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海洋国

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甲板でのバーベキュー後、特に何もなく夕方には海洋国マーメティアに到着した。

「さてと、今日の宿を探さないとな」

 船を降りながら今日の寝床をどうするか考えていると。

「ようこそ御出下さいました勇者様御一行」

 船を降りると直ぐに出迎えの人が来た。

「貴女は?」

「わたくしは獣王国大使のペンテです、よろしくお願いします」

 ほう、所謂親善大使か、見た目はフェンより少し大きい、せいぜい中学生、場合によっては小学生高学年位なのに。

「皆様には本日大使館にご宿泊していただく予定になっています」

「それは助かるがいいのか?」

「はい、本国より丁重にもてなすよう厳命されています」

 恐らく何らかの連絡用の道具が有るのだろう、テトラが気をきかせてくれたのかな?

「じゃあお願いする」

「はい、こちらへどうぞ」

 案内されたのは港町に設けられた大使館、大使の使うものとあって、それなりの大きさの館である。

「どうぞこちらをご自由にお使いください」

 館の一室に案内され、そこを自由に使っていいと言われる。

「おぉ、結構豪華な部屋だな」

「この大使館で一番良い部屋をご用意しました」

 一番いい部屋?

「それって来賓用のですか?」

「いえ、大使の部屋です」

「大使の部屋って、じゃあここは普段」

「はい、わたくしが使っています」

 やっぱりペンテさんの部屋か……。

「ご安心下さい、ちゃんと清掃し、調度品も全て入れ換えました」

 何と言うか、申し訳ない、まさかそこまでするなんて。

「いや、普通に来賓用の部屋で良かったんですけどね?」

 それとなくそこまでしなくて良いですよと伝えてみるが。

「いえ!フェンリル様御一行にその様な部屋をあてがっては一族の恥!わたくしは本国に戻れなくなってしまいます!」

 思った以上に深刻だった、今さらだけど獣人国の対応が重い。

 結局一晩大使館でお世話になり、それはそれは過ごしやすい夜だった。

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 翌日、海洋国の首都に行こうとしたのだが。

「おはようございますぅ、勇者様ぁ」

 何故か大使館の外で女王が待っていた。

「えっと、ウェティア様ですよね?」

「様はぁ不要ですぅ勇者様ぁ」

 なんだろう、おっとりした喋り方だからか、とても眠くなる。

「じゃあウェティアさん、なぜここに?」

「一応ぅ、大使館はぁ、獣王国にぃなりますからぁ、領土侵犯はぁできないですぅ」

 いや、そうではなく。

「後ぉ、テトラちゃんにぃくれぐれもぉ、よろしくとぉ頼まれましたぁ」

 また獣王国がらみか。

「それは、わざわざすいません」

「いえぇ、あんなに楽しそうなぁテトラちゃんはぁ久しぶりだったのでぇ、うれしいですぅ」

「そ、そうですか」

 ずいぶん仲がいいんだな、まぁ、貿易してるって言うし、当たり前か?

「ではぁ、皆さんこちらへどうぞぉ」

 案内されたのは船、獣王国から来た時ほどではないが、少し豪華な大型のクルーザーだ。

「船で首都まで行くんですか?」

「はいぃ、海洋国の移動はぁ基本的に船になりますねぇ」

「へー」

 さすが海の国、移動まで船だなんて。

「ではぁ、出発しますぅ、しっかりと掴まってぇ下さいねぇ?」

 そう言ってウェティアさん自らが操舵室へ行く、と言うか今しっかり掴まってって言わなかった?

「それじゃ、飛ばしますよ!」

 クルーザーは桟橋を離れると、一気に加速した。

「って、ちょっと!ウェティアさん!?」

 声を掛けるも、既に彼女は。

「あっははは!風だ私は風に成るんだ!」

 スイッチが入っていた、止まる気はないらしい。

「タクト様、大丈夫ですか?」

「ん?あ、ああ、ありがとうメロウ」

 どうやらメロウが魔法でジェノサイドドラゴンの時と同じ処理をしてくれたらしい、降りかかる遠心力から解放される。

「あの物許せません、危うくタクト様が怪我を!」

「まぁまぁ落ち着いてメロウ」

 実際その通りではあるが、何事も無かったので良しとして。

「………でもこのスピードは何時事故っても可笑しくないな、悪いけどみんな周りを警戒してくれ、危ないときはメロウ頼めるかい?」

「お任せください」

 万が一に備えて事故が起きないよう周囲を見ていたが、それは不要の物だった、皆慣れているのか行き交う船が自然に避けていく。

 それから二時間程で首都にたどり着いた。

「本当にぃ、申し訳ありませんでしたぁ!」
 
 舵を離したウェティアさんは元に戻ると同時に、額を地面に着ける勢いで謝り始めた。

「い、いえ、大丈夫ですよ、何事もありませんでしたし」

「うぅ、わたしぃ昔から舵を握るとぉ、人が変わっちゃうんですぅ」

「みたいですね」

 苦笑いをするしかない、あそこまで人って変われるものなんだな。

「まったく、タクト様にお怪我が無かったからよいものを」

「まぁまぁメロウ落ち着いて、早く着いたんだからいいんじゃない?」

 不満気なメロウと宥めるフェン。

「な、何かぁお詫びをさせて下さいぃ」

 お詫びと言われてもなぁ……。

「タクト様、少々よろしですかな?」

 断ろうとした時、クロノが聞いてきた、このパターンは……。

「どうしたクロノ?」

「よろしければそのお詫び、船の材料を頂けないでしょうか?」

「船ですかぁ?」

「はい、タクト様の船をお造りいたします」

 ほら来たよ、そうなると思ったよ、まぁ今回は突然じゃないだけましか?

「わかりましたですぅ、良ければぁ設計図もこちらでお造りしましょうかぁ?」

「いえ、製作は全てこちらでやります」

 こうして、船の入手が確実なものになった。

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「さてぇ、改めましてぇようこそ海洋国マーメティアへぇ」

 水路の通る街並み、磯の香りが香ばしく、活気と美しさの有る街並み、それがマーメティアの首都の印象だった。

「マーメティアはぁ主に海産と造船、さらには香辛料で有名なんですよぉ」

「ほう、塩とか?」

「はいぃ、それだけではなくぅ、胡椒に砂糖、人魚塩や珊瑚辛味も有名ですぅ」
 
 最初二つは知ってるけど後ろ二つは知らない、ファンタジー香辛料かな?と言うか、人魚塩って。

「人魚塩はぁあまじょっぱい塩でぇ、癖になりますよぉ」

 味は何となくわかった、生産法は………聞かないほうがいいな、今通りを人魚っぽい人が塩屋に入って行ったが、気にしない。

「さぁ、こちらがぁ船の造船所ですぅ」

 まず案内されたのは造船所、お詫びの品を先に受け取ろうと思い案内してもらった。

「こんにちはぁ」

「ん?おぉ、女王様じゃないですか、………また船をぶつけたんですかい?」

「きょ、今日は違うのですぅ!」

 親しげだと思ったら、常連か。

「本当かぁ?うちの若けえのが爆走する姫様の船を見たって言ってたぞ?あんた一度走り出すとぶつかるまで止まらないだろ?」

「今日は客人が居るのですぅ!その辺で辞めて下さいぃ!」

 どうやらあれでも自重していたらしい、あれでも……。

「おぉ、すまねぇなお客さん」

 そこでようやく俺達に気がついた船大工。

「それで何の用だい?船を造るなら任せな」

「いえぇ、材料だけぇ貰いに来ましたぁ」

「何?」

 そこで船大工の雰囲気が変わった。

「………いくら女王様の頼みとはいえ、何処の誰ともわからないやつに、大切な船の材料はくれてやれねえな」

「私が船を造らせて頂きます」

 すっとクロノが前に出る。

「………」

「………」

 クロノと船大工はにらみ合い。

ガシッ!

 固く握手を交わした、……待て、今の一瞬で何があった!?

「好きなだけ持って行きな、何だったら工房も使っていいぞ」

「感謝致します」

 何か通じ合ったのか、快く譲ってくれる船大工、本当に何があったよ?

「タクト様、しばらくこちらで船を造らせて頂こうと思います」

「わかった、俺達は女王と一緒に城に行っているから、何か有ったら呼んでくれ」

「御意」

 クロノと別れマーメティアの城に向かった。

「これが城か……」

 湖の中心に佇む真っ白な城、今まで見てきた中で最もファンタジー感があるお城だった。

「きれいですねタクト様」

「そうだな、水もこんなに清んで……」

 城を囲む湖の中を覗いて驚いた。

「し、下に道が有る!?」

「はいぃ、海洋国の自慢ですぅ、この国は街の中だけで無くぅ、下にも道が有るんですよぉ」

 海底トンネルか?湖の下には透明な筒状の道があり、そこを人が行き交いしていた。

「すごいな、海洋国は技術大国なのか」

「はいぃ、腕の良い職人が多く居ますからぁ」

「へぇ」

 何とも羨ましい、と思ったがうちの従者もそれほどだったのを思い出す。

「人の事言えなかったな」

 一人反省してると。

「では、こちらへぇどうぞぉ」

 ウェティアさんが合図をすると、門番らしき人が機械を操作して、桟橋を下ろす。

「ここも機械仕掛けか」

「へー、面白いですねタクト様!」

「ん、ふしぎ」

 フェンとエニが物珍しそうにしている、それもそのはず、マーメティアの船に乗るまで機械等目にしたことは無いのだから。

「メロウは珍しいと思わないのか?」

 俺が何気なく聞いてみると。

「わたくしはクロノと一緒に馬車を作るときに……いえ、大変希有な光景に驚きを隠せません」

 今、馬車を作るときにって言ったよね?え、何?あの馬車機械で出来てるの?実はユニコーンが引いているんじゃなく、自走してるの?

「どうしましたぁ?」

「い、いえ、大丈夫です……」

 若干、メロウとクロノの知識に戦慄しつつ、ウェティアさんの後に続いて城の中へ入る。

 城の中は珊瑚等を利用したオブジェが並ぶ、絵本に出てくる竜宮城の様な飾り付けをされていた。

「お帰りなさいませ女王陛下」

「ただいまぁ、じいやぁ」

 じいやと呼ばれたのは、メガネを掛けた男性……男性だよな?じいやだもんな?何故こんなに困惑するかと言うと。

「ん、お魚」

 彼は所謂魚人、顔も魚、足もヒレだ。

「美味しそうですね」

 フェン、その見方はダメだ、後でちゃんと言っておこう。
 
「ぎょっぎょっぎょ、愉快なお客様ですね、さぁさぁ、中へどうぞ」

 どうでもいいけど笑い方はぎょっなのな。

 こうして俺達はマーメティア王国の城に着いた。
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