異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

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逆怨み

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 東の街イリマに着いた俺達は豪華な食事を食べていた。

「すごっ、王城のパーティー並の豪華さじゃないか?」

「皆様に喜んで頂きたく、細やかながらご用意させて頂きました」

 イリマのギルドマスターレイツさん、確か接点は王城のパーティーくらいだったはずたが。

「さあさあ、遠慮せずにお召し上がり下さい」

 すごく丁寧な言葉で迎えてくれた。

「なぁクロノ、レイツさんと王城のパーティー以外で何処かで会ったっけ?」

「………いえ、記憶にございません」

「だよなぁ」

 念のため隣に居たクロノに聞いて確認したが、やはり会っていないらしい。ということは。

「………レイツさんはギルドマスターを任されるくらいだし、元々こういう人なんだろう」

 レイツさんの態度に一応の納得をしつつ、改めて料理に舌鼓を打っていると。

「兄上!これはどう言うことですか!?」

 扉が大きく開かれ一人の男性が入って来た。

「こらメイツ、今はお客様をもてなしている所だ、静かにしないか!申し訳ありません愚弟が粗相を」

 話を聞く限り、彼はレイツさんの弟らしい。一応ここは冒険者ギルドの一室であるが、かなり奥にあるあまり人が立ち寄れないプライベート空間なので、それなりの地位がないと無理なはずだし。

「どうしたのですか兄上!貴方らしくもない!」

「それはこちらの台詞だメイツ、お客様の前で失礼だと思わないのか?」

 目の前で起きる兄弟喧嘩に料理を食べる手も止まる。

「兄上、この者達が何者かご存知なのですか!?」

「勿論だ、王都でドラゴンを捕まえ、王女様達の病も治した、素晴らしい勇者様御一行だ」

 うーん、なんか二人の話が噛み合ってない気がするんだよなぁ。

「ええい、もういい!誰かこの者達を捕らえろ!」

 不穏な言葉にクロノ達が警戒度を上げるが、自らも剣を抜き放つメイツに従う者は居なかった。

「ど、どうした?」

「………そんな事誰も従わないさ、メイツを捕らえよ!」

 レイツが言うと黒いローブを被った数名が入り口から入って来て、直ぐにメイツを捕縛する。

「メイツ、お前には謹慎を言い渡す、少し頭を冷やせ」

「くっ、お前達よくも兄上を、ぐっは」

 言葉の途中でレイツさんに腹パンをされるメイツ。

「聞こえなかったのか?謹慎だ」

 そのままレイツさんが合図を出すとメイツは引きずられて行った。

「失礼致しました、どうぞお食事を続けて下さい」

 メイツに腹パンをした時とは打って変わって、笑顔でお辞儀をするレイツさん。

「変わり身の早さが怖いな」

 素朴な感想を抱きつつ食事を続ける。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 タクト達が食事を再開した頃、ギルドを放り出されたメイツは。

「くそっ、兄上はどうしたと言うんだ!?」

「メイツ様!」

「あん?」

 後ろから声を掛けてきたのは、ギルドの重鎮、兄のもとで働いていた者だった。

「む?お前は確か………ああ、思い出した、シムレ候だったな」

「はい、以前はレイツ様にお世話になりました」

「以前は?どういう事だ?」

「はい、実は……」

 シムレは最近のレイツの様子、ギルド内の粛清とそれに伴う大量解雇について話した。

「そ、そんな事が起きていたのか………」

「はい、どうやらレイツ様は何者かに操られているようです」

 奇しくも真実にたどり着いたメイツとシムレ、だが、その答えにたどり着いた者は少なくない。大部分の者は以前よりも状況が好転しているので口を継ぐんでいる。声を上げるものは興味本意で藪から蛇を引きづり出してしまった者、もしくは野心に捕らわれ藪に蛇が居るのを承知で突っ込んで行く者だ。

「こうなってしまっては、ギルドの威厳が地に落ちましょう、メイツ様、どうか我らに御力添えを」

「よかろう!兄上に変わり、わたしがギルドを取り戻そう!」

 大義名分を得て、ギルドに反旗を掲げると宣言するメイツを見て、汚い笑みを浮かべるシムレであった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(と、言うことらしいですよ)

 表面上はタクトと楽しく食事をしつつ、クロノ達は念話で話をしていた。

(なるほど、彼らは愚か者ね)

(そうだねー、で、どうするの?)

(ん……燃やす?)

(いえ、どうもしませんよ)

(えー?どうして?)

(反乱が起きてから対処した方が、タクト様の名に箔が着きます)

(あ、なるほど!)

(しかし、動向には気をつけておきましょう)

 穏やかな時間の裏でそれは静かに動いていた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ギルドで歓迎を受けた後、俺達はレイツさんの好意で街一番の宿に泊めて貰う事に。料金はレイツさんが払うと言ったが丁重にお断りした。

「流石にそこまでしてもらうのはなぁ」

 気が引けると、一人の部屋で呟く。例によって二部屋借りているのだ。

「………プライベートが有るのは良いんだが、少し寂しい、いや、虚しい?」

 等と言うぼやきは虚空に消えたのだが、変わりに。

ドーン!!

「な、何だ!?」

 爆発音が外から鳴り響いた。

「タクト様!ご無事ですか!?」

「俺は大丈夫だ、何があった?」

「どうやら暴動のようです」

「暴動?」

「はい、ギルドの上層部が謀反を起こしました」

「ギルド?なら、レイツさんが?」

「いえ、レイツ殿は現在ギルド本部に立て籠り中でございます、暴動を起こしたのはメイツ率いるギルド上層部です」

 な、何が何だかよくわからないな。

「と、とにかくギルドへ行こう!」

「畏まりました」

 大慌てで宿を飛び出すと。

「出てきたぞ!あいつだ!」

 待ち伏せ!?なぜこんな所で?

「あいつらが噂のSランクだ!」

「囲め囲め!」

 あっと言う間に20人程の冒険者に囲まれる。

「くっ、これはちょっとまずいな」

 早くギルドに行きたいが、通してはくれないだろう。と、思っていたのだが。

「さぁ、何処へ行きましょうか!」

「へ?」

 今何て言った?

「ここを襲おうとしていた奴らは追っ払いました!このあとはどうしますかい?」

「えーと、一応確認しますが、皆さんは味方?」

「へい!レイツさんに言われて、護衛に来ました!」

「じゃあ、囲んだのは?」

「勿論盾に成るためです!」

 言葉が乱暴なのはデフォルトなのね?何とも分かりづらい。いや、冒険者ギルドが襲われてるなら、冒険者が味方なのは当然か?

「それで、何処へ行きましょうか?街を出るならご案内しますぜ!」

「あ、いや、とりあえずギルドへ……」

「畏まりました!行くぞみんな!」

『おー!!』

 静かに移動は出来ないものなのか?こんな大声を出して移動すると。

「そこのお前達!止まれ!」

 ほら見つかった、今度は冒険者でなく、整えられた揃いの装備を身に付けている事から、恐らく私兵だろう。確か反乱を起こしたのはギルドの上層部だったな、私兵くらい持っていても可笑しくない。

「くっ、見つかったか……」

 そりゃあんだけ騒いでたらね。

「ダンナ、ここは俺達に任せてギルドへ行って下さい!」

「え?ああ、うん、わかりました」

「大丈夫でさぁ、俺はこんな所で死にません!この騒動が終わったら、俺は彼女に結婚を申し込むんでさぁ」

 ………唐突に何故死亡フラグを立てた?この人ここで死ぬの?

「行って下さいダンナ!うぉぉ!」

 掛け声と共に乱戦が始まる。のだが。

「覚悟!」

「おっと!」

 私兵がそれなりに抜けてくる。任せろって、全然押さえきれてないけど?

「行って下さいダンナ!」

「いや、敵が多くて行けないんだよ!クロノ!」

「はっ!」

 クロノがナイフを投擲して私兵の足を止める。これでようやく進めるようになった。

「じゃああとは頑張って」

「へい!うぉぉ!」

 あの人大丈夫かな?

「彼らは何のために出てきたんでしょうか?」

「………言ってやるなよ」

 まぁ、敵味方の判別が着いたのはありがたい。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 一方その頃ギルドでは。

「ふふふ、追い詰めましたよレイツ兄さん」

「………メイツ、何て愚かな事を」

「兄さん、貴方は目が雲ってしまったようだ、だから、貴方に変わって私がギルドを運営します!」

 職員と共に追い詰められるレイツ、そこにタクト達が入って来る。

「あー、今忙しいですか?」

「ふふふ、来ましたね?私がギルドマスターに成った暁には!貴方をギルドから追放してあげましょう!」

 高らかに宣言するメイツ。

「………それ、出来るの?」

「ギルドマスターの権限を使えば雑作も無いこと!」

「いや、そっちじゃなく、ギルドマスターに成れるの?」

「え?」

 暫しの沈黙。無視してレイツさんに聞く。

「レイツさん、ギルドマスターの選出方法は?」

「え?あ、はい、ギルド本部の長、今はベイカーさんですね、彼の推薦と国王の承認を持って任命されます」

「え?そうなのか!?」

 メイツは後ろに居る男に問いかけている。恐らくあれが黒幕だろう。

「うぐっ、し、しかし、レイツ様を人質に取れば………」

「いや、無理でしょ?人質を取って脅迫するような奴を、ギルドマスターに任命しないよ」

 さて、ここでテロリズムについて説明しよう、別に難しい事ではない。そもそも立てこもりや脅迫、人質等のテロ行為に該当しうる物は要求によって左右される。宗教戦争、領土問題、民族闘争、どれも明確な実現しうる要求がある。では、今目の前で起きている事はどうだろうか?どうやっても、要求は実現できない事がわかったこの問題は。

「実に無意味だな」

 周りも様子がおかしい事に気付き始めていた。壁際で身を固めていた職員は立ち上がり、武器を突きつけていた私兵は武器を下ろし、臨戦体制を取っていた冒険者は肩の力を抜いた。

「もう、辞めようメイツ、今ならまだ間に合う」

「に、兄さん……」

 兄弟は和解しようとするが。

「な、なりません!なりませんぞメイツ様!そ、そう言って私も貶められたのです!」

 それを邪魔する者が一人。

「お、お前達も何をしている!まずはあの者を捕らえろ!い、いや、殺せ!」

 男の一括に武器を構える私兵。

「まぁ、そう来るか。あー、冒険者の方々及び戦う意思のない方々へ、武器を捨てて下さい!これ以降武器を持っている人は容赦なく制圧対象になります!武器を捨てて下さい!」

 宣言すると、顔を見合わせて武器を捨てる冒険者達。それでも尚武器を捨てない私兵達。明暗ハッキリ着いた所で。

「クロノ、フェン、くれぐれも殺さないように」

「はい!」

「畏まりました」

 今回は屋内での戦闘なのでメロウとエニは待機を命じている。火事に成ったりしたら困るからね。

「かかれい!」

 男の号令で一斉に押し寄せる私兵達。

「うぉぉっ、グハぁ」

 それを容赦なく打ちのめすクロノとフェン。クロノのナイフの投擲によって腕と足に何本もナイフを突き刺される者、フェンのローキックによって膝を砕かれる者。本当に手加減を知らない。

「ひぃっ、こ、こんなの聞いてない!」

「こ、降参……うがぁ」

 あ、武器を捨てたら見逃すように言うの忘れてた。

 その後瞬く間に武器を持って立っている者は居なくなった。

「タクト様!終わりました!」

「ああ、ご苦労様」

 元気よく報告してきたフェンを労いつつクロノに追い込まれている男を見る。

「あとはあんただけだな?どうする?」

「くぅ」

 歯軋りをする男は、諦めたのか手を上げて座り込む。

「こ、降参だ!」

 この場は大人しくするようだが、まだ野心は潰えていないようだな。

「まぁ、何度やっても無駄だろうけど」

 制圧が終わり、念のため全員を捕縛してからエニに治療をお願いする。

「タクト様、この度は愚弟の愚かな行為、止めていただきありがとうございます」

「いえいえ、結局何事もなく終わって良かったです」

「はい、メイツには冒険者資格の剥奪、他の者は王都に連れていかれて裁きを受けるでしょう」

「いえ、兄上、私も王都で裁きを受けます」

「……メイツ」

 今回の件は既に王都に使者が出ており、直ぐに兵が派遣されるようだ。王都で裁きとなると、かなり重い罪に問われるだろう。何せ一種の国家転覆だからね。

「わかった、兄はお前の帰りを待っているぞ」

「はい、ありがとうございます兄上」

 兄弟の絆ね、俺からも事の顛末と、メイツの情状酌量を願う手紙を出しとこう。

「ん………タクト様………終わった」

「ああ、ありがとうエニ、レイツさん俺達はこれで失礼しますね」

「はい、ありがとうございましたタクト様」

 とりあえず夜も遅いので宿に帰る事に、これにてイリマでの反乱騒ぎは一件落着と思っていた。

 この時までは。
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