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第2章
何度経験しても死ぬのはツライ
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気づいたら、空を見上げていた。
まるで海の中に沈んでしまったかのように、雑音が聞こえる。
近くで喚き叫ぶエレナ。
周囲には猛獣の叫び声。
俺の右腕は弾け飛び、血の海の中でただ2回目の死を待つことしかできなかった。
────────────────────────
「結局、ケルベロス退治かぁ…。」
俺達が初めて受けたモンスター退治のクエストは、いつか見た初心者ダンジョンなるものの近くに繁殖していたケルベロス退治であった。
本来、ケルベロスというモンスターはそんな場所にいるはずがなく、何を間違ってか近くに拠点を作って棲みついてしまったらしい。
そこそこ強いモンスターらしいので、ボロの街にいる中級者に成り立ての冒険者であっても、1人での討伐ならば尻込みをしてしまうレベルだという。
その影響か、俺がその依頼書を確認してからここまで、どのパーティーもクエストには乗り気ではなかったらしい。
というか、3週間もそのまま依頼が達成されていないわけだからその難易度の高さが伺える。
「なぁエレナ。やっぱりやめないか?
俺達じゃ厳しいって。」
「今さら何言ってんのよ!報酬だって見たでしょ?
アレから3倍になってるのよ?金貨15枚よ15枚!!」
確かに、金貨15枚の報酬は非常にありがたい。
何しろ、外壁修理2週間以上の報酬を、たった1回で貰えるからである。
そう考えると、上位の冒険者はかなりボロ儲けの状態にあるのかもしれない。
ただ、それだけ難易度が高いという証拠でもあると思うのだが…。
聞くところによると、そんな中でもケルベロス討伐にはこの3週間で2パーティと複数人が個別に出発したらしいが、どれも敗走してきたようである。
つまり、当初と比較しても難易度が跳ね上がっていることを意味する。
他のパーティが乗り気では無くなったのも、絶対にこれが影響しているに決まっている。
しかしオカシな話で、本来ケルベロスというのは精度の高い中級者パーティならば、まず負けるはずがないという。
「はぁ…自信ねぇなぁ…。」
鼻歌交じりに先を歩くエレナと違って、俺は魔力操作ができ始めた程度の実力である。
結局、未だにまともにスキルも使えない始末だ。
一応、身体能力向上のスキルのやり方だけでは教えてもらったのだが…。
なんてことはない、《身体強化》という言葉と一緒に魔力を込めるだけである。
メチャクチャ簡単。
ただ、実践でできるかどうかは定かではない。
「そういえば、東門から出るのって初めてよね。」
「そういやそうだな。
俺は南門しか見たことがないし。」
初心者ダンジョンは、東門から出てしばらく歩き、道から外れた山の麓にあるらしい。
元々、こちら方面は鉱石などを採掘するための作業場として利用されていたようである。
その過程でダンジョンが出現してしまい、今では冒険者御用達の場所になっているという。
正直、ダンジョンがどういうものかちょっと入ってみたい気持ちもあるのだが、俺達の目的はその周辺に巣くっているバケモノである。
入口だけみて、おそらく引き返すことになるだろう。
そうこうしている内に、目の前にダンジョンらしき入口が見えてきた。
一見すると、普通の洞窟のようにも見える。
「うーん……何もいないわね。
私に恐れをなして逃げたのかしら?」
エレナの妄言はどうでも良いとして、本当に普通の山の麓だ。
元々は採掘場…という言葉も納得であり、ハゲ山の部分もチラホラと見える。
林のような場所を抜けてきたのだが、果たしてモンスターが隠れられる場所などあったのだろうか。
そういえば、ボロの街の周辺の森は神護の森だけだったはずである。
山や林があるとはいえ、見通しが悪いわけではないし、ここに入って迷うこともないだろう。
「ねぇトータ。
私ちょっと周辺を見てくるわ。」
「は!?いやちょっと待て!
俺1人の時に現れたらどうする気だ!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
何も大丈夫ではない。
落ち着きのないエレナが、俺の言うことなど聞くはずもなく爆走してどこかに行ってしまった。
その姿は、まるでリールから解き放たれた番犬そのものである。
ケルベロスと退治するのにふさわしいとは思うが…。
「おいおい…やめてくれよマジで。
こえーよ…。」
急に静けさを取り戻した周囲をよそに、俺の心臓は大型バイクのアイドリングのように鳴り響いていた。
一応、クエスト受注前に戦うための武器を購入してはいた。
ロングソードのような剣ではあるが、こんなものがモンスターに果たして通用するのだろうか。
相手は、初心者パーティーならばまず勝ち目のないモンスターである。
ちなみにエレナはそんなものは購入せず、いつもの女神用のドレスとスニーカーでここまで来ている。
完全にナメている。
というか、以前にあの服は目立つから別の服や靴を買いたいと言っていたはずなのだが。
やはりアレはウソだったらしい。
「それにしても、ダンジョンか…。」
何となく、ダンジョンの入口の方に向かって歩く。
採掘の最中に出現した…という話だったのだが、この異世界のダンジョンは自然発生的に出現するのだろうか。
初心者ダンジョンと位置付けられてはいるが、地下階層で5階ほどあるらしい。
らしい…というのは、既にこのダンジョンが他の冒険者によって攻略されているからである。そのため、宝のようなものも既に回収済みということ。
現在では、専らモンスターから収集できる様々なアイテムを狩る場所として初心者冒険者に利用されているのだとか。
実際に、そういう素材もギルドに持って帰って鑑定をしてもらうと、少ないながらもお金に還元して貰えるシステムらしい。
本当に、この世界のギルドというのはよくできている。
そういう意味では、ダンジョンは俺達の世界で言うところのトレジャーハントの意味合いが大きいのかもしれない。
なんだろう、狩り続けても無限にモンスターが湧き続けるとかそういうことだろうか?
本当にどういう仕組みなのだろう。
そんなことを考えていると、なぜか突然空が真っ暗になった。
そして雨も降ってきた。
雨粒が俺の顔にかかる。
「ん、あれ!?マジかよ!
こんな時に雨とか!」
ただでさえ強い相手に動きづらくなる雨とか…本当に運が悪い。
俺が何かをしようとする時、なぜいつもこういう困難が訪れるのか。
しかし、様子がおかしかった。
曇っているのも雨が降っているのも、俺の周囲だけだからである。
なによりオカシイのが…。
「う…くっさ!!なんだこの臭い!
この雨からか!?くっっっっさ!!!」
瞬間、イヤな予感がした。
獣のような臭さ、何かが唸るような声…。
何故か俺にだけ降る大量の雨。
そして、何者かの気配を背後に感じたのだ。
俺は、意を決してゆっくりと振り返った。
そこには大量のヨダレを垂らしながら、俺を見つめる超巨大な犬のバケモノがいた。
────────────────────────
「ぎゃぁあああああああああああああ!!!
エレナぁあああああああ!!
エレナ様ぁあああああああああ!!!!!!!!!」
俺は、襲い掛かってくるケルベロスを相手に必死に逃げた。
体高は約3メートル、周囲の木にも負けないデカさ。
とてつもなく鋭いツメ。ホホジロザメよりも大きい牙。
顔は1つだったが、ケルベロスの名に恥じない恐竜のようなモンスターである。
ハッキリ言って、俺の勝てる相手ではないと本能的にかつ瞬間的に悟った。
こんなもん、剣1つでどうにかできるはずがない。
俺が持っているロングソードが、オモチャの短剣に見えてくる。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいケルベロスさん!!
話をしましょう!!!」
などと意味不明な説得を試みる俺だが、そんな言葉は通じるはずもなく。
前脚の風圧だけで身体が簡単に吹っ飛ばされてしまった。
「ぐぅ…いってぇええ!!」
実戦経験はこの上の無い経験値…その通りである。
何故なら、俺は今使えるだけの魔力で身体能力向上のスキルを使えたからだ。
実戦でいきなり成功したのは、死にかけの火事場の馬鹿力と言ってもいい。
実際に、ウサイン・ボルトにも負けないほどの脚力で逃げ回われているので、スキルによる身体能力向上は大成功している。
本来なら、この爽快感に涙を流しながらゴールテープを切っていたことだろう。
ただ、このバケモノには全く意味を成していないのも事実。
明らかに俺を捕食対象として見ているモンスターに、俺は無力なチワワと化している。
そして、ついには愛用のジャージの襟首に噛みつかれ、そのまま上に放り投げられた。
「あ、終わった…。」
重力に従い、ケルベロスの口の中に落ちていく瞬間がスローモーションに見えた。
命の危機を悟り、色々な走馬灯が頭を駆け巡る。
この異世界にやってきて、たかが3週間程度。
されど3週間なのだ。
中身の濃い毎日を送ってきた。
俺なりに頑張ってきたのである。
その走馬灯を見ながら、俺は確信をもって宣言する。
「ロクな思い出がねぇええええええええ!!!
誰か助けてぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
まさしく口の中に入ろうとした瞬間だった。
とてつもない怒声と衝撃波が上空から落ちてきた。
「おすわりぃいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その威力と衝撃波によって、周囲の木が折れ曲がるほどのエレナの鬼神のごとくグーパンが、ケルベロスの脳天に直撃した。
ケルベロスはたった1発で地面に叩き伏せられて、ついでに俺もぶっ飛ばされた。
身体強化をしていなかったら、全身複雑骨折でどの道俺は死んでいただろう。
「ぐあぁああああああああ!!
いててててて!!!」
風圧でボロ雑巾のように転がる俺を見て、華麗に着地したエレナは心底愉快そうに笑っていた。
「あははははははは!!
なにその間抜けな姿!超ウケるんですけど!!!」
何が面白いのかサッパリ理解できない笑いのツボに、俺は溜め息しか出なかった。
そういや、コイツ俺が前世で死んだときも大笑いしてたっけ。
でも、おかげで命拾いした…。
「エレナ…まじで助かったよ。
ありがとう。
来てくれなかったら、俺ほんとにヤバかった。」
心の底からの感謝であった。
エレナが来てくれなかったら、俺の肉体はケルベロスの胃の中に入り、諸々全てを消化されて、そのまま残滓だけが奴の肛門から出てきていたことだろう。
「え…?そ、そう?
えへへ。
トータも頑張ったんじゃない?」
照れくさそうに笑うその姿に、俺も安堵の笑顔で応える。
この場に余計な言葉はふさわしくないと思った。
だから、俺がオシッコを漏らしてしまったことも黙っていた。
なるべくエレナの方にビチャビチャになった下半身を向けないように、変な角度で会話を続けることにする。
最悪、これはケルベロスのヨダレだと言い張ればエレナは信じるはずである。
「それにしても、本当にヤバかった。
もうその言葉しか出てこねぇよ。
異世界怖すぎる…。
なぁ、これから俺はこんなバケモノどもと戦い続けないといけないのかな?」
正直、この1回目のクエストだけで勘弁してもらいたい。
二度と出来る気がしない。
「何言ってんのよトータ。
あなた、きちんと身体強化のスキルを使えてるじゃない。
褒めてあげるわ!
きっと大丈夫よ。ここからガンガン進めていきましょう!」
この前向きさに救われることもあれば、ツラくなることもある。
というか、ツラい時の方が多い。
今がその時だ。
天才の「できる」と凡人の「できる」は違うのだから。
正直、俺は今のエレナのレベルに付いて行くことすらできない。
実際に、身体強化のスキルが役に立った場面といえば、俺が小便をチビりながら逃げ回った場面だけである。
「でもさ、ケルベロスってきちんとした中級者パーティなら確実に討伐できるレベルではあるんだろ?
このレベルでそれなんだったら、上級者向けのモンスターとかどうなるんだよ。
俺、絶対にムリだって断言できるぞ。」
そう。
ケルベロスは、あくまでも初級や中級に成り立ての個人にとって厳しいだけである。
精度の高いパーティなら、この程度の相手は文字通り問題にならないのだ。
つまり、俺はそのレベルに遥かに達していないということがわかる。
これだと、俺がまともにモンスターを退治できるまでいつまで時間がかかるかわからない。
「アンタね、私のことを過小評価しすぎよ。
というか、私はもちろん私の従者のことを低く見積もられると本気でイライラするわ。
自分を否定されている気分になるのよ。」
「なんでだよ。ただの自己評価なんだから別にいいだろ。
あといつまで主人のつもりなんだよ。
それに、俺はお前のことメチャクチャ評価してるぞ。実力に関しては。
マジでお前がいなかったら俺死んでたからな。」
「はぁ?なら、もっと私を信じて……!!?」
そうエレナが言いかけた時、目の前からその姿が突然と消えてしまった。
濡れている下半身を見せないように変な角度で話をしていたせいか、何が起こったのかさっぱりわからなかった。
いきなり、エレナの声と姿が消えたのだ。
「…は?…え?」
突然のことで俺が呆けていると、いつのまにかとてつもない衝撃で身体ごと吹っ飛ばされてしまっていた。
紙飛行機のように飛んでいく俺の身体。
原因を探るべく、飛ばされながらやたらと冷静に元いた場所を眼で追った。
そこには、2体目であろうケルベロスがいた。
そして、その口からエレナと思わしき足が出ており、そのまま飲み込まれたのも見えた。
俺はすっかり忘れていたのだ。
【初心者ダンジョンの入口に、ケルベロスが繁殖している】
そう。
繁殖していたのである。
1匹であるはずがなかった。
ケルベロスは、本来は精度の高い中級者パーティならば余裕…。
それにもかかわらず、なぜ彼らが失敗して敗走してきたのか…その理由が今わかった。
完全に油断した俺の、そしてエレナのミスである。
そのまま、紙屑のように地面に叩きつけられたが、正直痛みを感じている暇も無かった。
気づいたら、空を見上げていた。
まるで海の中に沈んでしまったかのように、雑音が聞こえる。
近くで喚き叫ぶエレナ。
周囲には猛獣の叫び声。
俺の右腕は弾け飛び、血の海の中でただ2回目の死を待つことしかできなかった。
……。
…………。
……ん?エレナ?
エレナ!?
意識が飛びそうな中、顔だけをケルベロスの方に向けると、何故かエレナが怒り泣き叫びながら暴れ回っていた。
「うわぁああああああん!!!
臭いよぉおおおおおおお!!!!!!!!!
おぇぇええええええ!!!!!!」
周囲には、爆散したケルベロスらしい肉片が飛び散っており、どうやらエレナは飲み込まれてすぐに体内で暴れ倒したらしい。
ヨダレと血まみれのエレナを見ていると、どちらがバケモノかわかったものではない。
衝撃なのはそれだけではなく、3匹目・4匹目・5匹目…とケルベロスが湧いて出ていたことである。
一体、何匹いるんだ…。
そりゃ、中級者パーティでも叶わないわけだ。
しかし、そんなことお構いなしにまるで綿の人形を引き千切るかのように、エレナはケルベロスを殺戮し、臓物を周囲に撒き散らしていた。
もはや女神の欠片すら残っていない。
そうして、全てのケルベロスの殺戮と言う名の処理を終わってから、慌てて俺の方に駆け寄ってきてくれた。
「ト、トータ!!大丈夫!!?
うげ、うっぷ…!」
確かに、ケルベロスの体液はメチャクチャ臭い。
俺からもエレナからも、異常な悪臭が漂っていた。
「エレナ、悪い…。
俺もうダメみたいだ……約束守れなくてゴメン。
頭がボーっとする…力が入らん。
これ、前世の最後に体験した感覚と同じなんだ…。」
俺は、トラックに跳ねられてぶっ飛ばされたことを思い出していた。
奇しくも、あの時も最後は犬の臭い体液をかけられたんだっけ。
まさか、この異世界でも似たような死に方をすることになるとは…。
「はぁ!??何血迷ったこと言ってんの!!
ちょ、ちょっと待ってなさい!!!
すぐに治してあげるから!!!!!!
…おえっ…ぷ!」
「いや、もう腕も千切れちゃったし…」
「持ってきてくっつけてあげるわ!!
私に任せなさい!大丈夫だから!!
…はぁはぁ…うっぷ。」
エレナは、ものすごい勢いで千切れた俺の腕を探しに行った。
というか、俺の心配をしている場合なのだろうか。
ハッキリ言って俺にはもう助かる見込みがないことがわかっていた。
ただ、そうやって助けてくれようとしてくれる心づかいが、俺には嬉しかった。
最後の最後に、エレナに感謝の気持ちを素直に持てた気がする。
そんなことを考えていると、千切れた右腕の方に違和感を感じた。
「よし、見てトータ!!腕が繋がったわ!!!!!!!
もう大丈夫よ!」
腕の方を見ると、確かにいつのまにか元通りになっていた。
こ、これが女神の力なのか…?
「す、すげぇ…エレナ、これどうやって?」
「え?ほら、そこに落ちてたケルベロスのハナクソで繋げて…」
「繋がるかぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
よく見ると、俺の千切れた右腕には緩衝材のようにバカでかいハナクソらしきものが挟まっていた。
なぜこんなものをワンクッション入れる必要があるのか…。
俺は、この女神に1ミリでも感謝の気持ちを持ったことを激しく後悔した。
こいつに関わって、良かったことなど1つも無かった。
そう言えば良かった。
こいつはきっと、俺の身体をプラモデルか何かだと勘違いしている。
そして大声を出した影響で、ついに俺のHPは0になってしまったようだ。
俺が最後に得た感覚は、右腕の千切れた部分に存在するブニョブニョしたハナクソである。
「あぁ…もうダメだ…。」
「あ!!コラ!!!!寝ちゃダメよ!
トータ!!このバカ!!!!!!
もう意識を保っておくのは無理である。
前世もそうだったが、死ぬ時は全身の力が抜けていく感じでなんだか気持ちいい。
これが、どこかの神から人間に与えられた最後の慈悲なのかもしれない。
「えーと…えーと、どうしようどうしよう。
回復回復…回復魔法って何だっけ?なんかあったっけ。
あ、ちょっと待てヤバイ…吐きそう…。うげぇ…。うぷぷ。
はぁはぁ…あ!!
そう!!!そうよ!!コレだわ!!!!!!!!」
そういった瞬間、エレナが俺の身体の上で馬乗りになり、顔を近づけてきた。
そして、おもむろに自分の手を口の中に突っ込み、ノドチンコをイジリ始めた。
「う、うげぇ…おぇ……おげへ…………」
「……え?
いやいやいやいや…ちょっと待てお前、何やってんだ?」
俺の消えゆく命のロウソクなど気にすることなく、エレナは手を口の中に突っ込み続けている。
「おげぇ…おっ……おぅぅえ……」
「ちょ……マジで何やってんの?
おい……本当に待ってくれ……!
お前まさか……………!!」
死の間際、無くなったはずの俺のライフが条件反射的に反応し、その場から逃げようと身体を少し動かした瞬間だった。
「おぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ぎゃぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
エレナは俺の顔から腕にかけ、とんでもない量のゲロを吐いた。
上半身に吐しゃ物を浴び、叫んだ影響で口の中から彼女の体液が俺に入っていくのを感じながら、俺は意識を失うのであった。
まるで海の中に沈んでしまったかのように、雑音が聞こえる。
近くで喚き叫ぶエレナ。
周囲には猛獣の叫び声。
俺の右腕は弾け飛び、血の海の中でただ2回目の死を待つことしかできなかった。
────────────────────────
「結局、ケルベロス退治かぁ…。」
俺達が初めて受けたモンスター退治のクエストは、いつか見た初心者ダンジョンなるものの近くに繁殖していたケルベロス退治であった。
本来、ケルベロスというモンスターはそんな場所にいるはずがなく、何を間違ってか近くに拠点を作って棲みついてしまったらしい。
そこそこ強いモンスターらしいので、ボロの街にいる中級者に成り立ての冒険者であっても、1人での討伐ならば尻込みをしてしまうレベルだという。
その影響か、俺がその依頼書を確認してからここまで、どのパーティーもクエストには乗り気ではなかったらしい。
というか、3週間もそのまま依頼が達成されていないわけだからその難易度の高さが伺える。
「なぁエレナ。やっぱりやめないか?
俺達じゃ厳しいって。」
「今さら何言ってんのよ!報酬だって見たでしょ?
アレから3倍になってるのよ?金貨15枚よ15枚!!」
確かに、金貨15枚の報酬は非常にありがたい。
何しろ、外壁修理2週間以上の報酬を、たった1回で貰えるからである。
そう考えると、上位の冒険者はかなりボロ儲けの状態にあるのかもしれない。
ただ、それだけ難易度が高いという証拠でもあると思うのだが…。
聞くところによると、そんな中でもケルベロス討伐にはこの3週間で2パーティと複数人が個別に出発したらしいが、どれも敗走してきたようである。
つまり、当初と比較しても難易度が跳ね上がっていることを意味する。
他のパーティが乗り気では無くなったのも、絶対にこれが影響しているに決まっている。
しかしオカシな話で、本来ケルベロスというのは精度の高い中級者パーティならば、まず負けるはずがないという。
「はぁ…自信ねぇなぁ…。」
鼻歌交じりに先を歩くエレナと違って、俺は魔力操作ができ始めた程度の実力である。
結局、未だにまともにスキルも使えない始末だ。
一応、身体能力向上のスキルのやり方だけでは教えてもらったのだが…。
なんてことはない、《身体強化》という言葉と一緒に魔力を込めるだけである。
メチャクチャ簡単。
ただ、実践でできるかどうかは定かではない。
「そういえば、東門から出るのって初めてよね。」
「そういやそうだな。
俺は南門しか見たことがないし。」
初心者ダンジョンは、東門から出てしばらく歩き、道から外れた山の麓にあるらしい。
元々、こちら方面は鉱石などを採掘するための作業場として利用されていたようである。
その過程でダンジョンが出現してしまい、今では冒険者御用達の場所になっているという。
正直、ダンジョンがどういうものかちょっと入ってみたい気持ちもあるのだが、俺達の目的はその周辺に巣くっているバケモノである。
入口だけみて、おそらく引き返すことになるだろう。
そうこうしている内に、目の前にダンジョンらしき入口が見えてきた。
一見すると、普通の洞窟のようにも見える。
「うーん……何もいないわね。
私に恐れをなして逃げたのかしら?」
エレナの妄言はどうでも良いとして、本当に普通の山の麓だ。
元々は採掘場…という言葉も納得であり、ハゲ山の部分もチラホラと見える。
林のような場所を抜けてきたのだが、果たしてモンスターが隠れられる場所などあったのだろうか。
そういえば、ボロの街の周辺の森は神護の森だけだったはずである。
山や林があるとはいえ、見通しが悪いわけではないし、ここに入って迷うこともないだろう。
「ねぇトータ。
私ちょっと周辺を見てくるわ。」
「は!?いやちょっと待て!
俺1人の時に現れたらどうする気だ!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
何も大丈夫ではない。
落ち着きのないエレナが、俺の言うことなど聞くはずもなく爆走してどこかに行ってしまった。
その姿は、まるでリールから解き放たれた番犬そのものである。
ケルベロスと退治するのにふさわしいとは思うが…。
「おいおい…やめてくれよマジで。
こえーよ…。」
急に静けさを取り戻した周囲をよそに、俺の心臓は大型バイクのアイドリングのように鳴り響いていた。
一応、クエスト受注前に戦うための武器を購入してはいた。
ロングソードのような剣ではあるが、こんなものがモンスターに果たして通用するのだろうか。
相手は、初心者パーティーならばまず勝ち目のないモンスターである。
ちなみにエレナはそんなものは購入せず、いつもの女神用のドレスとスニーカーでここまで来ている。
完全にナメている。
というか、以前にあの服は目立つから別の服や靴を買いたいと言っていたはずなのだが。
やはりアレはウソだったらしい。
「それにしても、ダンジョンか…。」
何となく、ダンジョンの入口の方に向かって歩く。
採掘の最中に出現した…という話だったのだが、この異世界のダンジョンは自然発生的に出現するのだろうか。
初心者ダンジョンと位置付けられてはいるが、地下階層で5階ほどあるらしい。
らしい…というのは、既にこのダンジョンが他の冒険者によって攻略されているからである。そのため、宝のようなものも既に回収済みということ。
現在では、専らモンスターから収集できる様々なアイテムを狩る場所として初心者冒険者に利用されているのだとか。
実際に、そういう素材もギルドに持って帰って鑑定をしてもらうと、少ないながらもお金に還元して貰えるシステムらしい。
本当に、この世界のギルドというのはよくできている。
そういう意味では、ダンジョンは俺達の世界で言うところのトレジャーハントの意味合いが大きいのかもしれない。
なんだろう、狩り続けても無限にモンスターが湧き続けるとかそういうことだろうか?
本当にどういう仕組みなのだろう。
そんなことを考えていると、なぜか突然空が真っ暗になった。
そして雨も降ってきた。
雨粒が俺の顔にかかる。
「ん、あれ!?マジかよ!
こんな時に雨とか!」
ただでさえ強い相手に動きづらくなる雨とか…本当に運が悪い。
俺が何かをしようとする時、なぜいつもこういう困難が訪れるのか。
しかし、様子がおかしかった。
曇っているのも雨が降っているのも、俺の周囲だけだからである。
なによりオカシイのが…。
「う…くっさ!!なんだこの臭い!
この雨からか!?くっっっっさ!!!」
瞬間、イヤな予感がした。
獣のような臭さ、何かが唸るような声…。
何故か俺にだけ降る大量の雨。
そして、何者かの気配を背後に感じたのだ。
俺は、意を決してゆっくりと振り返った。
そこには大量のヨダレを垂らしながら、俺を見つめる超巨大な犬のバケモノがいた。
────────────────────────
「ぎゃぁあああああああああああああ!!!
エレナぁあああああああ!!
エレナ様ぁあああああああああ!!!!!!!!!」
俺は、襲い掛かってくるケルベロスを相手に必死に逃げた。
体高は約3メートル、周囲の木にも負けないデカさ。
とてつもなく鋭いツメ。ホホジロザメよりも大きい牙。
顔は1つだったが、ケルベロスの名に恥じない恐竜のようなモンスターである。
ハッキリ言って、俺の勝てる相手ではないと本能的にかつ瞬間的に悟った。
こんなもん、剣1つでどうにかできるはずがない。
俺が持っているロングソードが、オモチャの短剣に見えてくる。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいケルベロスさん!!
話をしましょう!!!」
などと意味不明な説得を試みる俺だが、そんな言葉は通じるはずもなく。
前脚の風圧だけで身体が簡単に吹っ飛ばされてしまった。
「ぐぅ…いってぇええ!!」
実戦経験はこの上の無い経験値…その通りである。
何故なら、俺は今使えるだけの魔力で身体能力向上のスキルを使えたからだ。
実戦でいきなり成功したのは、死にかけの火事場の馬鹿力と言ってもいい。
実際に、ウサイン・ボルトにも負けないほどの脚力で逃げ回われているので、スキルによる身体能力向上は大成功している。
本来なら、この爽快感に涙を流しながらゴールテープを切っていたことだろう。
ただ、このバケモノには全く意味を成していないのも事実。
明らかに俺を捕食対象として見ているモンスターに、俺は無力なチワワと化している。
そして、ついには愛用のジャージの襟首に噛みつかれ、そのまま上に放り投げられた。
「あ、終わった…。」
重力に従い、ケルベロスの口の中に落ちていく瞬間がスローモーションに見えた。
命の危機を悟り、色々な走馬灯が頭を駆け巡る。
この異世界にやってきて、たかが3週間程度。
されど3週間なのだ。
中身の濃い毎日を送ってきた。
俺なりに頑張ってきたのである。
その走馬灯を見ながら、俺は確信をもって宣言する。
「ロクな思い出がねぇええええええええ!!!
誰か助けてぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
まさしく口の中に入ろうとした瞬間だった。
とてつもない怒声と衝撃波が上空から落ちてきた。
「おすわりぃいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その威力と衝撃波によって、周囲の木が折れ曲がるほどのエレナの鬼神のごとくグーパンが、ケルベロスの脳天に直撃した。
ケルベロスはたった1発で地面に叩き伏せられて、ついでに俺もぶっ飛ばされた。
身体強化をしていなかったら、全身複雑骨折でどの道俺は死んでいただろう。
「ぐあぁああああああああ!!
いててててて!!!」
風圧でボロ雑巾のように転がる俺を見て、華麗に着地したエレナは心底愉快そうに笑っていた。
「あははははははは!!
なにその間抜けな姿!超ウケるんですけど!!!」
何が面白いのかサッパリ理解できない笑いのツボに、俺は溜め息しか出なかった。
そういや、コイツ俺が前世で死んだときも大笑いしてたっけ。
でも、おかげで命拾いした…。
「エレナ…まじで助かったよ。
ありがとう。
来てくれなかったら、俺ほんとにヤバかった。」
心の底からの感謝であった。
エレナが来てくれなかったら、俺の肉体はケルベロスの胃の中に入り、諸々全てを消化されて、そのまま残滓だけが奴の肛門から出てきていたことだろう。
「え…?そ、そう?
えへへ。
トータも頑張ったんじゃない?」
照れくさそうに笑うその姿に、俺も安堵の笑顔で応える。
この場に余計な言葉はふさわしくないと思った。
だから、俺がオシッコを漏らしてしまったことも黙っていた。
なるべくエレナの方にビチャビチャになった下半身を向けないように、変な角度で会話を続けることにする。
最悪、これはケルベロスのヨダレだと言い張ればエレナは信じるはずである。
「それにしても、本当にヤバかった。
もうその言葉しか出てこねぇよ。
異世界怖すぎる…。
なぁ、これから俺はこんなバケモノどもと戦い続けないといけないのかな?」
正直、この1回目のクエストだけで勘弁してもらいたい。
二度と出来る気がしない。
「何言ってんのよトータ。
あなた、きちんと身体強化のスキルを使えてるじゃない。
褒めてあげるわ!
きっと大丈夫よ。ここからガンガン進めていきましょう!」
この前向きさに救われることもあれば、ツラくなることもある。
というか、ツラい時の方が多い。
今がその時だ。
天才の「できる」と凡人の「できる」は違うのだから。
正直、俺は今のエレナのレベルに付いて行くことすらできない。
実際に、身体強化のスキルが役に立った場面といえば、俺が小便をチビりながら逃げ回った場面だけである。
「でもさ、ケルベロスってきちんとした中級者パーティなら確実に討伐できるレベルではあるんだろ?
このレベルでそれなんだったら、上級者向けのモンスターとかどうなるんだよ。
俺、絶対にムリだって断言できるぞ。」
そう。
ケルベロスは、あくまでも初級や中級に成り立ての個人にとって厳しいだけである。
精度の高いパーティなら、この程度の相手は文字通り問題にならないのだ。
つまり、俺はそのレベルに遥かに達していないということがわかる。
これだと、俺がまともにモンスターを退治できるまでいつまで時間がかかるかわからない。
「アンタね、私のことを過小評価しすぎよ。
というか、私はもちろん私の従者のことを低く見積もられると本気でイライラするわ。
自分を否定されている気分になるのよ。」
「なんでだよ。ただの自己評価なんだから別にいいだろ。
あといつまで主人のつもりなんだよ。
それに、俺はお前のことメチャクチャ評価してるぞ。実力に関しては。
マジでお前がいなかったら俺死んでたからな。」
「はぁ?なら、もっと私を信じて……!!?」
そうエレナが言いかけた時、目の前からその姿が突然と消えてしまった。
濡れている下半身を見せないように変な角度で話をしていたせいか、何が起こったのかさっぱりわからなかった。
いきなり、エレナの声と姿が消えたのだ。
「…は?…え?」
突然のことで俺が呆けていると、いつのまにかとてつもない衝撃で身体ごと吹っ飛ばされてしまっていた。
紙飛行機のように飛んでいく俺の身体。
原因を探るべく、飛ばされながらやたらと冷静に元いた場所を眼で追った。
そこには、2体目であろうケルベロスがいた。
そして、その口からエレナと思わしき足が出ており、そのまま飲み込まれたのも見えた。
俺はすっかり忘れていたのだ。
【初心者ダンジョンの入口に、ケルベロスが繁殖している】
そう。
繁殖していたのである。
1匹であるはずがなかった。
ケルベロスは、本来は精度の高い中級者パーティならば余裕…。
それにもかかわらず、なぜ彼らが失敗して敗走してきたのか…その理由が今わかった。
完全に油断した俺の、そしてエレナのミスである。
そのまま、紙屑のように地面に叩きつけられたが、正直痛みを感じている暇も無かった。
気づいたら、空を見上げていた。
まるで海の中に沈んでしまったかのように、雑音が聞こえる。
近くで喚き叫ぶエレナ。
周囲には猛獣の叫び声。
俺の右腕は弾け飛び、血の海の中でただ2回目の死を待つことしかできなかった。
……。
…………。
……ん?エレナ?
エレナ!?
意識が飛びそうな中、顔だけをケルベロスの方に向けると、何故かエレナが怒り泣き叫びながら暴れ回っていた。
「うわぁああああああん!!!
臭いよぉおおおおおおお!!!!!!!!!
おぇぇええええええ!!!!!!」
周囲には、爆散したケルベロスらしい肉片が飛び散っており、どうやらエレナは飲み込まれてすぐに体内で暴れ倒したらしい。
ヨダレと血まみれのエレナを見ていると、どちらがバケモノかわかったものではない。
衝撃なのはそれだけではなく、3匹目・4匹目・5匹目…とケルベロスが湧いて出ていたことである。
一体、何匹いるんだ…。
そりゃ、中級者パーティでも叶わないわけだ。
しかし、そんなことお構いなしにまるで綿の人形を引き千切るかのように、エレナはケルベロスを殺戮し、臓物を周囲に撒き散らしていた。
もはや女神の欠片すら残っていない。
そうして、全てのケルベロスの殺戮と言う名の処理を終わってから、慌てて俺の方に駆け寄ってきてくれた。
「ト、トータ!!大丈夫!!?
うげ、うっぷ…!」
確かに、ケルベロスの体液はメチャクチャ臭い。
俺からもエレナからも、異常な悪臭が漂っていた。
「エレナ、悪い…。
俺もうダメみたいだ……約束守れなくてゴメン。
頭がボーっとする…力が入らん。
これ、前世の最後に体験した感覚と同じなんだ…。」
俺は、トラックに跳ねられてぶっ飛ばされたことを思い出していた。
奇しくも、あの時も最後は犬の臭い体液をかけられたんだっけ。
まさか、この異世界でも似たような死に方をすることになるとは…。
「はぁ!??何血迷ったこと言ってんの!!
ちょ、ちょっと待ってなさい!!!
すぐに治してあげるから!!!!!!
…おえっ…ぷ!」
「いや、もう腕も千切れちゃったし…」
「持ってきてくっつけてあげるわ!!
私に任せなさい!大丈夫だから!!
…はぁはぁ…うっぷ。」
エレナは、ものすごい勢いで千切れた俺の腕を探しに行った。
というか、俺の心配をしている場合なのだろうか。
ハッキリ言って俺にはもう助かる見込みがないことがわかっていた。
ただ、そうやって助けてくれようとしてくれる心づかいが、俺には嬉しかった。
最後の最後に、エレナに感謝の気持ちを素直に持てた気がする。
そんなことを考えていると、千切れた右腕の方に違和感を感じた。
「よし、見てトータ!!腕が繋がったわ!!!!!!!
もう大丈夫よ!」
腕の方を見ると、確かにいつのまにか元通りになっていた。
こ、これが女神の力なのか…?
「す、すげぇ…エレナ、これどうやって?」
「え?ほら、そこに落ちてたケルベロスのハナクソで繋げて…」
「繋がるかぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
よく見ると、俺の千切れた右腕には緩衝材のようにバカでかいハナクソらしきものが挟まっていた。
なぜこんなものをワンクッション入れる必要があるのか…。
俺は、この女神に1ミリでも感謝の気持ちを持ったことを激しく後悔した。
こいつに関わって、良かったことなど1つも無かった。
そう言えば良かった。
こいつはきっと、俺の身体をプラモデルか何かだと勘違いしている。
そして大声を出した影響で、ついに俺のHPは0になってしまったようだ。
俺が最後に得た感覚は、右腕の千切れた部分に存在するブニョブニョしたハナクソである。
「あぁ…もうダメだ…。」
「あ!!コラ!!!!寝ちゃダメよ!
トータ!!このバカ!!!!!!
もう意識を保っておくのは無理である。
前世もそうだったが、死ぬ時は全身の力が抜けていく感じでなんだか気持ちいい。
これが、どこかの神から人間に与えられた最後の慈悲なのかもしれない。
「えーと…えーと、どうしようどうしよう。
回復回復…回復魔法って何だっけ?なんかあったっけ。
あ、ちょっと待てヤバイ…吐きそう…。うげぇ…。うぷぷ。
はぁはぁ…あ!!
そう!!!そうよ!!コレだわ!!!!!!!!」
そういった瞬間、エレナが俺の身体の上で馬乗りになり、顔を近づけてきた。
そして、おもむろに自分の手を口の中に突っ込み、ノドチンコをイジリ始めた。
「う、うげぇ…おぇ……おげへ…………」
「……え?
いやいやいやいや…ちょっと待てお前、何やってんだ?」
俺の消えゆく命のロウソクなど気にすることなく、エレナは手を口の中に突っ込み続けている。
「おげぇ…おっ……おぅぅえ……」
「ちょ……マジで何やってんの?
おい……本当に待ってくれ……!
お前まさか……………!!」
死の間際、無くなったはずの俺のライフが条件反射的に反応し、その場から逃げようと身体を少し動かした瞬間だった。
「おぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ぎゃぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
エレナは俺の顔から腕にかけ、とんでもない量のゲロを吐いた。
上半身に吐しゃ物を浴び、叫んだ影響で口の中から彼女の体液が俺に入っていくのを感じながら、俺は意識を失うのであった。
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