俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

文字の大きさ
38 / 105
第3章

男の楽園

しおりを挟む
わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
初心者ダンジョンの完全復旧が終わって、だいたい1週間程度。
ここのところ、色々とあり過ぎて正直、心も体も既に休息モードに入っている。

新メンバーであるユキノが加入したことによって、心持ちとしては心機一転を図りたいところではあるのだが、どうにもクエストなどやる気は起きない。
疲れが溜まっているのもあるのだろうが、考えることが多すぎて頭がパンクした状態である。

例えば、最近の俺の評価。
俺は、ギルド《エクリプス》に所属している冒険者…ということになっている。
そこには、ギルドに所属している人間を評価するためのランキングなるものが存在する。

ギルドに所属している人間は膨大であり、俺が加入した段階で5万人はいた。
そして、俺とともにギルドに加入したエレナは何と既にトップ10の位置に付けており、新しく仲間となったユキノに至っても332位という素晴らしい評価を貰っている。

しかも、この2人は素行が大幅なマイナス要素として減点が加えられているにも関わらず、このランキングなのだ。
実質的な評価は、もっと上だと思って間違いない。

反面、俺はというと…ランキング50010位。
ギルドに加入してから数ヶ月、冒険者になる人もそこからさらに増えたことから、特に下位ランクに変動があったようだ。
それはわかる。
わかるのだが、なぜ俺のランクはこんなことになっているのだろうか。

ちなみに、現在のギルドの加入者数は50012人である。
つまり、俺のランキングは前回の5万人中49998位と何も変わっていない。
俺はつくづく思う。
このギルドのランキングシステムはまともに機能していない…と。

俺がこの街の役所に所属していて、各手続きの権限を有していたのなら、このギルドのランキングを命じたバカタレに1年程度の業務停止命令を出したいくらいだ。
労働をナメているとしか言いようがない。

ハッキリ言って、自分なりに頑張っているのに評価を全く得られないと、本当にやる気が消え失せる。
もちろん、別に他人の評価など知ったことではない…と声を大にして言うこともできるのだが、多少はチヤホヤされたいという思いもあるのだ。
これでは、まるで醜いアヒルの子である。
俺が一体何をしたというのか…。

そういうことなので、久々に涙で枕を濡らした今の俺に、ヤル気という概念は露ほども存在しない。

肝心の俺のパーティの問題児であるエレナとユキノの2人は、今日は一緒ではない。
エレナはきっと食堂で酒を飲みに、ユキノは用事があると言っていた。
正直、俺は2人の交友関係にもプライベートにも口を出すつもりはないし、興味もない。
心の底から、自由にやれば良いと思っている。
だから、俺もたまには自由にやりたいことをやりたい。

率直に言って、素敵なお姉さんにでも甘えたい気分だ。

俺だって、男である。
この異世界にもそういうお店があるらしいのだが、どうにも勇気が出ない。
見た目も、15歳前後のただの男の子…。
この外見で、そんな大人のお店に行くとこの世界ではあっさり捕縛されるかもしれない。
いや、この世界でなくても刑務所行きかもしれないが。

そういうことなので、無気力症候群を引き起こしている俺は、見事に借りパクに成功した自宅のテント内に引き籠っているのだった。

しかし、そんなことを考えていたからなのかもしれない。
まさしく、救いの神がテントにやってきたのだ。

「おーい、トータ。
いるかー?」

誰かの声が外から聞こえた。

正直、人生とはわからないものである。
何が今後の役に立つのかわからないし、一見すると何の役にも立たなかったものが、将来的に大活躍する…などということもある。

今回は、そんなお話である。


──────────────────


「えーっと、ここがそうなのか?」

俺は、冒険者仲間であるユーガに連れられてボロの街の少し古びた建物の前までやってきていた。
東門から少し歩いた、外壁沿いに佇んでいる静かな建物である。
地上2階から地下1階まであるらしい。

「おう。最近、お前疲れてるだろ?
俺が奢ってやるよ。」

そう言うのは、冒険者仲間のユーガである。
アパシーシンドロームでやる気のなかった俺を、ここまでわざわざ引っ張ってきてくれた。

どういうお店なのかというと、そういうお店である。

「なぁ…本当に入って大丈夫なのか?
捕まったりしないの?」

「大丈夫だっての。
だいたい、この国は15歳から酒飲んで良いんだぞ。
そういうお店だって、15歳になったら入って良いんだよ。
多分。」

曖昧なことを言うユーガだが、彼は17歳なので捕まるのは年齢不詳の俺だけである。
不安しかない。

ただ、入るのはヤブサカではないというジレンマ。

「あのさ、このお店ってどういうコンセプトなんだ?
俺、マジで何も知らないんだけど。」

「表向きは《記憶の館》っつってな。
その人の過去の良い記憶や思い出を魔法や魔道具で具現化して、精神的な疲れを癒すんだよ。」

「へぇ…メチャクチャ良いじゃん。
てか、魔法や魔道具って本当にすげーな。
そんなこともできるの?」

相変わらず、なんでもアリの世界である。
てか、表向きってなんだ?

「でな、裏の事情はそうではないわけ。
記憶や思い出を形にできるのは間違いないんだけどさ、なんでそんなことができるかお前わかるか?」

「うーん……。
魔法や魔道具が思い出や記憶に反応してるってこと?」

正直、さっぱりわからん。
だいたい、俺は自分が保有しているスキルでも意味が分からないものがあるくらいだし。

《ムギュルン》とか。

「まぁ30点だな。そういうことじゃねーんだよ。
お前、記憶も思い出も忘れてるのに、そんな仕様なら使えねーだろ?
俺がそんなところに連れてくるわけねーじゃん。」

「あ…確かに。」

言われて気づいた。
俺は、この世界の良い記憶や思い出など1つもない。

ましてや、記憶喪失という設定である。

「ようはさ、頭の中で思い描いたことを魔法や魔道具で具現化しているわけ。
実は、思い出とか関係ないの。イメージが大事。
意味わかるか?」

「…………。」

…なるほど。
俺は、気づいてしまった。
素晴らしい事実に。

「ユーガ、それってもしかして……。」

「そう!俺達の想像が形として具現化されるわけだ。
つまり、俺達が頭に思い描いた理想の相手が、その場に現れるんだなーこれが。」

「よし、行こう。」

俺は、ノリノリになった。
こんな素晴らしいことはない。

なぜなら、誰も損をしないからである。

「お、いいねぇ!
やっぱり話がわかる奴だお前は!!」

この異世界に来てから、俺は初めて自分の疲れを癒したいと思っていた。
そのチャンスが、目の前にあるのだというのだから逃すわけにはいかない。

というのは、もちろん言い訳で。

俺は単純にここで楽しみたいだけである。
なので、当然のごとく意気揚々と建物に入って行った。

建物に入っていくと、どうやら地上から2階はブラフで、地下1階にあるお店が本命らしい。
実際に、1階フロアはサビれている上に2階への階段もない。

「変わった建物だなぁ…。
これって、法律的に大丈夫なのかな。
すげー内緒でやってる感があるんだけど。」

「問題ねーよ。
これ、ギルドの奇特な人達が趣味で作った店だからな。」

「マジかよ最高だな。」

ギルドの人達も、日ごろから疲れやストレスが溜まっているのだろうか?
食堂もそうだけど、見た目に体力仕事だから。

まぁでも、こういうお店なら男女関係なく利用できるから問題ないのかもしれない。

「ちなみに、ギルドの女性職員は知らないから内緒な。」

「マジかよ最低だな…。」

本当に大丈夫なのかこれ…?
何でバレてないんだよ。

「この建物はさ、魔法陣で建物全体がブラフになってんだよ。
女性には、この建物そのものが認識できねーんだ。
だから、バレるわけねーよ。心配すんな。」

「魔法陣ってなに?そんなこともできるの?
てか、なんでそんなところに力入れてんの?」

趣味にとんでもなく力を入れる人はいるけど、どうやらこの世界にもいたみたいだ。
しかも、とんでもなく頭が良く、そしてアホである。

「お前も知ってると思うけど、魔法陣ってのは文字や図形に魔力を込めて発動する魔法だからな。
術式と準備次第じゃだいたい何でもできるぞ。」

「それ、デメリットとかないのか?」

「まぁ、準備するのがめんどくせぇってのがデメリットじゃねーの?
俺もしっかりと準備したものなんて使わねーしな。」

そもそも、俺は未だに身体強化のスキルしか使えない。
ユキノみたいな魔法を使ってみたいとは思うのだが、いまいちイメージができないのだ。

簡易的な魔法ですら、魔力を込めて発動する…という状況がよくわからない。

「魔法陣は準備がめんどくせぇ分、その効果は絶大で長時間続くんだよ。
だから、こんな感じで建物全体を偽装できるくらいの効果も発揮する。
で、皆こんなのめんどくぇから大半は簡易的な術式の魔法陣を使ってんだよ。」

「へぇー……?」

この異世界には、俺が把握しきれていないことがまだまだあるようである。
説明を聞いても、なんのこっちゃサッパリだ。

そんな話をしていると、地下へ行く階段を見つけた。

「この下にお店があるって話だ。」

「話…って、ユーガは来たことないのか?」

「当たり前だろ。
サラが怖くて1人じゃ行けないんだよ。
バレたら俺が死ぬだろうが。」

サラとは、ユーガの幼馴染兼パーティメンバーの女の子である。
怒るとすごく怖い。

実際に、最近まで俺やエレナも彼女に目の敵にされていた。

「お前な…俺やっとサラちゃんへの誤解が解けつつあるんだぞ。
向こうから話しかけてくれるようになったし。
また嫌われたくないぞ。」

「大丈夫だって!ようはバレなきゃいいんだよ。
見つかっても2人で歩いてたらさ、お前と遊んでたって言い訳できるだろ?」

なんだか、初めてお泊りに行く女子校生みたいな言い分である。
こんなんで、本当に大丈夫なのだろうか。

しかし、そんなことを言っている俺も、気分は高揚している。

異世界に来てからここまで、俺の周りにいる女性は奇想天外な方々ばかりであった。
見た目はかわいいのはわかっている。

しかし、中身が複雑怪奇なのだ。
きっと、彼女達の中身はパブロ・ピカソの絵の様に万人には理解できない状態になっているに違いない。
そこに価値を見出すことなど、俺には不可能である。

「よし、じゃあ行くかトータ。」

「あぁ。行こうぜ。」

せっかく、ここまで来たのだ。
俺は心も体も癒すため、男の楽園へと旅立つ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

処理中です...