俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第1章

神護の森

わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、必死にやってきた目的地ボロの街の入り口で絶賛職質中である。

「なんだお前は?」

門番の兵士らしき2人がにじり寄ってくる。
オジさんと若い男のコンビである。
オジさん兵士は茶髪で恰幅が良く、背も大きい。生前の俺くらいあるかもしれない。
お兄さん兵士も茶髪でガタイは良いけど、外見からは優しそうな感じがする。

覚悟を決めて牛歩戦法で入り口を目指していたことなどお構いなく、この2人は普通に俺に接近していたらしい。
全く気付かなかった。

「な、なにがですか?」

恐る恐る質問を質問で返す。

「なにがもクソもないわ!
怪しい奴め!」

オジさん兵士のその口調に、俺がイラ立ちを覚えたのは想像に難くない。
わけもわからずこの街に到着した初手で、なぜ初対面の人間にいきなり罵倒されなくちゃいけないのか。
異世界ではコレが普通の態度なのか?

それにしても、やっぱり転生前よりすぐに頭に血が上る気がする。
ここまでの疲れやストレスのせいなのか、これも若返った影響なのか。
以前は、こんな挑発的な態度をとられてもいちいち反応しなかったのに。
冷静に話し合いをしようとする選択肢が、俺の中で失せていく。

何より、ここで引いてはいけない。
引いたら、相手の言い分を認めることになる。

「いや初対面で失礼でしょ! 俺のどこが怪しいんですか!!」

俺は何も悪くない。
自信を持って言い返す。

「見るからに怪しいだろうが!
なんだそのフザけた恰好は!!」

……。
…………。

すっかり忘れていた。
現在の俺の服装は、全身黒のレインコートに中は白のジャージ。
このレインコートは口まで隠せるので、相手から見えている部分は目元だけである。
しかも、腰からは転生した時に一緒に落ちていた古臭いポーチをブラさげている。

晴天の中、現代社会ですらこんな服装の奴が目の前に現れたら即110番である。
実際に周囲の人間を見ると、麻で作られているようなごくごく普通の旅人の服を着ている。
これが、この世界での一般的な服装なのだろう。
少なくとも、俺のように全身を黒でコーディネイトされたアホは見かけない。

俺は、変質者を見つけたかのような目で睨みつけている兵士2人に心から謝罪した。

───────────────────────

「…なるほど。若いのに大変だったんだなぁ兄ちゃん。」

オジさん兵士が何度も頷きながら納得している。

「はい…本当にすみません。」

「いや、まぁそういう事情なら仕方ないよ。
ゴメンね。」

若いお兄さん兵士も、なんだか優しい。
とりあえず、大雑把に事情を話すと2人とも素直に聞いてくれた。
やっぱり、冷静にまずは話し合いで解決しないとダメだな。
前ならそれを第一選択肢として考えていたはずなんだけど…。
どうなっちゃったんだろう、俺の頭。

もちろん、別の世界からやってきました、なんてことは言っていない。
記憶を失っていて、自分がどこの誰だかよく覚えていない…とか、どういう事情であの森にいたのかもわからない、とか、何ならこの世界のことも全く知らない、みたいな生まれたての赤ん坊のような言い訳をした。
おそらく、こんな適当な話でも信じてくれたのは…

「ニホン…?から来たんだ?聞いたことない国ですね。
辺境かな。」

「マナカードを所持できているし、本当のことだろう。
ウソをつく理由がない。
ただの気の毒な兄ちゃんさ。」

コレである。
転生した時に持っていた身分証明書みたいなものは、マナカードと言うらしい。
文字通り、こっちの人間の出生等を管理するためのものらしく、これを見せたら一発で信じてくれた。

それにしても、触ったり見たりするだけで本物ってわかるって、どういう仕組みなのか。
言葉の端々から、どうやら不正がものすごく難しいカードらしい。
というか所持していることそのものが、信用に足る人物との判断になるようだ。
金属らしきモノを加工しているから高い技術力がいるのだろうか。
この技術に、中世の雰囲気が全く追いついていない気がするのだが。

「しかし、よくここまで1人で来られたねキミ。
冒険者じゃないんだろ?
まぁそれも覚えていないんだろうね。」

かわいそうに…と話すお兄さん兵士。
しかし、よく1人で来られたとは?

「言っても、ここらへんにもモンスターはいるからね。
普通は、ギルドで冒険者を雇って車で運んでもらうんだよ。」

「そ、そうなんですか?」

マジかよ…。
車というと、日本で言うところの籠とか人力車みたいなものだろうか。

「はは、そんなことも忘れちまったのか?兄ちゃん、運が良いよ。
ここらのモンスターはたいしたことないけど、それでも普通の人間じゃ相手するのツライからなぁ。
下手すりゃ死んでるぜ。」

だから、俺達みたいのがいるんだよ、とオジさん兵士が胸を張って話す。
天界の方々は何ちゅー場所に転生させてんだ…。
それなら、初めからこの街に転生させてくれれば良かったのに。

「まぁでも、ここまで無事だったのは神護(しんご)の森の加護のおかげかもな。」

「ですね。」

2人が会話している。神護の森?

「兄ちゃんがいたって場所だよ。そこで迷ってたんだろ?
あそこは、その昔に神様が降臨したって伝説がある場所だからな。」

神様ねぇ…。
正直、眉唾ものだったが神様というワードに引っかかった。
何故だかその言葉を聞くと、頭が痛くなる。

「その影響かわからないけど、あの一帯だけは昔からモンスターも寄り付かないんだよね。
だから、今でもあの場所を神聖視している人は多いよ。

普通は、森の外で森に向かって参拝する…って感じなんだけどね。
一般の人達からすると、やっぱり中は広いから。
人からの信仰心も大きい場所だから、変な事したり言ったりしないようにね。」

ということは、その他の森や平野あたりに転生してたら俺は開幕ゲームオーバーだったわけだ。
寒気がしてきた。

それにしても、森の中が広い?
別に全くそんな風に感じなかったのだが。

「あの、神護の森って入るとそんなに危ないんですか?」

「そりゃな。迷いの森っていう別名があるくらいだからよ。
普通は一度入ったらなかなか出て来られない場所だぜ。」

迷いの森…?
全く迷わずに出て来られたが。

「俺、勝手にそんな場所に入って大丈夫だったんでしょうか?」

そんな不可思議な森なら、信仰される理由もわかる気がする。
宗教上の建物や場所には、勝手に入ると殺されても文句を言えないところはいくらでも存在する。
仮に異世界でもそれは同じで、それが神護の森だったとするなら俺は終わりである。

「それは問題ないよ。
信仰の対象であることは間違いないけど、誰かの土地ではないからね。
文字通り、神様の森だから。
強いていうのなら、この国の領土の一部だけど。

まぁでも人間が神の森を管理するってなると、それはそれで不敬だからね。」

ごもっとも…と、話を聞いて少し安堵する。
それにしても…

「そんな貴重で珍しい森なのに、誰も管理していないのは不思議ですね。」

下手をすれば木の伐採とか誰かが勝手にやって、それを売り捌く悪代官のような輩がいてもおかしくはないだろうし。
神様が降臨した場所の御神木…とか高く売れそう。

「まぁ性根の腐った奴は入っても出てこられないからなぁ。」

とオジさん兵士が即答する。

「俺も詳しくはわからんが、あの森は悪意のある人間が侵入すると、そのまま帰って来ない…なんてことがよくあるんだよ。
だから、そもそもあの森に近づくのすら怖い…って輩は山ほどいる。
ようは国のお偉いさん、神官連中ですらビビってんのよ。

兄ちゃんが無事にここに辿り着けたのも、つまりそういうことだよ。」

前言撤回。
今のこの邪な考えを持って森に入ったら、もれなく森のエキスとして吸収されていたかもしれない。
森は大切にしなくては。

しかし、だから信用してくれたのか…と妙に納得した。
マナカードだけではなく、そもそも神護の森から無事之で出て来られた時点で俺に悪意がないと見なされたのだ。

「それに、最近も神護の森でちょっと問題があってね。」

「問題、ですか?」

良い場所なのか悪い場所なのかどっちなのか。

「それも知らねぇのか?
ほんの数日前だけどな、あの周辺でとんでもねぇ爆音があったんだよ。
たまたま、夜中に外壁上で常駐していた同僚が見かけたらしいんだけどよ。
そりゃもうすげぇ衝撃波だったらしいぜ。
立っていられなかったって言ってたからな。」

異世界怖い。
なんだよそれ。

「一応ね、神護の森の周辺は調査したんだよ。でもね、さっきも言った通りあそこは迷いの森でもあるから中に入ってまで調査をしたい…って人は全くいなくてね。」

「下手すりゃミイラ取りがミイラに…だからなぁ。」

2人の兵士が同調する。
確かに、善意や悪意なんて他人にはわからんものである。
特に兵隊は良かれと思って命をいただく…なんてことも多いだろうし。
忠義のために親友を裏切ったブルータスなんて、森から二度と出て来られないはずである。

「まぁだから、本当に運が良いと思うよ。
無事にここまで来られたんだから。」

そうですね、と空返事をする。どういうことなんだほんと…。
つまりアレか?
最悪の場合、俺は一片の肉片すら残さずにあの森で爆死していた可能性があったのか?
あの場所に転生させた頭のおかしな奴にいよいよ敵意が湧いてくる。
それにしても、俺の想像以上にヤバイ世界なのかもしれない。

だけど親切に色々なことを教えてくれる2人だ。
得体の知れない初対面の俺に対してこの態度…である。
きっと、子どもの姿をしていたから心配してくれたのもあるのだろう。
最初の失礼な態度をもう一度きちんと謝りたいくらいだ。

正直、この街を拠点にするのならこの人達とはこれからも仲良くしたい。
俺にとってこの世界での情報は、何よりも大切なのだから。

「あの、こんな俺に色々とありがとうございました。
いったん、この街で自分の手掛かりを探してみようと思います。」

正直、もう少し話を聞きたいけどそれよりも疲れたしお腹が空いたしトイレも行きたい。

「おぉ、気をつけてな。
街や街の外の情報が欲しいなら、ギルドに行くと良いぞ。
メシも食えるし、なにせ人が大勢いるからな。
行くところがよくわからなかったら、またここに来ていいぞ。」

「はい、わかりました。
本当にありがとうございました。」

あと服買えよ、という声が後ろから聞こえて2人との会話を終えた。
そうして2人に一礼をして無事に街の中に到着した俺は、せめて宿屋の情報を聞いておくのだったとすぐに後悔するのであった。
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