳の色の容姿から外国人だと思うが、顔立ちは東洋系、日本人に見える。それに、名前が本名とは限らない。『こちらの世界』なら猶更。

「言っとくが、私の名前、玲奈は本名だ」
「はっ?」

思わず、仁は間抜けな声を漏らす。
名前には、〈チカラ〉が宿る。そのため、『こちらの世界』の人間は、名前を利用した〈呪術〉などから己を守るため、名前や正体などを知られないように隠匿する。仁は念のためにと下の名前を伏せた。
『こちらの世界』の者たちは、自分から相手に名前を名乗ることはしない。それなのに、玲奈は自分から〈魔術師〉であること、そして名前を告げた。
もし、玲奈の名前を仁が利用したら、どうするつもりか。

「別に問題ない。私は甘くはない」
「な、なんのことだ。いきなり」

愉快気に玲奈は告げる。自分の考えを読まれた事に、仁は動揺する。

「さぁ?なんのことだろうな?」

玲奈はくすりと笑い、廊下を歩き出す。

(……こいつ……)

仁は黙って、玲奈の後ろについていく。
玲奈は、単に自分をからかっているのだろうか、それとも試しているのだろうか。それとも両方か。どちらにしても玲奈は油断のならない相手である。

(とりあえず、不利にならないように気をつけよ)

仁は決意した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

処理中です...