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正直に。
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しおりを挟む「だって、なんかもっとあるじゃん。同情されるのがイヤだったとか。心配かけたくないとか」
「新奈は男心が分かってないんだよ」
伊吹くんの布団にこもった声が聞こえる。
「何それ」
私が唖然として声も出せないでいると、伊吹くんがこちらの様子を伺うように布団から少しだけ顔を覗かせた。
「あきれた…?」
「うんん、ちょっとびっくりしただけ」
そっか。
伊吹くんは私より要領がよくて、いつも余裕があって。
デートの時だって、私ばっかりドキドキさせられて。
伊吹くんは私よりずっと大人だと思ってた。
けど、違っていたのかも。
「新奈の前では、かっこいい自分でいたかったんだよ…」
いつも余裕の伊吹くんがどこか自信なさげで。
今は布団に隠れてこっそり私の様子を伺っている。
それがすごく可愛いなって思った。
「かっこ悪い」
「え…?」
「病気のこと知られてたら、かっこ悪いと思ってる伊吹くんがかっこ悪い」
「ははっ…相変わらず新奈ってズバっと言うね」
「だって、そんなことでかっこ悪いとか思うはずないじゃん…」
そうだよ。
伊吹くんはずっと、かっこよかったよ。
最初っから。
今でもずっと、伊吹くんはかっこいい。
「病気だろうが病気じゃなかろうが、伊吹くんは伊吹くんじゃん」
「うん…」
「ずっとかっこいい伊吹くんだよ…」
「うん…」
ずっと布団をかぶったままの伊吹くん。
今、伊吹くんがどんな表情をしているのか見てみたくなった。
「ねえ、いい加減布団から顔出したら?」
そう言って布団をめくろうとすると、めくられないように抵抗する伊吹くん。
「ねえ、伊吹くんってば」
私が布団をさらにひっぱると、伊吹くんはもう抵抗してなくて。
大きく開いた布団の中に私まで潜り込む形になった。
目の前に伊吹くんの顔が映る。
「かっこ悪いって言った仕返し」
伊吹くんは意地悪な顔でそう言ったかと思うと、そのまま私をぎゅっと抱きしめた。
「その後、かっこいいって言ったじゃん…」
「もっと言って?」
「…ナルシストか」
「そうかも」
伊吹くんはそう言いながら腕の力を強めて。
でもそれが心地よくて。
私の心臓の音か、伊吹くんの心臓の音か分からないくらい。
ドクドクと鼓動を鳴らしていた。
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