俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第3章

思い出した力?

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領主カターユの館、地下深くに存在する巨大なドームで幼い少女が眠るように封印されていた。
その封印という名の障壁は、エレナが言うところの『神に相当するナニカ』によって施されており、その場でそれを解くことは不可能だった。

───はずなのだが。

俺が触れた途端に、なんだか封印が解けてしまったらしい。
理由は不明。

その後、カターユ達が地下ドームにやってきて俺達は封印されていたらしい少女と共に、館まで連行されてきた…というわけだ。

ちなみに、俺だけ手錠をかけられた…。
冤罪だと、声を大にして言いたい。

その後、数時間をかけて夜中に根掘り葉掘り聞かれた挙句、そのまま朝を迎えるという結末を迎えた。
今は解放されて、俺達は同じ大きい客間に集められていた。

おそらく、監視とこれ以上は領主の館で余計なことをするな…という意味だと思う。
そもそも、この館に連れてきたのも、内密のクエストを依頼したのもその領主様だろうに。

ベッドもあるので寝ようと思えば寝られるのだろうが、そんな気分にならない。
エレナやユキノもほぼ徹夜だったため、相当に疲れているのかと思いきや、特にそんなことはないらしい。
先の一件で、眼が冴えたようだ。

例えば、その当のユキノはと言うと…。

「はぁ~…エレナ。
とても綺麗です。美しいです。
これが本当のエレナなんですねぇ…。」

エレナにベタベタしながら、彼女の様子をもうずっと観察していた。

障壁が無くなった後、何故か俺達は魔法やスキルを使えなくなり、その影響で黒髪黒眼に変装していたエレナの本体がバレてしまったからである。
今は、金髪金眼の姿になっており、都合よく館の人達にはその姿は見られていない。

まぁ、さすがにユキノもエレナが女神だとわかったわけではないが。

「なんで、こんなにも美しい姿を隠す必要があるのですか?
エレナ…神々しいです。
私、コッチのエレナも非常に素敵だと思います。」

「何回も説明しただろ?
エレナは、あんまり良くない方法でボロの街に入っちゃったんだよ。
既に、色々な人にこの姿も割れてんだ。
で、元々は聖職者だからそういうのバレるの良くないんだって。
今のコイツの姿を見たら、納得できるだろ?
出自からして、普通じゃないんだよ。」

俺は、それらしい言葉でユキノに説明をしていた。
いつか、エレナが自分で言っていたニホンの聖職者だった…とかいう設定を持ってきて、そこに適当な理由を付け加えただけだが。
どうせ、本当は神様だよーとか言っても信用しないだろうし。

特に、ユキノは神のことを嫌っているから。

「はい。エレナが聖職者だったって話に、今こそ大いに納得です。
生まれた時からこれだけ美しい姿だと、さぞ周りからも目をかけられたのでしょうね。」

「俺は覚えてないけど、本人が言うには目立ってたらしいからな。
そんな姿、街でずっと晒すわけにもイカンだろう。
聖職者を名乗っているのにボロの街であんなことをしてたら、あっという間に捕まるぞ。」

人を罵倒する、殴る、奢らせる…例を挙げるとキリがない。
今まで見逃してもらっているのだから、こちらもそれに合わせて少しは気を遣うべきなのだ。
実際に、エレナが俺の言い分に従っているあたり、好き勝手している自覚は絶対にあるのだと思う。

そんなエレナに抱き付いて、頭に頬ずりしながら、ユキノは恍惚な表情をしていた。
秘密を共有できた…とか多分そういうことでうれしいのだろう。
この白髪赤眼のモンスターは、生まれや今までの環境のせいか異常に仲間意識が高い。

そのエレナはというと、ユキノのそういった行動をまるで気にせず成されるがままで、ベッドの上で胡坐をかきながら俺の身体を弄りまくって、色々と調べていた。

ずっとパジャマ姿のユキノ、エレナ、そして俺…まるでサルの毛づくろいである。

「…なぁ、エレナ。
もう良いだろ?」

「良いわけないでしょ。
トータ、本当に身体におかしなところとかない?
苦しいところは?」

真剣な顔で、俺の身体の状態をチェックしていた。
メディカルチェックはもちろんだが、地下ドームの封印を解いた得体の知れない俺の力に、何かしらの心当たりや疑問があるのかもしれない。

正直、俺の身体自体は今までと何も変わらないのだが。

「本当に何もないよ。
大丈夫だって。」

きっと、《神眼》で色々と診てくれているのだろう。
それはそれですごくありがたいのだが、ただでさえ戦闘があったり、カターユ達への状況説明があったりと…本当に体力的にも限界が近い。

そろそろ、俺も眠りにつきたいのだ。

「エレナも、既に魔法やスキルは使えるようになっていますよね?
多分、もう大丈夫なんじゃないですか。」

ユキノが、エレナに抱き付きながら話しかけてきた。

そう。
地下ドームで魔法やスキルが使えなくなったのは、封印が解けた直後の、だいたい1時間程度。
そこからは何故か自然と使えるようになり、俺はユキノに回復魔法を使ってもらって、そこそこの筋肉痛が残る程度に痛みを回復させていたのだ。

だからこそ、安心して眠りにつけそうという背景がある。

「…うーん。そうね。
でも、おかげでだいたい原因はわかったわ。
おそらく…だけど。
というか、その影響で思い出せた…って言った方が良いのかもしれないけれど。」

「マ、マジで?
え、障壁が解けた理由も魔法が使えなくなった理由もわかったの?」

「モチよ。
私を誰だと思っているの?」

すげぇ。
さすが、自称超天才の女神様である。
俺は、素直にこの女神のポテンシャルに驚愕した。

やらかした本人は、未だに何のこっちゃさっぱりわかっていないのに…である。

「結局、アレってどういうことだったんだ?
俺、全く自覚が無いんだよな。」

エレナは、一呼吸おいてから早々に結論を言った。

「おそらくだけど…あれ、あなたの”チートスキル”よ。」

……。

…………。
え?
今、なんと?

俺は、突然の報告…いや告白に一瞬言葉を失った。

「…チート?
え…え?チートスキル?
いや…マジで?
マジのマジで言ってんの?」

「マジもマジよ。
多分だけど、それしか考えられない。」

「ちょちょ…ちょっと待ってくれ!
え、それじゃなんだ?
俺、いきなりチートスキルを使えるようになったの!?」

うれしいような、驚きが勝っているような…。

俺は、転生する時に爆散した影響で本来とは異なる形で、この異世界に降りてきた。
そのせいで、降りた当初の俺の身体能力は一般人並であったり、女神から授けられたであろう数々のチートスキルも失った。

その1つが、ようやく俺に戻ってきたということか?

「あの、ちーとすきる?
なんですか、それ。」

全く意味が分からないといった感じで、ユキノがエレナに抱き付きながら質問した。

「トータが、記憶を失う前に持っていたスキルのことよ。
発現したら、おそらくこの世界に存在している人種にはまず負けない、強力なものなの。」

「へぇー…?
トータって、そんなに凄いスキルを持っていたのですか?」

まるで信用してなさそうなユキノが、今度は俺に質問を振ってきた。

「いや、それが俺もよくわからないんだよ。
持っていたはずだ…っていうのはエレナから聞いていたんだけど、ここまで1回も発動できたことは無かったから。」

実際に、今回の一件もまるで自覚はない。
チートスキルだと言われても、どこからどの部分がその効果なのか、俺には皆目見当もつかない。

しかし、内心では既に高揚感が湧いてきていた。
ついに、俺も転生者らしくなってきたんじゃないか…!?

「なぁ、俺ってもうそれ自由に使えるのか!?
一回、試してみたいんだけど。」

「そうね…じゃあ、やってみたら良いわ。
スキル名は《ゼロ》。
魔力を込めて唱えてみなさい。」

俺はさっそくベッドから立ち上がり、右手を突き出して構えた。

「ゼロ…ですか。
聞いたことないスキルですね。
これも、ニホンとかいうところの土着の魔法や術式由来ですか?」

「ど、土着……うぐぐ…。
ま、まぁ、そんなところね。」

デリカシーの無いユキノに、何だかよくわからない精神的なダメージを貰っているエレナを尻目に、俺は声を発した。

「よし、いくぞ。
……やべぇ緊張する。

────《ゼロ》!!!」

大きな客間に響き渡るほどの、大きな声が響いた。
できる限りの、魔力を込めて。

……。

………。

…………。

それは、響いただけだった。
何も起こらなかった。
というか、そもそも俺はもっとも重要なことを聞いていなかった。

死んだ空気の中、たまらずユキノが話題を振ってくれた。

「…トータ?
何をやっているのですか?」

見切り発車で、しかもデカイ声で叫んでしまった。
拗らせてる中学生みたいで…恥ずかしい。

「……あの、エレナ。
そもそもこれ、一体なんのスキルなんだ?」

そう、スキルの内容だ。
結局、この《ゼロ》とかいうチートスキルは何ができるんだ?

それがわからないことには、効果の確認のしようもない。

「…このスキルはね、元々対象の魔法やスキルを無効化するものなの。
系統は関係ない。どんな効果も打ち消すことができる。
炎も氷も、風も雷も、毒も呪いも、そしてそれを構成する術式も魔法陣も。
当たれば、その時点で全ての魔法とスキルは無効化されるわ。」

「な、なんですかそれ!?
ほとんど無敵じゃないですか!!」

マジかよ…。
俺、元々そんな便利なチートスキルを使えたのか。
エレナがかつて、自信を持って俺を転生させたのがわかった気がした。

確かに、魔力が当たり前のこの異世界でこんなのを持っていれば負けるはずがない。
こんなチートスキルを、一杯持たせてくれていたわけだから。

「…そうね。ほぼ無敵よね。
そんなスキルは。
…じゃあユキノ、ちょっと今から魔力操作して簡単な魔法を出してくれる?
私にヒールでもかけてちょうだい。」

「…え?
今ですか?」

「そう、今。
さぁ、早く。」

「あ、はい…わかりました。
よくわからないですけど。」

そういうと、ユキノは普通にヒールをエレナにかけた。
一体何をやってるんだ?

エレナの意図が、俺には全くわからない。

「…トータ、これを見て何とも思わないの?」

「何ともって…そりゃそうだろ。
またお前が変なことをしているな…って。」

俺のその言葉に、心底ガッカリしたような表情でエレナは溜め息をついた。

「はぁ…あなたねぇ。
よく見なさいよ、ユキノの魔法、発動してるじゃない。
チートスキルの効果、全く出ていないわよ。」

「……あっ!!」

ほ、本当だ…。
ユキノは、魔法が無効化されずに普通に魔法を使っていた。

「な、なんでだよ!
チートスキルが使えるようになったんじゃなかったのか!!?」

「…正直、私にもよくわからないわ。
障壁の消滅と私達への影響…チートスキルとしか考えられない。

でも、発動条件はわからないし、しかも私が知っている《ゼロ》と効果の出方や範囲も明らかに違うのよね…本当に、何がどうなっているのかしら。
……ありがとうユキノ、もう良いわよ。」

俺は、膝から崩れ落ちるように床に座り込んだ。
せっかく、俺にもまともな超すごいスキルが使えると思ったのに…。

こんなのがあったら、俺は絶対にこの異世界で無双できたはずだ。

「な、なんで使えないんだ…。
何で俺はいつもこうなるんだ……。」

「そう落ち込まないでくださいよ、トータ。
私達がいるじゃないですか。」

なんだか、ちょっと嬉しそうなユキノが俺を励ました。

「…お前、なんでちょっとニヤけてんだよ。」

「…え!?
いや、えっと…えへへ…。」

───俺にはわかる。
きっと、コイツは魔法無効化…なんてスキルを俺が覚えたら、仲間としての自分の出番が無くなってしまうと思ったのだろう。魔法使いなだけに。
なんて自分本位な奴だ…。

コイツらは、そりゃ良いだろ。
素で強いのだから。
生まれた時から天才なのだから。
そういう与えられた能力で、何とかできるのだから。

俺なんてこれまでも、そしてこれからも獅子がガケから我が子を突き落とすように、エレナの地獄のトレーニングメニューが待っているのだ。

天才に凡人の苦労などわかるまい。

「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきますねー。」

恨めしく睨んでいた俺を尻目に、逃げるようにユキノが部屋から出て行った。

「私が思い出したチートスキル《ゼロ》のこと、ちゃんと言っておかないと思ったからちょうど良いわ。
トータ、よく聞きなさい。」

そんな俺を見ていたエレナが、真剣な眼差しで語りかけてきた。
普段、とてつもないポンコツ具合を発揮しているエレナ様だが、基本的にこういう戦闘系のアドバイスは本当に役に立つ。

天才すぎて、あらゆる論理を飛躍して、時々とんでもない脳筋プレイを要求されるのが玉に瑕だが…。
今回は、そうではないことを願うばかりだ。
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