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映画館デート。
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しおりを挟む結局伊吹くんは映画が終わるまで、目を開かなくて。
肩は占領されたまま。
手も繋がれたまま。
私は伊吹くんの密着のせいで、全然映画に集中できなかった。
「伊吹くん。映画終わったよ」
伊吹くんの体を揺らすと「もうちょっと」って言いながらまた目を閉じた。
本当に何なんだろう、この生き物は。
さすがにマイペースすぎる。
他に映画を見ていた人が次々に映画館から出ていく。
「ねー見て、カップルかな?」
「いいなー私も彼氏欲しい」
たぶん私と伊吹くんを見て言ったんだろう。
恥ずかしすぎて堪らない。
周りから見ると、カレカノに見えるのかな。
まあ、こんなに密着してれは勘違いされてもおかしくないか。
「さっきの人たち勘違いしてたね」
伊吹くんの声色はなんだか嬉しそうだった。
「ほら、次の映画始まっちゃうから」
「ちぇっ…。もっとくっついていたかったのにな」
伊吹くんはそう言って渋々立ち上がった。
なんで。
なんで、そんな事ばっかり言うの?
映画館を出た後は、映画とは無関係の話ばかりして。
さっきは本当に寝てたのか寝ていなかったのか、面と向かって聞けなかった。
やっぱり起きてたよね…?
寝ぼけながら手を繋ぐとかある?
もしかするとモテ男はそういう技能を持っているのかもしれない。
暗くなった駅のホーム。
伊吹くんはまた、私の乗る電車が来るのを一緒に待っていてくれる。
「今日は、ごめんね。私の選んだ映画、興味なかったよね」
伊吹くんが映画に行きたいって言うから来たはずなのに。
伊吹くんはきっと退屈だったよね。
ほんと、何やってんだか。
「なんで謝るの?俺は楽しかったよ」
やけに色っぽい顔で、伊吹くんは微笑んだ。
なんで?
ずっと寝てたのに?
…やっぱり伊吹くん寝てなかったの?
「新奈は楽しくなかった?」
「そんなことないけど…」
そんなことないと思う。
映画の内容なんてこれっぽっちも入ってこなかったけど。
居心地はよかった。
…かも。
「なんか帰りたくないなー」
「え?」
「帰したくない」
またそんなこと言って。
伊吹くんがそのつもりなら私だって。
「私も帰りたくない」
なんて。
伊吹くんがいつも惑わすことばっかり言うから、私だって彼女っぽいこと言ってやる。
「なに、今の」
「え、なにって…」
「だったら俺と───「あれ、新奈?」
伊吹くんの言葉に、遠くから聞き覚えのある声が重なった。
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