俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

文字の大きさ
5 / 135
第1章

ギルド

わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、安全地帯を求めてようやく最初の目的地、ボロの街に到着したところである。

入口の門番兵士と会話をした後、とりあえず言われた通りギルドに向かうことにした。
情報が欲しかったから…とかではなく、単純に腹が空いていたからだ。
街に入った第一印象としては【雰囲気はとても良いと思う】という小学1年生のような感想である。

街は賑わっているし、出店も多い。全体的にヨーロッパの少し田舎…という感じ。
ただ、実際に歩いてみても本当に広い街だ。
あれだけ外壁が街を覆っていたのも納得できる。
中世の城下町と言われても驚けない。

特徴的なのが、日が陰ってきているにも関わらず若い親子連れの人達も見えることだ。
本当の中世よろしく、世紀末のような情勢なのだったら女性や子どもなどすぐに目を付けられて、まともに出歩けなかっただろう。
現代の我が母星の地球ですら、そんな地域はたくさんあるのだから。
それだけ、この街の治安は良いという証拠だと思う。多分。

実際に、散策をポジティブに考えられるだけの心理的な余裕も生まれてきた。
少しだけだが疲れが紛れてきたのは、やはり外界のストレスもあったのだろう。

しかし、俺への周囲からの目は珍獣を見るそれである。
全身黒のレインコートを着ている俺を、変質者が堂々と闊歩しているかのように街の人達が見てくる。
まぁそれでも、疲れの影響かあまり気にならないのだが。

それにしても、やっぱりエルフやドワーフなどと言ったファンタジーの人種などどこにもいない。
外見はもちろんだが言語の自動翻訳機能の影響で、会話を含めて現代人とほとんど変わらないように見える。
目や髪の色に目新しさはあるが、それは俺が黒髪黒目の純日本人だからである。
目や髪の色の変化など、現代社会では全く驚くことでもない。
服装ですら、今の時代は変わった催しのコスプレで見られるくらいだし。

これ実は、地球のどこか辺境に飛ばされただけなんじゃないか?と疑いたくなる。
俺が知らないだけで、こういう地域が地球にまだ存在するのかもしれない。
いったい、転生時に授かったであろうこの世界の情報はどこまで本当なのか。
今のところ、助かったことなど文字通りこの翻訳機能のスキルくらいしかないのだが。
あぁでも、マナカードや地図は助かったか。
それも、俺の対応次第だったわけなのだが…。

そして目的地。ギルドである。
最初はギルドがどこにあるのかすらわからなかったが、なんてことはない。
看板が普通にあった。
ギルドという看板とともに【エクリプス】という文字。

大きな建物である。
見た目はレンガのような造りで、2階建て。
ネオクラシカル様式に似ているが、そんな大層なものでもない一般大衆向けの建築。
実際に、入口は実に簡素。
ドアなんてものはないし、誰でも自由にお入りください…ということだろう。
大衆食堂と職業案内所が合体した感じなのかな。

ただ正直、入るのが少し怖い。
いやメチャクチャ怖い。

ギルド…おそらく異世界の冒険者が集まる場所だろう。
具体的には、このボロの街を拠点としている冒険者だ。
門番の兵士も言っていたが、冒険者は依頼を受けて何かをする職業らしい。
例えば、遠くの移動をする時の傭兵役を買って出たりするわけだ。

ようは、そういう屈強で強い存在がギルドを介して仕事を行っているわけである。
入った瞬間に睨まれたり、因縁をつけられたらどうしよう…。
まぁでも、門番のオジさん兵士がここに行けって言ってたわけだしな。
そんな怖くておかしな場所は薦めないだろう。
仮に何かあったら、すぐに土下座して降伏しよう。

俺は、内心かなりビビりながらギルドに入った。
そして、俺の恐怖心はいとも簡単に吹き飛んだ。


────────────────


「いらっしゃい!」

小気味の良い掛け声で、ホールの女性店員らしき人が迎え入れてくれた。
やっぱり普通の人間である。
かなり広い店舗だ。店舗と言って良いのかわからないが。

入ってすぐに通路があり、左右には自由に座れそうなスペース。
その左右にはさらに広いスペースがある。
そこから、食事を持った店員らしき人が出てきていた。
厨房でもあるのかな。

さらに、通路の奥もそこそこ広くて何やら受付らしきものがある。
アッチがおそらく、ギルドの案内とかかな。
門番のオジさん兵士が言っていた通り、本当にギルドと食堂が一緒なんだな。

働いて帰ってきた人がここで報酬を貰って食事をする…ということだろうか。
そう考えると、上手いマーケティングだな。
いや、感心している場合ではなかった。

「えっと……。」

何をどうすれば良いんだ?
そもそも、この世界の食事なんて何もわからんぞ。
でもお腹は空いたし。

「ここ初めてですか?」

困っていると、お姉さんが駆け寄って気を使ってくれた。

「あ、はい。そうです。」

「食事なら席に座って自由に注文して良いですよ。
私達に言ってください。メニューは机の上に置いてあるので。
ギルドに用事なら、そのまま真っ直ぐ進んで受付に相談してください。」

とても簡潔でわかりやすい。
なるほど、つまりここには自由に座って良いし、注文したい時にはすれば良いのね。

「ありがとうございます。」

一礼をして、とりあえず空いてる椅子に腰かけた。
ずっと歩いていたからか、椅子に座れただけでも安心する。

それにしても、こうしてよくしてもらえるのはやっぱり子どもだからだろうな。
一応、入る前に黒のレインコートは抜いでジャージ姿になっていたから、もしかすると奇怪な子どもがギルド内に紛れ込んだと思われたのかもしれない。
街を歩いていても、こんな服装の人間はいなかったし。

さて、目の前にあるメニューをとりあえず見てみる。

「……。」

全くわけがわからない。
動いたからか、ハッキリ言ってガッツリとした肉系の食べ物を食べたかった。

だけど、知らない世界の肉なんて怖くて口に入れられない。
空きっ腹に火加減が甘い異世界の生肉なんて放り込むと、下手をすればナイアガラの滝のように俺の肛門から全ての体液が出ていくことだろう。
異世界に来てまで、そんな愉快な死に方はできないのである。
それにそんな死に方をすると、どこかの性根の腐った神様に腹を抱えて笑われる気がする。
気のせいかもしれないが。

とりあえず、初めてだし安牌のスープ系を頼もう。
なんか、料理の名前が怪しいものが多いのだがこういう店だと思うことにする。

「あの、すみません!」

「あ、はい!すぐに行きますね!」

俺はさきほどの店員さんに声をかける。

「ご注文ですか?」

「はい。そうです。
この《死にかけ胃袋の煮込みスープ》っていうのください。」

かしこまりました!と店員が元気よく応えて小走りに向かいの部屋に消えていった。
俺の身体と胃袋は、期待と不安でチワワのように小刻みに震えるのであった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

魔境育ちの全能冒険者は異世界で好き勝手生きる‼︎ 追い出したクセに戻ってこいだと?そんなの知るか‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
15歳になり成人を迎えたリュカは、念願の冒険者ギルドに登録して冒険者になった。 そこで、そこそこ名の知れた冒険者Dランクのチームの【烈火の羽ばたき】に誘われる。 そこでの生活は主に雑用ばかりで、冒険に行く時でも荷物持ちと管理しかさせて貰えなかった。 それに雑用だけならと給料も安く、何度申請しても値段が上がる事はなかった。 ある時、お前より役に立つ奴が加入すると言われて、チームを追い出される事になった。 散々こき使われたにも関わらず、退職金さえ貰えなかった。 そしてリュカは、ギルドの依頼をこなして行き… 【烈火の羽ばたき】より早くランクを上げる事になるのだが…? このリュカという少年は、チームで戦わせてもらえなかったけど… 魔女の祖母から魔法を習っていて、全属性の魔法が使え… 剣聖の祖父から剣術を習い、同時に鍛治を学んで武具が作れ… 研究者の父親から錬金術を学び、薬学や回復薬など自作出来て… 元料理人の母親から、全ての料理のレシピを叩き込まれ… 更に、母方の祖父がトレジャーハンターでダンジョンの知識を習い… 母方の祖母が魔道具製作者で魔道具製作を伝授された。 努力の先に掴んだチート能力… リュカは自らのに能力を駆使して冒険に旅立つ! リュカの活躍を乞うご期待! HOTランキングで1位になりました! 更に【ファンタジー・SF】でも1位です! 皆様の応援のお陰です! 本当にありがとうございます! HOTランキングに入った作品は幾つか有りましたが、いつも2桁で1桁は今回初です。 しかも…1位になれるなんて…夢じゃ無いかな?…と信じられない気持ちでいっぱいです。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!