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第2章
87. 異変のようです
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「シエル、済まないが治癒魔法をお願いしたい」
一通りお礼を受け終えると、クラウスが手首を気にしながら近づいてきた。
血は出ていないみたいだけど、怪我をしている様子だ。
「傷、見せてもらえるかしら?」
「些細なことだが、木の棘が刺さってしまってね……」
「こんなに大きな棘、些細だなんて言わないで!」
「すまない。魔物の角が刺さるよりもマシだったから、つい」
血は大して流れていないけれど、私の小指ほどの太さがある棘が刺さっているから、これを抜いたら流血沙汰になりそうだわ。
だから、先に治癒魔法の魔力を練って、準備が整ってから棘を引き抜く。
細かい棘だったらそのままでも身体の外に出るけれど、大きい物だと取り除いた方が治しやすいから。
「いってぇ!」
「ごめんなさい、大丈夫?」
「少し驚いただけだ。何ともない」
苦笑いを浮かべるクラウスに、曖昧な笑みを浮かべる私。
本当に大丈夫なのか心配だけれど、傷はもう治したのだから、何事も無いと思う。
怪我をしている人も他に見当たらないから、後のことは集まってきた騎士団にお任せして、私達は再び家路についた。
◇
あの事故から二時間ほど歩いて、私達はようやく家に戻ることが出来た。
五時間以上も歩いているから足が痛む。けれど、クラウスも疲れているはずだから、表に出さないようにしている。
「今日の夕食は俺が作るから、シエルは休んで欲しい」
「私も手伝うわ」
「無理するな。疲れていることくらい、見ればわかる」
だから、彼がこんな事を口にした時は、少し悔しかった。
クラウスは元王族で、妃教育のタイミングで表情を取り繕う練習を始めた私よりも、一歩どころか二歩も三歩も先を行っている。
理解していても、すぐに見破られてしまうと対抗心が湧いてしまうのよね……。
それに……彼が台所に向かう時、いつもよりも足が上がっていなかったから疲れているに違いない。
「クラウスだって疲れているわよね?
無理しないで欲しいのは私も同じなの」
「分かった。それなら、お言葉に甘えさせてもらおう」
だから一緒に夕食を作れるようになって、安堵と嬉しい気持が混じったような感覚になった。
「今日は少し手を抜いても良いかな?」
「その方が良いと思うわ」
普段はレストランに負けないように手間をかけているけれど、今日は私もクラウスも疲れているから、簡単な料理にすることに決めた。
食材は帰る途中に買っておいたから、その中からメニューを考えるのだけど、手を抜く方が難しいことに気付いてしまった。
私が今まで口にしてきた料理は、貴族らしい手間のかかる物ばかり。
だから簡単に作れる料理なんて思い浮かばない。
「メニューはどんなものが良いかしら?」
「簡単にバランスが取れる、肉と野菜を炒めたものと……米にしよう」
「……そんな手があるのね」
米という食材は貴族の食事に出ることは少ないけれど、少ない量でも長い間空腹が訪れずに済むから、冒険者や平民に好まれている。
味が濃い料理の時は貴族も好むくらいだけれど、水の加減を間違えると食感が微妙になってしまうから、美味しく作るのは難しい。
だからお米の方はクラウスにお任せして、私は食材を切ることにする。
「お米のことは分からないから、お願いしても良いかしら?」
「もちろん」
「それじゃあ、私は野菜を切ってくるわ」
「分かった。この前みたいに指を切らないように気を付けて」
「ええ、ありがとう」
心配するような言葉に笑顔で頷いてから、野菜を洗っていく。
ここ帝都は水道というものがあって、蛇口を捻れば勢いよく水が出てくるから、こんな風に何かを洗うのも簡単なのよね。
王国では井戸と厨房を何往復もするのが普通だったから、これを初めて見た時はすごく驚いた。
最近の私は魔力を増やす練習も兼ねて水魔法で洗っているけれど、今日は魔力をたくさん使ったから、水道で楽をしている。
「こっちは終わったから、肉の処理をしておくよ」
「ありがとう」
少し離れていたところから戻って来て、お肉と格闘を始めるクラウス。
血抜きは済ませてある上に、私が氷魔法で冷やしていたお陰で生臭さは無い。
代わりに私が切っている玉ネギという野菜の香りが漂っている。
「玉ネギか……道理で目が痛いわけだ。シエルはよく平然と切れるね?」
この野菜を切っていると目が痛くなるみたいで、クラウスはよく涙を浮かべているのだけど、私はほんの少しだけ染みて痛むくらいだから、涙を浮かべた事はないのよね。
だからクラウスにいつも羨ましがられている。
「この前も言っていた気がするのだけど?」
「それだけ羨ましいし、不思議なのだ。何か気を付けている事はないか?」
「何も意識していないわ。それに、私だって目は染みているのよ?」
「シエルの方が痛みに強いのかもしれないな」
どこか悔しそうな様子で口にするクラウスを横目に、玉ネギを斬り終える私。
続けて他の野菜も切ろうとした時、微かに聞きなれない鐘の音が聞こえて来た。
「緊急招集……」
幼い頃から教えられていたこの音は、強大な魔物が迫っている時に鳴らされる。
冒険者ギルドがある国なら、この音が避難命令と冒険者の招集を意味する。
だから、私達は料理の手を止めて、食材を全て冷蔵庫に入れた。
普段は使っていない冷蔵庫だけれど、こういう時に食材を腐らせないように置いているのよね。
食材を入れ終えたら、上の部分にある氷入れを水魔法で生み出した氷で満たす。
「こっちは準備出来たわ」
「残りは俺が入れておくから、着替えてきて」
「ええ、ありがとう」
これから向かうのは危険な魔物が居る場所。
他の冒険者も集まるから、男装するために階段を駆け上がった。
一通りお礼を受け終えると、クラウスが手首を気にしながら近づいてきた。
血は出ていないみたいだけど、怪我をしている様子だ。
「傷、見せてもらえるかしら?」
「些細なことだが、木の棘が刺さってしまってね……」
「こんなに大きな棘、些細だなんて言わないで!」
「すまない。魔物の角が刺さるよりもマシだったから、つい」
血は大して流れていないけれど、私の小指ほどの太さがある棘が刺さっているから、これを抜いたら流血沙汰になりそうだわ。
だから、先に治癒魔法の魔力を練って、準備が整ってから棘を引き抜く。
細かい棘だったらそのままでも身体の外に出るけれど、大きい物だと取り除いた方が治しやすいから。
「いってぇ!」
「ごめんなさい、大丈夫?」
「少し驚いただけだ。何ともない」
苦笑いを浮かべるクラウスに、曖昧な笑みを浮かべる私。
本当に大丈夫なのか心配だけれど、傷はもう治したのだから、何事も無いと思う。
怪我をしている人も他に見当たらないから、後のことは集まってきた騎士団にお任せして、私達は再び家路についた。
◇
あの事故から二時間ほど歩いて、私達はようやく家に戻ることが出来た。
五時間以上も歩いているから足が痛む。けれど、クラウスも疲れているはずだから、表に出さないようにしている。
「今日の夕食は俺が作るから、シエルは休んで欲しい」
「私も手伝うわ」
「無理するな。疲れていることくらい、見ればわかる」
だから、彼がこんな事を口にした時は、少し悔しかった。
クラウスは元王族で、妃教育のタイミングで表情を取り繕う練習を始めた私よりも、一歩どころか二歩も三歩も先を行っている。
理解していても、すぐに見破られてしまうと対抗心が湧いてしまうのよね……。
それに……彼が台所に向かう時、いつもよりも足が上がっていなかったから疲れているに違いない。
「クラウスだって疲れているわよね?
無理しないで欲しいのは私も同じなの」
「分かった。それなら、お言葉に甘えさせてもらおう」
だから一緒に夕食を作れるようになって、安堵と嬉しい気持が混じったような感覚になった。
「今日は少し手を抜いても良いかな?」
「その方が良いと思うわ」
普段はレストランに負けないように手間をかけているけれど、今日は私もクラウスも疲れているから、簡単な料理にすることに決めた。
食材は帰る途中に買っておいたから、その中からメニューを考えるのだけど、手を抜く方が難しいことに気付いてしまった。
私が今まで口にしてきた料理は、貴族らしい手間のかかる物ばかり。
だから簡単に作れる料理なんて思い浮かばない。
「メニューはどんなものが良いかしら?」
「簡単にバランスが取れる、肉と野菜を炒めたものと……米にしよう」
「……そんな手があるのね」
米という食材は貴族の食事に出ることは少ないけれど、少ない量でも長い間空腹が訪れずに済むから、冒険者や平民に好まれている。
味が濃い料理の時は貴族も好むくらいだけれど、水の加減を間違えると食感が微妙になってしまうから、美味しく作るのは難しい。
だからお米の方はクラウスにお任せして、私は食材を切ることにする。
「お米のことは分からないから、お願いしても良いかしら?」
「もちろん」
「それじゃあ、私は野菜を切ってくるわ」
「分かった。この前みたいに指を切らないように気を付けて」
「ええ、ありがとう」
心配するような言葉に笑顔で頷いてから、野菜を洗っていく。
ここ帝都は水道というものがあって、蛇口を捻れば勢いよく水が出てくるから、こんな風に何かを洗うのも簡単なのよね。
王国では井戸と厨房を何往復もするのが普通だったから、これを初めて見た時はすごく驚いた。
最近の私は魔力を増やす練習も兼ねて水魔法で洗っているけれど、今日は魔力をたくさん使ったから、水道で楽をしている。
「こっちは終わったから、肉の処理をしておくよ」
「ありがとう」
少し離れていたところから戻って来て、お肉と格闘を始めるクラウス。
血抜きは済ませてある上に、私が氷魔法で冷やしていたお陰で生臭さは無い。
代わりに私が切っている玉ネギという野菜の香りが漂っている。
「玉ネギか……道理で目が痛いわけだ。シエルはよく平然と切れるね?」
この野菜を切っていると目が痛くなるみたいで、クラウスはよく涙を浮かべているのだけど、私はほんの少しだけ染みて痛むくらいだから、涙を浮かべた事はないのよね。
だからクラウスにいつも羨ましがられている。
「この前も言っていた気がするのだけど?」
「それだけ羨ましいし、不思議なのだ。何か気を付けている事はないか?」
「何も意識していないわ。それに、私だって目は染みているのよ?」
「シエルの方が痛みに強いのかもしれないな」
どこか悔しそうな様子で口にするクラウスを横目に、玉ネギを斬り終える私。
続けて他の野菜も切ろうとした時、微かに聞きなれない鐘の音が聞こえて来た。
「緊急招集……」
幼い頃から教えられていたこの音は、強大な魔物が迫っている時に鳴らされる。
冒険者ギルドがある国なら、この音が避難命令と冒険者の招集を意味する。
だから、私達は料理の手を止めて、食材を全て冷蔵庫に入れた。
普段は使っていない冷蔵庫だけれど、こういう時に食材を腐らせないように置いているのよね。
食材を入れ終えたら、上の部分にある氷入れを水魔法で生み出した氷で満たす。
「こっちは準備出来たわ」
「残りは俺が入れておくから、着替えてきて」
「ええ、ありがとう」
これから向かうのは危険な魔物が居る場所。
他の冒険者も集まるから、男装するために階段を駆け上がった。
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