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第2章
91. 同じ顔の人
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「聖女だと? この状況を利用している愚か者なのか、それともアルベール王国の聖女なのか……どちらか分かるか?」
「身なりは貴族相応に見えましたが、所作を見ていると平民の真似事にしか見えませんでした。
しかし、既に何人か治療したようで、感謝している人の姿もありました」
グレン様の問いかけに、護衛さんが意見を口にしていく。
貴族の装いに、取って付けたような所作。ものすごく心当たりがあるから、頭を抱えたい気持ちに駆られてしまった。
何があっても忘れることはない、私から色々なものを奪った元凶の聖女アイリス様。
私の記憶にあるアイリス様の姿と護衛さんの説明が同じだったから、追い返す方法を必死に考える。
「その自称聖女が本当に治癒魔法使いなら場所を貸しても良いが、シエル嬢が嫌そうにしているから何かあるのだろう。
理由をつけて引き止めてくれ」
「承知しました」
護衛さんが去っていくと、すぐにグレン様の視線が私に向けられる。
信頼されていると分かって嬉しいけれど、アイリス様には絶対に会いたくないから複雑な気持ちだ。
「シエル嬢、心当たりがあるようだが……説明してもらえるだろうか?」
「ええ、もちろん。
顔を見ないと確かなことは言えませんけれど、来訪者はアルベール王国の聖女、アイリス様で間違いないと思いますわ」
「最近、治療の効果が薄いと噂になっていたが、復権のために帝国に目をつけたということか」
「そこまでご存知なのですね。
問題は治癒魔法の効果ではなく、そもそも治癒魔法など扱われていない事にありますの」
帝国との間の交易は盛んに行われているから、一週間もあれば噂は伝わる。
グレン様ならアルベールの情勢を探るための隠密を潜らせているはずだから、状況の把握も出来ていると考えて良さそうね。
そう考えたから、グレン様の相槌を待って言葉を続ける。
「治癒魔法ではないとしたら、闇魔法か……?」
「ええ、その通りだと私達は考えていますわ。
幻惑を解くための魔法の効果がありましたから、治癒魔法に偽った幻に違いありませんの」
「流石はシエル嬢と言うべきだろうか? 隠密を潜らせても分からなかったが、これでようやく腑に落ちた。
しかし、それでは被害も出ているのだろう?」
「ええ。アイリス様が聖女の座に着いてから、治療を受けたはずの人々が突然亡くなるという例がいくつも出ていますわ。
民の中にも違和感に気付く人が出ていて、聖女の権威が弱まっていましたの」
お兄様達の工作が順調に進んでいれば、もう聖女を頼る人なんて居ないはず。
アイリス様らその状況に慌てて、帝国で権威を得ようとしたのかもしれないわ。
けれども、アイリス様は今日も王都で治療に当たっているはずなのよね……。
気付くのが今更かもしれないけれど、ここに来ているのが本当にアイリス様なら辻褄が合わない。
だから、今この屋敷の前にいる聖女を名乗っている人は、アイリス様とは別人だと考えた方が良さそうだ。
「それは当然だろう。しかし、聖女というのは簡単に国外に出られるのか?」
「出られませんわ。王太子の婚約者というだけでも、国外に出ることは許されない国ですもの。
だから、直接この目で確認しないと確かなことは言えませんの」
「分かった。二階の窓から見て分かるだろうか?」
「ええ、見えると思いますわ」
目は悪くないから、これくらいの距離なら誰か見分けることは出来る。
けれどアイリス様も目が良かったら、私がここに居ると気付かれてしまうかもしれないから、変装用に護衛さんの兜を借りてからテラスに出ることに決めた。
「まだ使っていない予備なので、ご安心ください」
「ありがとうございます」
今の私は冒険者としての立場でここに居るから配慮は要らないけれど、こういう気持ちは素直に受け取った方が相手も自分も心地よくなるのだから、素直にお礼を言って受け取る。
「重くないですか?」
「これくらいは大丈夫ですわ」
「良かったです。以前、フィーリア様にお貸しした時は重すぎて被れなかったので心配していましたが……杞憂だったようですね」
チラリとフィーリア様を流し見てから口にする護衛さんに、曖昧な表情を浮かべる私。
この兜は身体強化の魔法が無い今の状態だと、持ち上げるのがやっと。
冒険者として、身体強化の魔法が無くても戦えるように訓練していなければ、きっとフィーリア様と同じように持ち上げることもままならなかったと思う。
「冒険者と比べられても困りますわ」
「お嬢様は力が無さ過ぎて、心配しているのです。もう少し動くように心がけてください」
「努力するわ」
そんな言葉を交わしながらテラスに出て、聖女を名乗った人が居る場所に視線を向けると、思い出したくない顔が目に入った。
あれはアイリス様で間違いないと思う。
でも、背丈がアイリス様よりも低い気がするのよね……。
魔力の気配を探ってみると、似ているようで違っていたから、顔が同じだけの別人かもしれない。
「双子だなんて聞いていないのだけど……」
「双子ならアイリスと同じように闇魔法を扱えるはずだ。
顔が同じなのを利用して、帝国での権威を築こうとしているのだろう」
クラウスはアイリス様の顔を知らない。
それでも私の呟きから、アイリス様達の狙いを予想している様子。
「あの自称聖女が魔物を招いた可能性もありますわね」
「幻惑の魔法があれば難しい事では無いですから、フィーリア様の考えが当たっている気がしますわ」
フィーリア様の言葉に、そう返す私。
聖女を名乗った人をこのままにしておけば、きっと帝国でも大勢の人が亡くなってしまう。
あの顔は二度と見たくないけれど、帝国の人達を見捨てる気にはなれないのよね。
「グレン様。私が最初に自称聖女の治療を受けますわ」
……だから、偽聖女以外に誰も不幸にならない方法を試すことに決めた。
「身なりは貴族相応に見えましたが、所作を見ていると平民の真似事にしか見えませんでした。
しかし、既に何人か治療したようで、感謝している人の姿もありました」
グレン様の問いかけに、護衛さんが意見を口にしていく。
貴族の装いに、取って付けたような所作。ものすごく心当たりがあるから、頭を抱えたい気持ちに駆られてしまった。
何があっても忘れることはない、私から色々なものを奪った元凶の聖女アイリス様。
私の記憶にあるアイリス様の姿と護衛さんの説明が同じだったから、追い返す方法を必死に考える。
「その自称聖女が本当に治癒魔法使いなら場所を貸しても良いが、シエル嬢が嫌そうにしているから何かあるのだろう。
理由をつけて引き止めてくれ」
「承知しました」
護衛さんが去っていくと、すぐにグレン様の視線が私に向けられる。
信頼されていると分かって嬉しいけれど、アイリス様には絶対に会いたくないから複雑な気持ちだ。
「シエル嬢、心当たりがあるようだが……説明してもらえるだろうか?」
「ええ、もちろん。
顔を見ないと確かなことは言えませんけれど、来訪者はアルベール王国の聖女、アイリス様で間違いないと思いますわ」
「最近、治療の効果が薄いと噂になっていたが、復権のために帝国に目をつけたということか」
「そこまでご存知なのですね。
問題は治癒魔法の効果ではなく、そもそも治癒魔法など扱われていない事にありますの」
帝国との間の交易は盛んに行われているから、一週間もあれば噂は伝わる。
グレン様ならアルベールの情勢を探るための隠密を潜らせているはずだから、状況の把握も出来ていると考えて良さそうね。
そう考えたから、グレン様の相槌を待って言葉を続ける。
「治癒魔法ではないとしたら、闇魔法か……?」
「ええ、その通りだと私達は考えていますわ。
幻惑を解くための魔法の効果がありましたから、治癒魔法に偽った幻に違いありませんの」
「流石はシエル嬢と言うべきだろうか? 隠密を潜らせても分からなかったが、これでようやく腑に落ちた。
しかし、それでは被害も出ているのだろう?」
「ええ。アイリス様が聖女の座に着いてから、治療を受けたはずの人々が突然亡くなるという例がいくつも出ていますわ。
民の中にも違和感に気付く人が出ていて、聖女の権威が弱まっていましたの」
お兄様達の工作が順調に進んでいれば、もう聖女を頼る人なんて居ないはず。
アイリス様らその状況に慌てて、帝国で権威を得ようとしたのかもしれないわ。
けれども、アイリス様は今日も王都で治療に当たっているはずなのよね……。
気付くのが今更かもしれないけれど、ここに来ているのが本当にアイリス様なら辻褄が合わない。
だから、今この屋敷の前にいる聖女を名乗っている人は、アイリス様とは別人だと考えた方が良さそうだ。
「それは当然だろう。しかし、聖女というのは簡単に国外に出られるのか?」
「出られませんわ。王太子の婚約者というだけでも、国外に出ることは許されない国ですもの。
だから、直接この目で確認しないと確かなことは言えませんの」
「分かった。二階の窓から見て分かるだろうか?」
「ええ、見えると思いますわ」
目は悪くないから、これくらいの距離なら誰か見分けることは出来る。
けれどアイリス様も目が良かったら、私がここに居ると気付かれてしまうかもしれないから、変装用に護衛さんの兜を借りてからテラスに出ることに決めた。
「まだ使っていない予備なので、ご安心ください」
「ありがとうございます」
今の私は冒険者としての立場でここに居るから配慮は要らないけれど、こういう気持ちは素直に受け取った方が相手も自分も心地よくなるのだから、素直にお礼を言って受け取る。
「重くないですか?」
「これくらいは大丈夫ですわ」
「良かったです。以前、フィーリア様にお貸しした時は重すぎて被れなかったので心配していましたが……杞憂だったようですね」
チラリとフィーリア様を流し見てから口にする護衛さんに、曖昧な表情を浮かべる私。
この兜は身体強化の魔法が無い今の状態だと、持ち上げるのがやっと。
冒険者として、身体強化の魔法が無くても戦えるように訓練していなければ、きっとフィーリア様と同じように持ち上げることもままならなかったと思う。
「冒険者と比べられても困りますわ」
「お嬢様は力が無さ過ぎて、心配しているのです。もう少し動くように心がけてください」
「努力するわ」
そんな言葉を交わしながらテラスに出て、聖女を名乗った人が居る場所に視線を向けると、思い出したくない顔が目に入った。
あれはアイリス様で間違いないと思う。
でも、背丈がアイリス様よりも低い気がするのよね……。
魔力の気配を探ってみると、似ているようで違っていたから、顔が同じだけの別人かもしれない。
「双子だなんて聞いていないのだけど……」
「双子ならアイリスと同じように闇魔法を扱えるはずだ。
顔が同じなのを利用して、帝国での権威を築こうとしているのだろう」
クラウスはアイリス様の顔を知らない。
それでも私の呟きから、アイリス様達の狙いを予想している様子。
「あの自称聖女が魔物を招いた可能性もありますわね」
「幻惑の魔法があれば難しい事では無いですから、フィーリア様の考えが当たっている気がしますわ」
フィーリア様の言葉に、そう返す私。
聖女を名乗った人をこのままにしておけば、きっと帝国でも大勢の人が亡くなってしまう。
あの顔は二度と見たくないけれど、帝国の人達を見捨てる気にはなれないのよね。
「グレン様。私が最初に自称聖女の治療を受けますわ」
……だから、偽聖女以外に誰も不幸にならない方法を試すことに決めた。
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