見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

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16. お腹いっぱいです

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 あの後、私達は学院に向かう準備を終えて、朝食に向かった。
 夕食は家族だけでとっているけれど、朝食は情報共有の場にもなっているから、使用人さんも一緒に食べることになっている。

 強制ではないけれど、みんなで話していた方がごはんも美味しくなるみたいで、一部の護衛さんを除いたほぼ全員が集まっている。
 どう頑張ってもテーブルの数も椅子の数も足りないから、立食形式のパーティーのような形になっていたりする。

 このことをヴィオラに話したときは、普通じゃないという誉め言葉を頂いた。

「サーシャ、もう元気になったのね」
「はい。結婚のことを気にしないようにしたら、楽になりました」
「それは良かったわ」

 心配そうにしていたお母様の表情が緩んで、自然と私も笑顔を浮かべられた。
 やっぱり笑顔でいられるのが一番ね。

「男なんて碌な生き物じゃないからな、嫌なら結婚しなくて良い」
「お父様がそれを言うのですか?」
「碌な人間じゃない自覚はあるぞ?」

 今はお父様とお母様と話をしているのだけど、お父様の発言には驚いてしまった。
 この言葉は自分を貶すことになるというのに……。

「貴方ほど出来た人が碌でもない男なら、世の男は全員ダメ男ね」
「お、お母様……陛下まで貶して大丈夫なのですか?」
「問題ないわ。あの人も碌でもない人間だから」

 前国王陛下――私のお祖父様は優しい人なのだけど……お母様は何か思うことがあるらしい。
 王家の家族仲は良いと知られているけれど、婚約者決めの時には大喧嘩したらしいのよね……。

 結果はお母様の勝ちで、負けたのは陛下だったとか。
 その時のお話を陛下から聞いたことがあるのだけど、「気持ちの強さに負けた」と言っていた。

 お母様って強いのよね……。

 そんなことを思っていたら、今度はお兄様とパスカルが近付いてきた。

「サーシャ、これ食べるか?」
「えっと、もう元気になったので遠慮しますわ」
「そうか……」
「お姉様、今日のデザート苦手だからあげる」
「もう元気になってるから気にしなくて大丈夫よ。それに、太るから遠慮しておくわ」

 パスカルは苦手だなんて嘘を言っているけれど、このデザートは私もパスカルも好んでいるもの。
 気遣いは嬉しいけれど、それは昨日の夜の分でお腹いっぱいなのよね。
 気持ち的にも、身体的にも。

「はい、これ昨日のお礼」
「いいの!?」
「もちろんよ」
「ありがとうございます!」

 私が頷くと、パスカルはデザートを嬉しそうに口に運んだ。
 さっきまでの私を気遣う態度はどこに行ったのかしら?

 こんな感じでも可愛いと思えてしまう私も大概よね……。




 朝食が終わったら、私はパスカルと同じ馬車で学院に向かった。
 お兄様は婚約者様を迎えに行くから、私達と同じ馬車で行くことは出来ないのよね。

 一台に纏めているのは使用人さんの負担を減らすため。
 私達の仲が悪かったら、こうは出来ないのだけど。

 そんなわけで、屋敷を出てからずっとお話をしている。

「そういえば、お姉様はオズワルド様に仕返ししたりしないんですか?」
「物騒なこと言わないで。慰謝料は払われるのよ?
 仕返しするつもりは無いわ」
 
 とんでもない発言に、驚いてしまう私。
 仕返しなんて考えていないから、慌てて否定した。 

「優しいんですね」
「事あるごとに仕返しなんてしたら、評判が悪くなってしまうもの。
 良くない噂を流されたり嫌がらせをされたら、相応の罰は受けてもらうけれど」
「なるほど。自分の手は汚さないんですね。怖っ」
「誰が怖いって……?」

 表情を消してじっと見つめると、パスカルはたまらずという様子で視線を逸らした。

 ちなみにだけど、私は今回の人生で復讐をするつもりは無い。
 見捨てられて死んだ原因は、オズワルド様とリリア様。これは間違いない。

 でも、その二人は今回の人生では全くの別人だから。
 罪の無い人を裁くことなんて、しようとも思えないのよね。

 ここで私が復讐したら、勝手に妄想して復讐した頭の可笑しい女になってしまう。

「ごめんなさいなんでもないです」
「ふふ、可愛い」
「俺は可愛くないです!」

 そんなやり取りをしている内に、無事に学院に着いた。
 ここからは別行動で、お互いの侍従を伴ってそれぞれの教室に向かう。

 お互いに友人もいるから、学院の中では基本的に関わらないようにしているのよね。
 なんとなくだけど、気まずいから。


「ヴィオラ、おはよう」
「おはよう、サーシャ。元気そうで安心したわ」
「心配してくれたのね。ありがとう」

 後ろを走っていた馬車から降りてきたヴィオラ様に声をかけて、一緒にエントランスに向かう。
 もう婚約解消の噂が流れているみたいで、チラチラと視線を向けられているのを感じる。

 でも、悪口の類の声は聞こえてこなくて、どれも私を気遣うようなものだった。
 王族に繋がりのある人を敵に回すなんてこと、普通はしないもの。
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