勇者?いいえ、聖・魔剣使いです。〈 聖・魔剣使いの英雄談〉

カザミドリ

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第1章 ベアトリス王国編

9.決闘

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翌朝、結局その夜は物置で一晩を過ごした、どうやら待遇は改善されないらしい。そう言えば、夕飯も食べてないな。
起きてからしばらくすると、ドアが乱暴に開けられる、鈴達かと思い、そちらを見ると、期待とは外れて兵士がいた。

「一緒に来てもらおう」

「どこにだよ?」

「いいから、来い!」

ここで、押し問答をしていても、しょうがないので付いていく事にする。
連れてこられたのは訓練所、そこで待っていたのは日野だ。

「いったい何のつもりだ?」

「ここで俺と決闘をしてもらう、お前に拒否権はない」

日野が言うや否や、兵士が出入口を塞ぐ。
あれで止められるとか思っているのかね?
しかし、何で日野は決闘なんて言い出したんだ?

〈おそらく、勇者・日野はマスターには、もう戦う力がないと思っているのでしょう〉

昨日、自分が聖剣を壊したからか?
何て素敵な勘違いしてんだ、あいつの頭の中はお花畑か?
そう言えば、聖剣を複数持っている事を伝えてないな、伝える気もないけど。

などと、ナビさんの推察に溜め息をしていると、出入口からミレナ女王やエレナ姫、澪達も入ってくる。

「これは一体何事ですか!?」

「これから、どちらが本物の勇者か、工藤に判らせてやるんですよ、決闘でね」

ミレナ女王の質問に、生け簀かない笑みを浮かべながら、日野が答える。

「そんなこと、許しま……」

「いいだろう、その決闘受けてやるぜ!」

ミレナ女王の言葉を遮り、決闘を受けると伝える。

「工藤様?よろしいので?」

「あぁ、構わない」

そう言えば、ミレナ女王達にも聖剣の事は伝えてなかった、こちらは、ただの伝達ミスだな。この後伝えておこう。

「では、ワタシが審判を勤めましょう」

ミレナ女王の護衛として来たアリシアが、審判を買って出る。俺と日野は向かい合う。

「勝利条件は、相手を気絶させる、もしくは戦意を消失させる事とします、相手を殺害する行為を禁止します、よろしいですね?」

説明に普通に物騒なものが入ってくると思ったら、アリシアはガッツリ俺を見ていた、と言うか俺に言っていた。まぁ、力量差を見たら当然か?
日野はそれが気に入らないのか、鬼の様な形相で睨み付けてくる。

「それでは……始め!」

アリシアの号令と共に、日野は聖なる剣を取り出し、切りつけてくる、首の皮一枚のギリギリを剣が通過する、ステータス的に大丈夫なんだけど、日野はしっかり殺しに来てるね…

しばらくは避け続け、気になることがあるので、俺は日野に近づき、振りかぶっている途中の剣の柄を受け止め、腕をホールドする。

「どうした?逃げるや防ぐばかりじゃ勝てないぞ?」

「少し、聞きたいことがあってな」

「命乞いをしても、助けてやらないぞ?むごったらしく、土下座するなら考えてやるけどな」

「いや、それは死んでも遠慮するわ、むしろ死ぬわ、そんなことじゃなく、お前朝飯食ったか?」

「はぁ!?朝飯だと?貴様何考えてんだ?」

「食ったのか?」

「……食ったよそれがどうした?」

「どこで、食った?」

「食堂で!他のみんなと食べたよ!」

「ほう、他の皆も食べたのか?昨日の夕食もか?」

「そうだよ!それがどうしたんだ!」

「いや、それだけ聞ければ十分だ!」

俺はホールドを解くと同時に、横凪ぎに払われる剣を避け、距離をとる。
さて、そろそろ終わらせるか。

ナビさん、またサポートよろしく。

〈ハイ、マイマスター〉

俺はナビさんのサポートの下、聖剣を召喚する。呼び出すのは槍の形をした聖剣。

「来い!聖剣・デュアルホーン!!」

「な、何で……」

「動かない方がいいぞ?」

俺は、跳躍し、狙いを定める。

「貫け、デュアルホーン!!」

叫ぶと同時に、青い光がデュアルホーンに集まる、それを打ち出す要に、デュアルホーンを突き出す。
青い光は、槍の延長のように放たれ、狙い定めた、日野の少し前の地面を貫き、土煙を舞い上がらせる。

土煙が晴れると、そこには、クレーターが出来ていた。日野はどうやら爆風に巻き込まれ、吹き飛び気絶しているらしい。

「………」

「アリシア?アリシア!」

審判なのに、呆然としたまま動かない、アリシアに強く呼び欠ける。

「はっ、申し訳ありません!勝者工藤様です」

ようやく、ショックから戻って来た、アリシアが俺の勝利を告げ決闘が終わる。
すると、直ぐにミレナ女王とエレナ姫が近づいてくる、後ろには、澪達もいるな。

「工藤様、あの、今のは一体…?」

「何って、聖剣だよ」

「しかし…聖剣は…」

「誰も、聖剣が一本だけとは言ってないだろ?」

言い忘れていた事は棚にあげる。聞いてきた、エレナ姫が驚愕の表情をしている、それに代わり、ミレナ女王が質問してくる。

「工藤様は、聖剣を何本お持ち何ですか?」

「それは、教えられないな、信用できない相手に、自分の手の内を曝すつもりはない」

「そうですか……」

「まず始めに、部屋をどうにかして、貰いたいものだな」

「部屋ですか?」

「何だ?やはり知らなかったのか?俺は昨日も、物置部屋で寝たんだぞ?」

「な、一体なぜ!?」

「何故って、そこにいる兵士に、案内されたんだが?」

そう言って、昨日俺を部屋に案内した、兵士を指差す。
どうやら女王は、知らなかったらしいな。
指差した兵士は、アリシアによって捕縛され、連れて来られ、尋問が始まる、アリシア仕事が早いな。

「あなたは、一体何をしているのですか?」

「ワ、ワタクシは、勇者様の指示に従っただけです、勇者様が女王様達は、操られているのだと…」

「そんな戯れ言を、信じたのですか…」

「もう良いです!アリシア、その者を連れていきなさい!」

アリシアに連れられて行く兵士、彼がこの後どうなるかは、知ったことではない。

「今後、工藤様の不利益になる事は、禁止します!これは王命である!」

王命と言うことは、逆らえば処罰される事になる、問題は一番止めてほしい奴にどれ程効果があるかだな。
おっと、忘れる所だった。

「そう言えば、日野は朝食を食べたのに、俺はまだ食べてないな」

「…ご用意致します」

「昨日の、夕食も食べてないな」

「急いで、朝食をご用意します!」

ミレナ女王が、大急ぎで侍女に指示を出している。
俺は部屋に戻ろうとしたが、エレナ姫に止められる。

「工藤様、申し訳ありませんが、新しいお部屋を用意するのに、少々お時間を頂きたいのですが…」

「ふむ、なら誰かの部屋で、朝食を待つか」

「なら、私の部屋を使っていいよ?」

「じゃあ、朝食ができたら、澪の部屋に運んでくれ」

そう言い残し、司達と澪の部屋に行く。

澪の部屋にて、少しの雑談をしていると、エレナ姫がメイドと一緒に料理を運んできた。

「お待たせいたしました、どうぞお召し上がりください」

「……澪、一つ聞きたいんだが、皆も同じ物を食べたのか?」

「うん、そうだよ?」

「日野も同じ物を?」

「うん、それがどうかしたの?」

俺と澪の会話に、エレナ姫が何かあるのかと、冷や汗をかきながら聞いている。

「ほう、日野と同じものね…」

「な、何かございましたか?」

「いや、何、敗者と同じ物を、勝者に食べさせるのかとね」

「あ~と!申し訳ありません、メニューを間違えていたようです!もう少々お待ち下さい!?」

「あぁ、それは大変だな、待つ事はできるが、何せ昨日の夜から、何も食べていないからな~、早くしてもらわないと、外に何か食べに行ってしまうかもな~、そう、国の外にとかね?」

「……直ぐにお持ちします!」

わざとらしい言葉に、わざとらしい言葉で返すと、エレナ姫は、目に涙を浮かべ、ぷるぷると震えながら、部屋を出ていった。

「クククク……」

「もう、あんまり意地悪しないであげてよ、エレナちゃん涙目だったよ?」

「かわいそうに…」

俺が、笑っていると、澪と鈴が批難の声を欠けてくる。
女子は直ぐに仲良くなるからな、いつの間にか仲良くなっていたみたいだ。

「何を言う、勝者の当然の権利じゃないか?」

「うーん、でも、僕も少しかわいそうだと思うよ?」

「そうだな、女子を泣かせては、いかんな」

おや?司と敦もエレナ姫の味方か、珍しく四対一になったな、早めに話題の転換をするか。

「ところで、これからどうするかだが…」

「話題を切り換えたわね…」

「うるさいぞ、鈴」

「何で、あたしには、アタリが強いのよ!?」

「まぁまぁ、鈴、落ち着いて?」

「明くん、これからの事って?」

「やはり、この国を出ていくのか?」

「いいや、出ていかず、この国をしばらくは拠点にしようと、思う」

「それは、この前とは、状況が変わったからってことでいいのよね?」

「そっか、今は女王様が、明くんを守ってくれるって、約束してくれたもんね?」

「その通りだ、持て成してくれると言うのに、わざわざ出ていくのも、面倒だしな、それに…」

「それに?」

「やられたら、多少はやり返さないと、気がすまないんだ」

「あんた、悪い笑顔になってるわよ」

鈴達が、苦笑いになるなか、ドアが再び開かれ、エレナ姫が入ってくる。


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